新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の開催された全ての会議について発言者と発言内容を明記した議事録作成を求める会長声明


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 新型コロナウイルス感染症対策専門家会議(以下「専門家会議」という。)は、新型コロナウイルス感染症対策本部に対し医学的見地から助言等を行うために開催されている。専門家会議が行政文書の管理に関するガイドライン(以下「ガイドライン」という。)上の懇談会に該当することは、政府も認めている。これまでに公表されているものは議事録ではなく議事概要にとどまり、発言者も記載されていない。


ガイドラインは、懇談会について、平時・緊急時を区別することなく、「経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができるよう・・・発言者及び発言内容を記載した議事の記録」を作成すべきことを明記している。そして、発言者及び発言内容の記載は、公文書管理法1条、4条の趣旨を踏まえて、意思決定の過程なり事務事業の実績を跡付け検証できるようにするために、会議の記録の名称のいかんを問わず、必須であると説明されてきた。


さらに、東日本大震災時に議事の記録が作成されなかった反省を踏まえ「歴史的緊急事態」に関する留意事項が追加されたが、それは「国家・社会として記録を共有すべき歴史的に重要な政策事項であって、・・・その教訓が将来に生かされる」べき「歴史的緊急事態」の場合には、より一層検証の必要性は高く、後日意思決定過程の検証ができるよう発言者及び発言内容の記載を残すべきであると考えられたからである。


したがって、現在の専門家会議の議事概要は、発言者の記載がない上、経緯を含めた意思決定に至る過程が分かるようになっていない点で、ガイドラインに違反している。発言者と発言内容が記載された議事録を作成すべきである。


この点について政府は、①専門家会議が、ガイドラインの定める「歴史的緊急事態」における「政策の決定又は了解を行う会議等」に該当しないので、「発言者及び発言内容等を記載した議事の記録」を作成する必要はなく、また②専門家に率直かつ自由な議論をしてもらうために発言者を特定しない形の議事概要を作成することで適切に対応していると述べた。さらに、③今後開かれる専門家会議の議事概要については、構成員の意見を聞いた結果、発言者を明記することとしている。


しかし、この政府見解によれば、①議事の記録について、平時には発言者名の記載が要求されるのに、「歴史的緊急事態」においては、記載の簡略化が許されることになる。これは重要な記録の保存という公文書管理法の趣旨に反し明らかに不合理である。


また、②感染症の専門家が、議事の記録に発言者名を記載されることで、自己の専門分野に関する発言が困難になる事態は想定しがたい。仮にそのようなおそれがあれば、該当部分の開示不開示の問題として別途検討すれば足りるのであり、そもそも文書を作成しない理由にはならない。


さらに、③議事の記録の在り方は、公文書管理法及びそれを受けたガイドラインに沿って決められるべきであり、会議出席者の意見に左右されるべきではない。


以上述べてきたように、当連合会は、専門家会議について、公文書管理法及びガイドラインの趣旨に立ち返り、開催された全ての会議において、後日意思決定過程の検証ができるよう発言者及び発言内容を記載した議事録の作成を求めるものである。



 2020年(令和2年)6月11日

日本弁護士連合会
会長 荒   中