サラ金のテレビCMの中止を求める意見書

2004年5月8日
日本弁護士連合会


本意見書について

意見の趣旨

現在も利息制限法違反の営業を続けている消費者金融(いわゆるサラ金、以下「サラ金」という)のテレビCMを、直ちに中止することを要望する。


意見の理由

1. はじめに・・・多重債務被害の深刻さ

サラ金・クレジットなどをめぐる消費者信用トラブルは、かつてないほど深刻な事態となっている。個人の破産申立件数が1990年には1万件台であったものが、長引く不況や賃金カットなどを背景に、その件数は、2002年には約21万件、2003年には約24万件と右肩上がりに増加している。


さらに、破産予備軍の多重債務者は150万人~200万人もいるといわれ、経済的理由による自殺者も2002年に7900人にのぼり、これも過去最高となっている。


2. ヤミ金融対策法による広告規制強化

昨年7月成立したヤミ金融対策法は、貸金業者の広告についての規制を強化した。


具体的には、貸金業規制法16条2項以下に規定されていた誇大広告の禁止に加え、禁止行為として誤認を与えやすい表示、説明の類型が具体的に示された(同条第2項1号乃至4号)。


さらに過剰な貸付や安易な借入れを助長することを防止するために、貸金業者に対し、広告・勧誘行為が過度にわたることがないよう努力義務を課した(同条第3項)。


これらの規制は、テレビCMを中心とするサラ金のCMが氾濫し、サラ金大手5社だけでも広告費が700億円にも上り、CMの受け手の安易な借入れを助長しているという認識が背景にあったためである。


具体的なテレビCMの内容は、


  1. 若い女性のダンサーらが音楽に合わせてダンスを踊り続けるもの
  2. チワワとペアの婚礼用タキシード等を買いたい衝動に駆られている人の様子を描いたもの
  3. 救助船(サラ金の貸付船)の発動をコミック風に扱ったもの

等、イメージ広告が主流となっている。


3. サラ金テレビCMの自主規制

前述のとおり、大手5社の広告費は700億円にも達するといわれ、テレビCMの商品別の広告費では、サラ金CMを示す「その他の金融」が第3位となっている。(ビデオリサーチ社 テレビCM視聴率 広告の動向 テレビCM調査書2001)。


CMの内容も安易な借入れをあおるものとなっており、若年層に「サラ金」の暗いイメージを払拭させ、借金の抵抗感をなくさせる役割を果たしている。


また、中学高校等での金利教育が不十分なことも相まって、これらの業者が、広告の受け手に、利息制限法に違反する高金利で継続的な貸付を行っているとの認識も与えないようになっている。


近時そのCM氾濫が目に余ることから、2002年12月20日、日本民間放送連盟(以下、「民放連」という)とNHKが共同で作った第三者機関である「放送と青少年に関する委員会」は、消費者金融CMは日本民間放送連盟基準の「金融・不動産の広告」などの項目に抵触する恐れがあるとして、午後5時から9時までの放送自粛や、借金のリスクをわかりやすく伝えるとともに、安易な借入を助長しない内容とすべきとの見解を発表している。


同放送基準「17章金融・不動産の広告」では、「金融業の広告で業務の実態、サービス内容が視聴者の利益に反するものは取り扱わない」とされていたが、本年2月新基準を設け、消費者金融分野について安易な借入を助長するCM表現の禁止を義務化している。


民放連においても、昨年4月から表現などの見直し、同年10月には青少年に対する配慮をするとして、午後5時から9時までの時間帯及び青少年参加型番組については、テレビCMを自粛することとなった。


しかし、午後5時から9時までのサラ金テレビCMが自粛されるようになると、かえって午後9時以降に集中的にそのCMが流され、逆効果を生じさせている弊害も現れてきた。


4. 最高裁判所2004年2月20日判決

今般、商工ローン大手SFCG(旧商工ファンド)との間で貸金業規制法 43条のみなし弁済規定の適用の可否が争われていた3件の訴訟について、最高裁判所は、本年2月20日、みなし弁済規定の適用を全面的に否定し、同社のみなし弁済の主張を一部認めた2つの原判決を取消し、東京高裁、札幌高裁にそれぞれを差戻すとともに、SFCGが上告受理を申立ていた事件については上告を不受理とする決定を下した。


上の最高裁判決は、貸金業に対する必要な規制等を定める法の趣旨・目的と貸金業規制法17条書面、18条書面の交付についての規制に違反した場合に罰則が定められていること等から「法43条の規定の適用要件については、これを厳格に解釈すべき」と厳格説をとることを最高裁として初めて明らかにしたものである。


さらに、同判決の補足意見では、約定利息の支払いを怠れば、債務全額を即時弁済することを求められるとともに、損害金を支払わなければならないとする約定が定められている場合、「約定に従って利息の支払いがなされた場合であっても、その支払いは、その支払いがなければ当初の契約において定められた期限の利益を失い、遅延損害金を支払わなければならないという不利益を避けるためにされたものであって、債務者が自己の自由な意見に従ったものということはできない」とし、「この支払いは任意の支払いということはできない」と判示した。


この補足意見を前提とするなら、殆どの貸金業者では利息制限法を超過する約定利息の支払いを怠った場合期限の利益を失うとの約定がなされていることから、みなし弁済規定の適用は認められないと考えられ、金融行政や貸金業界は、根本的に規制のあり方や業務の改善を迫られることになる。


5. 最高裁判決の背景

このように最高裁がみなし弁済規定を厳格に解釈した背景として、みなし弁済規定を前提に、サラ金が現在の低金利時代に年利25%~29.2%という高利を徴求していることが多重債務者を続出させていること、他方、サラ金業界では大手業者を中心に、巨額の利益を上げていることにあると考えられる。


また、サラ金業界最大手武富士に見られるように、第三者請求(債務者以外の者への請求)等で各地でトラブルを多発させ、さらには警察や暴力団との癒着や会長が盗聴で逮捕されているという不祥事を生じさせていること等、貸金業界が、大きな問題を抱えているとの認識があったものと考えられる。


6. サラ金CMの影響

現在の多重債務者増大の原因は、1989年頃より消費者信用全体の与信残高が30兆円~40兆円の間で推移している中で、サラ金業者の与信残高は、1993年に3兆円程度であったのが、2003年には大手サラ金業者で与信残高が約10兆円、全体としては約13兆円にも上ったことにある。このような急激な伸びは、サラ金業界が大手を中心に株式を上場し社会的認知を受け、無人契約機を大量に導入したほかに、多量の広告を流し続けていたことによるものである。つまり、不況などにより可処分所得が伸び悩んでいる中で、サラ金のテレビCMが氾濫していることが、右与信残高の増加に直結しているといわなければならない。


サラ金が利息制限法違反の営業をしているにもかかわらず、日本民間放送連盟がサラ金のテレビCMを許容しているのは、みなし弁済規定が成立することにより利息制限法違反の利息の徴求が許されていることを唯一の根拠としていた。


しかし、上の最高裁判決によって、みなし弁済規定を厳格に解すべきことが確立されただけでなく、この判決、特に補足意見を踏まえると、ほとんどのサラ金業者でみなし弁済規定の適用が認められる余地がないことが明らか となった。


この判決によって、あらためて利息制限法が暴利を規制する基本的な法律であることが明らかにされたのであり、ほとんどのサラ金業者がこの法律の規定を遵守していない以上、社会の公器であるべきテレビ局が、サラ金CMを流し続けることは第3項で指摘した日本民間放送連盟放送基準17章「金融・不動産の広告」に反するものである。


さらに、より根本的に同放送基準「13章広告の責任」では「広告は、関係法令などに反するものであってはならない」とされており、最高裁判決を踏まえれば、この基準にも違反していると考えられるところである。


広告の自由は十分に尊重されることは当然であるとしても、利息制限法違反のサラ金CMは自ら定めた同放送基準よりしても許されるべきではないと考えられる。


付言するに、「金融業の広告で業務の実態、サービス内容が視聴者の利益に反するものは取り扱わない」との基準に関する民放連の解説では「金利」の点については、「消費者に過大な負担を課する金利水準でないこと」とされ、その注記として、金利水準は、出資法の上限以下でなければならないことは言うまでもないとしながら「消費者に過大な負担を課すものは取り扱うべきでないという放送基準の理念から、各社が独自の金利水準を定めて考査を行うべきである」とされている。


最高裁判決を踏まえ、この基準の解説も変更されるべきこととなろう。


7. 利息制限法違反のサラ金CMの中止を要望する

当連合会は、2003年7月、「→出資法の上限金利の引き下げ等を求める意見書」を採択し、その中で「基本的には、利息制限法を超える金利で貸付け、多重債務者を続発させているサラ金のCM自体許容されていることが異常なことであり、その中止などが求められるべきであるが、少なくとも、『放送と青少年に関する委員会』の見解は、誠実に実現されなければならない」と表明したが、今般の最高裁判決を踏まえ、現在も利息制限法違反の営業を 続けているサラ金業者のテレビCMの全面中止を要望するものである。


なお、本来は、新聞、雑誌、ラジオ等全てのメディアにおいてサラ金CMの中止が検討されるべきであるが、テレビCMが受け手に対し最も影響力が大きいこと、テレビCMはテレビを見ている限り視覚や聴覚に入ることを拒否できないことなど、他のメディアに比してより制限する必要性が認められることから、この度、緊急の対応として、本件の意見表明に及んだものである。


以上