労働基準法一部改正のうち解雇ルールに関する意見書

2003年4月18日
日本弁護士連合会


 

本意見書について

3月7日、労働基準法の一部を改正する法律案の国会提出について閣議決定がなされた。この労基法改正案は、解雇ルール、有期雇用契約、企画業務型裁量労働制などについて重要な改正を提起している。今回、改正法案のうち最も重要な論点である解雇ルールについて当連合会の意見を述べる。


第1  意見の趣旨

改正労基法の解雇に関するルールについては次の規定とすることを提案する。


「使用者の解雇権の行使は、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効とする」


第2 意見の理由

1 近時の経済情勢及び雇用情勢の悪化により、雇用に関する紛争が増加し、特に、解雇などの雇用契約終了に関する紛争が増加している。ところが、わが国には、解雇に関する制定法の定めとしては、労働基準法の解雇予告(労基法20条1項)、産前産後・業務災害の場合の解雇制限(労基法19条、65条)などの一定の制限はあるが、民法627条1項は期間の定めのない雇用契約については何時にても解約できるとしている(なお、民法628条は期間の定めのある雇用契約は已むことをえない事由がある場合にしか解約できないとしている)。


最高裁判所は、昭和50年4月25日、日本食塩製造事件判決にて「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効となる」として、解雇ルールを明らかにしている。この判決は、判例として既に確立し訴訟実務上も定着している。この判例のもと、実際の訴訟実務においては、立証責任にかかわりなく使用者側が解雇事由を積極的に主張立証し、労働者側がこれに反論するという訴訟運用が定着してきた。


2 本年3月7日に閣議決定された改正労基法案では、解雇ルールについては「使用者は、この法律又は他の法律の規定によりその使用する労働者の解雇に関する権利が制限されている場合を除き、労働者を解雇することができる。ただし、その解雇が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」(改正法案18条の2)という条文となってる。


しかし、このように本文で「使用者は、…(中略)…解雇できる」とし、但書で「ただし、…(中略)…権利を濫用したものとして、無効とする」と定める規定の仕方では、使用者は労働者を原則として自由に解雇できるという誤ったアナウンス効果を招く弊害がある。


現在の判例は、あくまで解雇権濫用法理として権利濫用の抗弁(民法1条3項)と位置づけるものであるから、労基法改正案の条文で法的には問題はなく、訴訟実務にも影響を与えないとの意見もあるが、実務法律家としては上記弊害を考慮すると、確立された前記判例法理をそのまま法文化することが適切という点で、ほぼ意見は一致した。そこで、前記「意見の趣旨」に記載したとおり提案するものである。