下級裁判所裁判官指名諮問委員会における面接実施に関する要望

2007年2月26日
日本弁護士連合会


要望の趣旨

貴委員会において面接を積極的に実施されることを要望します。


再任希望者については、少なくとも重点審議者全員に対して貴委員会における面接の機会を付与し、面接を希望する者については面接を実施することを要望します。


弁護士任官希望者については、全員に対して面接を実施することを要望します。


要望の理由

  1. 貴下級裁判所裁判官指名諮問委員会(以下「貴委員会」という。)が発足してから3年間が経過しました。法曹外委員6名を含む11名の委員全員が、この間、裁判官候補者の適格性判断に精力的に活動されてきたことに敬意を表します。貴委員会の発足は、それまで最高裁判所によって裁判所の内部資料のみによって行われてきた下級裁判所裁判官の指名過程を大きく変革するものでした。貴委員会に裁判所外部の委員が参加し選考に関与するとともに、最高裁資料だけでなく裁判所外部の情報も審議資料とすることにより裁判官の選任に国民の意思を反映させ、さらに、委員会の審議内容が国民に公開され、選考の基準、手続、スケジュールなどが明示され、不適格とされた場合には理由を開示することにより指名過程の透明化をはかったものであり、貴委員会の発足は裁判所改革としてきわめて画期的なものでした。また、この3年間の活動において、貴委員会が出された意見は、そのまま下級裁判所裁判官の再任、任命の結論に反映しており、貴委員会の存在は非常に重要なものとなっております。
    しかしながら、この3年間の貴委員会の活動において上記の貴委員会発足の趣旨及び存在の重要性が充分に活かされていないのではないかと憂慮しています。とりわけ、面接実施に対する貴委員会のこれまでの消極的対応はきわめて疑問であります。貴委員会において、弁護士任官候補者1名についての面接の実施が決定されたことがありますが、その後候補者が希望を取り下げたため実施には至らず、未だ現実に面接を実施したことはありません。
    当連合会は昨年2月7日に貴委員会に対し「下級裁判所裁判官指名諮問委員会における面接等に関する申入書」を提出したところですが、貴委員会委員の交代をふまえ、新たに本要望をするものであり、貴委員会において本要望について検討いただくことを切に願うものです。
    当然のことですが、当連合会はけっして貴委員会のなした個々の事案についての審議内容や再任不適格との結論の当否について論ずるものではありません。制度の運用について改善を求めているものです。


  2. 再任希望者に対する面接について
    貴委員会発足の契機となった審議会意見書では「裁判官の指名を受けようとする者に、同機関による選考の過程へのアクセスの機会を十分に保障するため、選考の基準、手続、スケジュールなどを明示することを含め、その過程の透明性を確保するための仕組みを整備するものとする」と明言されています。
    現在は、再任希望者たちが、自らの適格性に関して委員会でどのような資料・情報、具体的選考基準に基づき、何がどのように審議され答申されたのか、まったく見えない状況にあり、自らが重点審議者とされてもそれに対する意見表明や弁明の機会が何ら与えられないまま推移し、不適格とされた場合でも具体的な理由が開示されない実情にあります。こうした事態については速やかに改善されることが必要であると考えます。
    上記の不合理を回避するためには再任希望者に対する貴委員会による面接の実施が有効であると考えます。裁判所による人事評価資料の検討で十分であるとの意見もありますが、候補者に直接面接することによって得られる情報と報告による間接情報とは質的に大きな隔たりがあります。さらに、裁判所による人事評価の時点と貴委員会の判断時期とは一定期間の隔たりがあり、資料が時間の経過によって価値が変更することも多分にあります。こうした点については面接時に直接候補者に聴取することによって資料の的確性を確認することが可能となります。また、貴委員会が収集した情報の中には不的確な情報が存在する可能性は否定できません。面接によってそれらの情報の的確性、信頼性を確認することは相当程度期待できます。さらに、それらの資料が適格性の判断に影響を与えると考えられる場合には面接時に問題となっている点を候補者に伝え、弁明、反論の機会を付与することが可能となります。必ずしも書面化することが可能でなかったり、適切ではなかったりする事情についても口頭で相当程度伝達することにより、結果として不適格となった場合にも候補者本人の納得が得られる可能性もあります。
    上記の面接の有用性に照らせば、再任時の面接は再任希望者全員に対して実施することが望ましいと考えられます。しかしながら、現在の貴委員会の運用実態に照らし、面接の実施対象者を限定せざるを得ない場合には、重点審議者については全員に面接の機会を付与し、面接を希望する者については面接を実施する取り扱いとすることを要望します。その際、第1次面接の実施は各地域委員会が担当し、必要に応じて貴委員会が第2次面接を実施するという方法も考えられます。
    重点審議者であることを候補者に伝えることは候補者を萎縮させ望ましくないとの意見がありますが、何らの弁明の機会も与えられないまま不適格と判定されるより、たとえ重点審議者であると判明しても弁明の機会を付与することの方が当事者にとっては利益であります。重点審議者の範囲を疑問点について再調査を要する者とするなど「重点審議者」=「適格性を欠く者」とのレッテルが貼られないように工夫するなどの方策によって、上記の萎縮効果が生じないように工夫すべきであると考えます。


  3. 弁護士任官希望者に対する面接について
    弁護士任官希望者についても貴委員会による面接実施の意義は再任希望者の場合と同様です。
    ところで、この間貴委員会において、弁護士任官希望者のうち少なくない者が不適格とされました。弁護士任官希望者は、再任希望者とは異なり、裁判官としての実績がないため、裁判官としての適格性判断においてきわめて厳格で慎重な判断がなされているのではないかと推測されます。弁護士は職務の性格上当事者の利益のために行動するものであり、時に相手方弁護士や検察官、裁判官に対して対抗的な対応を示すことがあります。そのため、これらの者からの情報において否定的な情報が寄せられることは十分にあり得ることです。しかし、それらの情報の存在が直ちに裁判官としての適格性の欠如を意味するものではないと考えられます。貴委員会においては、情報の的確性、信頼性とともに、その情報の事実が候補者のいかなる活動の中でいかなる状況でなされたものであるかを慎重に考慮する必要があります。
    こうした弁護士活動の特性からも、貴委員会による候補者の面接は不可欠であると考えます。最高裁判所による面接の結果報告で十分であるとの意見もありますが、貴委員会が独自に収集した情報については、最高裁判所の面接時には候補者に示されていないのであり、情報の的確性を候補者に確認することができていません。
    また、上記のとおり裁判官としての実績がないことから慎重な判断をしていると考えられる貴委員会において、候補者を直接観察しその者の熱意や人間性を含めた裁判官としての適格性を判断するには面接はきわめて有用な手段と考えられます。
    よって、弁護士任官希望者については、貴委員会において面接を積極的に活用していただき、全員に対して貴委員会における面接を実施することを要望します。
    その際、弁護士任官希望者の情報収集について地域委員会が積極的に活動されることを望みます。第1次面接の実施は各地域委員会が担当し、必要に応じて貴委員会が第2次面接を実施するという方法についても検討されることを要望します。