反社会的な宗教的活動にかかわる消費者被害等の救済の指針
1999年3月26日
日本弁護士連合会
本意見書について
目次
- 第1 意見書の目的 …… 1
- 第2 被害実態とその対策
- 1. 深刻で広汎な被害実態 …… 1
- 2. 典型的相談事例 …… 3
- 3. 被害救済、防止の対策 …… 8
- 第3 宗教的活動にかかわる人権侵害についての判断基準 ……10
- 第4 宗教的活動にかかわる人権侵害についての判断基準の解説
- 1. 判断基準の目的 ……11
- 2. 判断基準作成にあたっての基本的考え方 ……14
- 3. 資金集めとしての活動上の問題 ……15
- 4. 信者・会員の勧誘について ……22
- 5. 信者及び職員の処遇 ……26
- 6. 未成年者、子供への配慮 ……30
- 第5 資料
- 1. EC議会決議(1984年5月)
- 2. 宗教団体等の責任を考える上での主な裁判例
第1 意見書の目的
松本サリン事件で7名、地下鉄サリン事件で12名、坂本堤弁護士とその妻子殺害事件で3名、さらに組織内で6名の尊い人命が奪われた。これらの事件で重軽傷を負った市民は1万人を超える。オウム真理教に出家するため、家族と離別してその生死さえ定かでない若者が数十名にのぼる。
霊感商法や霊視商法など宗教名目の資金集め活動で被害を被った市民は少なくとも数十万人にのぼる。その資金集め活動に駆り立てられている組織のメンバーもかけがえのない人生を破壊されたと言えよう。このような人権侵害、消費者被害は、現代社会の社会、経済の基盤の病巣から生み出されたものであって、決して突然生じたものではない。それだけに、この種の事件は今後も繰り返されるおそれが十分にある。同種の被害相談は現在も続いており、むしろ多様化、深刻化している。
日弁連は、霊感商法問題を取り上げてその実態と問題点およびその対処策を1987年と88年の二度にわたる意見書で提示した。さらに、1995年11月には「宗教活動名目の各種資金獲得活動に関わる実態と問題点」と題する報告書を公表して、消費者問題を解決する弁護士としての立場から実態と対応策を提示した。1996年以降、シンポジウムや宗教団体役員の方々との懇談などを重ねて、宗教団体の布教活動や資金集め活動の自由と布教される側の市民の人権との均衡をどのように調整することが望ましいかについて検討を重ねた。憲法、民法、刑法、宗教法さらには宗教学の学者や行政担当者とも討議をしてきた。
一方、賛否両論が激しくたたかわされる中で、国会では宗教法人法が改正され、改正法は1996年9月から施行された。しかし、現代社会における宗教の役割や許容される宗教活動の範囲などについて、国会で十分な議論が尽くされたとは言い難い。また、前述した消費者被害や人権侵害事件の抑制のために、どのような対策がとられるべきであるかについてもなお、検討は不十分である。治安対策や被害防止の観点を優先することによって、宗教活動の自由が不当に抑制されることがあってはならない。しかし、宗教に関わる法制度やその運用およびマスメディアをはじめとする社会のシステムが、現状のままでよいとも考えられないのである。関連する学者や宗教界における検討も決して十分なものとはいい難いのが実情である。
この意見書は、このような実情を踏まえて、法律家の立場からひとつの対応策を提言するものである。
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