刑事法廷内における入退廷時に被疑者・被告人に対して手錠・腰縄を使用しないことを求める決議
勾留されている被疑者・被告人(以下「被告人等」という。)が、手錠・腰縄をされた姿で刑事法廷内に入ってくる。その姿を目にしたら、あなたはどう思うだろうか。もし、あなた自身が被告人等であったら、どう感じるだろうか。
近畿弁護士会連合会が2017年に行ったアンケートでは、刑事法廷内で手錠・腰縄を使用されることについて、6割以上の被告人等が「罪人であると思われていると感じた」、半数近くの被告人等が「恥ずかしかった」と回答した。一方、被告人等の手錠・腰縄姿を見た傍聴人の感想としては、4分の1近くが、「罰せられているように感じた」、「罪を犯したのだから当然/仕方がないと思った」であった。
このように、刑事法廷内で被告人等に手錠・腰縄を使用することは、被告人等の自尊心を傷つけ、羞恥心を抱かせるだけでなく、周囲に「この被告人は有罪である」との印象を与えるものであり、被告人等の人格権や無罪推定の権利を侵害する著しい人権侵害行為である。
それにもかかわらず、被告人等に対する手錠・腰縄の使用は、私たち弁護士にとっても「日常」の光景になってしまっていた。この「日常」に疑問を投げかける事件が、2014年に大阪で発生した。ある被告人が、自らの自尊心や無罪推定の権利等の確保を理由として手錠・腰縄姿で入退廷することを拒否し、担当弁護人も入廷前に手錠・腰縄を解錠し、法廷から退出した後に施錠する措置を施すよう申入れを行ったが、裁判所がこれを認めなかったため弁護人も出廷を拒否した結果、裁判所が弁護人に対して過料3万円の決定を出したという事件である。
この事件を一つの契機にして、2018年、当連合会は手錠・腰縄問題プロジェクトチームを立ち上げ、2019年10月15日付け「刑事法廷内における入退廷時に被疑者又は被告人に手錠・腰縄を使用しないことを求める意見書」を公表した。
また、大阪地裁2019年5月27日判決は、刑事法廷内における入退廷時の手錠・腰縄使用の人権侵害性を指摘した。同判決後、手錠・腰縄を使用しないよう弁護人が裁判所に申し入れると、パーティションで被告人等を隠して手錠・腰縄の解錠・施錠を行うという運用の改善も一部見られたが、現在では申入れを行っても何らの措置も採られないことが常態化している。
しかも、勾留されている被告人等が手錠・腰縄を付けられた状態のまま公判廷で入退廷させられたことの違憲性・違法性を問題にした国家賠償請求訴訟では、下級審において一度も違憲性、違法性及び損害賠償請求が認められることがないまま、2024年5月24日、最高裁第二小法廷は上告棄却・上告不受理決定を出した。
しかしながら、刑事法廷内における入退廷時の被告人等に対する手錠・腰縄使用は、明らかに憲法及び国際人権法等に違反するものである。
すなわち、刑事法廷内における入退廷時の被告人等に対する手錠・腰縄使用は、憲法第13条が保障する個人の尊厳・人格権を侵害するのみならず、品位を傷つける取扱い等を禁止する自由権規約第7条、第10条第1項及び拷問等禁止条約第16条第1項に違反しているとともに、憲法第31条及び自由権規約第10条第2項(a)、第14条第2項が定める無罪推定の権利を侵害している。
また、被告人等の防御権、対等当事者として裁判に臨む権利及び公平・公正な裁判を受ける権利をも侵害しているものであるから、憲法第31条以下、第37条及び自由権規約第14条第1項にも違反している。
さらには、国連被拘禁者処遇最低基準規則(マンデラ・ルール)にも違反している。
そもそも、裁判官は、良心に従って独立してその職権を行い、憲法及び法律のみに拘束され(憲法第76条第3項)、憲法尊重擁護義務(憲法第99条)を負っている。したがって、上記で列挙した被告人等の基本的人権が侵害されないよう、適切に法廷警察権を行使しなければならない。しかしながら、裁判官は、漫然と一律に入退廷時の被告人等に対して手錠・腰縄を使用して、被告人等の基本的人権を侵害している。
以上からして、当連合会は、裁判官及び国に対し、上記の被告人等の基本的人権が最大限保障され、被告人等が危険な犯罪者であることを示唆するような方法で入退廷させられることがないよう(自由権規約委員会一般的意見32参照)、以下の措置を早急に講じることを求める。
1 裁判官は、被告人等の基本的人権を尊重し、法廷警察権を適切に行使して、刑事法廷内における入退廷時の被告人等に対して、漫然と一律に手錠・腰縄を使用することを今すぐにやめ、刑事訴訟法第287条第1項ただし書が規定する事由があり、必要やむを得ない場合以外は、手錠・腰縄を使用しないこと。
2 国は、刑事訴訟法第287条第1項本文が規定する刑事法廷内における身体不拘束原則を入退廷時の被告人等に対しても確実に保障するため、同法に第287条の2を新たに設けて、入退廷時の被告人等に対しても、身体不拘束原則が及ぶことを明記すること。
3 国及び裁判所は、被告人等の入退廷時に手錠・腰縄を使用しないための施設整備(例えば、手錠・腰縄の着脱が可能な待機室あるいはスペース等の設置)や暴行及び逃亡防止のための物的・人的整備を講じること。
当連合会は、私たち弁護士・弁護士会も、これまで刑事法廷内における手錠・腰縄問題に対して十分に自覚的ではなかったことを深く反省し、被告人等の入退廷時に手錠・腰縄が使用されることがないよう、上記のとおり、裁判官の適切な法廷警察権の行使、新たな立法及び必要な物的・人的整備を求めるとともに、今後も手錠・腰縄問題を始め、被告人等の人権保障に資する弁護活動に努める決意を表明する次第である。
以上のとおり決議する。
2024年(令和6年)10月4日
日本弁護士連合会
提案理由
第1 今なぜ決議しなければならないのか
1 被疑者・被告人に対する刑事法廷内における手錠・腰縄の使用状況
現在、勾留された被疑者・被告人(以下「被告人等」という。)は、審理中は手錠・腰縄を外された状態であるが、手錠・腰縄をされたままの状態で刑事法廷内に入廷させられ、審理終了後は手錠・腰縄をされたままの状態での退廷を余儀なくされている。
近畿弁護士会連合会が2017年に行ったアンケートでは、被告人等の回答者のうち、裁判官に手錠・腰縄姿を見られた感想として、「罪人であると思われていると感じた」が61.5%、「恥ずかしかった」が46.5%であった(複数回答可、以下同じ。)。一方、被告人等の手錠・腰縄姿を見た傍聴人の感想としては、「罰せられているように感じた」「罪を犯したのだから当然/仕方がないと思った」が共に23.7%であった。また、被告人等の手錠・腰縄姿を初めて見た弁護士の感想も、「痛ましい気がした」が41.3%、「ショックを受けた」が31.3%であった。
このように、刑事法廷内で被告人等に手錠・腰縄を使用することは、被告人等の自尊心を傷つけ、羞恥心を抱かせるだけでなく、周囲に有罪との印象を与えるものであり、後で詳述するとおり、被告人等の人格権や無罪推定の権利を侵害する著しい人権侵害行為と言わなければならない。
2 手錠・腰縄問題を浮かび上がらせた事件
刑事法廷内で被告人等に対して手錠・腰縄を使用することは、被告人等に対する重大な人権侵害であるにもかかわらず、長きにわたり裁判所の法廷内において公然と行われ続けてきた。また、私たち弁護士にとっても、被告人等の手錠・腰縄姿は見慣れた光景になってしまっており、この問題に必ずしも自覚的に取り組むことができていなかった。
しかし、手錠・腰縄使用の人権侵害性については、2014年に大阪で起こった事件をきっかけに、弁護士自身もようやく認識するようになった。その事件の概要は次のようなものである。
ある被告人が、自らの自尊心や無罪推定の権利等の確保を理由として、刑事法廷内に手錠・腰縄姿で入退廷することを拒否したところ、担当弁護人も被告人の主張を正当であると考え、裁判所に対して、被告人の手錠・腰縄を入廷前に解錠し、法廷外へ退出した後に施錠する措置を施すよう申入れを行った。しかしながら、同申入れを裁判所が認めなかったことから、弁護人も出廷を拒否したところ、事件が係属していた大阪地方裁判所は、2014年11月、弁護人に対して出頭在廷命令を出した。それでも弁護人は同命令に従わなかったため、同裁判所は、過料3万円の決定を出した。さらに、同裁判所は、刑事訴訟法(以下「刑訴法」という。)第278条の2(改正前。現行法は第278条の3)第5項に基づいて、弁護人に対する処置を大阪弁護士会に請求した。同弁護士会は、この処置請求に対して、「弁護士の対応は、刑事弁護人の活動として正当な理由のある活動であった」として、処置をしない旨の決定をし、同裁判所に通知した。この際、同弁護士会は、同裁判所に対して、手錠・腰縄問題に関し、より柔軟な対応を行うよう是正を求めた。
私たち弁護士にとっても、被告人等の手錠・腰縄姿は「日常」となってしまっていたが、この「日常」に疑問を投げかけ、私たち弁護士に被告人等の自尊心の保持など人格権の保障や無罪推定の権利確保などの視点から、手錠・腰縄使用の問題性を鋭く問うたのが上記事件である。
3 手錠・腰縄問題プロジェクトチームの発足と大阪地裁判決
(1) 手錠・腰縄問題プロジェクトチームについて
2018年7月、当連合会は手錠・腰縄問題プロジェクトチーム(以下「手錠・腰縄PT」という。)を立ち上げた。
手錠・腰縄PTでは、委員が自身の所属弁護士会内の裁判所において、刑事法廷における入退廷時の被告人等に対して手錠・腰縄を使用しないように裁判官に申入れをする活動を展開したり、手錠・腰縄使用の問題点をQ&A形式で端的に解説し、海外の刑事法廷の事例も紹介したパンフレット「 STOP!!法廷内での手錠・腰縄」を作成・配布した。また、各弁護士会に手錠・腰縄PT委員を派遣して、勉強会の開催も行ってきた。
そして、当連合会は、後記(2)で指摘する大阪地裁判決の判示内容も引用しながら、2019年10月15日付け「刑事法廷内における入退廷時に被疑者又は被告人に手錠・腰縄を使用しないことを求める意見書」を公表した。
(2) 大阪地裁判決について
刑事法廷内における入退廷時の被告人に対する手錠・腰縄使用の違憲性・違法性を訴えた国賠訴訟において、大阪地裁2019年5月27日判決(確定)は次のとおり判示して、刑事法廷内における手錠・腰縄使用の人権侵害性を指摘した(判例タイムズ1486号(2021年9月号)230頁)。
「現在の社会一般の受け取り方を基準とした場合、手錠等を施された被告人の姿は、罪人、有罪であるとの印象を与えるおそれがないとはいえないものであって、手錠等を施されること自体、通常人の感覚として極めて不名誉なものと感じることは、十分に理解されるところである。また、上記のような手錠等についての社会一般の受け取り方を基準とした場合、手錠等を施された姿を公衆の前にさらされた者は、自尊心を著しく傷つけられ、耐え難い屈辱感と精神的苦痛を受けることになることも想像に難くない。これらのことに加えて確定判決を経ていない被告人は無罪の推定を受ける地位にあることにもかんがみると、個人の尊厳と人格価値の尊重を宣言し、個人の容貌等に関する人格的利益を保障している憲法13条の趣旨に照らし、身体拘束を受けている被告人は、上記のとおりみだりに容ぼうや姿態を撮影されない権利を有しているというにとどまらず、手錠等を施された姿をみだりに公衆にさらされないとの正当な利益ないし期待を有しており、かかる利益ないし期待についても人格的利益として法的な保護に値するものと解することが相当である。」
「公判期日が開かれる法廷への入退廷に際して、手錠等を施された被告人の姿を傍聴人の目に触れさせないようにするための具体的な方法について検討すると、現在の我が国の裁判所における法廷施設の状況を前提とするならば、①法廷の被告人出入口の扉のすぐ外で手錠等の着脱を行うこととし、手錠等を施さない状態で被告人を入退廷させる方法、②法廷内において被告人出入口の扉付近に衝立等による遮へい措置を行い、その中で手錠等の着脱を行う方法、③法廷内で手錠等を解いた後に傍聴人を入廷させ、傍聴人を退廷させた後に手錠等を施す方法が考えられる。」
4 大阪地裁判決後の状況(手錠・腰縄問題の一部改善)
上記大阪地裁判決後、とりわけ近畿一円では、弁護人が入退廷時の被告人等に対して手錠・腰縄を使用しないよう裁判所に申し入れると、裁判所は、上記判決内②で言及している衝立等(パーティション)で被告人等を隠して、入退廷時に手錠・腰縄姿が裁判官及び書記官以外には見えないような配慮をする事例(以下「衝立方式」という。)が複数報告されるようになった。手錠・腰縄PTでは、少なくとも、大阪、和歌山、滋賀の各裁判所での衝立方式事例が確認できている。
また、衝立方式が採られなくても、上記判決内③の法廷内で手錠等を解いた後に傍聴人を入廷させ、傍聴人を退廷させた後に手錠等を施す方法を採る事例(以下「時間差方式」という。)や、被告人等の家族や知人に配慮する事例も報告されるようになっていた。
5 改善されない手錠・腰縄問題(改善の後退)
しかしながら、刑事法廷内での手錠・腰縄の原則不使用を求める運動は、弁護士の中でもいまだ浸透しておらず、手錠・腰縄不使用の申入れを行う弁護士は、一部に限られていると言わざるを得ない。また、近時は、申入れを受けた裁判官も、何らの措置も採らない場合が圧倒的に多い。
連続開廷の法廷においては、傍聴人の出入りを気にするためか、時間差方式すら採用されないだけでなく、そもそも申入れをしても、裁判官が何の反応もしないことがほとんどである。時間差方式は、連続開廷ではない勾留理由開示公判においてはわずかに事例報告が存在するが、ここ2、3年は衝立方式の事例報告は皆無である。
この点、勾留されている被告人が手錠・腰縄を付けられた状態のまま公判廷で入退廷させられたことの違憲性・違法性を訴えた国賠訴訟判決(大阪高裁2019年6月14日判決、広島高裁2023年11月15日判決等)は、手錠・腰縄使用は法廷警察権の問題であるとした上で、その法廷警察権の行使は、「裁判官の広範な裁量に基づく判断に委ねられており、裁量権の著しい逸脱でない限り違法ではない」と判示した(上記広島高裁判決の上告審においても、最高裁第二小法廷は2024年5月24日付けで上告棄却・上告不受理決定を出した。)。このことからも、裁判所が事態の改善に向けた努力や検討をすることは全くと言っていいほど見込まれない絶望的な状況である。
このように、上記大阪地裁判決後、被告人等に対する手錠・腰縄の使用に対して一定の配慮がなされた時期もあったが、現在はほとんど配慮されず、上記判決も含めて、一部の改善状況は後退したと言うほかない。
手錠・腰縄PTで各弁護士会に照会をかけて集計したところ、弁護士会、検察庁及び裁判所が裁判での運用改善等について各地方裁判所ごとに意見交換を行う一審強化方策地方協議会等で手錠・腰縄問題を議題に挙げても、裁判所は、個々の裁判官の裁量の問題であるとして、真摯に対応しようとしないのが実情であることが判明している。
6 本決議の意義
刑事法廷内における入退廷時の被告人等に対する手錠・腰縄使用は、以下で詳述するとおり、憲法及び国際人権法に違反する重大な人権侵害である。したがって、手錠・腰縄問題は一刻も早く改善されなければならないことが広く周知され、手錠・腰縄問題解消のための具体的な措置が速やかに講じられなければならない。
すなわち、私たち弁護士が、刑事法廷内における入退廷時の被告人等に対する手錠・腰縄使用を速やかに解消し、被告人等に対する人権侵害をなくすために、本決議を行う必要がある。
第2 刑事法廷内における入退廷時の被告人等に対する手錠・腰縄使用の現状
1 通常裁判(裁判員裁判以外)について
裁判員裁判以外の通常裁判においては、被告人等は、ほぼ例外なく一律に、手錠・腰縄をされたままの状態で刑事法廷内に入廷させられ、裁判官が手錠・腰縄の解錠を指示するまで、手錠・腰縄をされたままの状態で刑事法廷内にいなければならない。また、裁判官が審理終了を告げると、被告人等は刑事法廷内において再び手錠・腰縄をされ、手錠・腰縄をされたままの状態で退廷しなければならない。
このように、被告人等は、裁判官が手錠・腰縄の解錠を指示して審理が始まり、審理が終わって再び手錠・腰縄をされるまでは手錠・腰縄をしない状態で刑事法廷内にいるが、その前後の時間帯は、手錠・腰縄をされたままの状態で法廷内にいなければならず、その姿を裁判当事者や傍聴人など、周囲にさらされることにもなる。
2 裁判員裁判について
裁判員裁判の場合には、2009年7月24日付け通知(法務省矯成3666号)が出されている。そこで提示されている手順では、裁判官及び裁判員ら(以下「裁判体」という。)の入廷時には、裁判体の誰もが、被告人の手錠・腰縄姿を見ない手順となってはいるが、退廷時には、裁判長が、被告人への手錠・腰縄使用を指示・確認してから退廷することになっている(もっとも、実際の運用においては、上記通知の運用どおりにする裁判所もあれば、入廷時において、あらかじめ裁判長のみが入廷して、裁判長が直接被告人の手錠・腰縄の解錠を指示・確認した後、他の陪席裁判官及び裁判員が入廷するという取扱いをしている裁判所もある。)。
上記通知では、事前解錠の是非について、逃亡等のおそれの程度などを個別具体的に判断することとなっている。
このように、裁判員裁判においては、裁判員が、被告人の手錠・腰縄姿を目にしないための配慮がなされており、入廷時の手順では、裁判体の誰もが被告人の手錠・腰縄姿を見ないようになっている。しかし、傍聴人や裁判体以外の検察官などからは手錠・腰縄姿が見られることとなり、このことについては何らの配慮もなされておらず、ほぼ例外なく一律に、被告人が手錠・腰縄をされることは通常裁判と同様である。
第3 刑事法廷内における入退廷時の被告人等に対する手錠・腰縄使用は憲法及び国際人権法等違反
1 憲法及び国際人権法から見た手錠・腰縄使用の人権侵害性
(1) 個人の尊厳及び人格権侵害
被告人等も品位を傷つけられる取扱いがされるべきではなく、人としての個人の尊厳が保障されるべきことは言うまでもない。
この点、憲法第13条は「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と規定し、自由権規約は「何人も、拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を受けない。」(第7条)、「自由を奪われたすべての者は、人道的にかつ人間の固有の尊厳を尊重して、取り扱われる。」(第10条第1項)と規定している。さらに、拷問等禁止条約第16条第1項は、「品位を傷つける取扱い」を禁止している。
しかし、手錠・腰縄を使用することはそれ自体で、被告人等の自尊心を傷つけるのみならず、被告人等に対して屈辱感、羞恥心及び無力感等を与え、肉体的にも精神的にも服従を強いることとなる(そもそも、手錠・腰縄は拘束側の権威を誇示する道具でもあると言える。)。また、被告人等の手錠・腰縄姿は、それを見た傍聴人がアンケートに回答しているとおり、被告人等が罪人であることを周囲の者に想起させる(以上につき、第1の1記載のアンケート参照)。
この点、上記大阪地裁判決は、「手錠等を施された姿を傍聴人に見られたくないとの被告人の利益ないし期待は、憲法13条の趣旨に照らして法的保護に値する利益」と判示し、手錠・腰縄姿を傍聴人に見られたくないという被告人等の利益ないし期待に法的保護を認めている。
したがって、手錠・腰縄の使用は、被告人等の人格権を侵害する上、傍聴人などその姿を見る者に罪人であると思わせるような外観を作出することから、「品位を傷つける取扱い」であり、個人の尊厳及び人格権を侵害する。手錠・腰縄姿が衆人にさらされることが、被告人等に対する人格権侵害に該当しうることは、最高裁判所も認めているところである(最高裁2005年11月10日第一小法廷判決(民集59巻9号2428号)は、「被上告人が手錠、腰縄により身体の拘束を受けている状態が描かれたものであり、そのような表現内容のイラスト画を公表する行為は、被上告人を侮辱し、被上告人の名誉感情を侵害するものというべき」と判示している。)。
被告人等に対する手錠・腰縄の使用は、憲法第13条、自由権規約第7条及び第10条第1項、拷問禁止条約第16条第1項に反している。
(2) 無罪推定の権利侵害
有罪判決を受けるまでは、無罪として取り扱われる権利(無罪推定の権利)については、憲法第31条から解釈上導かれる上、自由権規約第10条第2項(a)が「被告人は、例外的な事情がある場合を除くほか有罪の判決を受けた者とは分離されるものとし、有罪の判決を受けていない者としての地位に相応する別個の取扱いを受ける。」と規定するとともに、同第14条第2項が「刑事上の罪に問われているすべての者は、法律に基づいて有罪とされるまでは、無罪と推定される権利を有する。」と明記している。
被告人等を手錠・腰縄姿のまま、これから有罪か無罪か審理を受ける場である法廷に出廷させることは、公平・公正であるべき法廷において、被告人等をあたかも罪人であるかのように取り扱っているような外観を生じさせるため、無罪推定の権利を侵害する。この点、自由権規約委員会の一般的意見32(自由権規約第14条の解釈指針)も、「被告人は通常、審理の間に手錠をされたり檻に入れられたり、それ以外にも、危険な犯罪者であることを示唆するかたちで出廷させられたりしてはならない。」と指摘しているところである。
したがって、被告人等に対する手錠・腰縄使用は、無罪推定の権利を定める憲法第31条、自由権規約第10条第2項(a)及び第14条第2項に違反している。
(3) 防御権、対等当事者としての権利及び公平・公正な裁判を受ける権利侵害
被告人等は、憲法第31条以下の規定からして、刑事裁判の一方当事者として防御権が保障され、検察官と対等な立場で裁判に臨む権利を有している上、自由権規約第14条第1項も「すべての者は、裁判所の前に平等とする。」と規定している。
ところが、対等当事者である検察官の目の前で、被告人等に手錠・腰縄を施したまま入退廷させることは、被告人等の自尊心を傷つけるのみならず、被告人等に屈辱感、羞恥心及び公権力に対する無力感等を抱かせることにより、自由な意思による主体としての訴訟活動を萎縮させることになり、防御権も充分に行使し得なくなるおそれがある。
そもそも、被告人等と検察官は、対等当事者であるにもかかわらず、検察官と異なり、対等であるはずの被告人等のみが手錠・腰縄で身体を拘束された状態で入退廷を強いられること自体、もはや対等とは言えず、公判に臨もうとする被告人等に対する心理的な抑圧となる点において、被告人等に対する手錠・腰縄の使用は、被告人等の防御権を侵害する。
さらに、審理を主宰して判決をする判断権者である裁判官の眼前で手錠・腰縄を使用されることもまた、被告人等に劣等感や羞恥心を抱かせ、対等当事者としての地位が脅かされることとなる。しかも、被告人等からすれば、判決をする裁判官が手錠・腰縄の解錠や施錠を指示する主体でもある。実際、上記第1の1記載のアンケート調査によれば、これからの裁判で公正な判断を期待しているにもかかわらず、あたかも有罪であるかのような手錠・腰縄姿を裁判官に見られて予断や偏見を持たれるのではないかという意識を抱く被告人が少なからずいるという結果が出ている。裁判に当たって、このような不安感を被告人に与えるのは、公平・公正ではない。この点、憲法第37条第1項は、「すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。」と規定しているし、上記のとおり自由権規約第14条第1項も「すべての者は、裁判所の前に平等とする。」と規定しているところである。
裁判官は、手錠・腰縄を使用された状態の被告人等に対して予断や偏見を抱かないと主張するのであろうが、裁判員裁判では、被告人の手錠・腰縄姿が裁判員には全く見られないように配慮されている。これは、被告人の手錠・腰縄姿が裁判員に予断や偏見を抱かせるおそれがあるからにほかならない。裁判員が予断や偏見を持つおそれがある以上、裁判官も訴訟専門家であるからといって、予断や偏見を全く抱かない保証はない。少なくとも、予断や偏見を抱くおそれが完全に払拭できない以上、公平・公正な裁判の実現のためには、そのおそれ自体を除去する必要がある。
裁判官が予断や偏見を抱くおそれがある以上、公平・公正な裁判を受ける被告人等の権利が侵害されないようにする必要がある。すなわち、裁判官には、刑事公判廷における入退廷時の被告人等に対して手錠・腰縄を使用しないようにして、公平・公正な裁判を受ける被告人等の権利を保障する義務があるというべきである。
以上からして、刑事法廷内で被告人等に対して手錠・腰縄を使用することは、被告人等の防御権、対等当事者として裁判に臨む権利及び公平・公正な裁判を受ける権利を侵害しているから、憲法第31条以下、第37条及び自由権規約第14条第1項に違反している。
2 国連被拘禁者処遇最低基準規則(マンデラ・ルール)
国連被拘禁者処遇最低基準規則(マンデラ・ルール)は、様々な法制度、法文化が存在する中でも、各国が守るべき被拘禁者処遇の最低基準を示した国際連合決議である。同規則は、国連総会において、満場一致で採決されており、当然ながら日本も同規則を守るべき最低基準として賛成したこととなる。
同規則では、拘束具の使用可能な場面は、①司法ないし行政当局に出頭する場合には外されるという条件の下、移送時の逃走に対する予防措置として、②自己若しくは他人を傷つけ、又は財産に損害を与えることを防止するために、他の制御方法が役に立たない場合に、施設の長の命令によってなされる場合(規則第47条第2項)の2つの場合に限定されている。そして、上記2つの場合に該当して拘束具を使用できる場合であっても、「より制限的でない制御形態では効果がない場合にのみ」、「必要かつ合理的に利用可能な最も侵襲性の低い形態」の拘束具のみが、「必要な時間のみに用いられ、かつ、…危険がもはや存在しなくなった後にはできる限り速やかに取り外され」なければならないとの条件の下、使用が認められる(規則第48条第1項)。
以上の国際準則である国連被拘禁者処遇最低基準規則(マンデラ・ルール)からすれば、日本での刑事法廷内における被告人等に対する手錠・腰縄使用は、同ルールの厳格な拘束具の使用基準に違反している。
3 EU指令
ヨーロッパでは欧州人権条約やEU基本権憲章で基本的人権の保障が規定されているところ、EUが無罪推定を受ける権利等に関する指令として2016年に採択した343号では、「法廷または公衆の面前において、身体拘束具を使用することによって、被疑者・被告人が有罪であるものとして露見されないようにするために適当な措置をとる」(同指令第5条第1項)ことを加盟国に要請しており、前文第20項では、「手錠、ガラスの覆い、檻および足枷などのような身体拘束具によって、法廷または公共の場において、被疑者・被告人が有罪であるとの印象を与えることを慎むべきである」と明記している(北村泰三「被告人を入退廷時に手錠・腰縄で拘束する措置は人権侵害か?」世界人権問題研究センター「研究紀要」23号32頁(2018年))。
4 諸外国の実例
(1) 韓国
韓国は、韓国刑訴法第280条において、「公判では、被告人の身体を拘束することができない。ただし、裁判長は被告人が暴力を行使し、又は逃亡するおそれがあると認めるときは、被告人の身体の拘束を命じ、又はその他必要な措置を行うことができる。」と規定し、公判廷での身体不拘束原則に関して、日本の刑訴法第287条第1項とほぼ同様の規定を有している。
そして、2017年に近畿弁護士会連合会が行った調査などによれば、韓国では、被告人が自分の裁判が始まるまで待機する部屋(待機室)が法廷に直結している裁判所が存在し、公判廷での身体不拘束原則を保障するため、被告人は、この待機室で手錠を解錠されて法廷に入廷し、退廷時は待機室に入室後に施錠される。また、2024年に当連合会が大韓弁護士協会に待機室の設置状況について照会したところ、大韓弁護士協会を通じて、法院行政処(日本の最高裁事務総局)から、ほとんどの刑事法廷には被告人待機室が設置されており、待機室が設置されていない法廷は、刑事本案事件以外の令状実質審査、即決審判などを担当する法廷又は外部見学などの体験法廷等に使用されているとの回答がなされている。このように、韓国では、刑事法廷に待機室が設置されており、被告人は手錠・腰縄をしない状態で公判廷に入退廷することができ、公判廷での身体不拘束原則が徹底されている。
(2) アメリカ
「アメリカ合衆国でも法廷内における被告人に対する拘束具の使用の是非は従来から問題となってきた。一般に被告人が裁判所に出廷する際に目に見える拘束具を付けることが許されるかどうかは、個別の事案毎に逃亡のおそれや法廷内の安全確保等を考慮して決定すべきであるとされている。アメリカ合衆国連邦最高裁判所のデック対ミズーリ事件の法廷意見では、それらの事情を考慮せずに、被告人に人から見えるような拘束具を付けたまま出廷させることは、合衆国連邦憲法修正第五条および修正第十四条等(法の適正手続き)に違反するとしている点で注目される」(北村・前掲9頁)。
なお、上記連邦最高裁判決(2005年5月23日)は、有罪・無罪の評決(guilt phase)後の量刑審理(penalty phase)に被告人が出廷する際、足鎖・手錠・胴鎖で拘束されていた事案についての判示である。
また、上記法廷意見は「法廷の公的尊厳(courtroom’s formal dignity)とは、被告人を尊重して扱うこと(respectful treatment of defendants)を含むものであり」、「法廷における拘束具の使用は、裁判官が支持する司法手続の厳守性と慎みを損なうものである」と言及しているという(北村・前掲11~12頁)。
(3) イギリス(イングランド、ウェールズ及び北アイルランド)
「英国の判例法によれば、被告人に対する法廷内での拘束具の使用に関しては、一般的に被告人は、法廷に入廷する際にも、審理中にも手錠などの拘束具は外されているが、逃亡または暴力を振るうおそれのある場合に限って手錠で拘束されることも認められる。」、「手錠を使用する合理的な根拠を証明する責任は、訴追側にある」とされている(北村・前掲7頁)。
(4) ドイツ
ドイツでは、州・裁判所により運用が異なるようであるところ、ノルトライン・ヴァストファーレン州のケルン地方裁判所では、原則として法廷内で被告人に手錠等拘束具は使用されておらず(刑務所から裁判所への移送時も手錠をしないのが原則である。)、法廷内で手錠等拘束具を使用することはほとんどない。
法廷内で拘束具を使用するための法的根拠としては、訴訟を安全な状態で行うために必要な措置を採ることができるという一般条項(裁判所法第176条)であり、手続としては、被告人がテロ犯罪に関わる場合、刑務所での暴力行為・護送中の刑務官への暴力行為があった場合などに、検察庁から裁判所に被告人の身体拘束要請がなされ、裁判所が被告人の行動等調査を刑務所に依頼して安全措置の要否を調査し、手錠等の身体拘束の要否を決定する(逃亡のおそれは拘束するか否かにおいて判断要素にならない)という。これまでの逃亡事例も極めて僅かであるが、裁判所からの逃亡を防止するための措置として、割れにくい窓ガラスへ変更したり、法廷からの逃亡があっても裁判所の出入口をすぐに閉鎖することができるようにしているという。
同じ州内のハッティンゲン簡易裁判所でも、手錠等拘束具をしたまま法廷内に入る事例はかなり例外的(身体拘束されている被告人の割合は約1割ほどであり、手錠をして裁判所に護送された場合でも裁判所内の収容房で手錠を外され、手錠等をされたまま法廷に入廷する被告人はそのうちの4割ほど)であるという。拘束具を使用したまま法廷に入る場合でも、法廷に一歩入った(裁判官からは手錠が見えない)扉の陰で、解錠・施錠するとのことである(以上、近畿弁護士会連合会人権擁護委員会「第33回近畿弁護士会連合会シンポジウム第1分科会『ストップ!法廷内の手錠・腰縄』基調報告書」(2017年)46~54頁)。
(5) オーストラリア
2024年5月に当連合会が実施したオーストラリアの手錠等拘束具使用の実態調査によれば、オーストラリアの刑事手続は連邦法と州法で規律されており、クィーンズランド州及びニューサウスウエルズ州においては、原則的に被告人は、法廷に入退廷する際には、手錠等拘束具を付されてはいない。その理由の一つは、オーストラリアでは、被告人は起訴後9割以上保釈されていることが大きい。
保釈されていない被告人は、入廷前に、法廷に隣接する待機室で手錠を外されてから入廷するのが一般的である。もっとも、被告人が暴れるなど自傷他害のおそれがある場合には、例外的に手錠を付されたまま入廷することがある。逃亡防止というよりも自傷他害のおそれがある場合に使用されるようである。
このように、調査を行ったオーストラリアの上記2州においては、保釈されていない被告人に対しても手錠を付していないのが原則で、例外的に手錠を付す場合には、個々の被告人の特性に応じて、自傷他害のおそれを具体的に検討して手錠を付すか否かを判断している。
5 小括
以上のとおり、公判廷での入退廷時に被告人等に対して、漫然と一律に手錠・腰縄を使用することは、憲法及び国際人権法に違反しているし、国際基準である国連被拘禁者処遇最低基準規則(マンデラ・ルール)にも反している。
さらに、EU指令や諸外国の実例と比較すれば分かるとおり、少なくとも一部の国・地域や裁判所においては、被告人等に対する手錠・腰縄使用に関して一定の配慮がなされているのに対して、日本においては、被告人等に対する手錠・腰縄使用に対して人権上の配慮が全くなされておらず、国際的な観点からしても、被告人等に対する人権保障が大きく立ち遅れている。
第4 被告人等に対する手錠・腰縄使用を人権侵害と認めない日本の裁判所
1 日本の刑事司法の現状
被告人等に対する手錠・腰縄使用は、身体拘束の一つであるところ、身体拘束は公権力による人身の自由に対する究極の侵害である。それにもかかわらず、日本の刑事司法では、身体拘束が極めて安易に許容され、過剰かつ長期の身体拘束が実務上常態化しており、正当な黙秘権の行使でさえ身体拘束の長期化に繋がることから、「人質司法」と強く批判されている(2020年11月17日付け「「人質司法」の解消を求める意見書」参照)。
自由権規約第9条第3項は「裁判に付される者を抑留することが原則であってはならない」と身体不拘束原則を明記し、憲法第34条も「何人も、正当な理由がなければ、拘禁され」ないと規定して、人身の自由に対する制限を必要最小限度に留めることを示しており、身体不拘束原則の趣旨と一致している(2007年9月14日付け「勾留・保釈制度改革に関する意見書」5頁)。
被告人等の人身の自由に対する過剰な人権侵害によって、刑事法廷内の入退廷時にも手錠・腰縄が使用され、被告人等の人格権、無罪推定を受ける権利等をも侵害する結果をも生んでいる。
そのため、安易な身体拘束、身体拘束の長期化及び「人質司法」の抜本的解決は、刑事法廷内の入退廷時の手錠・腰縄問題解決のためにも極めて重要な課題である。
2 手錠・腰縄国賠訴訟の裁判例
上記第1の5で指摘したとおり、手錠・腰縄を使用したことに対する国家賠償請求訴訟(大阪地裁、京都地裁・大阪高裁、広島地裁・広島高裁)においては、手錠・腰縄使用の違憲性・違法性を認めた判決は存在せず、2023年11月15日の広島高裁判決に対する上告審としての最高裁第二小法廷2024年5月24日決定は上告理由に当たらないとして、上告棄却・上告不受理決定が下された(大阪地裁判決以外はいずれも判例集未登載)。
このように刑事法廷内の手錠・腰縄使用の違憲性・違法性を認めようとしない裁判所の考え方自体、憲法及び国際人権法の規定・趣旨を理解せず、被告人等の基本的人権の侵害状態を追認し、裁判官の憲法尊重擁護義務に反するものであり、決して看過・放置できない。
上記最高裁が上告に対して具体的な判断をしなかったということは、被告人等に対する手錠・腰縄使用は人権侵害ではない、すなわち憲法違反・国際人権法違反ではないと認めたことになる。
たしかに、憲法の規定は、上記の国際人権法に比べると、抽象的な記述が多く、例えば、無罪推定の権利は憲法上の権利であり、憲法第31条の規定等から解釈上導かれるとされているが、明文での規定はない。これに対して、自由権規約第14条第2項は、「刑事上の罪に問われているすべての者は、法律に基づいて有罪とされるまでは、無罪と推定される権利を有する。」と明記している。
そして、以下で指摘するとおり、憲法が定める基本的人権の保障は国際人権法を取り込むことで充実する。その結果、自由権規約が無罪推定の権利を明確に定めており、被告人等に対する手錠・腰縄の使用は無罪推定の権利を侵害する以上、被告人等に対する手錠・腰縄使用は憲法上も無罪推定の権利を侵害し、憲法に明確に違反しているというべきである。
3 憲法と国際人権法の関係
刑事法廷内における入退廷時の被告人等に対して手錠・腰縄を使用することは、憲法及び国際人権法に違反していると言うほかないが、まず、憲法と国際人権法の関係について、改めて言及しておく。
(1) 国際人権法の日本国内における効力
国際人権法とは、主に各種人権条約(自由権規約、社会権規約、拷問等禁止条約など)、その実施制度及び人権保障に関する国際慣習法等のことをいう。日本が締結した各種人権条約は、憲法第98条第2項に従い、「これを誠実に遵守することを必要とする」。日本が締結した各種人権条約は、その人権の内容にもよるが、一般的には日本国内において直接効力を有し、その効力は法律よりも優位である。したがって、各種人権条約に反する法令は人権条約違反として無効であり、行政処分などは取り消し得るとされている。
(2) 憲法と国際人権法及び国内法の関係
憲法と条約である国際人権法の国内適用における解釈基準については、両者の内容に矛盾がない場合、「憲法第98条第2項で『条約を誠実に遵守する』ということになっており、…人権条約の規定が日本国憲法よりも保障する人権の範囲が広いとか、保障の仕方がより具体的で詳しいとかいう場合は…、憲法のほうを条約に適合するように解釈していくことが必要だ…。つまり、人権条約の趣旨を具体的に実現していくような方向で憲法を解釈する、それが憲法解釈として必要になってくる」(芦部信喜「憲法叢説2」(信山社・1995年)22頁)、「『国際人権』のなかには日本国憲法の保障する『基本的人権』と抵触するものもありうるが、『基本的人権』の保障の動態的展開にとって十分な刺激となり、憲法の解釈を通じて取り込むべきものがあるはずである」(樋口陽一ほか「注解法律学全集4憲法IV〔第76条~第103条〕」(青林書院・2004年)351頁[佐藤幸治執筆])とされている。
また、国内法と国際人権法の国内適用における解釈基準については、少なくとも国際人権法が憲法に反していない限りは、国際人権法が国内法に優位することについて、学説上は異論がないとされている(齊藤正彰「憲法と国際法(特に、人権の国際的保障)」(衆議院憲法調査会・最高法規としての憲法のあり方に関する調査小委員会・平成16年4月22日)3頁)。
4 刑事法廷内における入退廷時の被告人等に対する手錠・腰縄使用は憲法違反
上記のとおり、憲法は、条文上、入退廷時の被告人等に対する手錠・腰縄使用を明確に禁止していないように見えても、例えば、自由権規約は無罪推定の権利を明記し、自由権規約委員会の一般的意見32も「危険な犯罪者であることを示唆するかたちで出廷させられたりしてはならない。」としていることからすれば、被告人等に対する手錠・腰縄の使用は、憲法上の権利である無罪推定の権利を侵害している。したがって、憲法も自由権規約が規定しているのと同様、被告人等に対して無罪推定の権利を保障し、危険な犯罪者であることを示唆するかたちで出廷させることを禁止している、すなわち、被告人等が入退廷時に手錠・腰縄を使用することを禁止しているというべきである。
したがって、刑事法廷内における入退廷時の被告人等に対して、漫然と一律に手錠・腰縄を使用することは、憲法に明確に違反しており、違憲・違法と認定されなければならない。
5 個人通報制度の導入及び政府から独立した人権機関設置の必要性
上記のとおり、入退廷時の被告人等に対する手錠・腰縄使用は、国際人権法及び国際基準に反しているにもかかわらず、裁判所がその違憲性・違法性を認めないために、日本の裁判所では、手錠・腰縄等を使用された被告人等が裁判に訴えても、その基本的人権の侵害は是正できない。このような場合、国際人権条約で保障された権利を侵害された者が、国内で裁判などの救済手続を尽くしてもなお権利が回復されない場合に、各人権条約機関に直接救済の申立てができる手続(例えば、国連自由権規約委員会の「個人通報制度」)を行うことができれば、裁判所の判断が国際人権法等に合致しているかを判断してもらうことができる。しかしながら、日本は個人通報制度を導入しておらず、国連から導入を繰り返し求められている。日本が個人通報制度を導入すれば、各人権条約機関に被告人等の手錠・腰縄使用の国際人権法違反を訴えることができるが、現状ではそれも不可能である。
また、当連合会が設置を求めている政府から独立した人権機関が創設されれば、同機関で手錠・腰縄問題を取り上げることも可能である。
したがって、個人通報制度及び政府から独立した人権機関を導入して、手錠・腰縄問題に関する人権救済を図っていく必要がある(2019年10月4日付け「個人通報制度の導入と国内人権機関の設置を求める決議」)。
第5 適切な法廷警察権の行使による刑事法廷内における入退廷時の被告人等に対する手錠・腰縄の原則不使用
1 手錠・腰縄使用に関する条文について
上記第1の3(2)で指摘した大阪地裁判決においては、国は、「公判廷においては、被告人の身体を拘束してはならない。」と規定する刑訴法第287条第1項について、「公判廷」とは、開廷後閉廷までと限定解釈すべきであるから、入退廷時には同条項は適用外であり、また、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「刑事被収容者処遇法」という。)第78条第1項に基づき手錠捕縄が使用できる「護送」に該当するとして、入退廷時の手錠・腰縄使用は法律上根拠があると主張していた。
しかし、被告人の身体が拘束されると、被告人の心理面に影響を及ぼし自由な防御活動の制約となりうることがあり得ること、手続の公正を期することができないことから、公判廷における被告人の身体不拘束原則が規定された(「注釈刑事訴訟法」第3巻84頁、「大コンメンタール刑事訴訟法」第四巻443頁等参照)。このことからすれば、開廷前・閉廷後であっても、物理的には法廷内であり、裁判官等の訴訟関係人及び傍聴人が所在し、審理に時間的・空間的に密着している以上、刑訴法第287条第1項の趣旨は及ぼされるべきであり、審理中ではないからといって、同項が規定する身体不拘束原則が適用されないと解するのは不合理である。
被告人等の人権保障(上記の個人の尊厳・人格権、無罪推定の権利、防御権、公平・公正な裁判を受ける権利等)に鑑みれば、刑訴法第287条第1項が入退廷時にも適用されるべきであるし、少なくとも、同条は、拘束される被告人の心理的影響と手続的公正性を確保する趣旨であることから、その趣旨は法廷の中において完遂されるべきである。
また、言葉の概念からしても、被告人の人格権や無罪推定の権利等を保障する観点からも、「護送」とは刑事法廷という物理的場所に連れて来るまでと解釈すべきであるから、法廷に入る段階(入廷時)は「護送」とは解釈すべきではないし、法廷から出る段階(退廷時)も同様である。
2 法廷警察権について
法廷警察権とは「法廷の秩序を維持し、審判の妨害を制止、排除するための(訴訟法上の)裁判所が行使する権限」であるところ(「大コンメンタール刑事訴訟法」第四巻448頁)、裁判長の法廷警察権として、刑訴法第288条は「被告人は、裁判長の許可がなければ、退廷することができない」(第1項)、「裁判長は、被告人を在廷させるため、又は法廷の秩序を維持するため相当な処分をすることができる」(第2項)と規定しており、法廷警察権は、審理中のみならず、審理に時間的・場所的に密着した範囲・場所にも及ぶと一般に解されている(前掲450頁)。
そうであれば、被告人等に対して手錠・腰縄を使用して入退廷させることは被告人等に対する重大な基本的人権の侵害である上、刑訴法第287条第1項の身体不拘束原則の趣旨が入退廷時の被告人等にも妥当する以上、原則として入退廷時も身体拘束は認めるべきではなく、裁判官は、良心に従って独立してその職権を行い、憲法及び法律のみに拘束され(憲法第76条第3項)、憲法尊重擁護義務(憲法第99条)を負うことからして、被告人等の人権侵害を防止するため、法廷警察権を適切に行使する義務を負っているというべきである。
もちろん、被告人等が暴行や逃亡行為に及ぶという例外的な場合もあるが、その場合には、裁判長が法廷警察権を行使して在廷命令その他相当な処分(身体拘束を含む)をすることができるのであるが(刑訴法第288条第2項)、現在の法廷警察権の行使はおよそ例外と原則が逆転していると言うほかない。
この点、公判廷での被告人身体不拘束原則の例外要件として、刑訴法第287条1項ただし書は「暴力を振い又は逃亡を企てた場合」と規定しているところ、暴力については、文言上、現に客観的に暴行行為に及んだ場合であることは明らかであるが、「逃亡を企てた場合」についても、「企て」を計画などの主観・内心で判断すべきではなく、過剰な身体拘束を防止するため、少なくとも現実に客観的な逃亡行為に着手したとき(すなわち、拘禁作用の侵害が開始されたとき)を「逃亡を企てた場合」と解釈されるべきである。
また、たとえ刑訴法第287条1項ただし書に該当する場合であっても、個人の基本的人権は最大限尊重され、その制限は必要最小限度でなければならず、前述した国連被拘禁者処遇最低基準規則(マンデラ・ルール)においても、拘束具の使用は「より制限的でない制御形態では効果がない場合にのみ用いられる」(規則第48条第1項(a))と定められているから、在廷命令その他の法廷警察権の行使では功を奏さないことが明らかであるなど、入退廷時に手錠・腰縄を使用するためには「より制限的ではない他の手段が存在しない真にやむを得ない最後の手段として必要最小限度の使用に留めなければならない(「大コンメンタール刑事訴訟法」第四巻444頁にも、「手続の公正が疑われることのないよう、拘束はできる限り避けるのが妥当であり、拘束を命ずるとしても、その方法・態様等も必要最小限度に留めるべきものと解されている」と記載されている。)。
裁判官は、逃亡のおそれを過度に重視して、現在の運用を続けているが、その結果、被告人等の諸々の人権保障が犠牲になっている。
入退廷時に一律に被告人等に対して手錠・腰縄を使用している現在の運用実態は、漫然と一律になされている「慣例」のような運用に過ぎず、是正されなければならない。
3 暴行及び逃亡への対処について
上記第4の1で指摘したとおり、日本の刑事司法では安易な身体拘束や身体拘束の長期化が常態化し、被告人等に対する身体拘束が過剰であるが、刑事裁判に臨むために被告人等は裁判所に出頭し、公判で訴訟活動をする予定である以上、一般的に暴行や逃亡のおそれが高いとは言えない。たしかに、これまで、暴行や逃亡事例が存在するものの極めて少数であり、入退廷時に被告人等に対して漫然と一律に手錠・腰縄を使用することを正当化することの根拠にはなり得ない。
当連合会の照会に対する最高裁判所の回答によれば、2018年度から2023年度にかけての刑事法廷内での逃走、自傷、他害(暴行)及び器物損壊事案の発生件数は次のとおりである。
2018年度(10件) 他害(暴行)6件、器物損壊4件
2019年度(6件) 他害(暴行)2件、器物損壊1件、逃走1件
自傷1件、他害(暴行)・器物損壊1件
2020年度(2件) 他害(暴行)2件
2021年度(4件) 他害(暴行)4件
2022年度(2件) 他害(暴行)1件、他害(暴行)・器物損壊1件
2023年度(5件) 他害(暴行)2件、器物損壊3件
もっとも、上記の件数は、在宅事案や保釈事案も含んでいるとのことであり、必ずしも手錠・腰縄が使用されていた事案だけではない。また、最高裁判所の回答では、事案の発生時期に関し「入廷後開廷前」、「開廷中」、「閉廷後退廷前」の区別が記載されているが、「開廷中」以外の事案については、発生時に手錠・腰縄が使用されていたか否かも明らかではない。そして、基本的な裁判所側の対応としては、職員等が被告人を取り押さえ、裁判官が退廷命令を出している事案が多い。
そもそも、暴行・逃亡の緊急事態が生じた場合は、刑事施設職員(刑務官)のみならず、裁判所が配置する看守者(刑訴法第287条第2項)によっても対処可能である。現在の運用においても、被告人等に対しては、刑事施設職員が2名は付けられているから、入退廷時に被告人等が逃亡すること及び訴訟関係人、傍聴人等に対して暴行することは一般的には困難である。実際に、上記の最高裁判所の回答のとおり、逃亡事案も暴行事案も極めて少数であるし、いずれも職員等によって取り押さえられている。
さらに暴行・逃亡への対処を万全とするのであれば、被告人等が「危険な犯罪者であることを示唆するかたちで出廷させられたりしてはならない」という自由権規約第14条(一般的意見32)を遵守した上で、暴行・逃亡のおそれを低減させるための法廷の構造や看守者配置の工夫など、物的・人的体制を整備することを検討すべきである。審理中の暴行・逃亡事案も、結局、裁判所の物的・人的体制の不備に基づいているといえる。
物的・人的体制を整備できていないことを理由に、入退廷時の被告人等に対して手錠・腰縄を使用して、その人格権等を大きく侵害することは、本末転倒であり、決して許されない。
4 漫然と一律に手錠・腰縄を使用することの原則中止
以上のとおり、裁判官は、その職責上、憲法を遵守する立場にあるから、法廷警察権を行使する際にも、当然、被告人等の基本的人権を尊重しなければならない。しかしながら、実際には、入退廷時の被告人等に対しては、漫然と一律に手錠・腰縄が使用され、被告人等の基本的人権が侵害されているのが実情である。
したがって、裁判官は、被告人等の基本的人権を尊重し、法廷警察権を適切に行使して、入退廷時の被告人等に対して、漫然と一律に手錠・腰縄を使用することを今すぐに止め、①刑訴法第287条第1項が規定する公判廷における身体不拘束原則を貫徹させ、被告人等が「暴力を振い又は逃亡を企てた場合」で(なお、「企てた場合」の解釈については、上記を参照。)、②身体拘束の比例原則やマンデラ・ルールに鑑みて必要やむを得ない場合以外には、手錠・腰縄を使用しないようにしなければならない。
第6 法廷内の手錠・腰縄の原則不使用を確実にするために今後なされるべきこと
1 立法の必要性
上記第5の2のとおり、裁判官は、被告人等の人権を侵害しないよう適切に法廷警察権を行使しなければならないにもかかわらず、入退廷時の被告人等に対して、漫然と一律に手錠・腰縄を使用して、その人格権等の基本的人権を著しく侵害している。
仮に、国賠訴訟で裁判所が認定するとおり、裁判官は法廷警察権について広範な裁量権を有するとの考えを採ったとしても、まさに広範な裁量権に基づいて、被告人等に対する人権侵害を行わないような措置を採ることが本来は可能であるにもかかわらず、一切そのような配慮を行わないのが実情である。
被告人等に対して手錠・腰縄を使用しないよう弁護人が申入れをしても、裁判官はほとんど配慮せず、何らかの配慮をしてもせいぜいが「時間差方式」であって、これでは被告人等の基本的人権は何ら保障されていないと言わざるを得ない。
現状のような刑事司法におけるかなり絶望的な状況においては、もはや裁判官による被告人等の人権保障を基本に据えた適切な法廷警察権の行使は期待できない。裁判官が、広範な裁量権を理由に、入退廷時の被告人等に対して手錠・腰縄を使用するという誤った運用を続け、被告人等に対する著しい人権侵害をなくすことに全く努力も配慮もしない以上、被告人等に対する入退廷時の手錠・腰縄使用については、立法でもって新たに明文を設けるべきである。
すなわち、現在の刑訴法第287条第1項と同様、入退廷時における身体不拘束原則を明記した立法が新たになされなければならない。具体的な条文案としては、第287条の2を新設して、「被告人の入退廷時においても前条の例による。」と規定すれば、第287条第1項及び第2項が入退廷時にも適用されることになる。
また、暴行・逃亡を理由に例外的に身体拘束する場合でも、前述(第5の2)のように、暴行・逃亡行為が現実に客観的な実行行為に着手し、かつ、「より制限的ではない他の手段が存在しない真にやむを得ない最後の手段」として必要最小限度の使用に留めなければならない。
2 物的・人的整備の必要性
今後、被告人等の基本的人権の保障を確実にするとともに、「被告人は通常、審理の間に手錠をされたり檻に入れられたり、それ以外にも、危険な犯罪者であることを示唆するかたちで出廷させられたりしてはならない。」(一般的意見32)ことを前提に、暴行・逃亡防止にも配慮して、相応の物的・人的整備が講じられなければならない。
具体的には、被告人等の入退廷時に手錠・腰縄を使用しないための施設整備(例えば、手錠・腰縄の着脱が可能な待機室やスペース等の設置)や暴行・逃亡防止のための物的・人的整備が講じられる必要がある。また、被害者等保護の観点から、入退廷時に被告人が被害者の近くを通らないよう動線に配慮し、検察官・被害者参加人席と被告人が至近距離にならないように各法廷の被告人出入口側を弁護人席に指定したり、被害者等が証言する証言台と被告人が至近距離にならないように被告人席を弁護人席の隣にすること等の工夫も考えられる。
3 法律上の要請
上記のような立法及び物的・人的整備は、刑事被収容者処遇法成立の際の附帯決議において、「拘禁されている被告人が法廷に出廷する際には、逃走等の防止に配慮しつつ、…捕縄・手錠を使用しないことについて検討すること」(参議院附帯決議第十一項)に沿うものであるから、早急に立法化及び物的・人的整備を図るべきである。
さらに、2024年4月18日の参議院法務委員会における被告人等の入退廷時の手錠・腰縄問題に関する質疑において、小泉龍司法務大臣は、被告人の人格権と逃亡防止の2つが両立できる道がないかをしっかり考えていく必要がある旨を答弁している。この答弁からすれば、逃亡防止も必要であるものの、被告人の人格権は憲法上保障されるものであるから、両者の調整を図るために、国は、入退廷時の身体不拘束原則を立法化する法案を提出するとともに、国及び裁判所は、入退廷時の被告人等に対して手錠・腰縄を使用しないための施設整備及び逃亡防止のための物的・人的整備を図る必要があるというべきである。
第7 結語
刑事法廷内における入退廷時の被告人等に対する手錠・腰縄の使用は、私たち弁護士を始めとして、裁判官及び検察官を含めた法曹三者が日常的に目にしながらも、その人権侵害性を見過ごしてきたと言わざるを得ない。基本的人権の擁護を使命とする私たち弁護士にとって、このことは、人権に対する鋭敏な感覚を持てなかったまさに痛恨の極みであり、被告人等の人権を侵害する手錠・腰縄問題は早急に改善されなければならない。
現在の運用は、漫然と一律に入退廷時の被告人等に手錠・腰縄を使用して、個人の尊厳・人格権を含めた被告人等の憲法及び国際人権法上の諸権利を著しく侵害してきたと言うほかない。
本決議をもって、私たち弁護士は、早急に手錠・腰縄問題を解決するべく、今まで以上にこの問題に熱心に取り組み、手錠・腰縄の原則不使用の申入れ活動を全国で展開して、裁判所に手錠・腰縄使用の基本的人権侵害性を広く知らしめるとともに、この問題が解決するまで不断の努力を惜しまず、被告人等の基本的人権の擁護に努めることをここに決意する次第である。