税理士の出廷陳述権に対する意見

2000年9月5日
日本弁護士連合会


第1 趣旨

税理士に出廷陳述権を付与することについては、当該事案に訴訟代理人がついている場合にのみ認めるのが相当である。


第2 理由

1. 税理士業の資格

(1) 税理士法 第2条


税理士の業務は、「他人の求めに応じ租税に関し、税務代理・税務書類の作成・税務相談」と「他人の求めに応じ、税理士業務に付随して、財務書類の作成・会計帳簿の記帳代行・その他財務に関する事務」と定められている。


(2) 税理士資格の付与


弁護士及び公認会計士は別として、税理士試験を免除された税務職公務員であった者以外は、税理士試験に合格しなければならない。


税理士法第6条によれば、税理士試験は所得税法・法人税法・相続税法・消費税法(又は酒税法)・国税徴収法・地方税法(道府県民税・市町村民税・事業税・固定資産税)・簿記論・財務諸表論の中から五科目選択して行われることになっている。基本六法(憲法・民法・刑法・商法・民事訴訟法・刑事訴訟法)や行政法など法律家にとって不可欠な科目の学識や応用能力については、全く試験科目とはなっていない。


2. 裁判に必要な専門家の参加

(1) 参加の方法


A. 調査官制度


租税事件については、調査官が地方裁判所に配置されている。裁判所独自に専門調査官を任用するべきであるが、必要があればこれに税理士等の専門家が任用されるべきと思われる。


B. 専門調停


専門家を調停委員に任命し、専門調停制度を運営することもできる。


C. 専門家参審制度


昨今の司法改革の中で、専門家を裁判に関与させる制度が検討されている。しかし、税理士を裁判官として、参審させるのは、現行法上問題がある(裁判官の資格は、司法試験に合格した者に限定されている)。


3. 税務裁判手続に必要な主要な能力

(1) 課税客体に関する法律関係の分析


租税訴訟において、第一段階として、課税客体に関する法律関係の分析が必要となる。例えば、取引は契約によって行われ、課税対象も契約に基づく取引に起因してもたらされる経済効果として出現されるものである。法のル-ルに従って、全ての取引が行われ、それによって現出される法律関係が基本となる。法律家は、これら全ての法律関係を分析し、依頼人に代理して権利を主張することができなければならない。このためには、一般の私法法律関係を律する取引法及び身分法の理解が不可欠である。


(2) 訴訟手続法の修得


法廷における活動にあたっては、訴訟手続法を修得し、依頼人のために、その権利を確保し義務を適正なものとするべく最善の努力を尽くすことの出来る者でなければならない。


(3) 租税法律関係の分析


取引法律関係の分析をなした後、租税法律関係の分析が必要となる。税務訴訟においては、単なる納付税額の計算をする前に、取引法律関係と税務法律関係の分析が必要である。


(4) 納付税額の確定と租税法規に対する分析能力


納付税額の計算をなして、これを確定するのは、複雑な手順を必要とする。税理士はこれについての専門性を具備しているが、その根拠たる租税法規は複雑であり、これを正しく理解するためには憲法をはじめとする基本法の理解が必要である。


(5) 行政批判の能力


税理士業務は、基本的に申告と納税という課税庁の税務行政を適正に実現する性格であることは否めないところ、税務訴訟では、逆に課税庁の処分を批判し、これに反対することとならざるを得ない場合がほとんどである。課税庁の監督下にある税理士にこのような訴訟を担う適格があるのか疑問である。


4. 当調査会の意見

(1) 税理士に出廷陳述権を付与することには反対するが、該当事案に訴訟代理人がついている場合には、暫定的に税理士に出廷陳述権を与えることもやむを得ない。


税理士試験科目には、一般的な法律科目(憲法・民法・商法)は勿論のこと、民事訴訟法等の手続法はない。税理士に出廷陳述権を付与するためには、基礎的な法律科目を学習し、訴訟活動に対応できる法律関係分析能力を養成し、これらの法的知識及び民事訴訟法や行政事件訴訟法の研修をなすべく、税理士試験改革、税理士研修制度の確立などが必要であり、これらの制度改革がなされない現時点において、税理士に単独で出廷陳述権を付与することに反対する。但し、当該事案に訴訟代理人が付いている場合は、このような弊害はない。訴訟代理人が税理士の協力を得て、その専門的知識を駆使しながら訴訟活動を展開することは、前審たる不服審判所における審議との連続性も確認でき、当事者にとって有益であるからである。


(2) 租税訴訟に法の支配を及ぼすためには、裁判所改革が必要である。


税事件を扱う裁判所は、調査官を国税庁から受け入れている。又、行政部の裁判官は、行政庁(法務省や国税不服審判所)へ出向した者が多い。判検交流によって訟務検事であった者も多い。法の支配の原理を租税訴訟に及ぼすためには、これらの点の裁判所改革こそが先ず必要であり、税理士に出廷陳述権を付与することによっては、何の解決にもならないどころか、むしろ解決への逆行である。


(3) 弁護士増員こそが必要である。


弁護士の職責は、単なるリ-ガルサ-ビスの提供にとどまらず、基本的人権の擁護と社会正義の実現にある。税務訴訟の場においては、納税者の権利擁護のため、国と対決することが職業倫理として要請される。


税理士が、税務訴訟において、国家権力と対決し、納税者のために、独立して国と対等に対決するためには、「税理士会の自治」の実現が必要である。又、税理士が法廷活動を行って、法律家であろうとする以上、依頼者の秘密について、証言拒絶権を有しているべきであるが、これが現行法上欠落している。この点からも、税理士には単独の出廷陳述権は付与させるべきではない。


税務訴訟の充実及び活性化は、本来は、弁護士を増員して税務の専門弁護士の養成で対応するべきであろう。


以上