最高裁判所第8回「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」に対する意見書
- 意見書全文 (PDFファイル;377KB)
2019年10月15日
日本弁護士連合会
本意見書について
2019年7月19日付けで最高裁判所が公表した第8回の「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」(以下「第8回報告書」という。)に対し、日弁連は、2019年10月15日付けで意見書を取りまとめ、最高裁判所ほかへ提出しました。
本意見書の趣旨
1 最高裁判所が本年7月19日に公表した裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(「第8回報告書」)は、第7回報告をさらに掘り下げ、争点整理における裁判所と当事者との間の認識共有、合議体による審理の活用、家事調停手続における裁判官の積極関与、審判や人事訴訟との関係など家庭裁判所の手続全体としての運用改善について、より具体的な検証をしている。また、今回から刑事第一審事件が実情調査の対象に加わり、公判前整理手続の長期化要因について調査が行われた。実情調査に基づき継続的に運用改善を図る姿勢には当連合会も異論がない。しかし、裁判所が著しく繁忙であることがうかがえ、運用上の方策のみならず裁判所の人的物的基盤のより一層の整備を明確に位置づけるべきである。
2 民事第一審訴訟事件では、争点整理に要する期間が若干長くなっており、係属期間2年超の事件数も増加しており、事件の質的困難化を示している。報告書は、裁判所と当事者間で争点の認識共有が円滑に行われていないことがうかがわれるとするが、質的困難化も影響していると考えられる。認識共有のみならず、裁判官の増員など裁判所の態勢面の強化をより明確に打ち出すべきである。
3 刑事第一審事件は、裁判員対象事件が平成27年以降、自白・否認の別に関わらず再び長期化しており、公判前整理手続の長期化要因について実情調査が行われた。この点、刑事裁判手続においては被告人の防御権の尊重が不可欠であることを充分踏まえつつ、公判前整理手続の在り方については、検察官手持ち証拠の全面開示制度なども検討すべきである。
4 家事事件は、別表第一審判事件の新受件数が後見関係事件の大幅な増加の影響で更に増加する一方で、別表第二事件の新受件数は緩やかな増加傾向にあり、平均審理期間は高止まり状態又は緩やかに長期化している。婚姻関係事件や子の監護に関する事件でも審理期間の長期化が見られ、家庭裁判所全体の負担増加・繁忙度の進行は明らかである。負担増加・繁忙度の進行が家庭裁判所全体の事件処理に影響している可能性も慎重に検討すべきである。
5 今後に向けて、民事事件においては争点整理に関する認識共有について意識の浸透を図ることが重要であり、認識共有の支障となる事情等について今後さらなる検証を行うべきである。他方で、紛争の質的困難化が争点整理期間に影響を及ぼしていることも明らかであり、事件類型毎に具体的に踏み込んで検討対象とするほか、裁判所の態勢強化の観点を明確に打ち出す必要がある。
刑事事件については態勢面(機材等も含む)の拡充の必要性や、全面証拠開示などの制度論も視野に入れた議論がなされてよいのではないかと考える。
家事事件については手続運用面の機能強化に言及されたことは評価できるものの、裁判官・書記官・家裁調査官・調停委員の繁忙度や、調停室や待合室などの設備の問題などについては検証の対象とされていない。これらについても、今後検証の対象とすべきである。
以 上
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