「市民の司法」をめざす日弁連の取り組みの基本方針

2001年12月20日
日本弁護士連合会


第1 はじめに

12月1日、司法制度改革推進本部が発足した。6月12日に司法制度改革審議会の意見書が出され、7月1日に司法制度改革推進準備室が設けられて以降のこの半年は、司法改革の舞台が新しい第二の段階、すなわち複雑な力関係が働く政治的攻防の段階に入ったことを痛感させた。この間、推進準備室の課題別の班の構成、事務局のメンバーの配置、司法制度改革推進法案の策定とこれをめぐる国会対策、そして推進法成立以前から進められている顧問会議や検討会の編成やメンバー選定作業、これらが基本的には事務局の強力なイニシアティブのもとに密室で進められてきた。そして、今後もその傾向がいっそう強まることが予想される。


加えて、これらが司法・法務官僚だけではなく、関係各省庁の行政官僚を含めたより広く、かつ強力な官僚体制のもとで行われようとしていることも明らかになった。


日弁連は、この間、推進準備室との間に週1回の連絡会を設け、準備室の作業についての情報を収集し、市民に開かれた透明な立法作業、市民の参加した立法作業を実現する体制づくりを求め、また推進法案の内容、とくに日弁連の責務条項につき意見を述べてきた。また、自民党が司法制度調査会を再開したことに見られるように、各政党や国会議員の動きが活発化してきていることに対応して、各政党と国会議員に対する働きかけを強めて、推進法案に対する国会での活発な審議と附帯決議を実現することができた。


しかしながら、推進本部における立法作業がわれわれの予想をこえた強力な官僚体制のもとにすすめられようとしていることに対しては、改めてこれに対応する活動のあり方を立て直し、さらに一層強化することが求められている。


この立法作業にあたって大切なことは、司法制度改革審議会の意見書の到達点を確実に具体化し、不十分な点を克服するとともに、決して「骨抜き」や後退などを許さないことである。


また、その立法作業は国民に開かれたものでなければならない。


日弁連はわれわれがめざしてきた「市民による市民のための司法」の実現に向けて以下の基本方針にのっとり、全力をあげて取り組む必要がある。


第2 目標

1 司法制度改革審議会意q見書に基づいて、「市民の司法」すなわち「市民による市民のための司法」、「市民に役立つ大きな司法」の実現をめざす。


(1) 「市民による司法」の実現


  1. 法曹一元制度の実現に向け、弁護士からの裁判官任官を促進し、判事補の弁護士など他の法律職経験を積む制度や、裁判官の任命における国民意思の反映、裁判官の人事の透明化、客観化をはかるなど、官僚裁判官制度の改革をめざす。
  2. 「裁判員制度」を、裁判員の数を裁判官の数の3倍以上とすることなどにより、陪審にできるだけ近い内容の真の国民参加制度とする。
 

(2) 「市民のための司法」の実現


  1. 適正・迅速に市民の権利を実現し、当事者に納得のいく紛争解決ができるような民事司法制度を実現する。
  2. 被疑者・被告人の人権を保障し、弁護活動の充実をはかり、被疑者に対しても国費による弁護制度を確立するとともに、裁判員制度を含め公正な刑事司法制度を実現する。
  3. 行政に対する司法のチェック機能を充実する。
  4. 訴訟制度の利用を萎縮させる弁護士費用の敗訴者負担に反対するとともに、民事裁判における当事者の費用負担の軽減、公平をはかる制度を確立する。
  5. 法律扶助制度のいっそうの充実・拡大、公費による被疑者弁護制度の導入、公設事務所の設置など、市民の司法に対するアクセスを充実する。

(3) 「市民に役立つ大きな司法」の実現


  1. 法律家を質・量とも充実させる。弁護士・裁判官・検察官を増員するとともに、弁護士に対するアクセスの改善、弁護士の活動領域の拡充、国民的基盤の充実など、弁護士の自己改革にいっそう取り組むことにより、いつでも、どこでも、誰でも、費用に心配なく法律相談を受け、裁判ができる司法を実現する。
  2. 費用の心配なく、質・量とも充実した法律家を養成するために、全国各地に適正に法科大学院を設置する。そのために、弁護士会が主体的に各地の市民、大学関係者、自治体などと協力して取り組む。

2 官僚による密室の中の立法作業とこれによる意見書の骨抜き・後退を許さず、国民に開かれた透明な立法過程を国民とともに実現する。


司法制度改革審議会意見書にもとづく正しい制度設計が行われるためには、司法制度改革推進本部に設置される「顧問会議」や「検討会」の構成はもとより、その審議のリアルタイムでの公開と国民の意見が正しく反映される運営がきわめて重要である。


第3 取り組むべき課題

1 機能的な立法対応


(1) 各分野における立法案の提示


各分野で先駆的に立法案を作成し、これを積極的に国民に提示していく。推進本部の作業を待つのではなく、あるべき姿をできるだけ具体的に国民に示して意見を聞き、支持を得る。


(2) 立法作業への反映


  1. 司法制度改革推進本部事務局との連絡や意見交換の場の確立と活用をはかる。
  2. 司法制度改革推進本部の事務局へできるだけ多くの弁護士を派遣するとともに、顧問会議や検討会において市民の立場に立った議論を説得力をもって展開できる適任者が選任されるように努力する。
  3. 国会議員や政党に日弁連の立場に対する理解を求め、「市民の司法」の実現に向けて協力を得るために、常に意見や情報を交換する取り組みをすすめる。

(3) 制度改革の先行的実践


当番弁護士や法律相談センターなどの実践活動が公的弁護制度、法律扶助法、公設事務所に結びついていったことにならい、各地において制度改革の実践を積極的に進めて、これを立法作業に反映させ、さらにそれをリードしていくことが重要である。


  1. 弁護士任官運動の促進とそれに向けた多数の弁護士任官候補者の推薦や弁護士任官推進・支援事務所の設置
  2. 各弁護士会連合会や弁護士会における「下級裁判所裁判官推薦委員会」の前身となるような弁護士任官候補者選考委員会の設置
  3. 判事補の弁護士経験を積む制度の実施に向けた受け入れ体制の整備
  4. 法科大学院構想の具体化と全国的設置に向けた具体的取り組み
  5. 裁判員制度の実施に向けた市民の理解を広める取り組み
  6. 地域司法計画策定運動の全国的な前進

2 弁護士改革の課題への積極的取り組み


弁護士が「市民の司法」の実現をめざす司法改革の推進の重要な担い手であることを自覚し、弁護士が国民から真の信頼を得るために、弁護士の活動領域の拡充、弁護士へのアクセスの拡充、弁護士の執務態勢の強化、弁護士会のあり方、国民的基盤の強化など、弁護士自身の改革課題に積極的に取り組む。


3 国民運動の前進


「市民の司法」の実現のためには、国民の司法改革に対する関心が持続し、立法過程に対する国民の監視の目が向けられていることが不可欠である。そのために、司法改革の諸課題について、国民の関心と理解を広げる国民運動を全国的に前進させる取り組みを行う。地域の地道な運動の積み重ねがあってはじめて全国的な運動が発展するという観点から、各地弁護士会が司法改革を要求する主体である国民とともに取り組む活動を基本に据える。


(1) リーフレット、パンフレットなどを活用した宣伝活動と各界との懇談会、学習会の取り組み


  1. 「市民の司法」をめざす取り組みに対するマスコミの理解を深め広げる活動
  2. 模擬裁判員劇や市民集会の開催の全国的展開とともに、東京での中央集会の開催の追求
  3. 立法段階に応じた国会対策の取り組み
  4. 地域司法計画策定運動と「市民の司法」の実現を求める地方議会決議や自治体首長声明を得る取り組み
  5. 国民運動の母体づくりをすすめる取り組み

第4 体制の整備

  1. 「市民の司法」の実現をめざす立法案を作成するとともに、司法制度改革推進本部の立法作業に機能的に対応するため、常勤・半常勤的スタッフの充実と全国各地の意見の集約のシステムの確立をはかる。
  2. 日弁連と各会員、弁護士会、弁護士会連合会の連携を密にし、執行部、日弁連司法改革実現本部、司法シンポジウム運営委員会、法科大学院設立・運営協力センター、日弁連刑事弁護センターなど各種委員会及び司法改革調査室が各課題を有機的に並行して取り組めるようにする。

第5 むすび

日弁連は、今次司法制度改革が本格的な立法段階に入ったいま、この基本方針に基づき、全会を挙げて奮闘することを決意する。


また、この基本方針に基づく具体的な行動提起は、必要に応じて適切に行うこととする。


なお、この基本方針に掲げられた課題は、すでに全国的に実践が始まっており、さらに全会員が確信を持ってその取り組みを強めることを呼びかけるものである。