道路交通法改正試案に対する意見書

2007年1月26日
日本弁護士連合会


 

本意見書について

2006年12月29日、警察庁は道路交通法の改正案に対する意見募集を行いました。改正案は以下の構成になっておりますが、当連合会は、改正試案のうち「1 悪質・危険運転者対策の推進」について意見を取りまとめ、2007年1月26日に警察庁長官に提出いたしました。


意見書の概要は以下のとおりです。


第1 意見の趣旨


道路交通法改正試案のうち、「1 悪質・危険運転者対策の推進」について、基本的に罰則の新設と重罰化によって飲酒運転の抑止に対処しようとしている点には疑問があり、反対である。


第2 意見の理由


  1. 道路交通法改正試案の概要
    →こちらをご覧ください。
  2. 飲酒運転に対する罰則の引き上げについて
    飲酒運転を撲滅するためには、根本的には飲酒運転を許容する日本社会のあり方を変えるとともに、個別的にはアルコールインターロック装置の義務付けなどより効果的な方法で対処すべきであり、罰則を重罰化するだけという安易な方法は避けるべきである。
  3. 飲酒運転をするおそれがある者に対する車両提供等をした者の罰則の新設について
    車両の提供や酒類の提供には様々な態様・形態があり、教唆犯又は幇助犯のいずれにも該当しない場合がありうるにもかかわらず、これらの行為を一律に禁止し、独立犯として処罰する規定を新設することは、処罰の範囲を新たに拡大するとともに、実質的には処罰する必要がない行為をも含めて処罰するおそれがある。
  4. 酒気を帯びた者が運転する車両への同乗した者への罰則の新設について
    3と同様の問題があり、同乗する行為にも、その知情の程度等について様々な場合があり、幇助犯に該当しない場合がありうるにもかかわらず、同乗する行為を一律に禁止し、独立犯として処罰する規定を新設することは、処罰の範囲を新たに拡大するとともに、実質的には処罰する必要がない行為をも含めて処罰するおそれがある。
  5. 救護義務違反に対する罰則の強化について
    救護義務違反は、当該車両等の運転者その他の乗務員に対して行政法上の義務を課すものであり、その罰則は、救護義務に違反するという形式犯について科されるのに対し、業務上過失致死傷罪又は危険運転致死傷罪はいずれも結果が発生したことに対する過失犯又は結果的加重犯であり、実質犯である。形式犯の罰則の方が、実質犯の罰則よりも2倍も重く規定されることは、法形式上から見ても、極めて不自然かつ不合理である。
  6. 飲酒検知拒否罪に対する罰則の強化について
    飲酒検知拒否が増加しているためにその罰則を強化しなければならないという必要性や立法事実は何ら示されておらず、あまりにも安易な重罰化だと言わざるを得ず、反対せざるを得ない。
  7. その余の提案について
    欠格期間については、上限を一気に2倍にすることは厳しすぎると考えられる。
    免許証提示に応じない者に罰則を新設するのも行き過ぎであり、行政罰で足りると考えられる。この場合に罰則の強制を必要とする立法事実は何ら示されていない。
  8. まとめ
    飲酒運転により痛ましい事故が発生している現実について何らかの対処が必要であることは認めるが、改正試案が、基本的には罰則の新設と重罰化によってこれに対処しようとしている点には疑問があり、改正試案には反対するものである。
    飲酒運転を根本的に抑止するためには、飲酒運転を許容する日本社会のあり方や、飲酒運転を防止する自動車技術の向上とその義務付け等の抜本的な改善を図るよう、自動車産業界とも意見を交換するなどして、飲酒運転を撲滅するための方策を総合的に検討すべきである。

以上

(※本文はPDFファイルをご覧下さい)