日米地位協定の改定とこれを運用する制度の改善を求める意見書

2022年8月18日
日本弁護士連合会


本意見書について

日弁連は、2022年8月18日付けで「日米地位協定の改定とこれを運用する制度の改善を求める意見書」を取りまとめ、同年9月5日付けで内閣総理大臣、外務大臣、防衛大臣、厚生労働大臣、環境大臣及び駐日米国大使宛てに提出いたしました。


本意見書の趣旨

日米両政府は、日米地位協定について、以下のとおり、同協定を改定し、又はこれを運用する制度の改善その他の必要な措置を講じるべきである。


1 米軍等に対する日本の法令の適用
米軍及びその構成員(軍人)・軍属・家族に対して、次の(1)及び(2)に掲げる事項を除き、施設及び区域の内外を問わず、日本の法令が適用され、その遵守が義務付けられることを明記すること。

  (1) 米軍の組織・内部機能・管理等といった内部事項であって他への影響を及ぼさないもの。


  (2) 条約又は日本の法令に適用除外が明記されている事項。



2 施設及び区域の提供と返還(日米地位協定2条関係)

  (1) 日米地位協定2条1項(a)及び25条1項に基づき施設又は区域を新たに提供する場合には、常に国会の承認を必要とすること。


  (2) (1)の場合には、関係地方公共団体その他の意見を聴き、これを尊重して、提供の可否、条件等を決定すること。



3 環境保全に関する事項(日米地位協定3条、4条関係)

  (1) 前述の趣旨1のとおり、米軍等に日本の法令が適用され、その遵守が義務付けられることが明記されるべきであり、国内環境法令についても当然に米軍等にその適用があることが確認されるべきである。


  (2) 米軍の施設、装備又は運用等によって環境汚染事故や住民の安全上の危険又はその疑いが生じたときは、日本政府及び関係地方公共団体が事前の通告なしに立入調査する権限と、これに米軍が応じる義務があることを明記すること。また、日本政府及び関係地方公共団体は、米軍に、当該事態の発生状況及びその調査結果の開示を請求することができ、米軍はこれに応じる義務があることを明記すること。
特に、2015年9月の環境補足協定及びそれに基づく日米合同委員会合意「環境に関する協力について」における日本側の立入調査権の対象が「現に生じた事故」に限られるかのような解釈・運用を改め、そのような解釈・運用が許されないことを明記すること。


  (3) 日本政府は、米軍から環境補足協定に基づいて米軍施設等に適用される日本環境管理基準(JEGS)の運用状況の報告を定期的に受け、その結果を公表するとともに、日本政府及び関係地方公共団体が米軍における同協定の遵守状況その他環境保全への取組を定期的に検証できる仕組みを作ること。


  (4) 施設及び区域の返還に際して、跡地の土壌汚染が判明した場合は、汚染者負担原則にのっとって、米国が浄化義務を負うことを明記すること。


  (5) 施設及び区域の返還前の現地調査につき、立入時期の制限を設けた(2)記載の日米合同委員会合意を見直し、環境補足協定において、返還合意後日本政府及び関係地方公共団体が速やかに現地調査をする権限があることを明示すること。


  (6) 施設及び区域ごとに、関係地方公共団体、住民代表を含む地域協議委員会を設置し、当該施設及び区域に関わる騒音、環境汚染その他について定期的に協議し、米軍はその協議結果を尊重すべきことを明示すること。



4 米軍航空機の運航と航空交通(日米地位協定2条、5条関係他)

  (1) 日米地位協定2条が規定する「施設及び区域」の対象は「建物、工作物等の構築物及び土地、公有水面」のみであって、「空域」はその対象に含まれないことを明記すること。


  (2) 日本政府は、「1972年5月15日の沖縄の施設・区域に関する合同委員会覚書」などに基づいて合意し、使用を許すものとして告示した米軍訓練空域のうち施設及び区域の上空部分以外の部分は、日米地位協定2条に基づいて米国に使用を許すことができないものであることを明確にし、前述の覚書などの合意を見直し、告示を撤回すること。


  (3) 米軍が訓練のために米軍訓練空域以外の空域を使用しようとするときは、使用する範囲及び使用する時間帯を明確にした上で、日本政府の事前の許可を受けなければならない旨を規定すること。
また、日本政府は、米軍に対し、空域の使用を許可したときは、米軍が訓練を実施する日時、使用の範囲を公表しなければならないとすること。


  (4) 日米地位協定6条に、米軍は提供された施設及び区域である飛行場の飛行場管制のみを行い、進入管制も含めたそれ以外の航空交通管制業務は日本政府が行うことを明記し、速やかに、横田進入管制区及び岩国進入管制区の進入管制の権限の返還を受けること。


  (5) ① 日本政府は、米軍航空機の運航に関し、現行の騒音規制措置の実施状況を検証し、原則禁止とされている深夜早朝飛行等の例外的運用状況とその理由を米軍に照会し、これらの結果を定期的に公表すること。

       ② 日本政府は、米軍との間で、米軍航空機の運航に関し、深夜早朝の例外的飛行がなされる場合には事前に米軍から個別の運航情報の提供を受ける仕組みを設け、当該情報を直ちに関係地方公共団体に知らせること。



5 米軍航空機墜落事故等への対応(日米地位協定17条、23条関係)

  (1) 施設及び区域の外部における米軍航空機、艦船、車両等による事故については、事故現場の統制権が日本側にあることを確認し、以下のとおり日米合意を改めること。

   ① 日米地位協定17条10項(a)(b)に関する合意議事録2項が施設及び区域外においても米国財産について捜索、差押え又は検証を行う権利を行使しないとしている条項を廃止すること。

   ② 柱書の趣旨に従って「日本国内における合衆国軍隊の使用する施設及び区域外での合衆国軍用航空機事故に関するガイドライン」(2005年4月1日策定、2019年7月25日改定)を改定すること。


  (2) 施設及び区域の外部における米軍航空機による事故については、事故原因につき、日本政府のしかるべき所管機関と米軍が共同で調査を行い、その調査結果を公表すること。また、米軍は、日本側からの当該事故原因調査に関する情報の開示請求に応じる義務を負うこと。



6 日米合同委員会(日米地位協定25条関係)
米軍及びその構成員(軍人)・軍属・家族に対して、次の(1)及び(2)に掲げる事項を除き、施設及び区域の内外を問わず、日本の法令が適用され、その遵守が義務付けられることを明記すること。


  (1) 日米合同委員会の権限は、日米地位協定及び日本の国内法の範囲内において日米間で実務的な協議をし、実施細則を決定することに限られる旨を日米地位協定に明記すること。


  (2) 日米合同委員会における合意は原則公開とし、国民の権利に影響を及ぼし得る事項について公開原則を徹底すること。例外的に非公開とする場合でも、合意後一定期間経過後は必ず公開すること。
日米合同委員会における過去の合意内容についても前述と同様に公開すること。


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参考資料