死刑執行の停止について(要請)

2006年6月15日


法務大臣  杉浦 正健 殿


日本弁護士連合会
会長 平山 正剛


 死刑執行の停止について(要請)


第1 要請の趣旨

死刑確定者83名(2006年6月6日現在)に対し、死刑を執行されないよう要請する。


第2 要請の理由

1.わが国では、4つの死刑確定事件(免田・財田川・松山・島田各事件)について再審無罪判決が確定し、死刑判決にも誤判が存在したことが明らかとなっている。また、昨年4月5日には、名張毒ぶどう酒事件について再審開始決定がなされ、法的に死刑の執行が停止されるに至っている。 しかしながら、このような誤判を生じるに至った制度上、運用上の問題点について、抜本的な改善が図られておらず、誤判の危険性は依然不可避である。
また、死刑と無期の量刑につき、裁判所によって判断の分かれる事例が相次いで出され、死刑についての明確な基準が存在しないことも明らかとなっている。
一般に、わが国の死刑確定者は、国際人権(自由権)規約、国連決議に違反した違法状態におかれ、とくに過酷な面会・通信の制限は死刑確定者の再審請求、恩赦出願をはじめとする権利行使の大きな妨げとなってきた。今般、刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律の改正により、面会に関しては現行実務より改善が見込まれるものの、信書の検閲は維持されたままであり、死刑確定者の権利行使が十全に保障されるとは言いがたい。


2.1989年に国連で国際人権(自由権)規約第二選択議定書(死刑廃止条約)が採択された後、多くの国で死刑が廃止されている。1990年当時の死刑存置国96か国、死刑廃止国80か国(法律で廃止している国と過去10年以上執行していない事実上の廃止国を含む。以下同じ。)に対し、2006年6月7日現在、死刑存置国71か国、死刑廃止国125か国と、死刑廃止が国際的な潮流となっていることは明らかである。
他方、日本においては、世論調査によれば、死刑存置支持が相当多数を占めると報道されてはいるものの、死刑制度の問題点についての情報はまったくと言ってよいほど開示されておらず、世論調査の方法自体にも問題があり、必ずしも大多数の国民が将来にわたり永続的に死刑存置の意見であるとは言えない。


3.このような国際的な潮流と国内的な状況の乖離を踏まえた上で、日本においても、死刑制度を存置するか廃止するかについて、早急に広範な議論を行う必要があり、当連合会は、死刑制度の存廃につき国民的議論を尽くし、また死刑制度に関する改善を行うまでの一定期間、死刑確定者に対する死刑の執行を停止する旨の時限立法(死刑執行停止法)の制定を提唱しているものである。


4.また、当連合会は、死刑の執行のなされるつど、法務大臣に対し、死刑の執行を停止されるよう要望してきたが、誠に遺憾なことにこれまで死刑の執行が繰り返されてきた。
特にこれまでの死刑の執行は、国会閉会直後や国政選挙直前あるいは年末など、国会による議論を避け、国民の関心が他に向けられやすい日程で行われており、今後、死刑の執行が行われる可能性がある。
このような状況を踏まえ、当連合会は、法務大臣に対し、死刑確定者83名(2006年6月6日現在)に死刑を執行されないよう強く要請するものである。


以 上