相続税の連帯納付義務に関する意見書

2006年(平成18年)2月16日
日本弁護士連合会


本意見書について

相続税法は、相続又は遺贈(以下「相続」)によって財産を取得した複数の者は、共同相続財産にかかる相続税について、自らの受益額を限度として互いに連帯納付義務を負うことを規定していますが、当連合会は、以下のような理由から、この制度の廃止を求めます。


  1. 連帯納付義務によって、自己固有の相続税を完納した相続人も、他の共同相続人がその固有の相続税を滞納すると、その滞納相続税額を直ちに徴収されます。しかし、自己固有の相続税を完納すれば、相続税納付の問題は終わったと考えるのが通常です。他の共同相続人が滞納すると、「連帯納付義務にかかる納税告知」がされますが、これを争う方法はありませんし、他の共同相続人の滞納を防ぐ方法もありません。そのため、共同相続の場合の相続人は非常に不安定な状態に置かれます。
  2. 他の共同相続人が延納の許可を受けた場合には、この不安定な状態が長期間続きます。不都合はそれだけではありません。他の共同相続人が、その固有の相続税を納付しないまま、相続財産を債務弁済に充ててしまった場合、相続した土地が延納中に値下がりし、これを売却しても未納税額に不足する場合、相続時精算課税を選択した他の共同相続人が、贈与を受けた財産を費消してしまい、具体的相続分がなかったり、相続した財産では固有の相続税額に不足する場合などが容易に思い浮かびます。
  3. 相続税の申告は、相続人各自による個別申告が原則ですが、個別申告をするような共同相続人間には、連帯納付義務を課すべき親族的紐帯が欠けています。共同相続人が遺産の範囲、評価、分割方法等を巡って争う事例は枚挙に暇がありません。このような事例では、遺産分割の完了は他の共同相続人との縁切りを意味し、連帯納付義務について納得を得ることなど不可能です。
  4. 相続税の課税方式には遺産税方式と遺産取得税方式があり、わが国は後者を採用しています。後者は、各相続人が取得した遺産を課税の対象としますから、相続人毎に固有の相続税納付義務が成立します。それでは徴収漏れが生じることから、連帯納付義務が規定されていますが、課税と徴収との間の整合性に欠けると言わざるを得ません。

本意見書は、2006年2月22日に財務省、各政党、税制調査会に提出致しました。


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