電子商取引における消費者被害につき実効的な救済を可能とする仕組みの確立を求める意見書

2021年3月18日
日本弁護士連合会


本意見書について

日弁連は、2021年3月18日付けで「電子商取引における消費者被害につき実効的な救済を可能とする仕組みの確立を求める意見書」を取りまとめ、同日付けで内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)及び消費者庁長官に提出しました。


本意見書の趣旨

近年、IT技術の発達によって電子商取引の市場規模が拡大傾向にある一方、電子商取引における消費者被害も増加している現状を踏まえ、当連合会は、国に対し、以下のとおり立法措置を行い、販売業者又は役務提供事業者(以下「販売業者等」という。)及び取引型デジタル・プラットフォーム(以下「DPF」という。)を提供する事業者(以下「DPF事業者」という。)に対して義務を課し、その実効的な救済を可能とする仕組みを確立するよう求める。


1 販売業者等の義務
特定商取引に関する法律(以下「特商法」という。)を改正し、販売業者等が電子商取引により商品、特定権利又は役務(以下「商品等」という。)につき、売買契約又は役務提供契約(以下「売買契約等」という。)を締結する場合には、販売業者等に対し、以下の点を義務付けるべきである。


 (1) 苦情処理措置
オンラインを含むアクセス方法により、消費者からの苦情を適切に処理する措置(以下「苦情処理措置」という。)を講じること。


 (2) 紛争解決措置
原則として、消費者との紛争につき、消費者の利益を擁護し得る、以下のような一定の要件を満たす措置(以下「紛争解決措置」という。)を講じること。

    ① 弁護士(弁護士法人を含む。)又は認証ADR機関が手続を主宰すること。

    ② 消費者保護関連法規及び消費者トラブルの実情に精通している者が手続実施者に含まれていること。

    ③ オンラインによる手続も提供していること。

    ④ 解決内容についてのモニタリングシステムを設けること。

    ⑤ 消費者が費用を負担しなくてよいようにすること。


    ただし、この要件を満たす民間紛争解決手続を、「認定消費者ADR」(仮称)として内閣総理大臣(消費者庁)が認定する制度を導入し、電子商取引を行う販売業者等が、消費者との間の紛争解決手続を実施するための契約を、「認定消費者ADR」を提供する機関との間で締結したときは、紛争解決措置を講じたものとみなすこと。

また、電子商取引を行う販売業者等が、消費者との間の紛争解決手続を実施するための契約を、上記の②から⑤までの要件を満たす手続を行う弁護士会と締結したときも、紛争解決措置を講じたものとみなすこと。


 (3) 紛争解決手続についての応諾
消費者が裁判外紛争解決手続の利用を希望したときは、正当な理由のない限り、その手続に応じること。


 (4) 情報提供
これらの措置に関する情報を消費者に適切に提供すること。


2 DPF事業者の義務


 (1) 販売業者等に関する取引の場の安全確保
DPF事業者と販売業者等との間のDPF利用契約について、DPF事業者に対し、以下の点をDPF事業者に関する新法で義務付けるべきである。

    ① 販売業者等に対し、犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下「犯収法」という。)に準じる本人確認を定期的に行い、本人確認ができないときはDPF利用契約を締結しないこと。

    ② 販売業者等が、当該DPFにおける広告において特商法に定める表示義務を順守していることを定期的に確認し、表示義務を順守しない販売業者等とはDPF利用契約を締結しないこと。

    ③ 販売業者等が、上記1(1)から(4)までの措置を講じていることを確認し、これらの措置等を適切に講じない販売業者等とはDPF利用契約を締結しないこと。
なお、一定規模以下の販売業者等については上記1(2)の措置を努力義務にとどめた場合であっても、1(2)の措置を講じない販売業者等とはDPF利用契約を締結しないこと。

    ④ 日本国内に営業拠点を有しない販売業者等については、①から③までに加えて、販売業者等において日本における代表者を定めていること、販売業者等が日本語で利用できる苦情処理措置及び日本国内で利用できる紛争解決措置を講じていることを確認し、これらの措置を講じない販売業者等とはDPF利用契約を締結しないこと(ただし、販売業者等が日本語を用いてDPFにおいて広告をしようとする場合に限る。)。


 (2) 一般商品等提供利用者に関する取引の場の安全確保
DPF事業者と一般商品等提供利用者(DPFを利用して商品等につき売買契約等の広告をしようとする者であって、特商法上の販売業者等に該当しない者をいう。以下同じ。)との間のDPF利用契約について、DPF事業者に対し、以下の点をDPF事業者に関する新法で義務付けるべきである。

    ① 一般商品等提供利用者に対し、犯収法に準じる本人確認を定期的に行い、本人確認ができないときはDPF利用契約を締結しないこと。

    ② 一般商品等提供利用者と消費者との間で生じたDPFを利用した売買契約等に関する紛争(以下「一般利用者間紛争」という。)に関して、紛争解決手続に応じない一般商品等提供利用者とは、DPF利用契約を締結しないこと。

    ③ 一般利用者間紛争について、苦情処理措置及び紛争解決措置を講じ、消費者にこれらの情報提供を行うこと。


 (3) 苦情処理措置や紛争解決措置の利用促進
DPF事業者において、DPF事業者及びDPFを利用する販売業者等において講じる苦情処理措置や紛争解決措置が適切に利用されるよう、前記の情報提供に加えて、販売業者等や一般商品等提供利用者への消費者からの申出の伝達、その他必要な措置を講じることを、DPF事業者に関する新法で義務付けるべきである。


 (4) DPF事業者と消費者との紛争の解決
DPF事業者は、DPF事業者自身が販売業者等でない場合であっても、消費者とDPF事業者との間の紛争に関し、苦情処理措置及び紛争解決措置を講じること、裁判外紛争解決手続に応じること並びにこれらの措置の情報提供を行うことを、DPF事業者に関する新法で義務付けるべきである。


 (5) DPF事業者の義務履行確保の手段
以上のようなDPF事業者の義務の履行確保のために、内閣総理大臣(消費者庁)が義務違反行為の是正のための措置、消費者の利益の保護を図るための措置その他必要な措置を採ることができることとし、罰則をもって担保すべきである。



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