消費者契約法日弁連改正試案

2012年2月16日
日本弁護士連合会


 

本試案について

日弁連は、2012年2月16日に消費者契約法日弁連改正試案を取りまとめ、同年2月21日に内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)、消費者庁長官、内閣府消費者委員会委員長宛てに提出いたしました。

 

「消費者契約法日弁連改正試案」の提言に当たって

1 消費者契約法の制定と意義
消費者契約法(以下「本法」という。)は、消費者・事業者間の情報・交渉力格差の是正という観点から、消費者契約に関する包括的民事ルールを規定する民法、商法の特別法として、2000年(平成12年)4月に制定され、2001年(平成13年)4月に施行された。



本法が施行されてから既に10年以上が経過した。その間に本法が消費者の権利実現のために果たした重要な役割、裁判例の蓄積、実務への定着等によって、今や本法は消費者の権利実現のために欠かせない極めて重要な法律となっている。



2 実体法改正の必要性
もっとも、本法の施行後も消費者契約被害の発生は後を絶っておらず、現在もその被害の実情は深刻かつ多数である。



この点、本法の私法実体法規定は、もともと制定過程において提唱されていた第16次国民生活審議会消費者政策部会中間報告等に比して縮小・後退した内容で制定された経緯があり、本法制定時の衆議院商工委員会及び参議院経済・産業委員会の附帯決議でも、施行後の状況について分析・検討を行い、5年を目途に見直しを含めた措置を講ずることとされていた。また、2005年(平成17年)4月に閣議決定された「消費者基本計画」では、「消費者契約法施行後の状況について分析・検討するとともに、消費者契約に関する情報提供、不招請勧誘の規制、適合性原則等について、幅広く検討する。」、「平成19年までに消費者契約法の見直しについて一定の結論を得る。」とされていた。さらに、2010年(平成22年)3月に閣議決定された「消費者基本計画」では、「消費者契約法に関し、消費者契約に関する情報提供、不招請勧誘の規制、適合性原則を含め、インターネット取引の普及を踏まえつつ、消費者契約の不当勧誘・不当条項規制の在り方について、民法(債権関係)改正の議論と連携して検討します。」とされた。加えて、2009年(平成21年)11月から開始されている法務省法制審議会民法(債権関係)部会における民法改正論議の中でも、新たな消費者保護規定の要否や内容が論じられている状況にある。


このように、現在の消費者契約被害の実情、本法制定時に積み残した課題、本法制定後の社会状況や議論の進展等を考慮した場合には、本法の私法実体法規定を現行法よりも充実させる方向で法改正することは急務である。



3 当連合会の従前の活動と今般の提言
この点、当連合会では、本法制定過程において「消費者契約法日弁連試案」(1999年(平成11年)10月)等を提言し、本法施行後も「消費者契約法の実体法改正に関する意見書」(2006年(平成18年)12月14日)や、「消費者契約法の実体法規定の見直し作業の早期着手を求める意見書」(2011年(平成23年)11月24日)等を公表し、本法の私法実体法規定のあるべき改正内容や早期見直しの必要性を提言してきた。


今般、当連合会が提言する「消費者契約法日弁連改正試案」(以下「本試案」という。)は、消費者契約被害の実情や本法のこれまでの施行状況及び議論状況等を踏まえ、日々消費者被害の救済に当たっている法律実務家の視点から見たあるべき消費者契約に関する包括的民事ルールという観点より、本法の私法実体法規定の改正試案を提言するものである。



4 本試案の前提ないし留意点
なお、本試案は、あくまでも現行の民法の規定、及び、現行の民法と消費者契約法の役割分担の在り方を前提としている。また、本試案は、法務省法制審議会等における民法(債権関係)改正論議は視野に入れつつも、将来的な民法の諸規定の在り方や民法と消費者契約法との役割分担の在り方といった問題については、特定の立場を前提としていない。すなわち、本試案は、民法改正論議において消費者契約に限定しない形での立法の是非が議論されている問題も含んでいるが(例:約款規制、複数契約の無効など)、民法典における上記のような立法について積極的に反対する趣旨ではない。また、本試案の提案内容の一部を民法典で立法することが望ましいか否かという問題(民法典への消費者概念導入の是非及び内容という問題)は、本試案とは別に議論されるべき問題と位置付けている。


最後に、本試案は、そこに列挙されていない消費者保護規定の立法の必要性を否定する趣旨ではない。本試案は、現代社会で立法化が必要な消費者契約に関する私法実体法規定の全てを網羅したものではなく、今後も、消費者契約に関する包括的民事ルールを定める法律としてその内容の充実に向けた検討を重ねてゆくこととしている。

 

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