学校における働き方改革の在り方に関する意見書

2021年10月20日
日本弁護士連合会


本意見書について

日弁連は、2021年10月20日付けで「学校における働き方改革の在り方に関する意見書」を取りまとめ、同月22日付けで文部科学大臣、財務大臣、都道府県知事及び政令指定都市市長宛てに提出しました。


本意見書の趣旨

教員の長時間労働が深刻な状況の下、2017年6月に文部科学大臣からの諮問を受け、中央教育審議会(以下「中教審」という。)に設置された「学校における働き方改革特別部会」は、2019年1月25日に、「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について」との答申(以下「中教審答申」という。)を公表し、その後これを踏まえ、同年12月には、「勤務」時間の上限規制の指針(その後、改正給特法に基づく業務量管理指針となる。)を定めるとともに、1年単位の変形労働時間制の導入を可能とする法改正がなされるに至っている。


しかし、この間の改革は、現状の根本的な原因を是正するものとはなっておらず、教育において求められる教員の専門性に根ざした裁量を保障し、子どもの学習権を実現していく上で十分なものにはなっていない。


そこで、憲法・教育基本法等の要請である、子どもの学習権を保障するに足りる教育を実現していくという観点から、教員の働き方改革の在り方について、以下のとおり意見を述べる。


1 教員の長時間労働を抜本的に改善するため、以下の具体的施策を直ちに進めるとともに、必要な予算措置を講じるべきである。

  (1) 小学校・中学校の全学年において早急に35人学級を実現するとともに、引き続き更なる少人数化を実現するための具体的ロードマップを示すことによる学級規模(クラスサイズ)の縮小による教員絶対数の大幅な増加。

  (2) 教員一人当たりの持ち授業時数の削減。

  (3) 教員数の増員を非正規教員によって行わず、かつ、既存の非正規教員の正規化を図ること。


2 教員の勤務時間を始めとした勤務条件については、「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(以下「給特法」という。)の下で上限なき時間外労働が放置されてきたという深刻な実態に鑑み、同法を抜本的に見直して、労働基準法の定める最低基準を厳守し、休憩時間や持ち帰り残業及び休日労働を含む労働時間の適正な把握と上限規制並びに時間外割増賃金の支払をなすべきであり、他方で、教員の労働時間管理に当たっては教科指導・生活指導など教育の核心をなす職務についての教員の専門性に裏打ちされた裁量が確保される措置を採る等、教育の特性に配慮した速やかな条件整備がなされるべきである。


3 学校及び教師が担う業務の在り方について、中教審答申は、「学校及び教師が担う業務の明確化・適正化」として、授業準備、学習評価や成績処理、進路指導等の教員の本来業務ないしこれと密接に関連するものについて、サポートスタッフ等による補助をするとされているが、その具体化に当たって、教員の本来業務が一部分離されることにより、教員の職務における専門性が損なわれることのないよう、これについての教員の意見が反映されるようにすべきである。


4 部活動の在り方について、中教審答申が、部活動ガイドラインの遵守や部活動指導員等の積極的活用等の提言をしている点は評価できるが、部活動の改革は部活動の関係団体と協議しながら改革を進める必要があるとともに、教員への負担の現状からすると、部活動の顧問担当を教員に強制しないための制度改革も不可欠である。


5 2019年12月の給特法の改正により、地方自治体が条例により導入できるとされた1年単位の変形労働時間制については、それが現在の教員の長時間勤務の問題の解決につながらないばかりか、かえって現在の勤務条件を更に悪化させるおそれがあり、給特法改正時の国会附帯決議を踏まえると、現在の長時間勤務の現状の下では、実施されるべきではない。


6 教員の職務における専門性を確保するに足りる勤務条件を保障するため、教員の教育内容や方法にまで及ぶ管理統制や、全国一斉学力テストによる学校評価などを通じて進められている競争主義的教育手法については、その緩和に向けた是正を図るべきである。



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