最高裁判所提案の「後見制度支援信託」導入の条件及び親族後見人の不祥事防止策についての意見書

2011年10月18日
日本弁護士連合会


本意見書について

日弁連では、「最高裁判所提案の『後見制度支援信託』導入の条件及び親族後見人の不祥事防止策についての意見書」を2011年10月18日付けで取りまとめ、同年10月19日に最高裁判所長官、財務大臣、厚生労働大臣、一般社団法人信託協会会長に提出いたしました。

 

本意見書の趣旨

当連合会は、本年2月10日付け「最高裁判所提案『後見制度支援信託』に関する要望」で拙速な導入は避けるよう要望し、本年3月27日付け「最高裁判所提案『後見制度支援信託』に関する意見書」で様々な問題点を指摘して導入に反対すること及び専門職団体等との協議により運用上・制度上の改正を行うべきとの意見を表明した。



その後、最高裁判所からの申出により、本年5月から、当連合会は、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート、日本司法書士会連合会及び社団法人日本社会福祉士会とともに、後見制度支援信託( 以下「本件制度」という。)についての協議を行ったところ、いくつかの問題点の解消は図られ、最高裁判所の作成した「後見制度支援信託の目的と運用(イメージ)」に反映された。



しかしながら、本件制度の導入と併せて整備すべき親族後見人による不祥事防止のための対策が不十分であること、また、本件制度自体については、前記意見書で指摘したように、成年後見制度の基本理念である成年被後見人の自己決定の尊重や本人のための柔軟な財産管理や身上監護にもとる重大な疑義があるなど本質的な問題点が残されており、当連合会としてはその導入に原則として反対する姿勢は維持せざるを得ない。



これに対し、最高裁判所は、本年末には本件制度を導入するとの姿勢を崩していない。そのため、当連合会は、上記の立場を維持しつつ、本件制度の運用に専門職団体として関与しながら、可能な限り問題の少ない運用となるように、検証と必要な見直しを求めていくことを選択したものである。



これに伴い、この間の最高裁判所との協議の中で明らかになりながら、上記「後見制度支援信託の目的と運用(イメージ)」には反映されなかった諸課題、すなわち、最高裁判所及び各家庭裁判所が本件制度を導入するに際し実施すべき諸条件及び併せて実施すべき親族後見人の不祥事防止策につき、本意見を表明するものである。



1 本件制度が導入された場合には、家庭裁判所は、以下の諸条件を遵守すべきである。



(1) 「後見制度支援信託の目的と運用(イメージ)」には、親族後見人による不祥事の防止が目的であることが明記されているが、この目的以外に本件制度が濫用されることのないように、限定的な運用を遵守すべきである。



(2) 専門職後見人に当該事案についての本件制度活用の適否の検討を指示する際には、「事務連絡」ではなく、必ず「指示書」を発行して、その責任の所在を明らかにすべきである。また、その際には、本人の自己決定・意思を十分尊重し、本人のための柔軟な財産管理・身上監護に資するか否かにつき十分に配慮するよう指示すべきである。



(3) 「後見制度支援信託の目的と運用(イメージ)」には、本件制度の利用については「基本的に(専門職)後見人の合理的判断を尊重する」と記載されているが、「合理的判断」とは、不正リスクの回避との比較によるのではなく、本人の自己決定・意思を尊重し、柔軟な財産の活用、安定的な身上監護による本人の権利擁護のため、諸事情を総合的に判断することを意味するものであり、この判断により利用が決定されるべきである。



(4) 「後見制度支援信託」契約の締結後も、少なくとも年1回は職権での定期監督立件を必ず行い、財産管理の適正・身上監護面で適切な配慮がなされているかについて、十分精査すべきである。



(5) 信託財産の払戻しや定期交付金額変更等の「指示書」の発行の際には、十分な疎明資料の提出を求めるほか、調査官による調査等を行い、十分に精査すべきである。また、上記「指示書」発行後は、速やかに職権で監督立件を行い、払戻金等の適正な使用について、十分精査すべきである。



(6) 本人の財産が、現金及び預貯金以外の金融商品・保険・不動産など多様な財産が存する場合については、本件制度は適用すべきではない。


特に、株式などの金融商品については、経済情勢の変動などによる不確定要素が大きいため、原則として換価対象とすべきではない。特に換価の必要性を裁判所が認めるときに限り、裁判所の「指示書」に基づく換価にとどめるべきである。


また、預貯金であっても、金融機関が本人の見守り機能を果たすなど地域福祉の担い手となっている場合などについては、換価対象とすべきではない。



(7) 本人に対する身上監護が専門的対応を要するなど親族での対応が困難な場合、あるいは、本人の心身状況の変動が大きく長期的に支援計画を検討する必要がある場合については、本件制度を適用すべきではない。



(8) 裁判所は、本件制度の適否を検討させる際に選任する専門職後見人を各専門職団体による推薦方式又は推薦名簿の搭載者に限定するべきである。 



2 家庭裁判所は、親族後見人による不祥事の事前防止策としては、専門職後見人・後見監督人の積極的活用をまずは図るべきである。また、「後見制度支援信託」に代わる方策として、後見監督人を付した上で預金解約時等の後見監督人の「同意」を得ることを金融機関などに対し周知・徹底に努め、また、親族後見人による一定条件以上の預金の出金・解約には裁判所の「指示書」を必要とする運用を預金取引等に導入するなど、本件制度より制約的でない他の対策を十分活用すべきである。



3 家庭裁判所は、親族後見人による不祥事防止のため、まずは、裁判所の実務運用として下記の対策を講ずるべきである。


(1) 後見人の選任時に、調査官による面接・本人との面談・親族への意向照会などを省略せず、事案を十分精査した上で、親族後見人の適格性判断を慎重に行うべきである。


(2) 後見人の選任時の初期研修を抜本的に充実させるとともに、選任後も、親族後見人に対し、専門職の協力を得るなどして定期的に研修を行い、研修未履修者に対しては、監督人の追加選任や解任事由とすべきである。


(3) 親族後見人への定期監督立件をより頻回に行うほか、親族後見人に何らかの不祥事の兆候があれば、直ちに職権での監督立件をして迅速に対処し、被害の拡大を未然に防止すべきである。


4 国は、親族後見人による不祥事の防止・抜本的解決のため、後見監督の責任ある裁判所が、2項及び前項の実務運用を十分実施するために裁判所の人的・物的体制を拡充し、そのための予算措置を講ずるとともに、後見人の権限の縮小、後見監督人及び家庭裁判所の監督権限強化・拡大等の成年後見制度の改正のために早期の法改正を行うべきである。



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