日弁連新聞 第551号

令和元年台風
災害対策本部を設置

本年発生した台風第15号および第19号による一連の災害により、関東甲信越・東北地方を中心に河川の氾濫、家屋の浸水が発生し、多数の方が亡くなるなどの甚大な被害が生じたことを受け、日弁連は10月15日に災害対策本部を立ち上げた。東日本大震災や平成30年7月豪雨災害などこれまでの災害対応の経験を踏まえ、関係各所と連携・調整をしながら、被災地弁護士会の活動を支援するための施策を行っていく。


その一環として、被災地弁護士会による被災者支援の活動費用などに充てるため、義捐金の募集を開始した。ぜひ多くの会員にご協力いただきたい。(振込先等は別欄に記載のとおり)


被災者の生活が一刻も早く日常に戻るよう、被災地弁護士会による息の長い被災者支援の活動を支えていく決意である。

(事務次長 奥 国範)


義捐金の振込先

三菱UFJ銀行 東京公務部
普通預金1006466 ニホンベンゴシレンゴウカイ
*振込みの際には必ず振込人の氏名の前に登録番号を付けてください。
〈お振込みに当たって〉
※使途は日弁連にご一任ください。
※寄付金控除の対象となりません。
※詳細は日弁連ウェブサイト内会員専用ページをご確認ください。
【お問い合わせ先】日弁連人権部
人権第二課 TEL:03−3580−9969



検察庁内の同行室における食事中の手錠の使用に関する人権救済申立事件
神奈川県警察本部および警察庁に対し勧告

日弁連は10月21日、検察庁内の同行室における食事中の手錠の使用に関する人権救済申立事件について、神奈川県警察本部(以下「神奈川県警」)および警察庁に対し、食事時に一律に両手錠を施したままにする運用を改めることなどを勧告した。


神奈川県警では、被留置者を横浜地方検察庁(本庁および支部)の同行室内で待機させる際、食事時に一律に両手錠を施したままにする運用(以下「本件運用」)がなされている。しかし、具体的な必要性および相当性が認められない場合にまで一律に食事時に両手錠を施すことは、被留置者の品位を傷つけ人格権を侵害する取り扱いであり、憲法13条、自由権規約7条に違反する人権侵害に当たる。


そこで、神奈川県警に対し、本件運用を、具体的な必要性および相当性の認められる場合にのみ限定する運用に直ちに改善するよう勧告した。


また警察庁に対しては、神奈川県警およびその他の都道府県警について、本件運用と同様、食事時に一律に両手錠を施したままにする運用がなされていないかを調査し、そのような運用がなされている場合には、直ちに改善を指導するよう勧告した。


本件運用に関しては、過去に被留置者が本人訴訟で神奈川県に対して国家賠償請求訴訟を提起し、横浜地裁は両手錠の運用の必要性と相当性を認めて棄却判決を出している。


しかし、全国の弁護士会に照会したところ、横浜地方検察庁の同行室以外で昼食時に両手錠を施す取り扱いがなされていることが確認できたのは、東京地方裁判所の仮監房のみであり、より被留置者の多い東京地方検察庁や名古屋地方検察庁、さいたま地方検察庁の同行室では食事時に両手錠を施した実例報告はなかった。この結果からも本件運用の人権侵害性を認定することができた。


今後も品位を傷つける両手錠の運用がなされていないか、全国の弁護士会で実態を監視していただきたい。


(人権擁護委員会第2部会  特別委嘱委員 大橋さゆり)



「刑事法廷内における入退廷時に被疑者又は被告人に手錠・腰縄を使用しないことを求める意見書」を公表

日弁連は10月15日、「刑事法廷内における入退廷時に被疑者又は被告人に手錠・腰縄を使用しないことを求める意見書」を取りまとめ、21日に法務大臣、警察庁長官および最高裁判所長官に提出した。

 

意見書では、裁判官に対して、被疑者または被告人(以下「被告人等」)が手錠・腰縄(以下「手錠等」)をされた姿を誰の目にもさらさない運用に改めること、法務省および警察庁に対して、同運用を刑事収容施設の職員に周知徹底すること、最高裁判所、法務省および警察庁に対して、同運用の実現のため具体的方策等を速やかに検討し、日弁連との四者協議を設けることを求めている。


無罪推定の原則には、有罪である者として取り扱われない権利が含まれており、罪人であることを想起させる手錠等をされた姿のまま法廷に入退廷させることは問題である。ほかにも、手錠等の使用による心理的萎縮が招く防御権侵害の問題、対等当事者の地位の観点からの問題など、現在の運用には、被告人等の権利・利益を損なう多くの問題がある。


現在の運用に関して、元被告人が起こした国家賠償請求訴訟では、本年5月27日に大阪地方裁判所が、手錠等をされた姿を見られたくないとの被告人の利益・期待は法的保護に値するとし、法廷警察権を行使すべき立場にある裁判長は、刑務官等に対し、手錠等の解錠および施錠について具体的な指示をすべきであったと判示した。


この判決以降、弁護人が裁判所に対して、被告人等が手錠等をされた姿をさらさないよう配慮を申し入れた場合、何らかの配慮がされる事例が各地で増えている。


この問題は、長い間見過ごされてきた人権問題である。意見書の公表を機に、現在の運用を是正させる活動を全国で広げなければならない。

(人権擁護委員会手錠・腰縄問題プロジェクトチーム  特別委嘱委員 川﨑真陽))



第32回 LAWASIA 年次大会報告
11月5日~8日 香港

アジア・太平洋地域の法律家団体であるLAWASIA(ローエイシア)の年次大会が香港で開催された。一連の抗議活動が続く中、会議の開催も危ぶまれたが、予定どおり開催され、日弁連からは白副会長が出席した。


開会式では、ホスト団体である香港律師會のメリッサ・パン会長をはじめ、開催地の最高裁判所長官や司法長官らが、この時期に香港でLAWASIAの年次大会を開催することで法の支配・基本的人権の保障の重要性を再確認する意義を繰り返し強調した。加えて、一国二制度という特色の下でリーガルサービスをどのように活かすかといった、現在の状況を反映した発言も多く、興味深いものとなった。また、近年日弁連も積極的に取り組んでいるビジネスと人権に関し、「アジア太平洋地域の弁護士向けガイド」が発行された。


会議ではデータ保護、環境と人権、ADR、一帯一路といった最新のテーマが取り上げられ、アジア・太平洋地域の各地から参加した人たちの間で、自国法域での経験や最新法令・判例に関する情報の共有、意見交換が活発に行われた。


大会前日に開催された理事会では、来年4月に京都で開催される第14回国連犯罪防止刑事司法会議(コングレス)に向けて日弁連が今年4月に公表した「第14回国連犯罪防止刑事司法会議における京都宣言に含めるべき事項に関する意見書」を参照し、LAWASIAとして弁護士・法曹団体の人権擁護活動の一層の保障を求める内容の決議を全会一致で採択した。コングレスへの参加にも大きな関心が寄せられた。


(国際室嘱託 佐藤暁子)



ひまわり

今年も早や12月。年賀状の準備が頭をよぎる。海外の友人にはグリーティングカードとなるが、いつも悩むのが最初の言葉。「メリー・クリスマス」それとも「ハッピー・ホリデイズ」?▼クリスマスが商業的な行事と化している日本。街はクリスマスデコレーションで彩られ、「メリー・クリスマス」の文字が、あちこちで見られる。だが、例えば、さまざまな人種や民族が暮らすニューヨークでは、その宗教もさまざま。「メリー・クリスマス」をむやみに唱えるのは、キリスト教徒以外を不快にさせる可能性が高い。ユダヤ教徒には「ハッピー・ハヌカ」が適切。相手の宗教を確実に把握していないなら、「ハッピー・ホリデイズ」が無難な選択となる▼在留資格「特定技能」が創設され、新たな外国人材の受け入れがスタートした。さまざまな国籍やバックグラウンドを持つ外国人が、日本で共に暮らし始めた。多文化共生社会の確立が謳われるが、多数派である日本人がすべきこと、その第一歩は、異なる文化、習慣、宗教を持つ隣人と共に暮らすことを意識し、受け入れることだろう。日本でも、「メリー・クリスマス」一辺倒から、「ハッピー・ホリデイズ」が聞こえるようになる日が近いことを祈りつつ、少し早いが、「皆さま、どうぞよいお年を!」 


(M・S)



「死刑制度の廃止並びにこれに伴う代替刑の導入及び減刑手続制度の創設に関する基本方針」を承認

arrow 死刑制度の廃止並びにこれに伴う代替刑の導入及び減刑手続制度の創設に関する基本方針


日弁連は、10月15日の理事会において「死刑制度の廃止並びにこれに伴う代替刑の導入及び減刑手続制度の創設に関する基本方針」を承認した。


本基本方針は、2016年10月の人権擁護大会で採択した「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」(以下「福井宣言」)およびそれを踏まえて本年1月18日の理事会で承認した「死刑制度の廃止に際して検討されるべき代替刑の基本的方向性」(以下「基本的方向性」)に沿ってさらに議論・検討を重ねた上で取りまとめたものである。


福井宣言では、代替刑について「仮釈放の可能性がない終身刑制度」(ただし、時間の経過によって本人の更生が進んだときに、主として裁判所の新たな判断による無期刑への減刑などを可能とする制度を併せて採用)あるいは「重無期刑制度」の導入を提案したが、基本的方向性では、前者の「仮釈放の可能性がない終身刑制度」を導入すべきことを確認し、無期刑に減刑するための要件等について、さらに検討すべきとした。


本基本方針では、死刑制度廃止のための法改正の要点(刑法を含むすべての法令において「死刑」を削除するなど)ならびに死刑の代替刑およびその減刑手続制度の内容に関して検討すべき主な事項をまとめ、併せて参考資料として「減刑手続制度の内容に関する主な検討事項(案)」を提示している。これは、減刑手続制度のイメージを具体化し、今後、日弁連の内外における議論に資するものとして提示するものであり、すべての検討事項や意見を網羅したものではない。日弁連のみならず、国民や立法機関・行政機関の中でも充実した議論が行われ、早期に法令の整備が図られることを目指すものである。

(死刑廃止及び刑罰制度改革実現本部  事務局長 小川原優之)



院内集会
少年法の適用年齢引下げに反対する院内集会
11月7日 参議院議員会館

arrow少年法の適用年齢引下げに反対する院内集会


法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会(以下「部会」)では、少年法の適用年齢を20歳未満から18歳未満に引き下げることの是非が議論されており、来年2月にも答申が出される可能性がある。日弁連は、20を数える諸団体との共催により院内集会を開催した。集会には182人が出席し(うち国会議員本人出席15人、代理出席18人)、部会の議論状況や少年法の適用年齢引下げの問題点について国会議員、市民と共に考えた。


冒頭、共催団体を代表して河村真紀子氏(主婦連合会常任幹事)が、この集会での意見を社会全体の声として部会に届ける意義と少年法適用年齢引下げに反対する決意を示した。


子どもの権利委員会の山﨑健一幹事(神奈川県)は、法制審議会への諮問事項と部会での審議経過、18歳・19歳の年長少年に対する手続や保護処分、少年犯罪の現状などについて説明した。山﨑幹事は、現行少年法が有効に機能しているにもかかわらず、検討中の若年犯罪者処遇策が、非行少年の立ち直り・再犯防止にとって十分か疑問であると問題提起した。


リレートークでは、川崎二三彦氏(日本子ども虐待防止学会理事)、木村一優氏(日本児童青年精神医学会子どもの人権と法に関する委員会担当理事)、伊藤由紀夫氏(NPO非行克服支援センター相談員・理事)が、少年に接する機会の多い立場から現状報告を行った。川崎氏は、非行少年は幼少期に虐待を受けている場合が多く、少年法の適用年齢の引下げは非行少年に対するきめ細やかな対応を困難にする、現行少年法を活用することが虐待防止につながり、世代間連鎖を止めると強調した。


出席した国会議員からは、少年院で更生した少年のエピソードや少年院での教育の必要性が語られたほか、少年犯罪件数が減少傾向であるにもかかわらず立法事実なく結論ありきの立法をさせてはならないなどの意見が出された。



第16回
全国弁護士会ADRセンター実務懇談会
11月8日 弁護士会館

近時災害が多発していることを受け、通常のADRとは別に、災害ADRを設置する弁護士会が増えている。ADRの実務対応について意見交換を行うとともに、災害ADRについて各弁護士会の対応方法に関する情報を共有した。


事務局の実務対応
コミュニケーションが大切

前半は、ADRを担当している弁護士会の事務局職員を中心に、3グループに分かれて意見交換を行った。ADRは訴訟と異なり、出席を強制できず、費用がかかり、執行力がないため、申し立てを受け付ける際などに誤解がないよう説明を尽くすことが重要であるとの意見が多数上がった。外国人をはじめ当事者が多様化する中、書面を多用しつつ丁寧なコミュニケーションを図った例などが紹介され、さまざまな工夫について情報を共有した。あっせん人からの連絡不足や業務の振り分けなどに関する悩みも挙がり、運営委員会やあっせん人とのコミュニケーションも肝要であるとの認識で一致した。


災害ADR
より利用しやすいものに

後半は、主に災害ADRの実務面について情報交換を行った。


規則の制定・改正については、先に災害ADRの運用を開始し、規則を遡って適用させる方法や、紛争解決事業者として法務大臣の認証を受けている場合でも、当事者に不利益とならない規則改正であれば届出で足りるなどの情報を共有した。申立手続の簡易・迅速化については、FAX、電話による申し込みとサポート弁護士による聴き取りを組み合わせる方法が紹介されたほか、相談前置を維持しつつ、相談に電話相談を含めたり、申立書類の写しの提出を不要としたりすることなどについても意見が交わされた。さらに災害起因性に関しては、全く起因しないことが明らかである場合を除き広く認めている、申し立ておよび相手方サポート弁護士と事務局との業務の分担については、マニュアルを作成して明確化しているなどの紹介があった。



車椅子使用者の航空機単独搭乗拒否に関する人権救済申立事件
相手方航空会社に対し要望

arrow車椅子使用者の航空機単独搭乗拒否に関する人権救済申立事件(要望)


日弁連は10月29日、車椅子使用者の航空機単独搭乗拒否に関する人権救済申立事件について、相手方航空会社に対し、障害者に対する合理的配慮を求める障害者権利条約の趣旨を踏まえ、①単独搭乗条件を満たすか否かについて合理的な判定が可能となるマニュアルを作成すること、②従業員に対して障害者権利条約の趣旨の理解を徹底するための研修を実施することなどを要望した。

 

本件は、外国の航空会社である相手方が、タイの空港で障害のある人の搭乗を拒否した事案について、障害者権利条約に定められた合理的配慮の趣旨にのっとった適切な対処を要望したものである。外国法人による外国における人権侵犯事件について、初めて措置をした事例として先例的な意味を持つ。


脳性麻痺の障害があり電動車椅子使用者である申立人は、相手方の航空機を利用してタイへ単独旅行をした際、福岡からの往路便の搭乗には問題がなかったにもかかわらず、タイからの復路便に搭乗しようとしたとき、相手方が定める同伴者なしの搭乗条件(単独搭乗条件)を満たさないとの機長の判断で、直前に搭乗を拒否された。


本件では相手方の行為の人権侵害性を問う法的根拠も問題になったが、国際人権規約や障害者権利条約などの規定の趣旨から、私人であっても、国際人権法が保障する権利を尊重する責務を遵守しないことは人権侵害性が認められるとの法的評価が可能であるなどの理由で、人権侵害性が認められると判断した。


本件搭乗拒否の人権侵害性については、機長の具体的な判断に際して、単独搭乗条件を過度に厳格に適用したところに問題があると考えられる。


再発防止のためにも、要望の趣旨に沿った対応が望まれる。


(人権擁護委員会第7部会 特別委嘱委員 岡島 実)



第60回「法の日」週間記念行事
霞が関裁判員体験ツアー
10月18日 東京高等・地方・簡易裁判所庁舎

arrow ~霞が関裁判員体験ツアー~第60回「法の日」週間記念行事 法の日フェスタ


10月1日の「法の日」は、日弁連と最高裁、法務省の共同の決議を受けて1960年に設けられた。日弁連は最高裁、法務省・最高検とともに毎年10月1日から1週間を「法の日」週間とし、市民に法を身近に感じてもらうため、法の日フェスタを開催している。今回は裁判員制度10周年の節目として、実際の法廷を使用した模擬裁判を実施し、午前・午後のコースとも幅広い世代から多数の市民が参加した。(主催:「法の日」週間実施東京地方委員会(東京高地家裁、東京高地検、法テラス東京、関弁連、東京三会、日弁連))


模擬裁判の様子模擬裁判の題材は、認知症の夫を介護していた妻が、介護から解放されたいという理由から夫を刺殺した殺人被告事件であり、量刑が争点となる事案である。東京地裁の法廷を使用し、現職の法曹三者がそれぞれの役割に応じて模擬裁判に臨んだ。実際の刑事手続にのっとって冒頭手続から始まり、遺族である被害者の前妻の子に対する証人尋問および被告人質問などの証拠調べが行われ、その内容をもとに、参加者が5班に分かれ裁判官とともに模擬評議を行った。ある班の評議では、被告人の犯行は介護疲れによるうつ病の影響が大きく、ほかに介護を頼める人がいなかったことなど犯行に至る経緯に同情の余地があるとの弁護側の主張について、被告人、被害者、被害者の前妻の子たちの関係性などの背景事情や、日本社会における介護の在り方にも踏み込んだ議論がなされた。各班で熱い議論が交わされ、午後コースの5班のうち2班は、執行猶予判決が相当との結論に達し、その他の班も、求刑よりも減刑した懲役刑を言い渡すべきとの結論に達した。


参加者からは、判決に向けて検討すべき事項が多いことに驚きの声が上がり、質疑応答では、裁判員裁判制度が始まって変わったことは何か、制度について裁判官はどう思うかといった率直な質問も投げかけられ、大いに盛り上がった。



全国冤罪事件弁護団連絡協議会第28回交流会
科学捜査と科学鑑定に必要なもの
―乳腺外科医事件から学ぶ―
11月1日 弁護士会館

いわゆる「乳腺外科医事件」を題材に、弁護団が科学鑑定に関する報告を行うとともに、研究者がせん妄発症のメカニズムや薬品の薬理作用について説明し、せん妄や科学鑑定に関する知見と議論を深めた。


弁護団の趙誠峰会員(第二東京)は事件の科学的テーマとして、せん妄と、被害者とされるA氏から採取された付着物に関するアミラーゼ鑑定およびDNA型鑑定を挙げた。趙会員は後者について、DNA定量検査の標準資料やアミラーゼ鑑定の写真等が保存されていない上、科捜研技官がDNAの抽出液の残余を廃棄したりワークシートの記載に鉛筆と消しゴムを使用するなど、検査者としての誠実性が疑われ、検査や鑑定の信用性に疑義が生じたこと、被告人の唾液が会話で付着した可能性等を排斥できず、検査や鑑定の証明力も不十分であったことを報告した。


小川朝生氏(国立がん研究センター東病院精神腫瘍科長)は、せん妄は注意障害かつ意識障害の状態であり、認知障害も伴い、短時間で症状が変動すると説明した。症状に幻視や妄想があり、その体験談に現実味があるからといって、せん妄が直ちに否定されるわけではないと説いた。


福家伸夫教授(帝京平成大学健康医療スポーツ学部)は、全身麻酔で利用されるプロポフォールはせん妄の原因になり、意識が戻っても、24時間はプロポフォールの影響下にあると解説した。プロポフォールによるせん妄が性的な幻覚を伴い得ることは麻酔科医によく知られていると述べた。


質疑応答において、趙会員は、A氏に対する尋問では、科学的見地から必要な、記憶が断片的といった事情を丁寧に拾うことを心掛けたと語った。小川氏は、せん妄は短時間で注意が変動するため、A氏のようにLINEで連絡ができたとしても、その前後の状況や記憶の状態から全体として見ればせん妄状態にある場合があると説明した。



来たれ、リーガル女子!
~女性の弁護士・裁判官・検察官に会ってみよう~
11月3日 名古屋大学

arrow 来たれ、リーガル女子!~女性の弁護士・裁判官・検察官に会ってみよう!~国・地方連携会議ネットワークを活用した男女共同参画推進事業


法曹人口に占める女性の割合を30%にする政府の目標に対し、現状、司法試験合格者に占める女性の割合は25%にも届いていない。より多くの女性に法曹の魅力を伝え、女性の法曹志願者の増加に繋げるため、日弁連は2016年から内閣府などとシンポジウムを共催している。4回目を迎えた今回は名古屋で開催し、当日は、定員200人の会場を埋め尽くすほどの参加者で盛況を博した。


基調講演
女性弁護士の歩みとその魅力

池田桂子会員(愛知県)は、1940年の女性弁護士誕生以降の女性法曹の歩み、多様な人材や視点が求められる社会の中での意義、仕事の魅力を紹介し、女性法曹の大先輩から贈られた「一生懸命取り組む」「ちょっと背伸びしてトライしてみることが大切」とのメッセージを中高生に届けた。


パネルディスカッション
女性法律家の様々な働き方

パネルディスカッションの様子パネルディスカッションでは、上松健太郎会員(愛知県)の進行の下、齋藤千恵裁判官(名古屋地裁)、築雅子検察官(名古屋地検)、清水綾子会員(愛知県)が、それぞれの立場から、仕事の内容、法曹を目指した理由、仕事と家庭の両立について語った。また小倉崇徳会員(栃木県)は、ロースクールや予備試験など、進路について説明した。


グループセッション

グループセッションでは、大学教授や他職経験裁判官、企業内弁護士などを含め多様な経験を持つ女性法曹と中高生が7つのグループに分かれ、活発な質疑応答が交わされた。並行して行われた保護者・教員向け説明会では、パネリストに佐藤倫子会員(香川県)も加わり、ロースクール、司法修習など多岐にわたる説明がなされた。


(男女共同参画推進本部事務局次長 江本真理)



自治体内弁護士を目指す!
キャリアアップセミナー
10月30日 弁護士会館

arrow自治体内弁護士を目指す!キャリアアップセミナー


自治体内弁護士に関心のある弁護士、司法修習生、法科大学院生および予備試験合格者を対象に、弁護士の採用を考えている自治体の職員や自治体での勤務経験がある弁護士が、自治体内弁護士を求める理由、自治体内弁護士の仕事内容、やりがい、キャリアプランなどを語るキャリアアップセミナーを開催した。

(共催:東京三弁護士会)


職務内容・任期など

東京都江戸川区の自治体内弁護士(任期付公務員)として働く船崎まみ会員(東京)が、自治体内弁護士の採用根拠や待遇、職務内容、任期後の進路実績などを説明した。任期付で自治体内弁護士になった者の任期後の進路が少しずつ確立されてきており、当該自治体で期限のない常勤職員に移行するケースも現れ始めていると述べた。


各地の自治体内弁護士

京都府福知山市、岡山県赤磐市、茨城県、兵庫県明石市、東京都国分寺市、福島県郡山市および栃木県小山市の採用担当職員や自治体内弁護士として勤務する会員が、それぞれの自治体や日常の業務内容について紹介した。今回のキャリアアップセミナーに参加したすべての自治体では、既に弁護士を職員として採用した実績があり、採用した弁護士職員が非常に活躍しているため二人目以上の弁護士採用を考えるに至ったとの趣旨の説明が複数あった。


現役の自治体内弁護士の体験談

鹿児島県南さつま市の自治体内弁護士として働く平林敬語会員(鹿児島県)が、自らの体験を振り返り、2013年に法律事務所の勤務弁護士から自治体内弁護士に転身したときは、自治体内弁護士としてすべきことや求められていることが分からず不安だったが、今は日弁連のeラーニングなど事前に学習する環境が整いつつあると述べた。その上で、自治体内弁護士には、なってみて初めて分かるやりがいや面白さがあるので、関心を持ってぜひチャレンジしてほしいと締めくくった。



英国家族法バリスターによるシンポジウム
子の最善の利益と司法の役割
10月17日 弁護士会館

arrow 英国家族法バリスターによるシンポジウム「子の最善の利益と司法の役割」


単独親権から共同親権・親責任へという親子法の転換などを受け、英国司法実務がどのように子の利益を守ろうとしているのかを学ぶシンポジウムが、英国の子ども問題専門バリスター(法廷弁護士)を講師に迎えて開催された。

(主催:日本女性法律家協会、神奈川大学法学研究所、同国際人権センター/共催:日弁連)


講演1 親権制度の歴史と子どもの最善の利益

ルース・カービー氏とリアノン・ロイド氏が、1989年の子ども法制定で大きく変化した英国の親権制度について、日本の制度との違いを指摘しつつ解説した。離婚後も双方の親が「親責任」を保有し子どものことを話し合いで決めること、共同養育が子どもにとって最も利益になるとの考えに基づき、現在では共同養育が原則となっていること、片親疎外(面会妨害)や裁判所の命令を守らないケースへの対応、裁判所の判断基準となる「子の福祉」などについて説明があった。


講演2 家庭内紛争の解決のプラクティスの中での子どもの位置

バーバラ・ミルズ氏とマーク・ジャーマン氏は、子ども法事件、メディエーション等において、子どもがどのように手続に関わるのかを説明した。子どもの意見聴取などには裁判所とは別の組織であるカフカス(Cafcass:Children and Family Court Advisory and Support Service)が関与すること、子どものためにさまざまな配慮がなれていることなどが紹介された。


講演3 生殖補助医療と親子関係

シャーロット・ベーカー氏は、生殖補助医療によって生まれた子どもが法的にどのように扱われているかについて講演した。代理母に出産を依頼した者は「親決定の命令」を得て子どもの親になること、厳格な要件は解釈を工夫することで実態に即した結論を導いている実務の現状、代理母の同意が得られない場合には親決定の命令は出せないため親責任の取得等を検討することなどが報告された。



JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.148

横浜に「こどもホスピス」を!!
NPO法人
横浜こどもホスピスプロジェクトの活動

重い病気と闘う子どもとその家族をサポートする「こどもホスピス」を横浜に設立する動きが本格化しています。その中心となっているNPO法人横浜こどもホスピスプロジェクトの代表理事田川尚登氏と副理事長熊澤美香会員(神奈川県)にお話を伺いました。

(広報室嘱託 白石裕美子)


この活動を始めたきっかけは?

(田川)22年前、当時6歳の私の娘が脳幹に腫瘍があると診断され、その場で余命半年と宣告されました。担当医からは残りの時間を楽しく過ごすようにと言われましたが、最初は諦めきれずさまざまな治療法を探したりもしました。しかし、一日一日を一生懸命生きている娘の姿を見ているうちに、「娘との日常生活を楽しもう」と考えが変わり、なるべく家族で一緒に過ごしたり、娘が希望する家族旅行をしたりしました。娘が亡くなるまでの5か月に私の父親としての時間が凝縮されていると実感しました。


娘が亡くなって5年が経った頃、私たち家族の気持ちに寄り添い支えてくれた医療スタッフの皆さんに恩返ししたいと考え、病院をサポートする活動を始めました。入院している子どもに付き添う家族の宿泊滞在施設の開設、預かり保育の実施、病気の子どもや家族のためのピアノコンサートの開催など、さまざまな活動を行う中で、こどもホスピスの必要性を強く意識するようになりました。


(熊澤)私がホームロイヤーを務めていた元看護師の女性が、自分の遺産でこどもホスピスを設立してほしいと希望していました。そして、その方が亡くなり田川さんとお話をしたとき、田川さんの強い信念に心を動かされて、私もこの活動に参加することにしました。2014年8月に始動した横浜小児ホスピス設立準備委員会に入って、新法人の設立準備に関わり、2017年の法人設立後は副理事長として活動しています。


こどもホスピスとは?

左から熊澤会員、田川氏、事務局の飯山氏 こどもホスピスは、医療施設ではなく、生命を脅かす病気の子どもが、安心して親やきょうだいと過ごしたり、その子の希望に応じて遊んだり学んだりすることができる在宅支援施設です。病気や入院のために遊びややりたいことを制限されることなく、たとえ残された日々がわずかであったとしても命が尽きる瞬間まで成長しようとする子どもの願いをかなえるとともに、子どもの死と直面する家族を精神的にも支えます。日本では2016年に大阪のTSURUMIこどもホスピスが設立されています。


プロジェクトの活動は?

今は、2021年4月のこどもホスピス開設に向けた活動が中心です。横浜こどもホスピスは、横浜市の事業として認められ、金沢区六浦東の市有地に施設を建設することになりました。
 

いよいよこどもホスピスそのものが始動しますが、その他継続して小児緩和ケアの人材育成プログラムを行っていきます。小児緩和ケアの考え方は日本国内にまだ普及していないため、こどもホスピスを含めた小児緩和ケアを担うための人材育成を、医療や福祉、教育の専門家の協力の下、横浜だけでなく札幌や福岡、仙台、松山でも行っています。
 

その他、講演会やコンサートを通じてこどもホスピスの啓発を行ったり、全国こどもホスピスサミットや世界こどもホスピスフォーラムを開催しています。


横浜こどもホスピスをどんな施設にしたいですか?

(田川)施設に入ると「温かい。懐かしい。」と感じられるような場所にしたいです。スタッフは、常に子どもや家族の気持ちに寄り添って対応し、子どもが亡くなった後も家族と思い出を共有します。そうすることによって、家族はここに子どもが生きた証があると感じ、精神的な痛みから早期に回復できるのです。そして、いずれはそんな家族の方々がスタッフになり、重病に苦しむ子どもや家族の支えになってくれる、そんな心温かい循環ができたら素晴らしいと思います。


やりがいを感じることは?

(熊澤)本当に必要とされている施設を作っていると実感しながら、一つ一つ前に進んでいくことに大きな喜びを感じます。また、医療や教育など全く分野の違う方々と一緒に活動できることもとても刺激的です。


弁護士へのメッセージ

(田川)こどもホスピスの存在はまだあまり知られていません。しかし、弁護士の業務において、生命を脅かす病気の子どもと関わることや、依頼者が社会的に意義のある遺贈を希望することもあると思います。弁護士の方々にもこどもホスピスのことを広く知っていただき、さまざまな形で応援していただきたいです。



日弁連で働く弁護士たち ⑤
司法調査室情報統計グループ

毎年12月前後に刊行される「弁護士白書」をはじめ、各種統計の収集や分析等に関わるのが、司法調査室の情報統計グループです。大堀健太郎副室長(東京)と髙橋しず香嘱託(第二東京)にお話を伺いました。

(広報室嘱託 柗田由貴)


グループの成り立ち・構成

2002年の「弁護士白書」創刊時、情報が未整理で管理も十分でなかったという反省を踏まえ、その翌年に情報統計室が設置されました。2016年には他の室と統合され、現在の位置付けになりました。情報統計グループに所属する嘱託は2人で、ともに他のグループを兼務しており、専任ではありません。そのほか、大学やシンクタンクに所属する法社会学や社会調査の専門家など、4人が非常勤の研究員として多様な助言や分析を行っており、グループの構成としては、嘱託2人と研究員4人の計6人です。


統計情報の要となる業務

大堀副室長(左)と髙橋嘱託。「弁護士白書」と「自由と正義」臨時増刊号を手に業務の中心は、「弁護士白書」の編集・刊行と、各種統計調査の収集・調整・管理です。

「弁護士白書」は、例年10月頃から委員会に対し特集テーマを照会し、年末年始ごろにテーマを確定します。2〜3月に編集会議を重ねてページ割りや構成を決めた後、夏までに原稿を作成して秋からゲラを確認し、12月前後に発刊するという流れで、1年超の時間をかけ作成しています。また、毎回例年どおりというわけにはいかず、毎年入札で印刷会社を決定したり、特集以外の内容についても少しずつ改良したりして作成しています。

統計調査は、委員会等が企画実施するものと、当グループが数年に1度実施する大規模なもの(例えば、10年ごとに実施している「弁護士業務の経済的基盤に関する実態調査」(以下「経済基盤調査」))があります。前者については、調査票作成段階から研究員が関わったり、調査票の素案を確認して誘導的な設問、回答困難・分析困難な設問を指摘したり、調査結果の分析を行うなど、さまざまな形で関与しています。ここ数年は40件超の調査に協力していますが、調査結果が必ずしも会員に提供されてはいないのが課題であり、委員会等にはフィードバックも促していきたいです。



会員へのメッセージ

本年の「弁護士白書」は、LACと10年を迎える裁判員裁判を特集テーマとしました。日弁連ウェブサイトにも掲載されるため、他の統計情報を含めぜひご覧ください。また、経済基盤調査の結果は「自由と正義」臨時増刊号として発刊する等フィードバックも行っています。調査の信頼性にとって回収率は重要であり、回答者の負担軽減にも努めますのでご協力をお願いします。



ブックセンターベストセラー
(2019年9月・手帳は除く) 協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編者名 出版社名・発行元名
1 離婚に伴う財産分与−裁判官の視点にみる分与の実務− 松本哲泓 著 新日本法規出版
2 民事保全・非訟マニュアル−書式のポイントと実務 岡口基一 著 ぎょうせい
3 契約書作成の実務と書式[第2版]企業実務家視点の雛形とその解説 阿部・井窪・片山法律事務所 編 有斐閣
4 東京家庭裁判所家事第5部(遺産分割部)における相続法改正を踏まえた新たな実務運用 東京家庭裁判所家事第5部 編著 日本加除出版
5 携帯実務六法2019年度版 「携帯実務六法」編集プロジェクトチーム 編 東京都弁護士協同組合
6 民事信託の基礎と実務 弁護士専門研修講座 東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会 編 ぎょうせい
7 我妻・有泉コンメンタール民法[第6版]−総則・物権・債権− 我妻榮・有泉亨・清水誠・田山輝明 著 日本評論社
8 国会便覧 令和元年8月新版147版 シュハリ・イニシアティブ
9 破産実務の基礎[裁判実務シリーズ11] 永谷典雄・上拂大作 編著 商事法務
10 インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル〔第3版〕 中澤佑一 著 中央経済社



海外情報紹介コーナー⑦
Japan Federation of Bar Associations

英国でソリシター資格認定試験始まる。

現在英国でソリシター(事務弁護士)になるには、日本における司法試験のような共通試験の合格は要件とされていない。しかし、英国のソリシター規制局は、一貫した高水準のソリシターの輩出を目的として、2021年秋に共通のソリシター資格を認定するSQE(Solicitors Qualifying Exam)を導入することにした。


SQE導入後は、法的知識が評価されるSQE1、実務的なリーガルスキルが評価されるSQE2の両方に合格することが英国でソリシターとしての資格を得るための要件の一つとなる。(注:本稿中「英国」はイングランドおよびウェールズを指す。)


(国際室嘱託 竹内千春)