最高裁判所第9回「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」に対する意見書

2021年10月20日
日本弁護士連合会


本意見書について

2021年7月30日付けで最高裁判所が公表した第9回の「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」(以下「第9回意見書」という。)に対し、日弁連は、2021年10月20日付けで意見書を取りまとめ、最高裁判所、衆議院法務委員会委員長・理事・委員、参議院法務委員会委員長・理事・委員、法務大臣、検事総長、高等検察庁検事長、地方検察庁検事正、高等裁判所長官、地方裁判所長、家庭裁判所長へ提出しました。


本意見書の趣旨

1 最高裁判所が本年7月30日に公表した裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(「第9回報告書」)は、第8回報告をさらに掘り下げ、民事第一審訴訟事件については争点整理における裁判所と当事者との間の認識共有及びその前提となる期日間準備の現状と課題、刑事通常第一審事件については、公判前整理手続の長期化要因や手続の充実・迅速化に向けて採られている方策、家事事件については家事調停手続における実情と今後の課題、人事訴訟の審理の在り方など家庭裁判所の手続全体としての運用改善について具体的な検証をしている。また、新型コロナウイルス感染症拡大の影響と裁判所の対応状況に関する章を新たに設け、実務の状況を調査・検証している。


2 新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、令和2年前半に予定されていた実情調査はすべて中止となったが、令和2年後半の調査は、Web会議方式により行うことができた。しかし、Web方式では事前にまとめられた回答・説明の比重が大きくなりやすいなどの制約もあり、実際に現地に赴き、調査対象地の地理的状況や物的態勢を直接に実感し、関係者が即時に発言や反応を共有できることがより有用と考えるため、今後も可能な限り調査対象地に出向いた実情調査が実施されるべきである。感染症拡大の防止を念頭に、運用面においていろいろな創意工夫が見られた一方で、一部の裁判所では密を回避するために調停室が不足するといった問題等が起きていると考えられることから、裁判所の物的態勢の強化の必要性も改めて明らかになったというべきである。


3 民事第一審訴訟事件では、争点整理に要する期間が若干長くなっており、係属期間2年超の事件数も増加している。報告書は、裁判所と当事者間で争点の認識共有が円滑に行われていないことがうかがわれるとするが、事件内容の質的困難化も影響していると考えられる。また、より迅速で充実した争点整理手続のためには、期日における裁判官と代理人とのやり取りや、期日間準備の実情、これらにつき改善すべき課題についてもさらに検証する必要がある。司法の基盤整備をも求める迅速化法の趣旨を踏まえれば、認識共有など運用面のみならず、裁判官の増員など裁判所の態勢面の強化をより明確に打ち出すべきである。また、新型コロナウイルス感染症の拡大を踏まえた創意工夫を活かした審理運営の改善については、感染拡大防止のために応急的にとられた面もあることから、既存の手続規定との整合性を慎重に確認して取り組むべきである。


4 刑事第一審事件は、全体の平均審理期間が平成27年以降、若干長期化しており、公判前整理手続期間も長期化していることから、要因について実情調査が行われた。防犯カメラの画像やメールなど客観的証拠の増大による負担増が公判前整理手続期間や審理期間に影響していると考えられるが、証拠の整理や開示をめぐる法整備、検察庁の人的態勢の拡大などが求められる。報告書は、公判前整理手続について法曹三者で議論、認識共有が大切だと述べるが、刑事裁判手続においては被告人の防御権の尊重が不可欠であることを踏まえた議論を要する。新型コロナウイルス感染症の拡大で公判前整理手続の在り方の協議にも影響が出たことから、テレビ会議などを通じて法曹三者による協議の機会を設けることなども検討すべきである。


5 家事事件は、別表第一審判事件の新受件数が後見関係事件の大幅な増加の影響で更に増加する一方で、別表第二事件の新受件数は緩やかな増加傾向にあり、平均審理期間は緩やかに長期化している。婚姻関係事件や子の監護に関する事件でも審理期間の長期化が見られる。また、人事訴訟の審理期間の長期化傾向も明らかであり、人事訴訟を視野に入れた調停運営の在り方も議論されているが、調停の本質を損ねるような運用とならないよう留意が必要である。新型コロナウイルス感染症の影響で国民の生活に変化が生じたと考えられ、それにより事件動向が変化すれば家庭裁判所の負担がさらに増す可能性がある。家庭裁判所全体の負担増加・繁忙度の進行への対応について引き続き検討していくべきである。


6 今後に向けて、民事事件においては紛争の質的困難化が争点整理期間や全体の審理期間に影響を及ぼしており、質的困難化への方策を適切に打ち出す必要がある。より適正な期日間準備の励行、争点整理期日における率直な口頭議論の活性化を図ることも大切である。

刑事事件については態勢面(機材等も含む)の拡充の必要性や、全面証拠開示などの法改正も視野に入れた検討をするべきである。

家事事件については新型コロナウイルス感染症拡大に伴う事件動向の変化により、複雑困難な事案や高葛藤事案の増加も考えられる。家庭裁判所の果たすべき役割は高まっており態勢強化は不可欠である。裁判官・書記官・家裁調査官・調停委員の繁忙度について、今後検証の対象とすべきである。


以 上



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