法科大学院制度の改善に関する具体的提言

2012年7月13日
日本弁護士連合会


 

 

本提言について

日弁連は、2012年7月13日付けで「法科大学院制度の改善に関する具体的提言」を取りまとめました。

 

本提言の趣旨

当連合会は、プロセスとしての法曹養成の中核を担うべき法科大学院制度に早急な改善を要する様々な課題が存在し、危機的な状況にあるとの認識の下、司法試験合格率や教育の質の大幅な向上、経済的負担の軽減等の直面する課題に関し、制度理念の実現に向けた具体的対応策として、以下のとおり提言する。

 

1 法科大学院制度
多様で質の高い法曹の養成を目的として、法令改正等の方法を通じて以下の改善を行うべきである。
(1) 法科大学院の教育理念に基づく法曹養成教育の質を維持・向上させるために、法科大学院の統廃合と学生定員・入学者総数の大幅な削減を促進することとし、そのために法科大学院について以下の措置を実施すべきである。
① 学生定員の上限を設定し、これに合わせて大規模校及び中規模校全体の定員削減を進めること。小規模校においても、教育の質を維持しうるよう定員の下限を設定すること。
② 入学者選抜の競争性確保を目的とした、入学者の競争倍率及び学生定員充足率に関する基準を設けること。
③ 教員体制の充実を目的とした以下の措置を実施すること。
ア 学生定員及び科目単位数を考慮した、法律基本科目における必要専任教員数の増員。
イ 専任教員総数に対する実務家教員必要数の増員。
ウ 教育能力を重要な判断要素とする方向での教員審査の運用改善。
④ 司法試験合格率が著しく低い法科大学院の統廃合を目的とした合格率に関する基準を設けること。

 

(2) 法科大学院の地域適正配置と学生の多様性確保のために、以下の措置を実施すべきである。
① 地方法科大学院について、これまでの当該法科大学院の改善努力の実施状況、地元弁護士会等による支援状況や同校出身者の地元への定着状況、近隣県を含む当該地域における同校の存在意義等を総合的に考慮し、地域適正配置の観点から必要があると認められる場合には、上記1(1)の各措置の実施について一定の時間的猶予を与えるなどの特例措置を認めること。
② 夜間に学べる仕組みを持つ法科大学院(以下「夜間法科大学院」という。)の教育の改善を促すとともに、その設置を促進するため、求められる質を備えた教育の実施が見込まれる夜間法科大学院に対して以下の特例措置を認めること。
ア 上記1(1)の各措置を実施するに際し、一定の時間的猶予を与える。
イ 国は、夜間法科大学院の設置促進と教育の充実を目的とした特別の経済支援を行う。
③ 当連合会は、地域適正配置及び夜間法科大学院支援の観点から、必要と認めた法科大学院に対し、同校の要請に応じて、求められる質を備えた弁護士実務家教員を推薦するなどの支援を行う。


(3) 教育の質の向上のために、上記1(1)の措置に加えて以下の措置を実施すべきである。
① 法律基本科目(とりわけ民法)の教育充実の観点から、年間履修単位数の上限について、上限を定めた趣旨を踏まえつつ、若干の緩和を図ること。
② 法律実務基礎科目群の必要履修単位数を増加させること。
③ 法律基本科目についても、学修の到達点を確認するとともに応用力を養うことを目的とした文書作成指導が積極的に行われるようにすること。
④ 弁護士実務家教員の法科大学院運営への関与をより実質化すること。
⑤ 適性試験の改善を図るため、各法科大学院に対し、適性試験結果と法科大学院の成績との相関性の検証に必要な情報の適性試験実施機関への開示を義務付けること。
⑥ 適性試験について統一的な入学最低基準点を設定し、同基準点を下回る者 は特段の事情がない限り法科大学院に入学させないものとすること。
⑦ 未修者が法曹になるための基礎力を適切に修得できるよう、カリキュラム、教育内容・方法等に関するさらなる改善を図るとともに、特に2年次への進級判定を一層厳格に行うこと。


(4) 法科大学院修了までの経済的・時間的負担を軽減するために、以下の措置を実施すべきである。
① 学費の低額化を図るため、法科大学院の統廃合の促進を前提に、各法科大学院に対する国の財政支援を増加させること。
② 日本学生支援機構による「特に優れた業績による返還免除制度」の対象者枠を拡大するとともに、法科大学院生を対象とした給付制奨学金制度を創設すること。
③ 学部の早期卒業(3年卒業)等に基づく法科大学院への入学がより広く可能になる方向での運用の改善を検討すること。


(5) 各法科大学院に対し、入学者選抜、教育内容、進級・修了認定、修了者の進路等に関する具体的な情報の開示を義務付けること。


2 司法試験制度
(1) 法科大学院教育との有機的連携を強化する観点から、司法試験に関し、以下の措置を実施すること。
① 短答式試験の現状が、法科大学院教育のあり方や法曹の多様性確保に悪影響を与えているとの指摘があることに鑑み、同試験科目の削減、出題範囲の限定、出題内容の基本的事項への限定、短答式試験の合格に必要な成績を得た者についてのみ論文式試験の採点を行う合否判定制度(司法試験法第2条第2項)の見直し、短答式試験と論文式試験の配点比率の見直しなどの改善策について、現状の検証を踏まえつつ検討すること。
② 論文式試験について、専門的な学識と法的な分析、構成、論述の能力を判定するという趣旨(司法試験法第3条第2項)に照らし、論点の数や解答すべき分量が適切であるか、試験時間内にじっくり考えて解答できる問題となっているかについて、現状の検証を踏まえつつ、必要な改善を図ること。
③ 合否判定の結果について外部からの検証が可能になるよう、どのような答案が「優秀」、「良好」、「一応の水準」、「不良」の各ランクに相当するかなど、必要な情報開示を行うこと。
④ 司法試験の受験回数制限を当面の間5年5回等に緩和すること。


(2) 予備試験については、その実施状況を検証しつつ、経済的な事情等により法科大学院を経由しない者にも法曹資格取得の途を確保するとの制度趣旨を踏まえた運用をすること。



 

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