消費者契約法日弁連試案・同解説

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1999(平成11)年10月22日
日本弁護士連合会


本試案について

第1章 目的・定義

第1条(目的)

本法は、消費者契約における契約締結過程及び内容の適正化を図ることにより、情報、知識、交渉力について事業者と格差のある消費者の利益を確保することを目的とする。


第2条(定義)
  1. 本法において、消費者契約とは、消費者と事業者の間で締結されるすべての契約をいう。
  2. 本法において、消費者とは、事業に直接には関連しない目的で取引する者をいう。
  3. 本法において、事業者とは、事業に直接に関連する目的で取引する者をいう。
  4. 本法において、約款とは、事業者が、多数の消費者との契約のために予め作成した契約条項で、契約内容になるものをいい、その名称、範囲、形態を問わない。
  5. 本法において、消費者団体とは次のいずれかに該当するものをいう。
    1. (1) 啓発あるいは相談等による消費者の権利擁護を目的に掲げ、かつ実際に当該目的に従った活動を行っている法人。
    2. (2) 啓発あるいは相談等による消費者の権利擁護を目的に掲げ、かつ実際に当該目的に従った活動を行っている社団であって、自然人の構成員が100人以上であるもの。
    3. (3) 啓発あるいは相談等による消費者の権利擁護を目的に掲げ、かつ実際に当該目的に従った活動を行っている社団であって、当該社団を構成する自然人及び当該社団の構成員である社団を構成する自然人の総数が100人以上であるもの。


第2章 契約締結過程における事業者の義務

第3条(契約書面・約款の開示)
  1. 事業者は、消費者契約の締結に際し契約書面又は約款を用いた場合には、契約締結前あるいは契約締結後遅滞なく契約書面又は約款内容を記載した書面を消費者に交付しなければならない。但し、契約の性質上又は社会通念上、約款の内容を記載した書面を交付することが不要と認められる場合は、この限りでない
  2. 事業者は契約の性質上又は社会通念上、約款の内容を記載した書面を交付することが不要と認められる場合であっても、その各営業所において掲示、備え置きその他これに準ずる方法で、消費者契約の締結に際し消費者が認識できるように約款の内容を開示しなければならない。
  3. 前項の場合であっても、消費者の要求がある場合は、事業者は約款の内容を記載した書面を消費者に交付しなければならない。
  4. 事業者が前3項に規定した各義務の一に違反し、契約条項の開示を怠ったと認められる場合は、消費者に不利益な契約条項は契約の内容とはならない。


第4条(契約内容の情報提供)
  1. 事業者は消費者に対し、消費者契約の締結前に、当該消費者が契約の締結を決定するにあたり必要な事項について、消費者が理解できる方法で情報を提供しなければならない。
  2. 当該消費者が契約の締結を決定するにあたり必要な事項とは、当該契約において客観的に必要な事項と評価できるもの、当該消費者から必要であると特に告げられたもの、及び当該消費者から特に告げられていないが当該消費者にとって必要であることを事業者が知りまたは知り得るものをいう。
  3. 消費者が理解できる方法とは、一般的に当該契約の当事者となる消費者が理解できる方法、当該消費者が特に詳しく説明を求めた内容についてはその内容を理解させる方法、及び当該消費者の理解力が劣っていることを事業者が知りまたは知り得べき場合にはその理解力に応じた方法をいう。


第5条(不当勧誘の禁止)
  1. 事業者が消費者に対し、消費者契約の締結について、次の各号の一に該当する行為を行った場合には、消費者は当該契約を取り消すことができる。ただし、各号に該当する行為がなかったとしても消費者が当該契約を締結した場合はこの限りではない。
    1. (1) 当該消費者が契約の締結を決定するにあたり必要な事項について、消費者が理解できる方法で情報を提供しなかったこと
    2. (2) 当該消費者が契約の締結を決定するにあたり必要な事項について、不実の告知をすること
    3. (3) 消費者を威迫する言動
    4. (4) 消費者の私生活又は業務の平穏を害する言動
    5. (5) 消費者の知識や判断力が不足している状況を利用すること
    6. (6) その他信義誠実に反する不当勧誘行為
  2. 前項により消費者が契約を取り消すことができる場合に、消費者は事業者に対し、契約の取消に基づく原状回復と共に損害賠償の請求を行うこと、もしくは契約の効力を維持しつつ蒙った損害について賠償請求を行うことができる
  3. 第三者が消費者契約の勧誘を行った場合に、当該第三者の勧誘行為に第1項各号の一に該当する行為があったときにも、消費者は契約の取消しおよび損害賠償の請求を行うことができる。ただし、当該第三者の行為について事業者が善意無過失の場合はこの限りでない。


第6条(第三者に対する効果)

消費者による消費者契約の取消は善意の第三者に対抗することができない。


第7条(時効等)
  1. 消費者による消費者契約の取消権は、消費者が事業者又は第三者の勧誘行為に第5条第1項1号、2号、5号又は6号に該当する行為があったことを知ったとき、もしくは同項3号又は4号に該当する行為が止んだときから3年間これを行使しないときは時効によって消滅する。
  2. 消費者による消費者契約の取消権は、当該消費者契約の締結をしたときから10年を経過したときも消滅する。但し、契約期間が7年を超えて継続する場合には当該契約期間の終了後3年を経過したときに消滅する。


第8条(追認・法定追認の排除)

民法122条ないし125条の追認・法定追認に関する規定は、消費者契約の取消には適用しない。


第3章 契約条項に関する一般規定

第9条(契約条項の明瞭化)

事業者は、消費者契約の条項について、常に明確かつ理解しやすい平易な言葉で表現しなければならない。


第10条 (契約条項の解釈原則)

消費者契約の内容の解釈において明確でない契約条項については、消費者に最も有利に解釈する。


第11条 (不意打ち条項の禁止)

消費者契約の類型及び交渉の経緯等に照らし、消費者にとって予測することができない契約条項は無効とする。


第12条 (不当条項の禁止)
  1. 消費者契約における消費者に不当に不利な契約条項は無効とする。
  2. 次の各号のいずれかに該当する契約条項は、消費者に不当に不利と推定する。
    1. (1) ある事項に関する法律規定が存する場合に、当該法律規定よりも消費者に不利な条項
    2. (2) 契約の性質から判断して、契約目的の達成を不可能もしくは困難とするような消費者の権利の制限または義務の付加、及び、事業者の責任の制限または免除を定める条項


第13条 (不当条項と見倣す契約内容)

消費者契約において以下に記載する内容を有する条項は消費者に不当に不利な条項とみなす。


  1. 契約文言を解釈する排他的権利を事業者に認める条項
  2. 法令上、消費者の有する同時履行の抗弁権、留置権、相殺 権を排除又は制限する条項
  3. 事業者の作為義務を内容とする契約において、消費者の同意なく事業者が第三者に契約上の地位を移転できるとする条項
  4. 事業者が契約上消費者に対して有する債権を第三者に譲渡する場合に、消費者があらかじめ異議を留めない承諾をする旨の条項
  5. 事業者の権利の担保責任を全面的に排除する条項
  6. 事業者が、保証人に対し、保証期間又は限度額を一切定めない包括根保証をさせる条項
  7. 事業者の保証人に対する担保保存義務を免除する条項
  8. 消費者の解除権を一切認めない条項
  9. 継続的契約において、消費者が正当な理由に基づき解約告 知をする場合に、違約金を支払わねばならないとする条項
  10. 継続的契約において、消費者が正当な理由がなく解約告知をする場合に、契約が期間満了まで継続していれば事業者が得られた対価から解約告知により事業者が免れた費用を控除した金額を超える違約金を定める条項
  11. 事業者又は第三者が一切の過失行為の責任を負わないとする条項
  12. 管轄裁判所を事業所の住所地もしくは営業所所在地に限定する条項


第14条 (不当条項と推定する契約内容)

消費者契約において以下に記載する内容を有する条項は消費者に不当に不利な条項と推定する。


  1. 消費者に与えられた期限の利益を奪う条項
  2. 事業者が契約上の給付の内容又は契約条件を一方的に決定し、又は変更できるとする条項
  3. 事業者又は消費者がその義務を履行したか否かの判断を事業者に委ねる条項v消費者の一定の作為又は不作為により、消費者の意思表示がなされたもの又はなされなかったものとみなす条項
  4. 消費者の利益に重大な影響を及ぼす事業者の意思表示が消費者に到達したものとみなす条項
  5. 消費者の権利行使又は意思表示の形式又は要件に対して制限を課する条項
  6. 事業者の物の担保責任を全面的に排除する条項
  7. 事業者の権利又は物の担保責任について、担保責任発生事由、担保責任の内容、権利行使期間、権利行使方法を制限する条項
  8. 事業者が、一方的に予めもしくは追加的に担保を要求できるものとする条項
  9. 保証人が保証債務を履行した場合の、主債務者に対する求償権の範囲を制限する条項
  10. 消費者に通常必要とされる程度を超えた多量の物品または役務を購入させる条項
  11. 消費者に通常必要される程度を超えた長期にわたる継続した物品または役務の購入をさせる条項
  12. 継続的契約において、消費者からの解約申し入れを制限する条項
  13. 消費者の法定解除権を制限する条項
  14. 消費者の債務不履行があった場合に、事業者の損害として通常予想できる額を越える違約金を定める条項
  15. 事業者又は第三者の損害賠償責任を制限する条項
  16. 消費者の事業者又は第三者に対する損害賠償その他の法定の権利行使方法を制限する条項
  17. 消費者の契約に基づく給付請求について、権利行使方法を制限し、その行使方法違反を理由に消費者の給付請求を奪う条項
  18. 契約が解除又は解約告知によって終了した場合に既に給付された金員は返還しないとする条項
  19. 契約が解除又は解約告知によって終了した場合に、給付の目的である商品、権利、役務の対価相当額を上回る金員を請求できるとする条項
  20. 事業者の証明責任を軽減し、又は消費者の証明責任を過重する条項


第4章 契約条項が無効又は契約内容とならない場合の効果

第15条 (契約条項が無効又は契約内容とならない場合の効果)
  1. 第3条により契約条項が契約の内容とならず、又は前章により契約条項が無効であるときは、契約は残部につき有効である。
  2. 第3条により契約条項が契約の内容とならず、又は前章により契約条項が無効であるときは、当該契約条項によって定められた事項については、民法その他の法律規定に従い補充する。
  3. 前二項の場合、変更された契約内容の維持が一方の当事者に著しく不利益な場合には契約は全部無効になる。


第5章 消費者団体の差止請求権

第16条 (消費者団体によるの差止請求)
  1. 消費者団体は、消費者契約における約款において、本法により無効である条項を使用し、または使用しようとしている事業者に対し、その使用の差止その他適当な措置(以下、「差止請求等」という。)をとることを請求できる。
  2. 消費者団体は、消費者契約における約款において、本法により無効である条項を推奨し、または推奨しようとしているものに対し、その推奨の撤回その他適当な措置(以下、「撤回請求等」という。)をとることを請求できる。


第17条 (民事訴訟法の準用)

差止請求等もしくは撤回請求等に関する訴えには、本法に別段の定めがない時は、民事訴訟法を準用する。


第18条 (管轄)

差止請求等もしくは撤回請求等に関する訴えは、民事訴訟法に定める管轄地方裁判所のほか、差止請求等においては差止請求等を求める契約条項を含む約款が使用され又は使用されようとする地を、撤回請求等においては現に推奨され又は推奨が予定されている地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。


第19条 (請求の特定)

第1項、第2項に定める訴えの提起は、差止請求等、撤回請求等を求める契約条項を特定して行わなければならない。


第20条 (判決の効果)

裁判所により消費者契約における約款中の条項の使用の差止を命じられた事業者と契約した消費者が、その判決を援用した場合、当該条項は無効とみなす。


第6章 他の法令との関係

第21条

消費者契約については、本法によるほか、民法の規定による。


第22条

消費者契約について、民法典以外の特別法によって本法と異なる定めが存在するときには、当該特別法の規定による。但し、本法に定める規定より消費者に不利なものは本法による。



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