法曹一元の実現に向けて弁護士任官を全会挙げて推進する決議

2001年5月8日
日本弁護士連合会


司法制度改革審議会における審議の結果、裁判官制度について、大きな改革の方向性が示された。高い質の裁判官を安定的に供給できるための制度の整備を行うという中間報告での合意を踏まえ、具体的な提案がなされている。


すべての判事補に、実のある経験を積むにふさわしい相当程度の期間、裁判官の身分を離れて弁護士等の法律専門職の経験を積ませることや、特例判事補制度の段階的解消の方向を打ち出したこと、裁判官任命手続では、国民の参加する委員会が、主体的に適任者の選考・推薦を行い、最高裁に意見を提出することとしていること、人事評価の基準を公表し、本人に開示し不服申立を認めることとしていることなどである。


これらはいずれも、これまでのキャリアシステムを大きく変えるもので、法曹一元の理念を実現する方向を明確に示すものである。この改革を早期に実現できるか否かは、キャリア裁判官に代わり弁護士出身の裁判官を弁護士会から確実に出していくことにかかっている。弁護士会は裁判官制度改革の担い手であることの自覚を持ち、その主要な課題となる弁護士任官の抜本的な取り組みに立ちあがらなければならない。


1991(平成3)年度から始まった弁護士会関与の弁護士任官制度は、市民感覚豊かで人権意識に富む弁護士が任官していくことにより、官僚司法の弊害是正に資するとともに、法曹一元制度の基盤整備をすることを目的としたものであった。


私たちは、弁護士任官の今日的意義を共通の認識にし、弁護士任官を市民に対する責務としてとらえ、弁護士の多数任官実現を進めることに早急に取り組まなければならない。


これらの取り組みの中で、豊富な弁護士経験を持ったうえで任官した者が、国民の司法に対する期待に応えうるという実績を証明していくことによって、法曹一元への円滑な移行が可能になるのである。


私たちは、法曹一元の実現へ向けて、弁護士会の真価が問われている弁護士任官の課題に、全会を挙げて、一斉に取り組むことをここに決意するものである。


提案理由

1. 新しい情勢

司法制度改革審議会(以下「審議会」という。)は、昨年11月に発表した中間報告において、「裁判官は、その一人ひとりが、法律家としてふさわしい多様で豊かな知識、経験と人間性を備えていることが望ましい」との共通認識のもと、裁判官の「給源の多様化、多元化を図ることとし、判事補制度を廃止する旨の意見もあったが、少なくとも同制度に必要な改革を施すなどして高い質の裁判官を安定的に供給できるための制度の整備を行うこと」とした。 審議会は、中間報告後も裁判官制度改革について審議を重ね、本年2月27日及び4月16日の審議会で、佐藤会長は、大方の意見の一致点として、裁判官制度の改革に関し、以下の取りまとめをおこなった。


  1. 判事補のほとんどすべてがそのまま判事となり、事実上判事の主要な給源となっていることは、裁判所法本来の趣旨に照らして適当ではない。
  2. 判事補に、弁護士等他の法律専門職等の職務経験等を積ませることを制度的に担保する仕組みを整備する。原則としてすべての判事補が、裁判官の身分を離れて弁護士等の他の法律専門職等に就き、その期間は実のある経験を積むにふさわしい相当程度の期間が必要である。
  3. 特例判事補制度は、段階的に解消していく方向で考える。
  4. 弁護士任官を推進する。そのために、最高裁と日弁連が話し合って実効性のある具体的な措置を講ずることが必要である。
  5. 判事の大幅増員をはかる。


2. これまでの弁護士任官の取り組み

弁護士会が関与する弁護士任官制度は1991(平成3)年度に始まったが、この制度下で裁判官に任官した人は10年間で43名にとどまり、数の上ではきわめて不十分といわざるをえない。


その要因は、昨年11月に開かれた第18回司法シンポジウムでも明らかにされ、裁判所側と弁護士・弁護士会側の双方にあると報告された。


このたび、裁判所側の阻害要因が除去される方向が示されるなかで、弁護士・弁護士会も裁判官制度の担い手として大きな役割を担う立場から、自らの阻害要因を主体的に除去していかなければならないのである。


従前の弁護士任官の取り組みは、各弁護士会の取り組みの差が大きく、全体としても継続的、持続的に取り組むことにおいて不十分であったといわざるをえない。


3. 裁判官制度の担い手として

弁護士任官は、すでに10年間にわたって実践してきた課題であり、弁護士会はこの間多くの経験を蓄積し、さまざまな問題点に直面してきた。


いま、法律事務所の法人化が実現されようとし、公設事務所の設置が進むなど、弁護士任官の基盤整備が次第になされつつあるところであるが、これに加えて、当連合会の久保井会長は、本年1月23日の審議会におけるプレゼンテーションで、新たな弁護士任官の取り組みの方策として、推進のための基本計画の策定と実施、裁判官適格者選考委員会(仮称)の設置、弁護士任官が弁護士会の義務であり、弁護士の責務であることのことの明確化、弁護士会内の任官支援体制の整備、基盤の整備(弁護士人口の増大、公設事務所の設置など)を提示した。


いまこそ、当連合会はこれらの方策の具体化作業に入るとともに、全弁護士会を挙げて弁護士任官の気運を大きく盛り上げていかなければならない。弁護士任官を推進していくことは、市民に対する責務でもある。


この新しい状況のもとで、裁判官に適任な弁護士が多数任官し、それら任官者が国民の司法に対する期待に応えうるという実績を証明していくことによって、改革はさらに一歩進み、法曹一元への円滑な移行が可能になるのである。


弁護士任官が法曹一元を実現する鍵を握ることになったいま、私たちは、その推進のために全力を尽くすことをここに宣明するものである。


以上