日弁連新聞 第583号

第22回 弁護士業務改革シンポジウム 愛知から拓くぞ!―弁護士業務最前線
9月3日 愛知大学名古屋キャンパス

arrow_blue_1.gif 第22回 弁護士業務改革シンポジウム 愛知から拓くぞ!―弁護士業務最前線


新型コロナウイルス感染症の影響により開催が1年延期された第22回弁護士業務改革シンポジウムが、9月3日に名古屋市で開催された。全体会・分科会(一部を除く)のウェブ配信も実施され、全国から多数の参加を得た。


11の分科会では、新たな時代に対応した弁護士業務の課題や新しい業務分野の開拓などについて議論がなされた。


本稿では5つの分科会の様子を報告する。


第1分科会 裁判手続のIT化と新時代の法律事務所
~変わる弁護士業務とセキュリティ~
第2分科会 法律事務所の経営安定化のための顧問契約獲得と維持
第3分科会 司法アクセスを推進する弁護士費用保険の新たな展開
第4分科会 やれる!行政弁護
第5分科会 「顧問契約」にイノベーションを!
~弁護士は中小企業の成長・発展にもっと貢献できる~
第6分科会 民事信託と後見制度
第7分科会 企業内弁護士のキャリアの実相
─60期~62期会員アンケート結果から考える─
第8分科会 スポーツにおける移籍制限
第9分科会 こうすりゃよかった!事務職員活用
~経営環境、IT化、コロナ禍と事務職員活用の変化~
第10分科会 包括外部監査への弁護士会・弁護士の取組
~弁護士が包括外部監査人・補助者として果たすべき役割~
第11分科会 入管施設及び精神科病院における支援活動



第1分科会 裁判手続のIT化と新時代の法律事務所
~変わる弁護士業務とセキュリティ~

裁判手続のIT化が加速する中、IT化への対応のみならず、情報セキュリティ対策も弁護士にとって課題である。本分科会では、最新情報の共有や「弁護士情報セキュリティ規程」などについて報告を行った。


裁判手続のIT化

平岡敦会員(第二東京)らは、民事・家事手続等のIT化に関して、e法廷は2024年6月までに証人尋問も含めた口頭弁論に拡大され、家事調停において4庁で試験導入されたウェブ会議について、新たに19庁が加わる予定であると報告した。また、民事判決情報のオープンデータ化については、仮名処理を施した判決情報を情報管理機関に集約し、利活用機関に提供するスキームが検討されていると説明した。


刑事手続のIT化に関して、田岡直博会員(香川県)は、一定のセキュリティ措置を前提とした証拠書類のオンライン閲覧・謄写や、刑事・留置施設とビデオリンク方式で接続された特定の施設(アクセスポイント)での接見などの実現見込みについて報告した。システム構築に向けた調査・研究が開始されていることを受け、日弁連としても被疑者・被告人の権利等が制約されることのないよう注視しつつ、情報セキュリティを確保するための検討が急務であると訴えた。


専門家領域でのデジタル技術と情報セキュリティ

落合孝文会員(第二東京)は、医療分野におけるAIの利活用を例に、テクノロジーを利用するとしても判断主体は専門家であり、専門家の責任においてサービスを提供する必要があると説いた。


宮内宏会員(第二東京)は、「電子署名」の構造を説明し、電子文書の真正が争点となった場合、電子証明書発行時の本人確認情報・メールアドレスと作成名義人との関連性を立証することになると解説した。


吉井和明会員(福岡県)は、本年6月の定期総会で可決された「弁護士情報セキュリティ規程」が2年以内に施行されることを受け、日弁連から示されるモデル案を参考に、弁護士・法律事務所は安全管理措置を講じることはもちろん、漏洩等の事故が生じた場合の体制を事前に構築しておくことが必須であると強調した。


第3分科会 司法アクセスを推進する弁護士費用保険の新たな展開

弁護士費用保険制度の発足から20年余りが経過し、交通事故以外にも一般民事、家事事件や消費者事件などへと対象範囲が拡大している。本分科会では、同様の制度で保険料の税控除を法制化したベルギーの事例を参考に、弁護士費用保険制度のさらなる発展に必要な方策などを議論した。


ベルギー王国元法務大臣のビデオメッセージ


法務大臣在任中、権利保護保険(日本の弁護士費用保険に当たる)の保険料控除の法制化に携わったクーン・ヘーンス氏のビデオメッセージを上映した。ヘーンス氏は、現代社会においては医療援助(medical aid)と同様に法務援助(le-gal aid)が重要であり、そのことを広く市民に認知してもらうことが必要であると語った。



基調報告

山下典孝教授(青山学院大学)は、ベルギー王国で実現した権利保護保険の保険料の税控除制度を説明し、我が国の弁護士費用保険制度に保険料控除を導入する場合の課題を報告した。社会的に重要なインフラである民事司法制度を費用面から支える弁護士費用保険の普及・推進のため、その保険料控除の導入は我が国にとって重要な政策課題であると論じた。


釜井英法会員(東京)は、消費者トラブルでは弁護士費用が問題解決の一つの「壁」となっているが、弁護士費用保険の適用により、「壁」の解消につながるのではないかと期待を寄せた。一方、消費者トラブルで弁護士費用保険を利用し得ることが消費者に周知されておらず、「壁」の解消には至っていないと現状を語り、弁護士においても弁護士費用保険に関する最新情報や知識を備えることが重要であると述べた。


パネルディスカッション

山下教授、釜井会員、佐瀬正俊会員(東京)が登壇し、相談時に弁護士が弁護士費用保険の適用対象となるかを確認するなど、認知向上のための具体的な方策について意見を交わした。裁判を受ける権利を実質的に保障するために弁護士費用保険を普及・推進するには、保険料控除制度の導入が重要な政策課題であるとし、分科会を締めくくった。


第4分科会 やれる!行政弁護

日弁連は、行政処分の前段階から弁護士が手続に関与する「行政弁護」の確立に向けた体制を整えている。本分科会では、行政弁護の実例を紹介し、今後の課題や弁護士会によるバックアップの在り方を議論した。


行政弁護の意義~実践例を踏まえて

保険医に対する行政による指導・監査手続には弁護士の立会権が認められておらず、手続の不透明さや保険医に対する過大な負担が問題視されてきた。


山本哲朗会員(福岡県)および竹内俊一会員(岡山)は、指導への立ち会い、処分がなされる前の交渉、訴訟対応という各段階における弁護士の関与事例を報告し、行政調査に弁護士が関与することは保険医の人権を擁護する活動であると訴えた。竹内会員は弁護士が行政調査に関与することで、保険医だけでなく国にとっても妥当な解決につながる例が多いと語った。


山下清兵衛会員(第二東京)は、税務調査事件の経験を踏まえ、ポイントとなる手続を紹介した。刑事事件に準ずるような制裁(没収)に対しても憲法31条の適正手続の保障が及ぶとした第三者所有物没収事件判決(最大判昭和37年11月28日)を挙げ、弁護士が行政手続に関与することで法の支配・民主主義が実現されると強調した。


パネルディスカッション

山本会員、竹内会員、山下会員に加え、曽和俊文名誉教授(関西学院大学)と橋本賢二郎会員(栃木県)が登壇した。行政弁護を確立するための課題や新たな業務分野としての開拓方法の他、受任をした場合の目標設定、スキルアップの方策など、具体的な実践方法を議論した。


橋本会員は、2022年5月に弁護士会宛てに実施したアンケートでは、行政弁護を推進する委員会等を設置している弁護士会は8会にとどまるものの、任意の団体や研究会などで弁護士会における取り組みの足掛かりとなるような活動が行われていると報告した。


曽和名誉教授は行政も市民も制度の適切な運用という同じ目標を共有しており、行政手続が協調的に実行されることが望ましいとして、行政弁護の実現に向けた日弁連や弁護士会の活動に期待を寄せた。


第6分科会 民事信託と後見制度

高齢者や障がい者が当事者となる民事信託については、任意後見等との併用が必要となる場面が多く、実務的にも関心が高い。本分科会では、民事信託と後見制度の併用・使い分けや併用する際の課題などを議論した。


基調講演「民事信託・任意後見に関する公証実務」

金子順一氏(元公証人・元裁判官)は、公証役場における任意後見契約と信託契約の締結手続や留意点を解説した。いずれも本人の意思確認や親族間紛争の防止のために契約締結の動機を確認することが重要であるが、信託契約は仕組みが複雑なため、より慎重な対応が求められると指摘した。


パネルディスカッション

金子氏、伊庭潔会員(東京)、根本雄司会員(神奈川県)、八杖友一会員(第二東京)、杉山苑子会員(愛知県)、清水晃会員(東京)が登壇し、「民事信託・後見制度の比較、使い分け」、「民事信託・後見制度の併用の実務的課題」をテーマに事例を用いながら議論した。


民事信託と任意後見制度の併用事例では、受託者と任意後見人を兼任することの可否および生じる問題と対応策、任意後見人が適切に権利行使しない場合に任意後見監督人が果たし得る役割などを検討した。また、民事信託と法定後見の併用事例では、成年後見人が信託契約にどこまで関与する権限を有するかなどについて、各パネリストが見解を述べた。


根本会員は、高齢者・障がい者の財産を管理する手法の一つとして民事信託の検討は必須となっていると指摘し、後見制度との併用事例を収集し、さらに検討を深めたいと述べた。八杖会員は、民事信託が財産管理・承継の手段として有用であるとしつつも、親族主導で乱用的に組成される案件も存在するため、委託者(依頼者)の利益が損なわれないよう弁護士が適切なアドバイスを行うことが必要だと強調した。


最後に、伊庭会員が、民事信託の歴史は浅く議論が尽くされていない点もあるが、先例がないからやらないのではなく、必要な支援のためにできることを考えて実践するという姿勢で取り組んで欲しいと締めくくった。

第8分科会 スポーツにおける移籍制限

スポーツ界の移籍制限ルールには選手の人権を制約する側面やチーム間の選手獲得競争を停止・抑制するという独占禁止法上の問題があることが指摘されている。本分科会では、国内外の事例を踏まえ、移籍制限への法的アプローチなどを議論した。


基調講演・報告

公正取引委員会事務総局官房参事官の菱沼功氏は、2018年2月に公表した「人材と競争政策に関する検討会報告書」を解説した。スポーツ事業における人材獲得競争が独占禁止法の適用対象となり得るとした上で、合理性の検討が十分になされていない移籍制限ルールが存在すると述べた。


大橋卓生会員(第一東京)は、弁護士業務改革委員会スポーツ・エンターテインメント法促進PTによる欧米調査の結果を報告した。スポーツへの法適用にはチーム間の戦力の均衡などの特殊性が考慮されていることや、競争法や労使交渉によるアプローチのみでは機能不全が生じ得ることを指摘した。その上で、立場の異なる者が対話を通じて相互理解を深め、共通の問題意識を形成することによって、より良い解決を目指す日本版ソーシャルダイアログ(利害関係者間の対話)の可能性を模索するべきと提唱した。


議論・総括

菱沼氏、川井圭司教授(同志社大学)、移籍制限を経験した峰幸代氏(元ソフトボール日本代表)、プロ野球選手会にも携わる松本泰介会員(第二東京)が登壇したパネルディスカッションでは、社会人・学生スポーツを含む移籍制限の問題を議論した。


峰氏は、社会人スポーツでは選手のほか、連盟等の団体も悩みを抱えているとして法律専門家の協力を要望した。川井教授は、選手を含めた構成員の主体的な意思決定が尊重されるためにはソーシャルダイアログが不可欠であり、その実現に向けて弁護士にリーダーシップを発揮してほしいと語った。


菱沼氏は、日弁連・弁護士会による法整備への提言などにも期待を寄せた。


分科会長の桂充弘会員(大阪)は、日本のスポーツ界には自由に議論する土壌が醸成されておらず、その構築から弁護士が積極的に関わり、スポーツの発展に寄与したいと総括した。


自然災害による被災者の債務整理に関するガイドラインの利用のために災害弔慰金の支給等に関する法律の改正を求める意見書

arrow_blue_1.gif自然災害による被災者の債務整理に関するガイドラインの利用のために災害弔慰金の支給等に関する法律の改正を求める意見書


日弁連は8月19日、災害援護資金の貸し付けについて、自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン(以下「ガイドライン」)による債務の減免を受けられるよう、災害弔慰金の支給等に関する法律(以下「災害弔慰金支給法」)の改正を求める意見書を内閣総理大臣等に提出した。


経緯と背景

災害援護資金の貸し付けは災害弔慰金支給法に基づき、被災者が生活を立て直すための資金を市町村が貸し付ける制度である。また、ガイドラインは自然災害の被災者が法的倒産手続によらずに債務整理を行う際の準則である。2020年12月からは、新型コロナウイルス感染症にも適用されている。

災害弔慰金支給法にはガイドラインによる債務整理の場合に災害援護資金の貸し付けに係る償還債務を減免する規定がない。このため、東日本大震災時の災害援護資金の貸し付けについて、市町村がガイドラインによる減免に応じない事例が複数報告されている。


意見の内容

連続して災害に遭い、一度目の災害時に受けた災害援護資金の貸し付けが、二度目の災害時にガイドラインで減免されないとなると、被災者の生活の立て直しに支障が生じる。また、ガイドラインでは全ての対象債権者から同意を得ることにより債務の減免を受けることができるが、災害援護資金の貸し付けについて市町村が減免に応じないことによって、他の債権者が債務の減免に難色を示し、債務整理の成立に支障が生じる恐れもある。このため、災害援護資金の貸し付けについてガイドラインによる減免を受けられるように、災害弔慰金支給法の改正を求める意見書を公表した。


公的債権にもガイドラインによる減免を

日弁連では2019年4月に、母子父子寡婦福祉資金について、ガイドラインによる債務の減免を受けられるよう法改正を求める意見書(arrow_blue_1.gif自然災害債務整理ガイドラインの利用のために母子及び父子並びに寡婦福祉法の改正を求める意見書)を公表した。公的債権がガイドラインによる減免を受けられない事態が相次いでおり、対応が求められている。

(災害復興支援委員会  幹事 亀山 元)



新事務次長紹介

木原大輔事務次長(東京)が退任し、後任には、10月1日付けで菊池秀事務次長(東京)が就任した。


菊池 秀(きくち すぐる)(東京・55期)

菊池

社会が大きく、急激に変化し、自然災害、感染症、戦争なども加わり、困難に直面される方々が一層増えているように思います。日弁連に期待される役割も大きく、その中で会務に関わらせていただくことに身が引き締まります。勉強しなければいけないことばかりですが、全力を尽くします。





集まれ!未来の法曹たち!!
法曹という仕事
8月16日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif法曹という仕事(法曹三者共催企画)


高校生を対象に、法曹の社会的役割や魅力を紹介するイベントを開催した。昨年に引き続きオンラインで開催し、全国各地から約200人が参加した。

(共催:最高裁判所、法務省)


最高裁判事のメッセージ

三浦守最高裁判事は、法曹は自身の情熱と知識を総動員し、事件当事者のみならず社会全体のために尽力できる、やりがいのある仕事だと語った。進路や職業選択を考える難しい時期にある高校生が法曹に関心を持ち、将来、その一員に加わってもらえたら、これほど嬉しいことはない、とメッセージを送った。

法曹三者による裁判解説

裁判官、検察官、弁護士が登壇し、NHK・Eテレの「昔話法廷・舌切り雀」(被告人である雀が、おばあさんに毒虫のつづらを渡して殺害しようとしたかが争点の裁判員裁判ドラマ)を題材に、証人尋問のポイントや質問の意図、技術的な工夫などを法曹三者それぞれの視点から解説した。赤木竜太郎会員(東京)は、被告人の権利を守るため、事前準備や公判での弁護活動を尽くす弁護人のやりがいを伝えた。


法曹が語る仕事の魅力

裁判官、弁護士、検察官が3つのルームに分かれ、仕事の内容や日常生活の様子などを紹介した。岸知咲会員(第二東京)は、自身の海外生活の経験から、少数者を支える仕事に就きたいと考えて弁護士を目指したと語り、性別に関係なく実力が評価されることもやりがいにつながっていると魅力を述べた。


佐々木さくら会員(東京)は、無罪判決を得た事件における再現実験の苦労話を披露し、探求心が必要とされる仕事だが、一つ一つの事件に真摯に向き合うことによって自信につながる仕事でもあるので、積極的に弁護士を目指してほしいと参加者に呼びかけた。


参加者は、「弁護士志望だが裁判官や検察官の仕事も理解でき、いずれも社会に貢献できる魅力的な職業だと感じた」、「弁護士はフレキシブルな働き方ができると知り、魅力を感じた」、「勉強を頑張って、社会の役に立つ仕事に就きたいと強く思った」などと話し、大いに刺激を受けた様子であった。


2022年日弁連子どもの権利委員会 夏季合宿第1企画
子どもの相談・救済機関の実現に向けて
~こども家庭庁・こども基本法の課題~
8月24日 オンライン開催

arrow_blue_1.gifシンポジウム「子どもの相談・救済機関の実現に向けて~こども家庭庁・こども基本法の課題~」


2023年4月にこども家庭庁が設置され、こども基本法が施行されるが、子どもの権利擁護のための独立機関の設置が見送られるなど課題も多い。本企画では、子どもの相談・救済機関の現状や課題などを取り上げ、議論した。


基調報告

平野裕二氏(子どもの権利条約総合研究所)は、子どもの権利擁護のために政府から独立した子どもオンブズパーソン(子どもの権利擁護機関)などの設置が必要であり、その主要な役割は①子どもの権利が守られているかを監視する、②子どもの代弁者として必要な法制度の改善提案や勧告を行う、③子どもや関係者からの申し立てに対応し、必要な救済を提供する、④子どもの権利に関する教育・意識啓発を行うことにあると指摘した。また、各国の子どもの権利擁護機関の体制や活動を紹介し、日本で設置する際の参考となると述べた。


子どもオンブズパーソンの活動紹介

平尾潔会員(第二東京)は、世田谷区「せたがやホッと子どもサポート」が継続的な活動によって教育現場の信頼を得て、学校と協力して事案の解決に取り組んでいることを紹介した。


川崎市人権オンブズパーソン委員の大㟢克之会員(神奈川県)は、学校に関する生徒からの相談に基づき、オンブズパーソンが当事者へのヒアリングを行うなど学校との調整に入ったことによって、問題の本質が明らかになり、信頼回復に至った事例を紹介した。生徒の言葉に耳を傾け、寄り添うことの重要さを改めて感じたと述べた。


粕田陽子会員(愛知県)は、名古屋市子どもの権利相談室「なごもっか」での活動を通じて、子どもの権利に関する知識、認識の不足が問題の背景にあると感じ、「生徒指導提要」の改訂を求める意見書を文部科学大臣等に提出したことを紹介した。


パネルディスカッション

4人の登壇者が、地方自治体においては個別の権利侵害事案を救済する仕組みが実現しつつあるとし、国が子どもを大切にしているとのメッセージを発信するためにも、子どものための政策提言などを行う独立した専門機関を国に設置する必要があると強く述べた。


シンポジウム
憲法的価値から考える個人情報保護
8月24日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif憲法的価値から考える個人情報保護


2020年および2021年の法改正により個人情報保護制度は大きく変わった。しかし、自己情報コントロール権(情報プライバシー権)が憲法上の権利として尊重されるべきことが明確にされず、個人情報の利活用に偏っているなどの問題点が指摘されている。

本シンポジウムでは個人情報保護に関する論点を広く取り上げ、議論を深めた。


自己情報コントロール権の位置付け

山本龍彦教授(慶應義塾大学大学院)は、憲法学上、プライバシー権に自己情報コントロール権の側面があることは通説となっており、判例からもその趣旨を読み取ることができるが、権利として確立するにはさらに精緻な議論が必要であると説いた。


石井夏生利教授(中央大学)は、個人データの保護が基本的人権として制度化されているGDPR(EU一般データ保護規則)と比較し、日本では自己情報コントロール権と個人情報保護法の関係を明確にすることが課題だと指摘した。


個人情報保護委員会の現状と課題

赤石あゆ子会員(群馬)は、法改正により、個人情報保護委員会に個人情報の利活用を促進する権限が付与されたため、個人情報保護の機能が十分に発揮できるのか疑問だと指摘した。また、監督官庁に対して権限の委任が認められていることや、委員構成が均衡を失した状態となっていることなど、独立性、専門性の観点からも問題があり、制度面・運用面ともに速やかな改善が必要だと訴えた。


パネルディスカッション

自己情報コントロール権に関連する裁判例、オンラインプライバシー通知と同意の国際規格などを題材に、保護対象とすべき個人情報の範囲、自治体に対して法で統一基準を示すことの可否など、多角的な視点から個人情報保護の在り方を検討した。


玉蟲由樹教授(日本大学)は、ドイツにおける情報自己決定権に関する議論を紹介し、個人情報の強制取得および本人の意思に基づかない保存・利用に対しては法律の留保が貫徹されるべきこと、個人情報の取り扱い全般については情報の機能に応じた比例原則に基づく扱いを徹底することが重要であると論じた。


第8回
京都大学大学院法学研究科法曹養成専攻 共催
公法系訴訟サマースクール
8月26日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif第8回公法系訴訟サマースクール


弁護士、法学研究者、実務家・研究者教員、法科大学院生などが参加し、公法系訴訟についての理解を深めるサマースクールを2日間にわたって開催した。

 

本稿では「行政事件の実際を学び、基礎力を付ける」をテーマに、弁護士が具体的事件を題材に行った講義を紹介する。


公法系教育の充実と実務・理論の架け橋の場として

開講に当たり、酒井啓亘教授(京都大学大学院)は、本スクールが公法系教育の充実に寄与し、将来の公法系訴訟を担う法曹を養成するとともに、実務と理論をつなぐ重要な機会になると、その意義を述べた。


再婚禁止期間違憲訴訟と夫婦別姓訴訟

作花知志会員(岡山)が、女性の再婚禁止期間を定めた旧民法733条1項の違憲訴訟と夫婦別姓訴訟の争点等を報告した。


一部違憲判決が出された再婚禁止期間違憲訴訟では、日本も締約国である自由権規約と女性差別撤廃条約の各条約機関から民法733条1項を廃止するべきとの勧告を受けていることなどを立法事実として構成したと解説した。


夫婦別姓訴訟については、日本国籍者同士の離婚や一方が外国籍者の婚姻と離婚では戸籍法上の氏を称する制度がありながら、日本国籍者同士の婚姻にはないことの合理性を争った事案のほか、両親が氏の変更を望まないため婚姻せずに出生した子の立場から提起する新たな訴訟への取り組みを紹介した。


作花会員は、司法権の担い手となる法曹には、目に見えないが確かに存在する正義や公平を鋭く感じ取り、それを法解釈論として提示して、新しい法規範を創造していくことが求められると語った。


公共用地取得に関する住民訴訟

市長の職務経験もある山下真会員(大阪)は、奈良市に対する住民訴訟を報告した。


公共用地購入代金として、市が鑑定価格の3倍以上を売主事業者に支払うなどした事案で、2021年2月26日、大阪高裁は住民側の主張を認め、市に対し、市長と売主事業者に金員支払請求をなすよう命じた。


山下会員は、首長が与党所属では議会によるチェックが機能せず、首長が任命する監査委員制度の実効性も十分でないと指摘し、住民訴訟は健全な地方行政の最後のとりでであり、その地道な取り組みが地方公共団体における法の支配につながると説いた。


JFBA PRESS-ジャフバプレス- Vol.173

調停制度発足100周年
民事調停委員インタビュー
当事者の話を聞いて、紛争の本質を見つめ、解決に向けて話し合う

1922年の借地借家調停法施行に始まる調停制度は、本年10月1日、発足100周年を迎えました。その節目に当たり、民事調停委員(以下「委員」)を務める宇多正行会員(東京・東京地裁)、奥田かつ枝氏(不動産鑑定士・東京地裁)、船島伸広会員(東京・東京簡裁)にお話を伺いました。

(広報室嘱託 田中和人)


民事調停制度の特徴など

(船島)「互譲により、条理にかない実情に即した解決を図る」(民事調停法第1条)ということが、民事調停の最たる特徴だと思います。勝ち負けを決めるのではなく、当事者が互いに譲歩しながら、どちらも納得できる解決の形を柔軟に考えるという姿勢で調停に臨んでいます。


(宇多)調停主任(裁判官・民事調停官)とともに、多様な知識や経験を持つ委員が調停委員会を構成して事件の解決を図ることも大きな特色だと思います。私が関与した事件でも、建築、不動産、医学など、さまざまな専門分野の委員とともに、事案の理解を深め、複数の視点から解決策を考えていました。


(奥田)委員が専門的な知識や経験に基づき意見を述べるという点も、調停の特徴です。本案訴訟から調停に付された事件で、調停不成立時に調停委員会の意見を調書に記載することもあります。調停が成立しなくても、その意見を調停手続の一つの成果として、本案審理で活用してもらうことができます。


このほか、調停に代わる決定が出る場合もあります。私の経験では、これによって解決した事件もあります。


民事調停制度を支える〜調停委員の役割とやりがい

(奥田)期待されていることは不動産評価に関わる知見の提供だと思います。ただ、専門家として適正と思われる判断であっても、それで簡単に解決するような事案は必ずしも多くありません。紛争解決は本当に難しい作業で、いつ、何を、どのように伝えるべきかを常に考えます。委員の仕事は多くの時間を要しますが、当事者だけでなく社会への貢献でもあり、大きなやりがいを感じています。


(宇多)弁護士委員の場合、法的知識だけでなく、当事者の感情的対立を解きほぐすことや利害を調整することなど、事案解決の経験への期待を感じます。当事者代理人の立場や苦労を理解できるというのも、紛争解決のプロセスでは重要だと思います。大変ですが、当事者双方が納得し調停が成立することには大きな喜びがあります。


(船島)調停主任が立ち会わない調停期日では、弁護士委員が進行役を担うこともあります。事件は多種多様で、代理人が就いていない事件もたくさんあります。苦労は多いですが、当事者の間に立って利害を調整することには、代理人としての弁護士の業務とは違ったやりがいや充実感があります。


会員へのメッセージ

(宇多)社会で起こる紛争の解決には、ゼロか百かでは割り切れず、民事調停が適する事案は多いと思います。非公開なので当事者本人も話しやすく、相手方の主張や言い分、話し合いの進捗状況がよく分かるなど、紛争解決手段としての長所がたくさんあります。手続の柔軟さも、工夫次第で活用の幅を広げられる利点の一つです。会員の方は、民事調停の利用をぜひご検討ください。


(船島)民事調停は、「争」より「和」に重点が置かれた紛争解決手段です。委員と当事者代理人とは立場の違いはありますが、ともに調停による解決を志向する点では同じです。それぞれが制度の目的や特徴を踏まえて、当事者の感情にも気を配りながら、より良い解決を共に考えることで、充実した調停ができることを期待しています。


(奥田)ある裁判官から、「AとBが1個のオレンジの所有権を争い、半分ずつでは納得しません。ただ、話をよく聞いてみると、Aはお菓子を作るためにオレンジの皮を、Bはジュースを作るために果肉を必要としていました。そうすると、Aは皮を、Bは果肉を取得することにすれば、双方が求めるものを得ることができます。」という話を聞きました。


実際の事件はこのように単純ではありません。ただ、民事調停は、紛争の本質を常に対立状態とみるのではなく、当事者の話をよく聞いて、それぞれが何を求めているのかを追究し、潜在的な利害を見極めて、話し合いを基本に創造的・協調的解決を目指すものだと思います。今回の話が、民事調停活用の一助となるなら嬉しく思います。


日弁連委員会めぐり117 弁護士会照会制度委員会

arrow_blue_1.gif弁護士会照会制度(弁護士会照会制度委員会)


今回の委員会めぐりは、弁護士法23条の2に基づく照会(以下「照会」)に関する検討等を行っている弁護士会照会制度委員会(以下「委員会」)です。橋田浩委員長(大阪)、富田隆司副委員長(愛知県)にお話を伺いました。

(広報室嘱託 花井ゆう子)


委員会の構成・活動概要

委員会は現在4つの部会と1つのPTで構成されています。


第1部会は、弁護士会照会制度全国担当者連絡協議会などを開催し、弁護士会での審査における問題点や照会先から回答を得るための工夫など、委員会で集めた情報を弁護士会に提供するとともに各弁護士会が持つ有益な情報を共有する役割を担っています。


第2部会は、回答拒否の傾向にある照会先や業界団体と懇談会等を行い、制度に関する理解を深めてもらう活動を行っています。ここでの成果が照会の成否に直結するため、とても重要な活動と言えます。


第3部会は回答拒否事例の収集と分析を、第4部会は法改正に向けた検討や弁護士会の審査担当者向けマニュアルの作成などを担っています。適切かつ慎重に審査を行うことによって、照会先からの制度に対する信頼につながり、ひいては照会の実効性にもつながっていくと考えています。


トピックス

・オンライン化
2021年度にオンライン化PTを立ち上げ、弁護士会における照会の申出、審査および回答交付までの一連の手続(照会先との受発信を除く)をオンラインで行うことを目指してシステム開発を進めています。いつでもどこからでも照会申出ができるようになれば、会員の利便性は高まるものと考えています。


・SNS関連の照会
詐欺加害者の特定など、SNSに関連した照会申出が増加しています。委員会でも業界団体に働きかけを行い、運用改善に努めています。


・その他
これまで回答を拒否していた金融機関等でも運用変更が予定されています。会員へのメッセージ

委員会は、弁護士の業務に直結する重要な制度を担っており、各委員が高い意識を持って活動に当たっています。今後も照会制度の適正な運用に向けた取り組みを継続していきます。会員の皆様には弁護士会での審査等へのご協力をお願いいたします。


ブックセンターベストセラー(2022年8月・手帳は除く)
協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名 出版社名
1

弁護士職務便覧 令和4年度版

東京弁護士会、第一東京弁護士会、第二東京弁護士会/編 日本加除出版
2

詳解 相続法〔第2版〕

潮見佳男/著 弘文堂
3

婚姻費用・養育費の算定〔改訂版〕

松本哲泓/著 新日本法規出版
4 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務 片岡 武、菅野眞一/編著 日本加除出版
5

判例にみる離婚慰謝料の相場と請求の実務

中里和伸/著 学陽書房
6

離婚に伴う財産分与

松本哲泓/著 新日本法規出版
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7士業が解説 弁護士のための遺産分割

狩倉博之/著 学陽書房

ストーリー 法人破産申立て

野村剛司/監修 小川洋子、森本 純、今井丈雄、岡田雄一郎、河野ゆう、森 智幸、浅井悠太、丸島一浩、菅納啓文、山本隼平/著 きんざい

不貞行為に関する裁判例の分析

大塚正之/著 日本加除出版
10 即解330問 婚姻費用・養育費の算定実務 松本哲弘/著 新日本法規出版
明日、相談を受けても大丈夫!慰謝料請求事件の基本と実務 長瀨佑志/著 日本加除出版



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順位 講座名 時間
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2 民事執行・保全、各種倒産、家事事件手続、非訟事件手続等のIT化に関する全国勉強会 180分
3 民事信託入門-民事信託を正しく活用するために 119分
4 家族法制に関する全国勉強会 113分
5 令和3年民法・不動産登記法改正,相続土地国庫帰属法のポイント 118分
6 これで分かる改正・公益通報者保護法

46分

7 よくわかる最新重要判例解説2022(労働) 112分
8 知っておきたい養育費の履行確保制度とひとり親家庭の社会保障制度

166分

9 2015年度ツアー研修 第3回 中小企業との業務における会社法~相談で使う会社
法・裁判で使う会社法
112分
10 【コンパクトシリーズ】戸籍・住民票等の取得(職務上請求)の基本~戸籍、住民票の写し、固定資産評価証明書、自動車の登録事項等証明書の取得について~ 34分

お問い合わせ先:日弁連業務部業務第三課(TEL:03-3580-9927)