割賦販売法の改正を求める緊急意見書

2003年12月20日
日本弁護士連合会


 

本意見書について

第1 意見書の趣旨

割賦販売法第30条の4第4項2号を廃止し、同法第30条の4各項が商行為にも適用されるよう法改正することを求める。


第2 意見書の理由

1 はじめに

当連合会は、2003年(平成15年)8月、増え続ける消費者信用トラブルの防止と被害救済を目指し、統一消費者信用法要綱案を承認して、統一的かつ実効的な消費者信用法制度の創設を提言し、その中で、販売信用取引について、現行割賦販売法の指定商品制度を廃止すること、割賦払い要件を撤廃すること、抗弁権の範囲を既払い金返還まで拡大すること等を求めている。


しかし、近時のローン、クレジットをめぐる問題は消費者のみならず中小零細企業をはじめとする事業者にも及んでおり、事業者をめぐるクレジットトラブルの防止と被害救済を実効あらしめることが急務となっている。そこで、消費者信用法制の抜本的改正を検討するのと同時に、早急に実現すべき緊急かつ重要課題として、以下に述べるような理由から割賦販売法の一部改正を求めるものである。


2 現行の割賦販売法とその解釈
  1. 現行の割賦販売法は、第30条の4第1項において、販売業者または役務提供業者(以下「販売業者等」という)につき生じている事由をもって、割賦購入あっせん業者に抗弁を対抗することができる旨規定しているが、同条第4項2号により「その購入が購入者のために商行為となる指定商品にかかるもの」の場合には、本条各項は適用にならないとされている。
  2. このように、抗弁の接続規定に商行為が適用除外とされている理由は、改正案の立案に携わった旧通商産業省の担当官によれば、「契約に不慣れな消費者を救うというのがその政策的な意味合いでしたので、もうけるつもりでやるような場合には、直ちにこの規定を適用することはできないということでこういう除外規定をつくったわけです」と説明されている。その結果、商行為については、個別の事例毎に裁判所が抗弁接続を認めるかどうかを判断するということになり、適用の基準は裁判所の解釈に委ねられることになった(以上、商事法務研究会・竹内昭夫教授編著「改正割賦販売法」194頁)。

3 事業者クレジットトラブルの急増
  1. しかし、近時、信販会社の中には、事業者とクレジット契約を締結するに当たり、商行為に割賦販売法第30条の4の規定が直接適用されないことを自己に都合よく解釈し、販売店との間で生じている事由は信販会社に一切対抗できない旨の条項を印刷した契約書を使用してクレジット契約を締結する業者が増加し、それに伴って事業者を被害者とする多数のクレジットトラブルが顕在化している。
  2. 例えば、2002年(平成14年)4月に広告会社である株式会社ジェイ・メディアが倒産し、広告掲出契約にもとづく電光広告が途中で実施されないこととなったが、多くの顧客(業者)がクレジット契約を締結していたために、倒産後もクレジット会社からクレジット代金の請求を受け、東日本中心に10地裁で債務不存在確認の訴訟が提起された事件(ジェイ・メディア被害事件)、文字情報放映契約を株式会社ジェイネットと締結し、広告の環境を整える業務に対して1ヶ月数万円ずつの放映料の支払いを受けるとともに、放映用の電光掲示板やDVD等の機材をクレジットを組んで購入したところ、その後にジェイネットが倒産し同社からの放映料が支払われなくなったにもかかわらず、倒産後もクレジット会社からクレジット代金の請求を受けているという事件(日本トータルネット被害事件…東京だけで約1500名の被害者がおり、ほかに神奈川、長野などに多数の被害者がいる)、「当社の節電機を取り付けると今より30%以上の節電効果がある」などと言葉巧みに顧客を勧誘し、実際にはほとんど節電効果がない「省電王」という節電機を販売していた株式会社アイディックが本年1月に倒産したことにより、節電効果に問題があることが広く知れわたり、全国でクレジットを組んだ顧客ら(ほとんどが零細事業者)との間でクレジット代金の支払拒絶や既払金の返還をめぐり争われている事件(アイディック被害事件)など、昨年来立て続けに事業者を契約者とする全国規模のクレジット被害が発生している。

4 トラブル急増の実態と背景
  1. 事業者を被害者とする多数のクレジットトラブルが増加している背景には、信販会社が信販業界の競争の激化に伴い、事業者を顧客とする業者にまで加盟店契約の範囲を拡大しているという事情が指摘できる。そして、この激しい加盟店獲得の争奪が繰り広げられる中で、違法・不当な営業を行っている業者をも加盟店にし、その後も当該加盟店の管理監督を十分に行わない信販会社が増加しているのである。
  2. このように、近時の信販会社の加盟店に対する杜撰な管理の実態は、国民生活センターの2002年(平成14年)4月24日付け「個品割賦購入斡旋契約におけるクレジット会社の加盟店管理問題」と題する報告書でも「クレジット会社は…相手が問題商法の業者であっても契約していて、それが既述の消費者被害を発生させているのではないかと推測される。クレジット会社が問題商法の業者を裏で支えているのではないか、という疑念がある」(同1頁)と指摘されている。
  3. また、近時のクレジットトラブルの増加や深刻化は、経済産業省が2002年(平成14年)5月15日に、「割賦購入あっせん業者における加盟店管理の強化」と題し、1982年(昭和57年)以来5回にわたる通達より一層強い表現で信販業界に加盟店管理の徹底を要求する通達を出していることからも、強くうかがえるところである。

5 当連合会の意見
  1. 前述の通り、割賦販売法の抗弁接続規定が商行為を適用除外としているのは「契約に不慣れな消費者を救う」ための規定だからと説明されているが、そもそも、信販会社と販売業者等とは継続的な加盟店契約を締結し、販売業者等がクレジットを使った売上を伸ばせばそれだけ信販会社に利益がもたらされるという構造であり、両者が法律的にも経済的にも強い結びつきを有していることは明らかである。このようなクレジット取引の構造に鑑みれば、販売業者等につき生じている事由は信販会社に対抗できるとするのが本来あるべき規制であり、当事者間の公平に適うことは明白であって、事業者の取引を適用除外とする現行規定はこのようなクレジット会社と販売業者等の強い結びつきを見落としたものと言わざるを得ない。
  2. また、そもそも割賦販売法第30条の4が新設される以前には、事業者のクレジット被害につき、信義則を理由に抗弁の接続を認定した裁判例も存在していたのであり(高松高等裁判所1982年9月13日判決、判例時報480号67頁以下ほか)、割賦販売法が抗弁接続規定の適用範囲を消費者に限定しているのは、クレジット取引の構造論から見ると何らの必然性も存しないばかりか、このような判例の基準を後退させる危険すら存在する。
  3. 特に、近時のクレジットトラブルに巻き込まれている中小規模事業者と一般消費者との間に、クレジット契約の仕組みの理解について大きな差異はなく、その意味でこのような事業者を割賦販売法による救済の対象から排除する理由は全く存しない。
  4. これまで述べたように、事業者を取り巻くクレジット取引の実情は、顧客である事業者に厳しいものとなっているのであり、クレジットトラブルから事業者を保護するためには、割賦販売法第30条の4第4項2号を廃止し、同条各項が商行為にも適用されるように法改正することが不可欠である。そして、このような改正がなされることによって、信販会社が事業者を顧客とする加盟店に対する審査・管理に、これまでより力を入れるようになり、事業者クレジットをめぐるトラブルの増加を抑制するという効果も期待できる。
  5. また、現行の割賦販売法は指定商品制度を採用しているところ、抗弁接続規定の事業者への適用は想定していないことから、基本的には事業者用の商品や役務は指定商品とはされていない。そのため、指定商品制度を維持するときは、商行為に抗弁接続規定の適用を認めても同規定が適用される場面がほとんどないという結果となりかねない。
  6. 当連合会は、指定商品制度をはじめとする販売信用取引法制の問題点について、これまでに、1999年(平成11年)6月の「統一消費者信用法の制定に向けて」と題する意見書、2000年(平成12年)3月の「統一消費者信用法の制定に向けて」と題するシンポジウム、2000年(平成12年)10月の第43回人権擁護大会での「統一的・総合的な消費者信用法の立法措置を求める決議」、本年8月の「統一消費者信用法要綱案」などにおいて、重ねて指摘してきたところである。また、国民生活審議会がまとめた「21世紀型の消費者政策の在り方について」の中でも、指定商品制度の見直し等が検討課題として指摘されている。近時の事業者のクレジット被害の増加によって、指定商品制度をはじめとする販売信用取引法制の弊害は一層明白になっている。したがって、事業者のクレジット取引にも割賦販売法の抗弁規定の適用を実現するとともに、長らく懸案となっていた指定商品制度の廃止等、抜本的な販売信用取引法制の見直しも合わせて実現されなければならない。
  7. なお、抗弁の接続規定に商行為が適用除外とされている理由が、「契約に不慣れな消費者を救う」ということであるとすれば、少なくともクレジット契約の仕組みの理解について消費者と大きな差異はない一定範囲の中小事業者の取引には割賦販売法の抗弁接続規定の適用が認められてしかるべきである。また、イギリスの販売信用取引規制における共同責任規定のように、売買金額が一定の金額に達しない場合には抗弁の接続を認めるという規制の仕方も参考になる。直ちに割賦販売法第30条の4各項が商行為にも適用されるよう法改正をすることができない場合であっても、被害者像や被害実態を踏まえて、商行為として適用が除外される範囲を、取引主体や取引金額等を基準にして現行規定よりも限定すべきことは、実現すべき最低限の課題といえよう。

6 最後に

事業者を顧客とするクレジット契約は、その構造や経済的な性格において事業者がユーザーのリース契約と共通点が多い。割賦販売法の抗弁接続規定の適用を事業者クレジットにまで拡大するのであれば、事業者がユーザーのリースについてもユーザーの保護が検討されなくてはならないが、事業者クレジットをめぐるトラブルが近時の大きな社会問題となっていることに鑑み、まずは、このようなクレジット被害の防止や適正な被害救済をはかることが緊急の課題である。


以上の次第で、意見書の趣旨記載のとおりの法改正を求めて、本書面を提出するものである。


以上