個人信用情報保護要綱の提言

2001年10月19日
日本弁護士連合会

1. 総則
第1条(目的)

本法は、個人信用情報の適正な取扱いに関し基本となる事項を定めることにより、消費者信用取引における個人のプライバシーをはじめとする基本的人権を擁護し、併せて消費者信用取引の適正化に資することを目的とする。


<理由>

本法の最大の目的がプライバシー等の個人の人権の保護であることを明確にするために、目的の内容を「プライバシーをはじめとする基本的人権を擁護すること」と明記した。また、近時多重債務者の増加が大きな社会問題となっており、消費者信用業者に対する過剰与信規制がより重要になっていることから、消費者信用取引の適正化も間接的に目的規定にこれを加えた。


第2条(定義と適用範囲)
  1. 「信用情報」とは、以下に掲げる個人の返済能力を判断するために資する情報をいう。
    1. 与信契約における与信額、返済状況、残高等、与信取引に関する情報
    2. 支払延滞、代位弁済、銀行取引停止処分等の事故情報
    3. 信用判断に直結する資産、負債、収入、勤務先等、個人の経済状況に関する情報
    4. 氏名、生年月日、住所等、前記各号に付随して、個人を識別するための情報
  2. 「個人信用情報機関」(以下「機関」という。)とは、加盟している与信業者から個人の信用情報を収集し、または、自ら情報を収集し、これを保管し、照会のあった加盟業者に提供することを業とする法人もしくは団体をいう。
  3. 「与信業者」とは、業として、信用供与取引を行う者、信用供与取引のあっせんを行う者、保証を行う者、債権回収の代行を行う者及び機関に滞納情報を提供する者をいう。
  4. 「信用情報」は、機関が保有する情報のほか、与信業者が保有する情報を含むものとする。
  5. 「信用情報」は、電機計算機に登録された情報のほか、手書きや印刷された情報で検索可能な情報を含むものとする

<理由>

本法の実効性を確保するために、信用情報の範囲は、与信との関連で収集・保管・利用される情報で個人の支払能力を判断するために必要なものを広く捉えるべきである。また、機関に登録されていない情報や、コンピューターに登録されていない文字情報なども保護の必要が認められることから、このようなものも保護の対象とすべきである。


規制の対象となる主体の範囲も、機関や与信業者に限らず、業務上信用情報を扱う業者を広く含むものとすべきである。


なお、1、(2)の事故情報とは、支払いを1度でも怠った場合に登録されることを想定しているのではなく、例えば


  1. 分割払いを2回分以上怠り
  2. 書面をもって20日以上の期限を設けて催告し
  3. その催告にもかかわらず、催告期限経過後も債務者が支払いをしない

などの客観的な定義を置くべきである。


2. 信用情報の収集・登録に関する規制
第3条(信用情報の収集制限)
  1. 与信業者は、与信に当たり、第2条1項以外の信用情報を収集してはならない。
  2. 与信業者は、与信に当たり、与信を受ける者の家族の信用情報を収集してはならない

<理由>

信用情報の収集が許される範囲は、与信の目的のために必要最小限度でなければならず、与信判断のために間接的に参考となるに過ぎない情報は、収集が許される対象から除かれることを明確にすべきである。


また、本人の与信判断に当たり、家族の信用情報を収集することを認めると、実質上家族の資力を担保に無資力者に貸付ける惧れがあるので、過剰与信防止の観点からも、家族のプライバシー保護の観点からも、禁止すべきである。


第4条(信用情報登録に関する個人の事前の同意と書面交付)
  1. 与信業者は、与信に当たり、以下に掲げる事項について、個人から独立した書面による事前の同意を得るものとする。
    1. 第2条1項の事項につき、情報を収集すること
    2. 当該契約に係る信用情報を、当該与信業者が加盟する特定の機関へ登録すること
    3. 当該信用情報が、機関に加盟している他の与信業者により、与信判断のために利用される場合があること
    4. 当該信用情報が、機関と提携する他の機関に加盟する与信業者により、与信判断のために利用される場合があること
    5. 機関に登録される信用情報の内容
    6. 信用情報の登録期間
  2. 与信業者は、個人に対し、与信に当たり機関から収集した信用情報の内容を記載した書面を延滞なく交付しなければならない。

<理由>

与信を受けるに当たり、自己の信用情報が機関に登録されること及び登録される情報の内容、登録期間を予め個人に認識させることにより、個人が自己に関する情報をコントロールする機会を確保できるようにすべきである。


また、機関から収集した信用情報の内容を個人に開示することにより、信用情報の正確性を確認できるものとすべきである。


第5条(与信業者の個人に対する説明)

与信業者は、与信に当たり、以下に掲げる事項について、個人に対し独立した書面をもって説明しなければならない。


  1. 個人の情報が登録される機関の名称、所在地、連絡方法
  2. 自己の信用情報に関して開示を求める権利があること及び開示請求の方法
  3. 当該信用情報が誤っている場合には、削除・訂正を求める権利があること及び削除・訂正の方法
  4. 自己の同意がない信用情報の利用、販売促進を目的とした信用情報の利用等があった場合には、異議を申し立てる権利があること及び異議申立の方法

<理由>

与信を受けるに当たり、個人が自己に関する情報をコントロールできるようにするために、具体的な方法を知らしめる必要がある。


第6条(事故情報登録の通知)

与信業者が延滞等の事故情報を機関に登録する場合、予め個人に対し、当該事故情報が登録される旨並びに以下に掲げる事項を通知しなければならない。


  1. 当該事故情報が登録される機関の名称、所在地、連絡方法
  2. 当該事故情報に関して開示を求める権利があること及び開示請求の方法
  3. 当該事故情報が誤っている場合には、削除・訂正を求める権利があること及び削除・訂正の方法

<理由>

事故情報登録は、個人の経済生活に大きな打撃を与えるので、事故情報が機関に登録されること及び登録される内容を予め個人に認識させることにより、個人に不測の損害を与えることを防止するとともに、個人が自己に関する信用情報をコントロールする機会を確保できるようにすべきである。


第7条(与信業者が機関に提供する信用情報)

  1. 与信業者は、個人から収集した信用情報のうち、多重債務の防止に必要最小限の事項として政令に定めるものに限り、機関に提供することができる。
  2. この場合、与信業者は、あらかじめ個人から第4条の同意を得なければならない。

<理由>

与信業者が信用供与に際して個人から収集した信用情報を機関に提供することも、基本的には目的外利用に当たる。そこで、機関に提供できる信用情報は、多重債務の防止に必要最小限のものであることと、個人の事前の同意を必要とする。


なお、いわゆる残高情報を機関に登録し、さらに機関相互間で交流することを認めるかどうかが論点とされている。これについては、前述のとおり(1)残高情報の交流が多重債務の防止にそれほど実効性があるとは考えられないこと、(2)他方でプライバシー侵害の恐れが大きいことから、基本的に残高情報の交流を認めるべきでないと考える。


もっとも、現在までに機関内部の加盟業者間では残高情報交流がなされている実情に鑑み、法律上全面的に禁止することはかえって混乱を招く恐れもあるので、法律上は必要最小限の信用情報に限定する旨の抽象的な規定に止めることとする。


そして、機関の登録・監督を行う主務省の行政規制権限の行使の中で、当面は機関相互の残高情報交流を認めない運用を徹底し、かつ現在行われている機関内部の残高情報交流についても、その実効性と弊害の有無を継続的に調査し交流の是非を見直すことを提案する。


第8条(機関が収集及び登録する信用情報の種類及び範囲)

機関が、収集及び登録することができる信用情報は、与信業者が提供する信用情報のほか、破産宣告、民事再生手続開始決定、手形・小切手不渡り等の公刊物に公表された事実及び第12条の事実に限るとともに、与信業者が個人の支払能力を調査するために必要な事項にとどめるものとする。


<理由>

機関が収集・登録できる情報は、個人のプライバシーの侵害を防止するため、個人の支払能力の調査という信用情報制度の目的を達する上で必要最小限度に止められなくてはならない。


3. 機関等の信用情報管理・利用に関する規制
第9条(信用情報の正確性の確保)
  1. 与信業者は正確な信用情報を機関に提供するものとし、既に機関に登録されている信用情報が事実と異なることが判明した場合には、直ちにその旨を機関に対し通知しなければならない。
  2. 前項の通知があった場合、機関は直ちに信用情報の訂正を行わなければならない。
  3. 機関は、第1項以外の事情から、登録されている信用情報が事実と異なることを認識した場合には、直ちにその情報を削除または訂正しなければならない。
  4. 機関は、与信業者から提供される信用情報の登録に際し、厳重な入力チェック等により信用情報の正確性を確保しなければならない。

<理由>

登録された信用情報は、個人の経済生活に与える影響が大きいことから、その正確性が確保されなくてはならない。したがって、それを保有する機関には、上のような正確性確保のための義務を課すべきである。


信用情報の正確性を確保する方策として、本人に正確な情報を提供すべき義務を課すべきではないかとの議論もあるが、対等な取引場面においても不利益情報を積極的に告知する法的義務を課すことは認められていないのであるから、ましてや必要に迫られて借入を申し込む個人に正確な情報を提供する義務を課すのはバランスを欠いている。このような理由から、本人に正確な情報を提供すべき義務を課す条項を設けないことにした。


第10条(信用情報の登録・変更義務)
  1. 与信業者は、第7条1項に該当する信用情報を認知した場合、または既に機関に登録されている信用情報に変更が生じた場合、機関に対し速やかに当該情報を提供しなければならない。
  2. 前項の提供があった場合、機関はこれを速やかに登録または更新することにより信用情報の最新性を維持しなければならない。
  3. 機関は、自らの調査により機関に登録されている信用情報に変更が生じたことを認識した場合には、速やかに更新することにより信用情報の最新性を維持しなければならない。
  4. 機関は、与信業者から提供される信用情報の登録に際し、厳重な入力チェック等により信用情報の正確性を確保しなければならない。

<理由>

与信業者は、事故情報その他機関に登録すべき信用情報を入手したときは、必ずこれを登録することを義務付けることが必要である。


また、登録された信用情報は、個人の経済生活に与える影響が大きく、その正確性が確保されなくてはならないので、データ内容に変更がありそれが判明した場合には、速やかに変更するよう義務づける必要がある。


第11条(信用情報提供の制限)
  1. 機関は、以下の場合を除き、自ら管理する信用情報を他に提供してはならない。
    1. 会員である与信業者から照会があった場合
    2. 機関が提携している他の機関から照会があった場合
    3. 個人からの開示請求があった場合
    4. 裁判上の命令、決定等に基づき開示請求がなされた場合

  2. 本条第1項一、二の場合に、機関が信用情報を提供しうるのは、次の場合に限る。
    1. 与信業者が、個人の支払能力を判断するために照会をする場合
    2. 与信業者が、個人からの自己の情報に係る問合わせ、訂正もしくは削除の申出 に対応するために、照会をする場合

  3. 第1項一、二の場合に、機関が提供しうる信用情報は、多重債務の防止のために必要最小限の事項として政令で定めるものに限るものとする。
  4. 機関の役職員が本条に違反したときは、機関は、個人に対し一定の損害賠償(違反1件ごとに定額を定めるべき)の責を負うものとする。但し、個人が、それ以上の額の実損害を被ったときは、その実損害に相当する金額の賠償請求をすることを妨げない。
  5. 機関からその業務の全部又は一部を受託した者は、受託した業務の範囲内で機関と同 様に本条に掲げる義務を負う。この義務に違反したときの賠償責任は、前項の通りとする。
  6. 機関は、受託業者の役職員による目的外使用等を防止するために必要な措置を講じるとともに、受託業者の不正を行わないよう指導・監督しなければならない。

<理由>

与信判断という信用情報の目的及び個人のプライバシーに配慮し、機関が保有する信用情報が提供・利用されるケースは最小限に限られるべきであることから、本条1、2項記載の場合に限定すべきである(捜査機関からの照会に対して提供すべきかについても、消極的に考えるべきであるが、令状による請求は、第1項四により開示の対象とする)。


なお、機関相互間で交流される情報の範囲に残高情報まで含めるのは第7条の理由参照。


機関が、本条の定めに違反して情報提供した場合の制裁については、罰則のほか、民事の定額賠償を設けることにより違反の防止を図るとともに、個人の救済を容易にすべきである。


第12条(機関が提供する情報に付記すべき事項)
  1. 機関が、事故情報の提供に当たり、与信業者または機関と個人との間で、与信債務について、削除・訂正請求、調査要求、訴訟等の紛争があることを認知したときは、その紛争の内容を提供する情報に付記しなければならない。
  2. 個人から機関に対し、与信禁止の要請があったときは、機関は情報の提供に当たり、このような要請があったことを付記しなければならない。

<理由>

機関に事故情報が登録されている個人について、同人がその内容を争っている場合に、事故情報登録によって同人の与信を受ける権利が不当に害されないようにするために、情報提供に当たり争い等がある旨を付記すべきである。 


個人がこれ以上の与信を望まない場合、将来にわたる与信を制限することにより同人が経済的苦境に陥ることを防止するとともに、与信業者の貸し倒れを防止するために、与信禁止要請も付記事項とすべきである。


第13条(機関の役職員らの守秘義務)
  1. 機関の役職員または役職員にあった者は、在職中及び退職後、業務上知り得た信用情報を、第11条に定める場合を除き、他に漏らしてはならない。
  2. 機関からその業務の全部または一部を受託した者の役職員または役職員にあった者は、受託した業務の範囲内で機関の役職員と同様の守秘義務を負う。

<理由>

個人のプライバシー保護のために、機関の役職員ら関係者が守秘義務を負うことを明確にすべきである。また、守秘義務は、当該職務を離れた後もこれを免れないとすることにより、情報漏洩の防止を徹底すべきである。


第14条(信用情報の登録期間)

機関は、登録する信用情報の種類に応じて、その登録期間及び起算日を定め、これを経過したものは廃棄する。登録期間は最長でも起算日より5年以内とする。


<理由>

信用情報は、個人の経済生活に与える影響が大きいこと、信用の内容は時間の経過とともに変化することから、正確性を確保するために登録機関も一定限度に止めるべきである。なお、5年という期間は、信用情報登録期間の現状を参考に、なるべく短い期間を基準とした。


4.与信業者の信用情報管理・利用に関する規制
第15条(与信業者の機関への加盟・利用義務)

与信業者は、その業務を行うに当たり、機関と信用情報交換契約を締結し、機関の会員として加盟しなければならない。


与信業者は、与信を審査するにあたり、加盟する機関の信用情報を照会しなければならない。


<理由>

適正な与信判断を実現するために、与信業者に対し機関への加盟義務を課すべきである。加盟義務を尽くさないとき、または加盟を取り消されたときは、貸金業規制法の登録拒否事由または登録取消事由に該当するものとして、連動させる必要がある。


第16条(与信業者の目的外利用の制限)

与信業者は、個人の支払能力を判断するため以外の目的で、信用情報を収集・利用してはならない。


<理由>

与信判断という信用情報の目的及び個人のプライバシーに配慮し、与信業者が信用情報を収集・利用できるケースは最小限に限られるべきである。


第三者へ不正提供することが許されない(第17条)だけでなく、例えば、与信業者が顧客を勧誘(DM・電話等)するため、あるいは債権回収の調査のために個人情報を収集・利用することも禁止する必要がある。


第17条(与信業者の役職員らの守秘義務)

与信業者の役職員または役職員にあった者は、在職中及び退職後、業務上知り得た信用情報を他に漏らしてはならない。


<理由>

個人のプライバシー保護のために、与信業者の役職員らが守秘義務を負うことを明確にすべきである。また、守秘義務は、当該職務を離れた後もこれを免れないとすることにより、情報漏洩の防止を徹底すべきである。


第18条(与信拒否時における義務)

与信業者が個人に対し、機関から提供された信用情報を理由に不利益な取扱いをするときは、その取扱いが当該信用情報を考慮したものであること、当該情報を提供した機関の名称、所在地、連絡方法を個人に告げなければならない。


<理由>

与信を拒否された個人に、与信拒否の理由を知らしめることにより、同人の自己に関する情報をコントロールする権利を実効あらしめるものとする。


5.信用情報に関する個人の権利
第19条(登録情報開示請求の要件及び方法)

個人は、機関に登録されている自己の信用情報について開示を請求することができる。この場合、開示請求しうるのは、本人、本人が死亡した場合の相続人、本人または相続人の法定代理人、本人または相続人から委任を受けた弁護士に限るものとする。


<理由>

個人に自己に関する情報をコントロールする権利を与えるとともに、情報の漏洩を防ぐため、開示請求できる者の範囲を、本人及びそれに準じる者に限定する必要がある。


なお、連帯債務者、保証人、本人が失踪している場合の同居配偶者、親子、兄弟姉妹等、強い利害関係を持つ者についても開示請求権を認めるべきではないかとの意見もあったが、本人のプライバシー保護という本法の目的と相容れないことから、開示請求権者とはしなかった。


第20条(開示の内容)

機関は、本人から開示請求があった場合、本人に以下の事項を開示しなければならない。


  1. 開示を求められた時点における、当該個人について保有する全ての情報
  2. 情報を提供した与信業者
  3. 情報の開示履歴と開示の相手方

<理由>

個人の情報をコントロールする権利を実効あらしめるために、本人に登録情報全てに関する開示の権利を認める必要がある。


また、開示履歴と相手方を明らかにすることにより、与信申し込みをした覚えのない業者からのアクセスを覚知でき、不正利用を発見するきっかけがつかめるようにすべきである。


第21条(開示にかかる費用の負担)
  1. 機関が、信用情報の開示にかかる費用を開示請求者に求める場合には、実費相当額を限度としなければならない。但し、当該信用情報が誤りであることが確認された場合に、開示請求者から徴収した費用があるときには、これを本人に返却しなければならない。
  2. 機関は、開示請求にかかる費用の額を、開示の前に請求者に告げなくてはならない。

<理由>

費用負担については、開示を求める本人が負担する場合でも、個人の負担を軽減すべく実費相当額に止めるべきである。また、情報が誤りの場合にまで本人に負担させるのは公平でないので、その場合には本人が負担を免れるとすべきである。


第22条(信用情報の訂正・削除の権利)
  1. 信用情報の開示を受けた本人は、登録されている信用情報が事実と異なる場合には、機関に対し、その訂正・削除を求めることができる。
  2. 前項の申出があった場合、機関は直ちに申出の事実を登録するとともに、当該信用情報を機関に提供した与信業者に対し調査を依頼するなどして、直ちに申出内容を確認するための調査を開始する。但し、申出があった時点で、申出の内容に理由がないことが明らかな場合にはこの限りでない。
  3. 前項の場合、機関は、申出内容を確認するための調査に着手したこと及び調査方法を、本人に通知しなければならない。
  4. 機関は、調査の結果が出しだい、直ちに調査結果を本人に通知しなければならない。
  5. 機関は、本人が調査結果に対しても訂正・削除を申し出るときは、調査結果を登録するにつき正当な理由があることを証明しなければ、申出に応じなければならない。
  6. 機関が、登録されている事実と異なる情報の訂正・削除に応じないときは、その本人は、民事裁判により、機関に対しその情報の削除・訂正を求めることができる。

<理由>

個人の情報をコントロールする権利を実効あらしめるとともに、誤情報により個人が経済的・精神的損害を被ることを防止するために、個人に誤情報の訂正・削除の権利を与えるべきである。


削除・訂正申出後の手続については、信用情報は登録されてしまうと打撃が大きいので、削除・訂正申立があった場合、原則として申出に応じて登録情報は訂正することとし、機関に直ちに調査に着手することを義務づけることにすべきである。


機関が、登録されている誤情報の訂正・削除を拒むときは、現行制度の下でも、民事裁判により誤情報の削除・訂正を求めることができると解されるが、削除・訂正の手段を明確にするために、民事裁判手続を条項化すべきである。


第23条(個人の異議申立権)

  1. 個人は、自己の同意がない情報の利用、販売促進を目的とした情報の利用等目的外利用の疑いがあった場合には、機関に対し異議を申し立てることができる。
  2. 前項の異議申立があった場合、機関は、異議内容の存否を調査し、不正な利用の疑いがあった場合には、情報の提供を停止しなければならない。
  3. 機関は、申立人に対し、異議申立に対する調査の結果を報告しなければならない。
  4. 個人は、第1項に掲げる利用がなされもしくはなされる危険がある場合、機関に対し、情報の提供の差止を求める民事訴訟を提起することができる。

<理由>

個人の情報をコントロールする権利を実効あらしめるとともに、目的外利用等により個人が経済的・精神的損害を被ることを防止するために、個人に異議申立の権利を認める必要がある。


そして、この異議申立権を実効あらしめるために、機関に対し、調査・報告義務を課すとともに、民事訴訟による差止請求権を認めるのが相当である。


6.罰則
第24条(機関、与信業者の役職員らの漏洩等に対する罰則)
  1. 機関または与信業者の役職員または役職員にあった者が、第13条または第17条に違反して、職務上知り得た個人の信用情報を、他に漏洩、利用、提供したときは、懲役または罰金に処す。
  2. 機関または与信業者の役職員が前項の行為をなしたときは、行為者を罰するほか、その機関または与信業者に対しても、前項の罰金を科す。

<理由>

個人のプライバシーに配慮し、機関や与信業者の役職員らに対しては厳格な情報管理責任を課すとともに、両罰規定を設けプライバシー保護の徹底を図るべきである。


第25条(機関からの受託業者の漏洩等に対する罰則)
  1. 機関からその業務の全部または一部を受託した者の役職員または役職員にあった者は、第13条2項に違反して、職務上知り得た個人の信用情報を、他に漏洩、利用、提供したときは、その者を懲役または罰金に処す。
  2. 機関からその業務の全部または一部を受託した者の役職員が前項の行為をなしたときは、行為者を罰するほか、その受託業者に対しても、前項の罰金を科す。

<理由>

機関がその業務の全部または一部を他者に委託した場合に、プライバシーの保護を図るために、受託業者の役職員にも厳格な情報管理責任を課し、刑罰並びに両罰規定を設けてこれを担保すべきである。


第26条(与信業者の目的外利用に対する罰則)
  1. 与信業者が、第16条に違反し個人の支払能力を判断するため以外の目的で、信用情報を収集・利用した場合には、懲役または罰金に処す。
  2. 与信業者の役職員が前項の行為をなしたときは、行為者を罰するほか、その与信業者 に対しても、前項の罰金を科す。

<理由>

与信業者自身の目的外利用の禁止を実効あらしめるために、違反した場合の罰則を設けるとともに、両罰規定を設けてその実効性を担保すべきである。


第27条(第三者の信用情報取得に対する罰則)
  1. 信用情報を取り扱う権限なき者が、正当な理由なく、機関または与信業者が保有する信用情報を開示または提供を受けた場合、懲役または罰金に処す。
  2. 法人の代表者または法人もしくは人の代理人、使用人その他の従業員が、その法人または人の業務に関して、前項の行為をなしたときは、行為者を罰するほか、その法人または人に対しても、前項の罰金を科す。
  3. 第1項に違反して取得した情報であることを知りながら、信用情報の取得者からさらにその信用情報を取得した者は、懲役または罰金に処す。

<理由>

従来、信用情報が記録されたフロッピーディスク等の「物」を不正取得した第三者は、財産犯として刑罰の適用の余地があるが、情報自体の不正取得は処罰の対象となっていないことから、このような場合も処罰の対象とできる条項を設けるべきである。


また、この規制を実効あらしめるためには、違反者に対する刑事罰のほかに両罰規定や違反者からの情報取得者に対する罰則を設けるべきである。


7. 個人信用情報機関の認可及び監督
第28条(機関の認可及び監督)
  1. 機関は、主務省の認可を得なければ営業してはならない。その組織及び運営の基本的事項については、法律に定めるものとする。

<理由>

現在は、銀行・クレジット・サラ金の業界ごとに機関を設置しているほか、業界横断的に加盟業者を集める機関も複数存在している。さらに、自由設立・自由加盟を前提とすると、今後も個人信用情報の保護体制が不十分な機関が次々と登場し、トラブルが多発することが懸念される。


そこで、機関は、与信業者の加盟を義務付け、信用情報を業界全体から収集し提供すべき立場にあることから、その業務の適正さを行政的に監督することが不可欠であり、認可制が必要である。その組織及び運営の基本的事項については、法律に定めるものとする。


なお、個人信用情報機関を将来的にも業界ごとに別々の組織とするのか、統合を目指すのかについても、引き続き検討が望まれる