刑罰・処遇の在り方と被収容者の法的地位に関する日弁連の提言【行刑改革会議第1分科会関連】

2003年9月19日
日本弁護士連合会


 

本提言について

[提言の趣旨]

第1 行刑の基本理念等

1 基本理念

受刑者処遇の目的は、大づかみに言えば、 1.応報刑としての社会からの隔離、2.社会復帰のための資質涵養に整理される。そのためには、処遇理念として、受刑者が人間として尊重されることが必要である。施設管理、規律維持は、これらの目的に必要な限度でなければならない。さらに、被害者の視点に立った処遇の観点も必要である。


2 行刑のコスト

行刑についてのコスト意識は、処遇に投じた費用と、その結果、再犯が減少することによる社会の損失の回避との比較で考えるべき問題である。


第2 刑罰・処遇の在り方

1 刑罰(自由刑)の在り方

刑務作業については、刑務作業を刑罰の内容とせず、懲役刑と自由化を単一化し、新たなる行刑法に基づき、一定の条件の下に刑務作業を課すこととし、刑務作業の目的を、受刑者の改善更生及び社会復帰とし、現行の刑務作業の制度を抜本的に見直す必要がある。


2 分類、集団処遇等

分類制度は、より細かく実施されるべきである。受刑者の態様は多岐にわたり、これに対する処遇も、メニューを多彩に取りそろえる必要がある。


現行の累進処遇制度は画一的であるので見直しが必要である。


担当制は廃止し、集団処遇を導入すべきである。


処遇全般への民間人の関与を深めるべきである。


3 処遇困難者等

専門家の協力を得て、詳細、精密な分類を実施して、薬物治療等の専門施設や、薬物治療等の専門プログラムを開発する等すべきである。


外国人受刑者は、受刑者移送条約で対処し、条約の適用のない者については、外国人の特性に配慮した処遇を行うべきである。


4 刑務作業

(1)刑務作業の内容


「1日8時間の刑務作業」を与えることが自己目的化している弊害を廃すべきで、刑法12条2項の解釈として、又は同項の改正により、刑務作業、職業訓練、資格取得、教育などを社会復帰に資する有意義な活動として同等の重要性を持つものとして位置づけるべきである。また、累犯者に対する職業訓練を充実し、社会復帰したときに役立つ能力、資質を身につけることを重視すべきである。


(2)賃金制の採用


作業賞与金を賃金制とし、職業訓練や教育の受講にも支給すべきである。その金額は、現在の作業賞与金月額約4000円から、少なくとも月額2~3万円まで増額する。その一部を被害弁償に充てる途を開くべきである。


(3)労災保険の導入


刑務作業にも労災保険を導入すべきである。


5 職業訓練及び教育

(1)職業訓練


職業訓練を充実し、社会復帰したときに役立つ能力、資質を身につけさせるよう努めるべきである。


(2)教育


  1. 受刑者に対する教育は受刑者に対する社会復帰を図る上で刑務作業以上に重要であり、受刑者に対する一日8時間の労働義務を低減し、作業と教育を「社会復帰のため有益な活動」として、共通の位置づけを与えるべきである。
  2. 教育内容については、基本的教育、労働市場への再統合のための教育、創造的・宗教的・文化的教育、体育・スポーツ、社会教育、高等教育などの分野において、充実した教育を行うべきである。
  3. 犯罪を犯したものが、自らの犯罪を真に反省し、自らの家庭生活や心理の持ち方を見直し、さらには被害者の受けた心身の傷を真に理解することのできるような心理学的プログラムを開発し、実施していくべきである。
  4. 図書館、高等教育機関等との外部機関との連携をはかるべきである。

6 仮釈放制度の見直し

社会と連携を保った処遇(家族、知人、友人、勤務先等とむやみに遮断しない)を推進し、仮釈放の基盤を醸成する。


現状の仮釈放制度の運用には、仮釈放率が低下し、仮釈放の時期が刑期の後半に集中している等の問題点があり、この運用を改善すべきである。また、善時制仮釈放制度の導入、無期刑の仮釈放期間を有期にすること等について検討すべきである。


受刑者からの仮釈放申請に何らかの道を開くべきである。


なお、仮釈放を早期に的確に実施するためには、仮釈放後の受刑者のための更生保護施設の充実が不可欠な前提条件となるので、これらの整備も必要である。


第3 被収容者の法的地位(職員の権限の明確化)等

1 職員の職務権限の明記と執行要件の明確化

恣意的な権限行使がなされている現状に鑑み、職務権限の明記、執行要件を明確化することは必要であるが、同時に、その限界も明確化しなければならない。被収容者が個人として尊重されるべき存在であり、その人権を侵害してはならないことを明記しなければ不十分である。また、職員の職務権限行使の前提として、職員がどのような存在でなければならないのかの理念が必要である。


2 懲罰

(1)懲罰の要件


懲罰の対象となる行為を限定し、看守の恣意的な命令に反する行為が懲罰の対象とならないように、懲罰の対象となる指示違反は「正当な職務の執行を妨害すること」に限定し、「職務上の指示に対する求釈明、抗弁等を右の妨害行為とみなしてはならない」など、懲罰の要件を法律の明文に規定すべきである。


(2)懲罰の内容・種類


懲罰の種類について、人聞の基本的権利である書籍の閲覧の停止、報奨金の削減を廃止し、懲罰の範囲を限定し、閉居は10日以内とし、その内容から「謹慎」を削除し、安座の強要禁止を明記して、懲罰を余暇活動と作業の制限に限定する。それ以外の運動、入浴の禁止、物品の使用または摂取、書籍等の閲覧、面会及び信書の発受は禁止されないこととする。事実上の懲罰として濫用される危険性のある取調べ中独居の規定を廃止する。


(3)懲罰の手続


被収容者の防御権を保障するため、懲罰手続には被収容者の権利告知、外部委員の導入、告知書・証拠等の目録の交付、証拠等の事前閲覧、証人・書証の提出、弁護士たる補佐人の選任権等の規定を新設し、透明で公正な手続的保証を設けるとともに、事後的な救済制度としての不服申立手続を整備すべきである。


3 厳正独居

厳正独居は廃止し、少人数単位の個別処遇等を行うべきである。

4 革手錠、保護房等

(1)使用の要件


革手錠(代用品)や保護房使用については極めて限定的な場合のみに限って使用するものとし、法定の要件を設け、収容及び継続には医師の同意を必要とすべきである。


(2)懲罰代用の禁止


革手錠(代用品)や保護房収容を、懲罰の代用として行ってはならない。


(3)施設内の死亡事案


すべて外部医師による検死を行い、遺族や正当な理由のある関係者に開示することとする。


5 衣食住

衣食住について、「社会の一般的水準に照らして適正なものでなければならない」旨を法定する。


所持品の範囲を拡大し、「住」については、「昼間雑居・夜間独居」を原則とし、1日1時間の「土の上での野外運動」を認める。


6 規律

現状の所内規則は、規定の文言が広汎かつ抽象的に過ぎる結果、行為規範として作用せず、刑務所側の恣意的な運用を招きかねないものとなっている。また、遵守事項違反がそのまま懲罰対象行為となり、そのような規範が法や規則でなく、施設長の裁量により定められる点が問題である。


そこで、所内規則に定めるべき事項及び懲罰対象事項については、法律上基準を明確にし、その上で所内規則を合理的に定めるべきである。


7 本人訴訟

本人訴訟等への本人出頭を認める。


8 出所後のケア

(1)出所受刑者の資格制限の廃止は個別的に検討する。


(2)社会保険との連携


出所後の雇用保険の継続を認め、刑務作業期間を年金期間に通算する制度の周知徹底に努めるべきである。


[提言の理由]

第1 行刑の基本理念等

  1. 基本理念
  2. 行刑におけるコスト計算

第2 自由刑、処遇の在り方

  1. 刑罰(自由刑)の在り方
  2. 分類、集団処遇等
  3. 処遇困難者等
  4. 刑務作業
  5. 職業訓練と教育
  6. 仮釈放制度の見直し

第3 被収容者の法的地位(職員の権限の明確化)等

  1. 職員の職務権限の明記と執行要件の明確化
  2. 懲罰
  3. 厳正独居
  4. 革手錠、保護房等
  5. 衣食住
  6. 規律
  7. 本人訴訟等
  8. 出所後のケア

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