「養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究」に対する意見書

2020年11月18日
日本弁護士連合会

 

本意見書について

日弁連は、2020年11月18日付けで「『養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究』に対する意見書」を取りまとめ、同日付けで最高裁判所長官、法務大臣、厚生労働大臣、司法研修所長宛てに提出しました。


本意見書の趣旨

2019年12月23日に平成30年度司法研究として公表された「養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究」は、従来の養育費・婚姻費用の標準算定方式・算定表の改定を行ったが(以下、同研究による算定方式及び算定表を「改定標準算定方式・算定表」といい、算定方式又は算定表のみを指すときは「改定標準算定方式」又は「改定標準算定表」という。)、当連合会は、その改定の過程・内容を検証し、養育費・婚姻費用の算定に関する更なる改善に取り組むべく、以下のとおり意見を述べる。


1 裁判所は、改定標準算定方式・算定表について、以下の点を踏まえた検証と見直しを行い、その成果を公表すべきである。


(1) 子どものための「住居関係費」、「保健医療」及び「保険掛金」について、養育費・婚姻費用として義務者が分担する対象から除外すべきでないこと。


(2) 職業費については、「こづかい」を除外し、計上する全ての費目について、有業人員のための支出額にとどめて算出すること。


(3) 公租公課について、可能な場合には実額で認定すること。


(4) 子どもの年齢区分については、3区分(5歳以下、6~14歳、15歳以上)、いずれは4区分(5歳以下、6~11歳、12~14歳、15歳以上)とすること。


(5) 子どもの生活費指数について、14歳以下は62ではなく66を、15歳以上は85ではなく95を用いること。


(6) 分担後の義務者及び被扶養者の生活費(「住居関係費」、「保健医療」及び「保険掛金」を含む。)を比較し、被扶養者に対する生活保持義務が果たされているかどうかを個別に確認すべき場合があること。


(7) 権利者の方が義務者よりも高収入の場合であっても、生活保持義務の理念の下、子どもが義務者と同居している場合の子どもの生活費を基準とすべきこと。


(8) 個別的事情については、通常の範囲のものであっても改定標準算定表における1~2万円の幅での整理ができない場合があることを踏まえ、通常の範囲のものも含めて柔軟な調整を図るべきこと。


(9) 権利者について、稼働能力がないなど最低生活費を確保できない場合は、実態に即し、権利者に養育費を分担させるべきでない場合があること。


(10) 義務者の生活費が最低生活費を上回る一方、被扶養者の生活費が最低生活費に満たない場合は、実態に即し、更に義務者に負担を求め、被扶養者に最低生活費を確保することを検討できる場合があること。


2 裁判所は、前項に基づく検証と見直しを行った後も、5年ごとを目途に同算定方式・算定表の検証と見直しを行い、その際には、法務省、厚生労働省、総務省、ひとり親家庭の当事者団体及び当連合会等から事前に意見を聴取し、参考にすべきである。


3 国は、子どもの最善の利益のために、改定標準算定方式・算定表においてもなお権利者が全て負担するものとされている子どものための「住居関係費」について、養育費・婚姻費用に関し考慮すべき事項として法律で定めるべきである。


4 養育費・婚姻費用の算定に携わる実務関係者は、改定標準算定方式・算定表を利用する場合には、第1項で指摘した各点について留意すべきである。また、裁判所においても、同様の留意をすることが望まれる。



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