人身取引の被害者保護・支援等に関する法整備に対する提言

2004年11月19日
日本弁護士連合会


本提言について

1.国際連合は2000年に国際組織犯罪防止条約を補足する人身取引防止議定書を採択した。現在、日本政府はその批准のための対策を検討しているが、その内容は、加害者処罰に関してのみ法(刑法)改正を行い、被害者保護・支援や被害防止等に関する対策は現行法の枠内での運用・裁量で対処するというものである。しかし、人身取引根絶のためには被害者の人権確保が最重要であって、これなくして実効ある加害者処罰も望めないし、被害者の人権侵害は極めて深刻で完全な回復は困難であるため被害の未然防止も極めて重要である。したがって、被害者・保護支援及び被害防止等に関する対策は、運用・裁量で対処すべきで事項ではなく、法律で定め、かつ政府の責任を明らかにすべきである。


この見地から、以下の提言を行う。


2.被害者の保護支援につき、


  1. 人身取引被害者の保護支援を行う専門機関(仮称:人身取引被害者支援センター、以下「センター」という)を設置し、国は十分な人的・物的・財政的資源を投入する。
    センターに被害者支援専門官(仮称)を置く。専門官は、民間政府の保護担当者の判断を尊重しつつ「被害者」の認定を行うが、被害者の置かれた状況及び人権確保の観点から、その認定は加害者処罰の際に比して緩やかに行われるべきである。認定された「被害者」はすべての保護支援策の対象となる。
    センターは、NGOと協働して、多言語ホットラインの設置、シェルターの設置、医学的・心理的・物的援助、雇用・教育・訓練の機会提供、入管への人身取引被害者認定申請(仮称)の手続きの援助等を行う。
    これらに要する費用はすべて国が負担する。被害者には生活保護の適用を認める。
    被害者の保護支援を行うNGOに対し、人件費・施設維持費等を含む財政援助を恒常的に行う。
  2. 被害者の法的権利回復のため、弁護士の援助を受ける権利の確保、総合法律支援法による支援を利用可能とすること、加害者への損害賠償請求等の実効性確保のための制度の導入検討、被害者の心身の安全確保の方策、被害者の身体的・心理的・社会的回復のための制度の確立および費用負担を国の責任で行う制度を新設する。
  3. 刑事手続きに協力する被害者・関係者の安全確保策を講じる。被疑者・被告人に対して被害者の個人情報の保護・秘匿を可能とする制度を検討する。
  4. 被害者に犯罪が成立する場合でも、それが人身取引の被害者としておかれた状況の直接的な結果である場合には、処罰は抑制的とする。
  5. 暫定的な仮滞在制度・人身取引被害者認定による「定住」資格の取得・入管から独立した第三者機関による不服申立制度を内容とする、人身取引被害者認定制度を新設する。人身取引被害者支援センターの支援専門官が「被害者」と認定した者については、特段の事情のない限り、入管法上も「人身取引被害者」と認定する。
  6. 被害者の帰国については、適法かつ任意の帰国とする。

3.人身取引の防止につき、


  1. 特に日本国内における需要の抑制のための効果的対策を積極的に講じ、性産業の法的規制の在り方についての検討も行う。
  2. 送出国・経由国に対し、日本における実態、法制度、救済機関等について、広く情報を提供する。
  3. 不平等、貧困、低開発等の解消のためにODA見直しを含む対策を取る。
  4. 特に在留資格「興行」につき、その濫用防止の方策を検討する。適法で有給の搾取を受けない性産業以外での就労を可能とする在留資格を検討する。
  5. 適切な法執行機関の対応の確保につき、NGOと協力しつつ、職員に対し特に被害者の保護と支援に焦点を当てた教育訓練を行う。

4.包括的かつ効果的対策の実施のため、


  1. 国は、被害者の保護・支援、被害者の法的地位、帰国、情報鋼管、法施行機関等の職員に対する教育訓練、被害予防、国及び都道府県の基本計画策定、NGO等との協力、国家間・国際地域間の協力、これらの実施状況についてのモニタリング・評価と年次報告等を定めた人身取引被害者支援法(仮称)を制定する。
  2. 国は、支援法に基づき人身取引対策全般を所管する責任部局を設置し、かつ関係省庁及びNGOによる特別作業グループを設置する。

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