日弁連新聞 第557号

民事裁判手続等IT化研究会報告書に対する意見書を提出

arrow_blue_1.gif「民事裁判手続等IT化研究会報告書-民事裁判手続のIT化の実現に向けて-」に対する意見書


日弁連は6月18日、「民事裁判手続等IT化研究会報告書―民事裁判手続のIT化の実現に向けて―」に対する意見書を取りまとめ、最高裁判所長官、法務大臣および法制審議会会長宛てに提出した。意見書は、各弁護士会および関連委員会に対する意見照会の結果を踏まえ、民事裁判手続等のIT化に関する検討ワーキンググループで検討を重ねた上で取りまとめられたものである。


意見書では、日弁連が、裁判所へのアクセスを拡充し、審理を充実させ、適正かつ迅速な紛争解決を図るためには裁判手続等のIT化が重要課題の一つであると位置付け、これを推進すべきであるとしてきたことに触れ、研究会報告書も民事裁判手続のIT化を推し進めようとするものであることから、この基本的方向性に賛意を表している。


他方、具体的な制度設計に当たっては、裁判を受ける権利を後退させないのは当然のこととした上で、民事裁判における諸原則との整合性を図るべきものと考えること、情報セキュリティの確保、プライバシーや営業秘密の保護なども不可欠であることを指摘している。また、裁判手続等のIT化は、裁判所へのアクセスを拡充し、身近で利用しやすい民事裁判を実現するための手段であるという視点から、IT機器を保有しない者やその取り扱いに習熟しない者に配慮した手続や支援制度の構築が求められること、裁判所支部の統廃合など司法過疎を拡大する方向での議論は厳に慎まれるべきであること、さらには、非弁活動の温床を生むような弊害を生じさせない制度の設計が必要となることにも言及している。


6月19日には法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会の第1回会議が開催されており、日弁連としては、同部会の委員を通じて意見が適切に反映されるよう努めていきたい。


(事務次長 藤原靖夫)


*意見書は日弁連ウェブサイト(HOME≫公表資料≫意見書等≫year≫2020年)で、法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会の議論状況および資料等は法務省ウェブサイトで、それぞれご覧いただけます。



ひまわり基金法律事務所20周年
司法アクセス障害の解消を目指して

2000年6月に石見ひまわり基金法律事務所が開設されてから、本年で20周年を迎えた。


ひまわり基金法律事務所は、日弁連や各地の弁護士会、弁護士会連合会の支援を受けて、弁護士過疎地域に設立・運営される法律事務所であり、その設立・運営支援の原資として日弁連ひまわり基金が用いられるため、「ひまわり基金法律事務所」または「公設事務所」と呼ばれている。


設立当初、マスコミからは、当番弁護士に続く「日弁連の第2のヒット商品」と評価され、本年7月までに累計121の事務所が全国各地に設置された。


この20年間で、弁護士過疎・偏在対策は大きな進展を遂げた。従前からの各地域における弁護士過疎地型法律相談センターへの財政的支援に加え、弁護士偏在解消対策地区における独立開業支援制度が新設され、赴任弁護士を養成する制度の拡充も図られた。また、日本司法支援センター(法テラス)でも、司法過疎対策業務が行われることになった。


これらの制度によって、地方裁判所支部単位における弁護士ゼロワン地域は、2000年4月時点で203か所中71か所であったが、本年7月現在、弁護士ワン地域が2か所にまで減少し、司法アクセス障害は大きく改善されている。


もっとも、現在も地理的なアクセス障害は生じており、継続的な活動が必要である。20年間で弁護士ゼロ地域は解消できたが、断続的にワン地域が発生している。また、7月1日現在36のひまわり基金法律事務所が稼働しているが、所長弁護士は任期制のため、赴任弁護士の安定的な養成が必要不可欠である。


いつでも、どこでも、だれでも相談・依頼できる体制整備のため、日弁連ひまわり基金へのご理解、ご協力をお願い申し上げたい。


(日弁連公設事務所・法律相談センター  副委員長 林 信行)




ひまわり

梅雨が明け、暑い季節がやってくる。高校生にとっては、学業以外のスポーツや文化等に情熱を注いだ3年間の集大成となるさまざまな大会が開催される季節である▼今年は、残念ながら夏の甲子園大会と呼ばれる全国高等学校野球選手権大会やインターハイなど数多くの大会が中止となった。納得ができず、やり場のない想いに苦悩する当事者たちの姿が目に浮かぶ。他方で、大人たちの同情や心配をよそに、現実を受け止め、しっかりと気持ちを切り替えて前に進みはじめている高校生たちが確実にいる。こうした場面では「おとな」と「こども」の区分けは特段の意味をなさない▼いまの高校3年生は、令和4年4月2日から翌年4月1日までの期間に20歳の誕生日を迎える。令和4年4月1日に民法の成年年齢が18歳に引き下げられると全員が20歳の誕生日を前に「成年」になる。いまの高校2年生も同時に「成年」になる▼「成年」になるとはどういうことか。「人」としての成長発達の度合いは突然には切り替わらない。個々の成長発達の速度に応じて徐々に「おとな」になっていく。社会はこの成長発達を見守っていく必要があるだろう▼少年法改正問題が急展開している。「こども」たちの成長発達にどう向き合うべきか、社会的な議論が望まれる。


(K・O)



新型コロナウイルス感染拡大への日弁連の対応

会長声明の公表

日弁連は、新型コロナウイルス感染拡大により生じ得るさまざまな問題に関して、4月・5月に引き続き6月には3本の会長声明を公表した。


新型コロナウイルス感染拡大を契機として経済的困窮に陥った個人や事業者に関連するものとして、6月3日に「低賃金労働者の生活を支え、地域経済を活性化させるために最低賃金額の引上げと中小企業支援強化並びに全国一律最低賃金制度の実施を求める会長声明」を、6月17日に「事業者向けにファクタリングを装って違法な貸付けを行う業者の取締りの強化を求める会長声明」を公表した。また、政府の対応の在り方に対する提言として、6月11日に「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の開催された全ての会議について発言者と発言内容を明記した議事録作成を求める会長声明」を公表した。


相談事業の実施

全弁護士会の協力を得て4月から実施してきた新型コロナウイルス関連法律相談事業(弁護士からのコールバック方式による法律相談)は、各弁護士会の法律相談業務体制の回復に伴い7月22日受付分をもって終了した(7月22日時点での受付件数は1727件)。


「ひまわりほっとダイヤル」による新型コロナウイルス関連の相談を初回30分無料(6月1日以降は一部地域を除き初回30分無料)とする対応は、現在も継続中である。


会員向け情報の提供

日弁連は、新型コロナウイルス感染拡大による問題への対応等に関して、さまざまな情報を会員専用ページに掲載している。非対面による相談・依頼のさらなる増加が想定される中、マネー・ローンダリング等に巻き込まれないよう、依頼者の本人特定事項の確認徹底に関する注意喚起文書を掲載した(*1)。また、日弁連執行部等が参加した国際会議で議論された新型コロナウイルス感染症拡大への対応に関するトピック一覧(*2)なども掲載している。


◇    ◇


(*1) HOME≫書式・マニュアル≫事務所経営関係≫事務所経営・採用≫新型コロナウイルス感染症に関連する法律事務所の運営などで役立つ情報


(*2) HOME≫国際活動・海外展開≫国際会議への参加≫国際会議で議論された新型コロナウイルス感染症拡大への対応に関するトピック一覧



日弁連短信

法務省「養育費不払い解消に向けた検討会議」に対する日弁連の対応

557_1.png緊急事態宣言が解除されたものの東京都では新型コロナウイルスの感染者数が200人を超える日が続くなど、予断を許さない状況が続いている。弁護士会館が開放され、日弁連では通常業務や委員会などの活動が再開されたが、三密を避けるため、Zoomを試験的に利用したウェブによる会議、職員のテレワーク、イベントの中止・延期・ウェブ開催など段階的な試行錯誤の連続であり、完全に元に戻るにはまだまだ時間がかかるようである。


大変残念だったのは、11月に鹿児島で予定されていた人権擁護大会が開催されなくなったことである。鹿児島県弁護士会にとって57年ぶりの開催ということで内定段階から精力的に準備に取り組まれていたことから、ご関係者の心情を察するに余りある。コロナ禍という非常時における同弁護士会のご英断には敬意を表するとともに、近い将来鹿児島で大会が開催されることを切に願う。


このような状況の中で、養育費の支払確保につき法務大臣の養育費勉強会が取りまとめを行ったことを踏まえて、法務省に「養育費不払い解消に向けた検討会議」(以下「検討会議」)が設置され、第1回会議が6月29日に開催された。会議は月2回開催され、9月には中間報告、12月には答申を行うことを目指すとされている。


養育費勉強会取りまとめでは、公的な立替払制度の創設、民間保証も併用するなど立替払いにとどまらない多様な複層的選択肢の提供、養育費取立・回収についてサービサー等民間機関の活用、養育費問題の専門弁護士認定制度の創設など斬新な意見が述べられている。日弁連は、検討会議の日弁連推薦委員等をバックアップするため、伝統的に養育費問題を取り扱ってきた家事法制、両性の平等、子どもの権利、司法制度調査会の各委員会のほか、斬新な意見にも対応できるよう業際・非弁・非弁提携問題等対策本部、債権回収会社に関する委員会、民事裁判手続に関する委員会からもバックアップに入っていただいて、多角的な視点から養育費の支払確保について議論ができるよう体制を整えている。


検討会議の日程は上記のとおりタイトであるが、養育費の支払確保は子どもたちの生活ひいてはその生命に関わる問題であることから、日弁連は積極的に関与していく所存である。


(事務次長 永塚良知)




「全国一斉女性の権利110番」を実施

日弁連は1991年、両性の平等に関する委員会の前身である女性の権利に関する委員会の設置15周年を機に、各地の弁護士会の協力を得て、電話相談「全国一斉女性の権利110番」を実施した。以来現在に至るまで毎年1回「110番」を行っており、弁護士会によっては面談相談やLGBTの権利に関する相談についても対応している。


近年、「110番」は6月23日から29日までの間の男女共同参画週間に合わせて実施しているが、2020年度は、準備期間に新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言が重なり、日弁連、弁護士会とも業務が縮小される中での準備を余儀なくされた。そのため、多くの弁護士会は当初の予定通りの期間に実施したものの、2割弱の弁護士会が実施を見送ったり、7月以降に実施時期を変更することになった。


7月7日時点の途中集計結果によると、相談件数は479件であった。近年の相談件数が600件台であり、実施を見送ったり時期を変更した弁護士会があることを考慮すると、概ね例年と同程度の相談があったものと考えられる。


各弁護士会において法律相談体制が整備されつつある現在、全国一斉に「110番」を実施することの意義について今後とも検討を加え、時代の要請に合ったものにしたいと考えている。


(両性の平等に関する委員会第3部会 部会長 本田正男)


*実施結果については、日弁連ウェブサイト(HOME≫私たちの活動≫人権擁護活動≫両性の平等(両性の平等に関する委員会)でご覧いただけます。2020年度の結果は2021年1月以降掲載予定です。



日弁連総合研修サイト5つの活用ポイント

本紙7月号では、日弁連総合研修サイトのリニューアルについてご紹介しました。

今回は、日弁連総合研修サイトの具体的活用法をご紹介します。


移動中の隙間時間等に最適!音声のみ再生

全国から、「運転中にも聞いているが、動画のため媒体の容量が重く、バッテリーと通信制限を気にしてしまう」との声を多くいただきました。


そこで、今回のリニューアルで、音声のみを再生できるようになりました。ラジオのように使えますので、ぜひお試しください。


チャプターごとの視聴で時短!

「ある講座のある部分だけ視聴したい」。そういう場合は、特定のチャプターのみの視聴をお薦めします。


例えば、「『コロナ倒産』を回避する!危機対応の資金繰り対策」は全体で3時間の講座ですが、11のチャプターに分かれていますので、仕事の合間などに必要な部分だけをサッと視聴することができます。


倍速再生でさらに時短!

倍速再生の機能が付いていますので、視聴時間をさらに短縮することができます。(一部講座を除く)


資料だけでも

すべての講座について、資料のみダウンロードすることもできます。動画を視聴する時間がない場合は、まず資料だけダウンロードして有効活用することが可能です。資料には書式などが含まれる講座もあります。


研修ステップアップガイドから講座を探す

ホームボタンの2つ右隣、ちょうどジャフバの下の「研修ガイド」をクリックした先にある「研修ステップアップガイド」には、ほぼすべての講座がカテゴリやレベルごとに分類して掲載されています。全講座の地図のようなイメージで、体系的に視聴したい講座を検索できるので、ぜひご活用ください。紙媒体の「研修ステップアップガイド」が本号に同梱されていますので合わせてご覧ください。


(研修・業務支援室  嘱託 得重貴史)



日本弁護士連合会 総合研修サイト

eラーニング人気講座ランキング(刑事編) 2020年6月~7月

日弁連会員専用ページからアクセス

順位 講座名 時間
1 交通事故刑事弁護士費用保険について 22分
2 刑事弁護の基礎(捜査弁護編) 136分
3 刑事弁護の基礎(公判弁護編) 132分
裁判員裁判法廷技術研修 152分
5 少年事件(環境調整) 162分
6 【コンパクトシリーズ】接見の基本 34分
7 【コンパクトシリーズ】証拠開示の基本 24分
必見!裁判員裁判 A to Z

203分

9 少年事件 172分
10 【コンパクトシリーズ】身体拘束からの解放の基本 24分

お問い合わせ先:日弁連業務部業務第三課(TEL:03-3580-9902)