「産業構造審議会 知的財産政策部会 商標制度小委員会 新しいタイプの商標に関する検討ワーキンググループ報告書(案)」に対する意見

2009年3月12日
日本弁護士連合会


本意見書について

本意見書は、2009年3月12日、特許庁長官宛に提出しました。


意見の趣旨

第1 新しいタイプの商標について

  1. 新しいタイプの商標として、報告書(案)は9種類の商標を挙げた上で、商標法の保護対象に追加する商標として、(1)動きの商標、(2)ホログラムの商標、(3)輪郭のない色彩の商標、(4)位置商標、及び(5)音の商標のみを認める方向で検討すると述べている。
    日弁連は、諸外国等における保護の状況、国際的な枠組みの状況並びに我が国業界のニーズ等に鑑み、この方向性は適切であると考える。


  2. ただし、報告書(案)で述べられている「新しいタイプの商標」の意味ないし 範囲は必ずしも、一義的に明確ではない。
    新タイプの商標を商標法に導入しようとする以上、まず、各新タイプ商標の特定、範囲の画定、同種の従来型商標との相違点など、意味ないし範囲を具体的に明確にすることが当然要求されるものと考える。


  3. 商標の機能として本質的なものは出所識別機能であるが、新タイプの商標については、未経験であるから、特に、当該識別力ないし識別性の有無を判断する基準が求められる。その上で、商標法による保護は、競業者の商標選択の自由を不当に害することなく、営業の自由を確保しながら、商標をめぐる需要者の利益を保護する必要がある。
    このような見地から、新タイプの商標の保護制度を導入するに当たっては、慎重な論議の末、明確にして具体的な制度設計の結論を得て、初めて新制度導入の実施を決定すべきものと考える。


  4. 前項に記載した出所識別機能を考慮すると、新タイプの商標については、商標法で保護するより、むしろ基本的には不正競争防止法の下で規制の対象とされるべきであり、公正な競業秩序を維持する観点から、表示の周知性と混同防止を主たる要件として個別具体的に判断されるべきものと考える。出願審査が適切になされるなら、商標法により排他的独占権を付与して権利者を保護するメリットがあるが、その権利が強大になりすぎないように、制度設計する必要がある。


  5. 以上の諸点を考慮して、当連合会は、新タイプの商標については使用の結果出所識別力を取得したものについてのみ、具体的に範囲の明瞭な商標権による排他的独占権を付与すべきものと考える。

第2 商標制度の見直しについて

  1. 商標の定義の見直し
    報告書(案)は、社会通念上の商標の意味に合わせるために識別性の要件を商標の定義に追加すべきかどうかにつき、商標法全体の問題として、慎重な検討が必要であるとしている。
    しかし、今回新しいタイプの商標を導入するに当たり、我が国においても、他国の例に倣って、商標の定義規定を新設するようにしなければ、商標法で保護されるべき商標とは何か、その本質は何かが不明確となり、無用な紛争の発生につながることが懸念される。したがって、かかる見地から、商標法に社会通念上の商標の定義を新設すべきものと考えられる。


  2. 商標の使用の定義の見直し
    現行商標の使用の定義が視認可能な標章を前提としている以上、音を含むように見直しをすることは当然必要であり、報告書(案)に記載されているところに賛成する。
    ただし、現行商標法の使用に関する定義規定は、複雑かつ形式的であって、現実の使用がいずれに該当するか明確ではない場合がある。そこで、この際、定義規定を分かりやすい包括的な規定に整理することも検討されるべきではないかと考える。


  3. 商標の登録要件の見直し
    報告書(案)は、商標の登録要件について、識別性欠如、公益的又は機能的な商標に登録を認めないことなどを挙げるが、その具体案は明確に示されていない。
    日弁連は、現行法第3条を修正して、これら報告書(案)で言及されている問題点を理論的に整理して取り込む案を提案する。


  4. 商標権の権利範囲の特定方法の見直し
    商標権の権利範囲の特定方法に関する報告書(案)の対応の方向は基本的に賛成する。ただし、新タイプの商標として保護すべき対象と範囲が明確にされていない現段階で具体案を提示することは困難である。よって、商標法の下で保護の対象とすべき商標を具体的に明確に特定する必要があることを、改めて指摘する。


  5. 著作権等の他の権利との調整
    使用の意義の修正により、商標の類似の範囲や特許権、実用新案権、意匠権、著作権との調整が必要となる。他の基本的部分を整備した上で、それらの調整が検討されるべきである。ただし、現行法第70条の修正について慎重に検討されたい。

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