土壌環境保全対策の制度のあり方についての意見書

日本弁護士連合会
2001年12月6日


はじめに

土壌汚染は、典型7公害のひとつとされながら、農用地以外については、具体的な対策もないままとされ、国法レベルでの対策はとられてこなかった。


この間、ダイオキシン汚染の問題については、特別措置法が設けられ、ある程度対策が進んだものの、日本全土において、有機塩素系化合物、カドミウム、鉛、ヒ素などさまざまな物質の土壌汚染があり、その潜在的汚染の程度は高いものと考えられている。最近は、工場跡地の再開発等が増加する中で、そうした土壌汚染が顕在化し、環境省の調査によれば、平成10年度以降、新たに判明した土壌汚染の事例は、平成9年度までに比較し、3倍以上の高い水準(年間200例弱)で推移している。


そもそも、土壌は、人の生活及び経済活動の基盤である土地を構成しており、物質の循環や生態系維持の要としても重要な役割を果たしている。上記したような土壌汚染を放置することは、人の健康や生活環境ならびに、生態系に悪影響を及ぼすことは必至であり、すみやかに土壌汚染の状況を把握することと、土壌汚染に対する対策が求められている。


日本の土壌汚染は、前述の通り、深刻であり、全国に広がる土壌汚染の現状を早急に調査し、土壌汚染情報を整備・公開すべき必要性が高い(早急の汚染調査と情報の整備・公開)。


また、土壌汚染については、調査・対策のいずれも費用を要するものである(ドイツでは、1994年から2001年までの間に、毎年150億マルク(約8000億円)が投入されており、日本でも数兆円の規模に及ぶことは必至である)。状況の把握や対策を進めるためには、基金の設立、住宅地・小規模事業用地等についての行政主導による調査・対策など、さまざまな誘導策が必要である(土壌汚染対策の誘導策の必要)。


また、土壌汚染の問題は、すぐれて、地域の問題であり、調査結果の評価、対策をとるかどうか、その内容・手順をどうするかといった点については、情報公開と住民参加が重視されるべきであり、参加型のリスク・アセスメントが行われるべきものである(参加型リスク・アセスメント)。


さらに、今後の土壌汚染を防止するための土地所有者・占有者の義務および防止のための具体的措置も法律には定められるべきである(防止義務の明示)。


現在、環境省で、土壌環境保全対策の制度のあり方についての調査研究が進められ、中央環境審議会で、12月中にも答申が出される見通しだが、制度としては、上述したような視点が必要である。


ところが、環境省の「土壌環境保全対策の制度の在り方に関する検討会」が平成13年9月にとりまとめた「土壌環境保全対策の制度の在り方について(中間取りまとめ)」を見るかぎりでは、そうした視点は必ずしも十分でない。それどころか、土壌汚染のリスクのとらえ方について、直接摂取による人の生命・健康への直接的かつ急性の影響に限り、リスクの基準も、有機塩素系については、揮発性のものとして見送り、重金属についてはきわめて緩いものとなっており、また、対策も、「封じ込め」を「土壌浄化」と並列するなど、不十分なものとなりかねないおそれがある。また、そこで検討されている制度が、都市部における工場用地の宅地などの用途への転用の場合の対策を考えているようであり、他にも深刻な土壌汚染が考えられる、廃棄物処分場跡地や軍事基地跡地その他の土地の土壌環境保全が考えられていない。そして、そもそも、現在進行中の、または、将来起こりうる土壌汚染の防止が考えられていない。


そのような「中間取りまとめ」を基礎とした土壌汚染についての新たな制度が著しく不十分かつ問題が多いものとなるおそれがあることは明らかである。


人の生命・健康の保持と生態系の保全という観点から見た場合、以下に詳述するような問題点を踏まえた制度とすることが望ましく、そのため、以下の通り意見を述べる。


意見1 土壌汚染対策の目的

意見の内容

土壌汚染対策の目的は、人の生命・健康への直接的なまたは急性の影響を及ぼすことを防ぐことに限定することなく、人の生命・健康への遅発性・晩発性発ガン性の影響を防ぐこと及び、広く、生活環境上の保全ならびに、生態系の保全を目的とするべきである。


理由

土壌は、人が生活し、利用する場所である土地を構成し、また、生態系保全にとっても重要な資源である。


その保全は、人の生命・健康への直接的なまたは急性の影響を及ぼすことを防ぐことに限定することなく、人の生命・健康への遅発性・晩発性・発ガン性などの影響を防ぐこと及び、広く、生活環境上の機能の保全ならびに、生態系の保全を目的とするべきである。


ちなみに、ドイツの土壌保全法では、「土壌の果たす機能」として、以下の点をかかげている。


  1. 自然的機能として

    一、人、動物、植物および土壌中の生物の生命基盤及び生存空間

    二、自然管理、特にその水分及び養分の循環を伴う自然管理の構成部分

    三、濾過、緩衝及び物質返還の特性に基づいて物質的な作用を促進する分解・中和・合成媒体、とりわけ地下水の保護のための媒体
  2. 自然遺産及び文化遺産の保存場所としての機能
  3. 利用上の機能として

  一、原料鉱床


  二、居住及び保養のための土地


  三、農林業上の利用のための場所


  四、その他の経済上及び公用上の利用、流通、供給及び処理の場所


意見2 土壌汚染のリスク評価とリスクの検査方法について

意見の内容
  1. 「汚染土壌の直接摂取」に限定するのは相当ではない。大気汚染によるリスク、公共用水域への土壌粒子の流出を通じた人の健康に対するリスク、生系などに対するリスク、いままでの環境・生体・人体への蓄積によるリスク、複合汚染のリスクを考慮に入れて、土壌汚染のリスクを考えるべきである。
  2. リスク基準は、厳格なものにすべきであり、有機塩素系のものも含まれるべきである。その点で、「土壌の含有量リスク評価検討会」の「土壌の直接摂取によるリスク評価等について」報告書のいう「要措置レベル」は重金属に限っている点で問題であり、かつ、緩きに失する。
  3. リスクの検査方法は、含有検査によるべきである。溶出検査を併用するとしても、PHは欧米並の4以下で、かつ、PH管理をしたうえでなされるべきである。

理由

1. リスクの考え方について


土壌の機能は、意見1に述べたように、多岐にわたるものであり、人の生命健康にかかわるだけでなく、広く、人の生活利用、さらには、生態系にとっての効用を有している。その観点からみた場合、リスクは、直接摂取だけではなく、広く、人の生活利用上のあらゆる形態において被りうるものを含むべきであり、また、生態系に対するリスクも含まれるべきである。


特に、人の生命健康に対するリスクについては、土壌の生活利用に直接かかわる可能性が高い者は、健康な成人男子だけでなく、乳幼児、妊婦、高齢者などが多いことを考慮し、リスクはそうした者に対する影響を十分考慮したうえで検討されるべきである。


また、日本の場合、カドミウム、鉛、ヒ素等が、過去に環境・生体・人体への蓄積がされているという状況を十分に考慮して、そのリスクを評価すべきである。カドミウム等のように、人体にほぼ永久に蓄積されるものもあり、過去の汚染状況を無視してリスク評価することは、危険を過小に評価するものである。


さらに、アスベストとたばこの煙の関係などで知られるように、複合汚染の場合、リスクが10倍以上になることがみられ、日本のようにさまざまな汚染が複合している状況のもとにおいては、リスク評価は複合汚染を前提としてなされるべきである。


以上を踏まえた場合、「土壌環境保全対策の制度の在り方に関する検討会」が平成13年9月にとりまとめた「土壌環境保全対策の制度の在り方について(中間取りまとめ)」(以下「中間取りまとめ」という)は、土壌汚染の環境リスクを、人の直接摂取に限定している点で相当ではない。


2. リスクの基準について


(1) 「中間取りまとめ」は、2の(3)において、汚染土壌の環境リスクの管理を図るべき土地の基準は「汚染土壌の直接摂取による人の健康に対するリスクの管理が必要と考えられる濃度レベルのものとする」としている。この場合の、濃度レベルについては、今年(平成13年)8月に「土壌の含有量リスク評価検討会」が報告した「土壌の直接摂取によるリスク評価等について」という報告書が、検討結果としてとりまとめた「要措置レベル」を内容とするものと思われる。


しかし、この「要措置レベル」は、そもそも土壌汚染のリスクを直接摂取による人の健康へのリスクに限定して考えている点で相当ではない。


土壌の効用・機能は多岐にわたり、その生活利用上の機能もさまざまな形でなされており、また、生態系保全の点でも果たすべき役割は多い。そうしてみると、土壌については、第1に、土壌保全の目標として、自然形態に極力手を加えないというレベルの基準を設けるべきであるが、「中間取りまとめ」があげる基準はきわめて緩いものであり、その点で相当でない。


なお、この点では、ドイツ連邦土壌保全法では、「予防値」として、以下の値を定めている(単位はmg/kg)。


物質名 ドイツ 日本のリスク検討会の報告
カドミウム 0.4-1.5 150
40-100 150
クロム 30-100 900
水銀 0.1-1 9

(2)また、直接摂取に限定してみても、「土壌の含有量リスク評価検討会」の「土壌の直接摂取によるリスク評価等について」報告書が、検討結果としてとりまとめた「要措置レベル」は、非常に緩いものである。


第1に、前述したように、土壌の利用形態からみて、土壌汚染への暴露の危険は、乳幼児、妊婦、高齢者などが多いと考えられるが、そうした「乳幼児、妊婦、高齢者など」などへのリスクを十分に踏まえたものとなっていない。


第2に、そのリスク評価の前提となるデータが十分生かされていない。たとえば、カドミウムについては、30μg/日の摂取量で腎臓に影響を及ぼすことが明らかになっているが、これを前提にすると、0.5μg/kg日の摂取量で影響が明らかであり、その10分の1に相当するレベルを要措置レベルとしても、25mg/kgが要措置レベルとなる。


第3に、日本では、カドミウム、鉛、ヒ素などが、すでに、環境中・生体中・人体中に蓄積しており、そのリスクを考慮していない。


第4に、複合汚染の問題が考慮されていない。アスベストとたばこの複合汚染の場合、アスベストのリスクは10倍となることが知られており、日本におけるように、複合の汚染物質によるリスクが考えられる場合には、そのリスク評価は、10倍以上厳格になされるべきである。


以上を前提とした場合、たとえば、カドミウムの場合、要措置レベルは、2.5mg/kgとなり、他の物質も10倍以上厳しい基準となる。


(3)そのうえ、この「要措置レベル」のもつ意味は、調査発動の要件でもあり、対策をとるべき基準としても利用され、さらに、土地所有者の土壌保全義務とも関連させるものとして利用するかのようである。


そもそも、土地所有者の土壌保全義務との関係では、前述したように、自然形態に極力手を加えないというレベルの基準を設けるべきであり、その点から要件はさらに、より厳格なものとされるべきである。


調査発動の要件もより厳格なものであってもいいように思われる。後述するように、どのレベルで、どのような対策を講じるべきかは、一律に国が基準を設定するだけでなく、地方公共団体の独自性を認めるとともに、地域住民や環境保護団体との協議等を経て決定していくべきであり、そうした基準としては、今回の国の「要措置レベル」は明らかに緩いものである。


(4)さらに、前記「土壌の直接摂取によるリスク評価等について」という報告書は、「要措置レベル」を設定すべきものを、重金属に限っており、有機塩素系を含んでいない。土壌汚染のリスク基準は、前記のように、予防という観点からも検討されるべきであり、その点から見て、有機塩素系について、リスク基準を設けない理由はない。


3.土壌汚染のリスクの把握の点では、リスクの検査方法は、含有検査によるべきことが、その性質上自然である。


溶出検査については、PH調整をしないという、日本の今の溶出検査の方法では、PH調整をし、かつ、調整値を4前後とする欧米と比較し、結果が、100倍以上異なってくるという問題点が指摘されている。日本での酸性雨の現状などをみると、実際上の溶出による汚染もPH値が低い状況で相当に起きている。そうしたところからすれば、仮に、溶出検査を併用するとしても、PHは4前後で、かつ、PH調整が厳格になされた状態のもとでなされるべきである。


意見3 調査及び対策の実施主体とその誘導措置

意見の内容
  1. 調査及び対策の実施主体は、土地所有者及び土地占有者とし、汚染原因者が協力するものとし、かつ、汚染が発見された場合には、土地所有者及び土地占有者は、汚染原因者に対し、調査および対策に要した費用を求償できるとすべきである。
    ただし、全国的な汚染状況を考えると、土地所有者及び土地占有者の調査の前提として、まず、市町村が主体となって、全国的に、土地の来歴及び現況の調査を実施し、過去または現在土壌汚染の可能性のある施設があり、または、物質が保管されていた(いる)土地、廃棄物処分場や資材置き場となっていた(いる)土地等の情報整備を早急に行う必要がある。
  2. 調査及び対策には、費用がかかるので、それを進めるために、特定の有害化学物質を製造・輸入・販売している企業などからの拠出による基金を設け、調査及び対策には、広くその基金が活用できるとすべきである。
  3. 個人が住宅地として利用しているなど事業用途で利用していない場合及び小規模事業用地においては、行政または前記2に規定した基金が主体となって汚染対策を実施することが考えられるべきである。
  4. ただし、上記2の場合も、一時的に基金または行政が調査及び対策費用を立て替えるとしても、汚染原因者に対し費用を求償できるとすべきである。
  5. 土地所有者・占有者・行政・基金と汚染原因者の間の求償、汚染原因者間の責任負担などの権利調整のために、権利調整制度が必要であり、そこには、弁護士、専門家、NGO等が関与するものとすべきである。

理由

1. 調査及び対策の実施主体


(1)土壌汚染の調査及び対策の主体については、現在の危険性の支配者であり、かつ、土地の現在の支配的権限を有し、かつ、土地の浄化によって利益を受ける者である、土地所有者が主体となるとすることは「中間取りまとめ」に賛同する。


ただし、土地所有者だけでなく、借地等の場合には、実質的な利害関係は、借地権者などの土地占有者のほうが強く、土地占有者も調査および対策の主体とする必要があると思われる。


また、実際の調査および対策においては、当該土地の過去の履歴の把握が必要不可欠であり、汚染の原因及び範囲について情報を有する汚染原因者が、調査および対策に協力するものとすべきである。


なお、次の意見4で述べるように、日本全土において土壌汚染が深刻に存在する現状を考えると、まず、行政、具体的には市町村が主体となって、全国的に、土地の来歴調査を実施し、過去または現在土壌汚染の可能性のある施設があり、または、物質が保管されていた(いる)土地、廃棄物処分場や資材置き場となっていた(いる)土地等の情報整備を早急に行うとすべきである。


そのうえで、「過去の来歴及び現在の状況からして汚染のおそれがある場合」には、土地所有者・占有者が、広く、簡易調査を行い、汚染物質が検出された場合には、早急に正式調査をするというようにすべきであるが、この場合の調査費用は、以下に述べる通り、広く基金による支援を考え、宅地や小規模事業者については、行政による立替をも考え、汚染原因者が明らかなときは、汚染原因者に負担を求めることとすべきである。


(2)汚染が発見された場合には、汚染原因者に対し、調査及び対策に要した費用を求償できるとするべきことが、汚染者負担の原則からみて当然である。


この場合、協力および費用負担をすべき汚染原因者としては、土地を汚染する行為を行った者や土地を汚染する物質を排出した者(工場が排出した物質が運搬業者などを介して土地を汚染した場合など)が考えられるが、費用負担については、汚染物質を製造した者や資金提供の金融機関等の責任も考えるべきである。


2. 調査及び対策についての基金の必要性


とはいっても、土壌汚染の事実を調査することは土地の評価にかかわる問題でもあり、また、多大な費用を要することでもあり、土地所有者・土地占有者の負担だけでは、対策の実施が困難となることが考えられる。また、汚染原因者に求償をするといっても、汚染原因者が法人の場合、倒産または解散などのこともあり、土地所有者や占有者だけに負担を負わせるのは酷な状況が発生することが十分予想される。


そこで、特定の有害化学物質を製造・輸入・販売している企業などからの拠出による基金を設け、その資金による対策を進める必要がある。


基金としては、アメリカのスーパーファンド(石油税や化学物質税によってその種のものを製造・輸入・販売する企業に課税して集金)や秦野市の土壌浄化費用を補助するための基金を汚染源企業から集めた例等が参考にできる。


ドイツの例では、1994年から2001年までの間に、毎年150億マルク(約8000億円)が投入されている。日本でも、土壌汚染対策を進めた場合の費用の総額は、数兆となると思われ、それを実現するのは、個々の企業の対応だけでは不可能であり、基金の設立が不可欠である。


この基金は、調査や対策を進める際には、広く活用できるようにすべきであり、具体的には、以下に述べる非事業用地や小規模事業用地の場合は、基金が立替払をする制度を考え、それ以外の場合(一定規模以上の事業用地)の場合は、一部の補助や低利融資等を行う源泉と考えるべきである。


3. 非事業用地や小規模事業用地の特例


(1)また、「中間取りまとめ」も指摘するように、個人が居住している住宅地から汚染土壌が発見された場合等の場合は、土地所有者・占有者に1次的な負担を負わせることは酷に過ぎる場合がある(中間取りまとめ 4(3)ウ)。


そこで、個人の居住用の土地については、特例として行政または、前記の基金が主体となって措置をとる制度を設けるべきである。


(2)また、小規模事業用地の土壌汚染の場合[ガソリンスタンドやクリーニング屋、小規模な町工場(メッキ工場や印刷関係)などが考えられる]の場合には、費用の問題から、対策が進まない可能性があるので、ある程度以下の小規模事業用地については、行政や基金が主導で、調査と対策を進めることを考える必要があると思われる。


4.なお、上記の個人の居住用土地等の非事業用地の特例および事業用地についての特例の場合やその他の場合などにおいて、調査及び対策費用の全部または一部を、一時的に基金および行政が負担するとしても、最終的には、汚染原因者が負担するように、汚染原因者に求償できるとすべきである。基金および行政からの費用の求償については、公害防止事業費事業者負担法が適用されるとすべきである。


5.また、土地所有者・占有者・行政・基金と汚染原因者の間の求償、汚染原因者間の責任負担などの権利調整のために、権利調整制度が必要であり、そこには、弁護士、専門家、NGO等が関与するものとすべきである。


意見4 調査と対策の手順・基準などについて

意見の内容
1. 調査の契機について
  1. 全国的に、市町村が主体となって、土地の来歴調査を実施し、過去または現在土壌汚染の可能性のある施設があり、または、物質が保管されていた(いる)土地、廃棄物処分場や資材置き場となっていた(いる)土地等の情報整備を早急に行う。
  2. そのうえで、「過去の来歴及び現在の状況からして汚染のおそれがある場合」には、広く、簡易調査を、それも早急に、行うように義務づける。
  3. そのうえで、簡易調査で汚染が検出された場合には、正式調査を行う。

2. 信用性の担保と情報公開
正確で信頼に足りる調査が行われることが重要であり、そのためには、簡易調査を含め、調査については、その手法及び調査結果を正確に公開し、外部から信用性をチェックできるようにすべきである。
3. 土壌汚染対策の発動要件・対策内容・手順・基準について
土壌汚染対策の発動要件・対策内容・手順・基準については、参加型のリスク・アセスメントが行われつつ、手続きが進められるべきである。具体的には、
  1. 規制対象物質について規制値を超える汚染があったかどうかだけが対策の発動要件でなく、調査結果を公表し、住民参加を経て、その内容を検討し、対策を発動するかどうかを決めるべきである。
  2. 対策内容については、規制対象物質について規制値を下回るかどうかだけでなく、土地の利用状況・周辺環境などもあわせ考慮し、住民参加を経て、協議のうえ、対策内容を決定するとすべきである。

4. 対策の内容について-モニタリングの実施
土壌汚染対策の内容として、リスク管理地の地下水のモニタリングの実施をあげている点は賛同できる点であるが、その情報の公開、地域住民も含めた評価-一応の対策がとられた後の参加型リスク・アセスメント-の実施は不可欠である。
5. 対策の内容について-3方法並列列挙の問題点
また、「覆土・封じ込め」も、地下水との接触を防ぐことは技術的に非常に困難であり、完全な「覆土・封じ込め」をすることは、ばく大な費用がかかり、土壌浄化のほうが安上がりであることもある。
費用分析も含め、リスク管理については参加型リスク・アセスメントのもので行われるべきである。
6.
リスク管理地の改変などにともなう新たな環境リスクの発生の防止のために、「土地の掘削工事などに伴う土壌の露出等」「汚染土壌の搬出」の際には、前記3と同様に、土壌汚染対策の発動要件・対策内容・手順・基準については、参加型のリスク・アセスメントが行われつつ、手続きが進められるべきである。
理由

1. 調査の発動要件・手順について


「中間取りまとめ」は、以下の場合に調査を行うとしている。


  1. 有害物質を取り扱う事業場で、事業場の廃止時または用途の変更時
  2. 地下水の汚染が発見された場合
  3. 一般人が立ち入る地域において土地の履歴からみて土壌汚染の可能性がある場合
  4. その他自主調査

しかし、「有害物質を取り扱う事業場で、事業場の廃止時または用途の変更時」を原則とすると、現在事業を継続している場合には、調査が行われず、土壌汚染がより進行するおそれがあるとともに、将来、事業場の廃止等の時点では、関係者が高齢化したり、関係資料がなくなったりして、土地の利用状況・そこから推定される汚染の可能性などを把握することが難しくなる。


さらに、事業所廃止の段階では、土壌汚染防止施策を講じるための事業者のインセンティブも働きにくい。現実に、倒産したり、事業を廃止した場合に、土壌汚染対策費用がネックとなって、利用されないまま放置されている土地も多く、土壌浄化の費用がかかる以上、その土地を浄化したうえで再活用するよりも、土壌汚染されたまま放置される土地が増えるおそれも存する。


一方、事業操業中であれば、土壌を浄化するためのインセンティブも働く。また、それ以上の汚染を防ぐうえでも、事業廃止をまたず、ただちに、全国的な規模で来歴及び現況調査を実施、そのうえで、土壌汚染の可能性がある土地については、調査を実施するようにすべきである。


また、土壌汚染の調査及び結果公表を促進すべきという点からも、全国レベルでできるだけ早期に土壌汚染の全容が調査され、公開される必要がある。全国に何万箇所もあるといわれている汚染された土地があるにもかかわらず、法の施行によって、公開された汚染箇所がわずかにすぎないとすれば、汚染状況を公開した企業及びサイトに不利益が集中し、また、公開情報自体が網羅性、信頼性に欠けることとなり、不動産の流通を阻害する結果となりかねないことも考慮に入れるべきである。


さらに、そもそも、前述したように、日本の土壌汚染状況はすでに深刻な状況にあり、広く土地汚染状況を把握し、登録していくことを進める必要性が強い。


以上から、まず、全国的に、市町村が主体となって、土地の来歴及び現況調査を実施し、過去または現在土壌汚染の可能性のある施設があり、または、物質が保管されていた(いる)土地、廃棄物処分場や資材置き場となっていた(いる)土地等の情報整備を早急に行うとすべきである。


そのうえで、「過去の来歴及び現在の状況からして汚染のおそれがある場合」には、広く、簡易調査を行い、汚染物質が検出された場合には、早急に正式調査をするというようにすべきである。


なお、「過去の来歴及び現在の状況からして汚染のおそれがある場合」とは、そこで操業していた(いる)事業の業種・業態、どのような施設があったのか、有害化学物質保管等の有無、廃棄物処分場や資材置き場となっていた(いる)かどうかといった点などから、具体的に定めるべきである。


以上より、早急に全国的な土地の来歴調査を実施し、その来歴調査の結果から、汚染が懸念される場所については、できるだけ早期に正確かつ包括的な調査が行われる制度が必要である。


付け加えるならば、ボーリング調査についても、建築物が存在する場合でも、調査は困難ではない。床を一部外す、危険物質の保管場所・使用場所の周辺を中心に局所的な調査を行うことなどは、今でも行われていることである。建築物の取り壊しの過程での土壌汚染の拡散・移転を防ぐ意味でも、早期の調査が必要である。


2. 調査の信用性の担保と情報公開


正確で信頼に足りる調査が行われることが重要であり、そのためには、簡易調査を含め、調査については、その手法及び調査結果を正確に公開し、かつ、意見5で述べる登録等を行って、外部から信用性をチェックできるようにすべきである。


3. 対策の発動要件・対策内容・手順・基準について


土壌汚染対策の発動要件・対策内容・手順・基準について、「中間取りまとめ」は、実施主体である土地所有者に判断・選択させることが望ましいとし、そのうえで、計画を実施主体に作成させ、国が客観的な技術的基準を設け、当該基準に合致しているかどうか、都道府県が承認を行うという制度を提案している。


しかし、土壌汚染の問題は、ひとり、土地所有者と占有者だけの問題ではなく、前述の通り、土地の利用にかかわる多くの人々の利害にかかわり、また、生態系や地下水等との関係も重要である。土壌汚染対策については、実施主体がまず計画を作成することが重要ではあるが、対策を発動すべきかどうかというスクリーニングの段階から含め、周辺住民や環境保護団体等の利害関係人の参加のもとに、情報公開を進めながら行われる、参加型のリスク・アセスメントを行いつつ、手続きが進められるべきである。


具体的には、


  1. 規制対象物質について規制値を超える汚染があったかどうかだけが対策の発動要件でなく、調査結果を公表し、住民参加を経て、その内容を検討し、対策を発動するかどうかを決めるべきである。
  2. 対策内容については、規制対象物質について規制値を下回るかどうかだけでなく、土地の利用状況・周辺環境などもあわせ考慮し、住民参加を経て、協議のうえ、対策内容を決定するとすべきである。

こうした手法は、環境影響評価法はもちろん、廃棄物処理その他の制度において、近時取り込まれたものであり、リスク・コミュニケーションが必要な典型的な例である、土壌汚染対策について、「中間取りまとめ」は、こうした住民参加の視点が欠けているのは、きわめて残念である。


4. 対策の内容について-モニタリングの実施


土壌汚染対策の内容として、リスク管理地の地下水のモニタリングの実施をあげている点は賛同できる点であるが、その情報の公開、地域住民も含めた評価-一応の対策がとられた後の参加型リスク・アセスメント-の実施は不可欠である。


5. 対策の内容について-3方法並列列挙の問題点


「中間取りまとめ」では、リスク管理地の管理方法として、「立入制限と飛散・流出防止」「覆土・封じ込め」「汚染土壌の浄化」の3つが並列で列挙されている。


 しかし、あくまでも「立入制限と飛散・流出防止」は緊急的な暫定的措置であり、他の2つと並列に並べられるようなものではない。


また、「覆土・封じ込め」も、地下水との接触を防ぐことは技術的に非常に困難であり、完全な「覆土・封じ込め」をすることは、ばく大な費用がかかり、土壌浄化のほうが安上がりであることもある。


費用分析も含め、リスク管理については参加型リスク・アセスメントのもので行われるべきである。


6.なお、以上の点について、諸外国の立法をみると、アメリカ合衆国のスーパーファンド法が住民参加と情報公開のもとで、対策を煮詰めていく方式をとっており、また、ドイツでも、調査段階で、「動物及び植物による摂取の可能性や土地利用状況」などを含めたリスク・アセスメントを行うとされていることが注目される。


7.リスク管理地の改変などにともなう新たな環境リスクの発生の防止のために、「土地の掘削工事などに伴う土壌の露出等」「汚染土壌の搬出」の際には、前記3と同様に、土壌汚染対策の発動要件・対策内容・手順・基準については、参加型のリスク・アセスメントが行われつつ、手続きが進められるべきである。


意見5 情報の登録・整備・開示

意見の内容
  1. 土壌汚染対策を進めるには、土壌汚染情報の登録・整備・開示をすすめることが重要であり、それは、だれでもアクセスでき、それについての意見を言えるような形にしておくべきである。
  2. 公開の内容は、意見4において述べた「来歴及び現況についての調査結果」「簡易調査の内容」「正式調査の内容」「参加型リスク・アセスメントの内容」「対策の内容」「対策の完了の程度」「その後のモニタリング結果」など、詳細な情報を提供するべきであり、また、その公開された情報に対する意見がある場合には、その意見も公表されるべきである。

理由

1.このような情報の登録・整備・開示を進めることは、土壌汚染対策を進めるうえで不可欠であり、また、そうすることによって、土地所有者などが、土壌汚染対策を進めるインセンティブにもなると思われる。


2.その方法としては、「中間取りまとめ」がいうように、「都道府県が汚染状況、環境リスクの管理状況等の情報を一定の台帳に登録するとともに、リスク管理地である旨を公告する」という方法も考えられる。


しかし、新たな台帳を作成する場合、それは煩雑であり、閲覧・コピーをどのようにするのかという弊害が考えられる。また、公告といっても、官報その他の文書による場合、検索・一覧性等に欠けるという問題点が存在する。


仮に、新たな台帳を設けるとした場合、国民が容易にアクセスできるように、インターネットによる公開を考えるべきである。


また、土地取引において容易に利用できるように、汚染状況を登記簿に記載するなどの方法も検討されるべきと考える。


3.公開の内容は、意見4において述べた「来歴及び現況についての調査結果」「簡易調査の内容」「正式調査の内容」「参加型リスク・アセスメントの内容」「対策の内容」「対策の完了の程度」「その後のモニタリング結果」など、詳細な情報を提供するべきであり、また、その公開された情報に対する意見がある場合には、その意見も公表されるべきである。


意見6 土壌汚染防止制度の対象地

意見の内容

土壌汚染防止制度の対象地としては、特に例外を設けるべきではなく、特に、廃棄物の不法投棄地や廃棄物処分場跡地や軍事基地跡地についても、土壌汚染防止制度の対象とすべきである。


また、米軍基地に関する土壌汚染についても、その防止策を検討すべきである。


理由

「中間取りまとめ」をみると、そこで検討されている制度が、都市部における工場用地の宅地などの用途への転用の場合の対策を考えているようである。


しかし、廃棄物の不法投棄地、廃棄物処分場跡地や軍事基地跡地など、それ以外の土地も、深刻な土壌汚染が考えられる。すでに制度が設けられている鉱山や農用地をのぞき、土壌汚染防止制度の対象地としては、特に例外を設けるべきではなく、特に、廃棄物の不法投棄地、廃棄物処分場跡地や軍事基地跡地についても、土壌汚染防止制度の対象とすべきである。


また、米軍基地に関する土壌汚染についても、その防止策を検討すべきである。


意見7 土壌汚染防止のための制度

意見の内容
  1. 後の土壌汚染防止のための制度が必要であり、すべての人の土壌汚染防止の一般的責任を制度的に確認し、かつ、有害化学物質の管理その他を含めた具体的な防止措置を定めるべきである。
  2. また、上記に反し土壌を汚染した者や意見4に記載した簡易調査、正式調査、対策等を怠たったり、誠実に行わなかった者に対しては厳しい刑事罰を設けるべきである。

理由

1.今回の「中間取りまとめ」は、すでに汚染された土地の管理・対策については提言をしているが、現在進行中の土壌汚染や今後発生しうる土壌汚染の防止のための義務及び具体的な措置は定められていない。


唯一ふれているのが、すでに汚染された土地の改変の際などの注意義務であるが、これだけでは、日本の全土における土壌汚染リスクの低減という点からみて不十分である。


すでに汚染された土地の管理・対策を進める以上は、今後の土壌汚染の防止も同時に進める必要がある。


そもそも土壌はさまざまな効用を有しており、私有地であっても、公的な使用、他人の利用、譲渡による所有権の他人への移転があり、時間的に見れば、ひとりの人の使用というのは限定的なものであり、将来世代への配慮も必要である。また、土壌は冒頭記載したように生態系を構成する重要な要素である。その意味では、土地は、私有地であっても、公共財としての側面もある。


したがって、すべての者は、土壌汚染を防止する責任を有していることが第1に確認されるべきである。その旨の義務規定が設けられるべきである。


2.さらに、土壌汚染防止のための具体的な防止義務を定めるべきである。


3.また、それに反し土壌を汚染した者や意見4に記載した簡易調査、正式調査、対策等を怠たったり、誠実に行わなかった者に対しては、厳しい刑事罰を課せられるとの規定も設けられるべきである。


刑事罰は、そのことによる抑止力となるうえに、刑事手続きによる強制捜査、証拠保全も可能であり、汚染の原因及び程度に対する調査が促進される。


意見8 地方公共団体の権限

意見の内容
  1. 地方公共団体が独自の対策をとることができるようにすべきであり、規制についても、上乗せ・横出しができるようにすべきである。
  2. 都道府県・政令指定都市のみの権限とするだけではなく、市町村も、土壌汚染防止・対策の実施主体となり、また、独自施策ができるようにすべきである。

理由

1.土壌汚染防止・対策の問題は、地域の問題であり、地方公共団体が独自の対策をとることができるようにすべきであり、規制についても、上乗せ・横出しができるようにすべきである。


2.また、都道府県と市町村の権限分配の関係では、「中間取りまとめ」では、都道府県が土壌汚染防止・対策についての届出先となり、許可等の権限を有するとしているが、土壌汚染対策は、地域に密着してきめ細かく実施する必要が高く都道府県よりも、市町村が権限を有するほうが適切な場合も多く、政令指定都市はもちろん、それ以外の市町村も、土壌汚染防止・対策の実施主体となり、また、独自施策ができるようにすべきである。