「障害者自立支援法案」の修正を求める要望

2005年(平成17年)6月23日
日本弁護士連合会


 

現在、衆議院厚生労働委員会で障害者自立支援法案の審議が行われている。


本法案については、身体・知的・精神等と障害種別ごとに対応してきた障害のある人への施策について、障害種別、疾病を超えた一元的な体制を整備しようとするものであること、障害のある人への施策について「障害者及び障害児の自立した日常生活又は社会生活を支援する」という目的を挙げたこと、この目的のもとで福祉サービス等の一部を自立支援給付として位置づけ、その給付に要する経費を国の義務的負担としたことなど評価すべき点がある。


しかし、本法案には、地域における自立した生活へ向けて歩み出した障害のある人々にとって、以下に述べる看過し得ない重大な問題を含む、様々な問題がある。


1.定率負担の導入に対して


措置制度においても、さらには支援費制度の下でも、障害のある人ないしその家族の所得に応じた費用負担(いわゆる応能負担)が求められていたのに対し、本法案は障害のある人に対し給付額の1割という定率の負担を求めている(法案29条3項、30条2項、58条3項ほか)。しかも、公費負担医療の利用者負担の見直しがなされ、例えばこれまで自己負担の軽減制度(5%)の適用を受けながら精神医療等を利用してきた精神障害者の医療費(法案5条18項)にまで1割負担を導入している。また、これまで利用者の負担とされていなかった施設利用者の食費や居住室費用などを障害のある人に負担させることとなっている(法案29条1項ほか)。憲法25条及び障害者基本法3条の理念に基づく所得保障が障害のある人に対して十分行われていない現状で、利用料の定率1割負担は、ほとんどが低所得である障害のある人に大幅な負担増を強いることになり、障害のある人の必要に応じた福祉サービスの利用を困難にさせ、地域での自立した生活ができなくなるおそれが極めて大きいといわざるを得ない。


2.政省令への委任に対して


本法案は、利用可能な福祉サービスの量を決定するための障害程度の区分(法案4条4項、21条1項、22条1項ほか)や利用しうるサービス量の上限を政省令に委ねているが(法案22条4項ほか)、その結果としてサービス量の上限や既存の福祉サービスの切り下げが国会の審議を経ることなく決定される恐れがある。従って、これらの点について、できる限り法律によって規定するべきである。


3.介護移動費について


本法案は、障害のある人が地域での自立した生活を送る上で必要不可欠なサービスである介護移動費の一部を、国が支援の責務を負う個別支給制度に位置付けずに移動支援事業として市町村の行う地域生活支援事業に位置づけているが、これでは、市町村の財源の限界や個人の受給権はないことなどを理由に現状の介護移動費の水準が切り下げられる可能性が極めて大きい。


従って、介護移動費は、地域生活支援事業ではなく個別支給制度として位置付けて国が支援の責務を負い、障害のある人の地域での自立した生活を保証するべく従来の給付水準を維持、発展させうる制度とすべきである。


当連合会は、本法案が障害のある人の地域での自立した生活や社会参加に大きな影響を与えるばかりか、障害のある人の今後の地域での生活を阻害する危険さえあることに鑑み、時間をかけた十分な審議が尽される中で上記各点を含む修正作業がなされることを強く求めるものである。


なお、これがなされないまま法案を可決することには、当連合会は反対せざるを得ない。