行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律施行令(案)に関する意見

2003年12月5日
日本弁護士連合会


本意見書について

本年5月23日に成立した「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律」(以下「行政機関個人情報保護法」という。)は、行政機関が保有している個人情報の取扱いに関する基本的事項を規定した法律であるところ、その施行に当たっては、同法の第1条が「個人の権利利益を保護することを目的とする」と規定していることからもわかるとおり、保有された個人情報により識別される「本人」の情報に対するアクセスの利便性を、行政の適性かつ円滑な運用との調和を図りつつも、最大限確保できるような制度設計が図られなければならない。


そして、この点は施行令の制定に際しても十分に斟酌される必要がある。


以下、この視点から本法の施行令(案)に対する意見を述べていく。


1.地方における情報の開示・訂正・利用停止請求について

行政機関個人情報保護法においては、同法2条3項が定義する「保有個人情報」により特定される「本人」より、一定の要件の下、当該「保有個人情報」の開示、訂正、利用停止等の請求を行うことができる旨定められている。


これらの権利行使は、当該「保有個人情報」を保有する行政機関の長に対して行うことができるとされていることから(行政機関個人情報保護法12条1項、同27条1項、同36条1項)、各省庁の本省に保有されている情報に関しては、現状を前提とする限り、東京の本省宛に開示等の請求を為さざるを得ない。そして、この点はこれら請求に対し、行政機関の長がその請求を却下あるいは棄却した場合における不服申立、あるいはその後の取消訴訟を提起する際における裁判管轄の問題にも関連する。本施行令(案)においても、検事正が行った開示決定等の不服審査請求は検事総長に対してする旨の規定が置かれているところであり(施行令(案)16)、少なくとも検察庁の情報に関しては、訴訟管轄が東京のみとなることが示されている。


しかし、このような対応は個人の権利行使を著しく困難にするため、当連合会は、国会審議の段階において、本人の居住する地域の各地方裁判所に裁判管轄を認める規定にすべきだと強く主張してきた。そして、この点に関連して、当時の片山虎之助総務大臣は「今回の個人情報保護の場合には、恐らく各省庁権限を地方に相当委任しますから、したがって、実体上は地方でいろいろなこと、訴訟も起こせる」と発言した(個人情報の保護に関する特別委員会・民主党石毛えい子議員の質問に対する答弁、平成15年4月15日議事録39頁)。したがって、行政機関個人情報保護法の施行に当たってはこの点について十分な配慮がなされるべきことは国も承知しているはずである。


本人の情報アクセスに関する東京と地方との地域格差を無くすためには、上述の大臣答弁に沿うような制度設計がなされる必要がある。具体的には行政機関の長の権限または事務の委任に関する行政機関個人情報保護法46条の規定を積極的に活用し、本省のデータの写しを各出先機関にも設置した上で、出先機関の長に開示等に関する権限を委任し対応を図ることなどが考えられ、これは同法の施行令の中でその姿勢を明示し、かつ方法・手続を明らかにすることによって実施することが可能な事柄である。


2.個人情報ファイル簿に関して

本人が行政機関の長に対し保有個人情報の開示等の請求を適切に行うためには、如何なる個人情報を当該行政機関が保有しているかを本人が知り得る状態にしておかなければならない。


そして、そのための制度が個人情報ファイル簿の制度であり、施行令(案)において、その公表方法については、インターネットの利用等を規定するなど一定の工夫がなされている様であるが(施行令(案)4-5)、その内容については、行政機関個人情報保護法の規定のほか、ファイルが電算処理されているものか否かが追加されるのみであり(施行令(案)4-6)、上述の観点からの検討はなされていないものと解される。


行政機関個人情報保護法10条1項10号は、政令で個人ファイル簿の記載内容を追加しうるよう定めており、当該規定を前提に、本人からの適切な開示請求に資するよう個人情報ファイル簿に含まれる情報を調整することも可能である。例えば、当該ファイル簿に各ファイルの書式を添付することによって、各ファイルにいかなる個人情報が記録されているのかを推測することが可能になる。


施行令のこの点に関する規定については、以上のような観点から再度の検討が図られるべきである。


3.目的外利用、外部提供

行政機関個人情報保護法では、目的外利用や外部提供は実施機関の判断で行うことになっている(8条)ので、当該個人情報の本人は知り得ない状況に置かれる。このような状況とこのような個人情報の集積・利用方法は個人の権利保護という観点からすると極めて問題である。


目的外利用や外部提供は極力行うべきではない。収集の当初から予想される利用や外部提供については、収集時において示すようにすべきである。そうすることによって本人はどのような行政機関で自分の個人情報が管理利用されているかということを予測することができ、開示・訂正・利用停止等の請求を実効的に行うことができるようになる。


4.まとめ

以上の各点を検討した上で、行政機関個人情報保護法の施行に関する政令を制定されたい。


以上