行刑改革会議による受刑者及び刑務官に対するアンケート結果について(申入れ)

日弁連総第67号
2003年11月10日


行刑改革会議
座長 宮澤 弘 殿


日本弁護士連合会
会長 本林 徹


アンケート結果について(申入れ)


第1 申入れの趣旨


行刑改革会議が本年実施し10月20日に公表した受刑者及び刑務官に対するアンケートの結果をふまえ、行刑改革会議の答申(提言)においては、


  1. 軍隊式行進、居室内の動作制限、裸体検身など非人間的取扱いを廃止し、硬直した所内規則を抜本的に見直すなど、処遇理念を管理統制から人間的処遇に根本的に転換すること、
  2. 刑務所(法務省)から独立した視察機関及び不服申立に対する審査権限をもつ機関を、それぞれ別個に設置すること、
  3. 電話の新設その他外部交通の手段・方法を飛躍的に拡大・緩和し、社会復帰のためにも、社会との断絶を避け親族などとの人間関係の維持に努めること、
  4. 弁護士や弁護士会に対する相談・人権救済の申立に関して立会や検閲をしないこと、
  5. 常態化した職員からの暴力・脅し・いじめを根絶する方策を立て、これらに関与した職員に対する厳格な処分及び職員全体に対する継続的人権教育を行うこと、

等が必ず含まれるよう、申し入れる。


第2 申入れの理由


1.暴力の常態化


受刑者に対するアンケート(以下「受刑者アンケート」という。)の結果によれば、34.2%が職員からの暴力・脅し・いじめを受けたことがあったと答え、LB級では実に48.4%にも上った。受けた回数も3~5回が26.6%、10回以上が16.8%となっており、暴力・脅し・いじめが日常的に行われていたことを示唆する内容となっている。その証左として、刑務官に対するアンケート(以下「刑務官アンケート」という。)では、7.6%が「自分自身が受刑者に暴力を振るったり、脅したり、いじめたりしたことがある」と答え、さらに10.6%が「他の職員が、受刑者に暴力を振るったり、脅したり、いじめたりしているところを目撃したことがある」と回答している。たとえ1%に満たなくともあってはならない暴力等について、これだけの職員が「あった」と答えていることは、極めて重要である。


暴力・脅し・いじめの具体的内容も深刻である。受刑者アンケートでは、暴力に関しては殴る・蹴るといった激しい暴力が少なくなく、保護房収容に際しての苛烈な暴力の事例も少なくない。なお、保護房収容については、LB級で35.1%もの受刑者が「あった」と回答しており、このこと自体、保護房収容が濫用されていたことを強く疑わせる数字である。その裏づけとして、保護房収容の要件については、「なかった」が58.4%(LB級では3人に2人にあたる66.0%)を占めているうえ、刑務官アンケートでも、「保護房を懲罰的に使ったり、他の職員がそのように使うところを見たことがあるか」との問に、4.7%が「ある」と回答している。


さらに、革手錠についても、LB級の4人に1人(25.4%)が締められた経験があると回答しており、このこと自体が、革手錠が濫用されていたことの表れといえる。具体的な状況としても、「けんかの後、これは儀式なんだと言われ、暴行されて革手錠をされた」、「けんかの後、暴行されて革手錠をきつく締められ、米袋を頭からかぶせられ、暴行された」、「横になった状態で片足をかけられて思い切り締められ、半日ほどで意識がもうろうとなった」、「階段から突き落とされ、職員に踏んだり蹴ったりされ、手をねじり挙げられて倒れていたのに脇腹を蹴られた」など、陰惨な暴行の事実が生々しく語られており、これらは名古屋刑務所事件の発覚前から、訴訟や弁護士会への人権救済申立などで訴えられてきた実態と符合している。


そのほか、脅しについては、仮釈放や懲罰などに絡める悪質な内容が目立つほか、必要な医療を受けさせないことにより心身に苦痛を与えるいじめなどが注目され、医療へのアクセスが処遇を担当する刑務官の手に握られている実態も浮き彫りとなっている。


以上の実態を根絶するためにも、関係した職員に対する厳格な処分と職員全体に対する継続的人権教育が不可欠である。


2.外部への不服申立制度と監視システムの必要性


これらの暴力等をなくす方策として、受刑者たちは「電話の設置による人権救済申立」(849人)、「外部民間団体との面会等による人権救済申立」(799人)など、外部機関へのアクセス、人権救済申立制度の必要性を訴えている。さらに、「刑務所から独立した機関に不服申立の審査権限を持たせる」との回答が400人近く、「刑務所から独立した機関に定期的に刑務所を見てもらう」も300人以上に上る。これらは、刑務官アンケートにおいて、研修や指導の徹底を挙げる者が最も多いこととは対照的である。


受刑者に対し「不服申立に関して、不当な取扱いを受けたことの有無」を尋ねたところ、「あった」とするものが11.1%にも及んでいる。その内容も、仮釈放や進級に関する嫌がらせや脅しが合計36.9%もあり、受刑者の弱みにつけこんだ嫌がらせや妨害が常態化しているほか、取下げを求める、願せんを交付しない、情願について受け付けない、あるいは情願を検閲する、弁護士に連絡させない、などの、あからさまな妨害行為が行われていることが判明した。名古屋刑務所における2002年9月の事件においては、弁護士会への人権救済申立を断念させようとの働きかけが革手錠による拷問となったことは記憶に新しい。


外部機関へのアクセスが極度に制約され、外部からの監視の余地がほとんどない現状の閉鎖的な刑務所運営の改善は、行刑改革においてまさに急務である。


3.外部交通の手段・方法の拡大と緩和


現状の外部交通については、面会につき全体の41.6%(LB級では実に59.2%)が「困ったことがあった」と回答し、内容的には「時間が短すぎる」(435人)、「面会人の範囲を友人等に広げるべき」(217人)、「回数制限すべきでない」(190人)に次いで、「刑務官が立ち会い、会話が自由にできない」が100人、「会話内容の制限が多すぎる」がこれに続いている。刑確定までに親族との交流が絶たれている受刑者が少なくないこと、受刑施設が本人や親族の住所と関係なく決められるため遠方から訪ねてくる親族との面会も短時間で打ち切られること、立会により処遇上の不満等についても会話内容が制限されざるをえないことなど、受刑者にとって過酷な現状が、明確に表れている。信書の発受についても同様に、全体の39.3%(LB級では54.8%)が「困ったことがあった」と回答し、その内訳も「発信回数、日が制限されている」(335人)、「不当な検閲」(274人)、「発受信の相手が限られている」(253人)などとなっており、外部とアクセスできる範囲・頻度・内容についての制限に不満が集中している。


弁護士への相談や弁護士会への人権救済申立の調査についてすら、すべてが立会と検閲により監視される現状については、弁護士会からも重ねて改善を求めているところであるが、こうした外部交通への制約が、現実に、受刑者が外部へ事実を訴えることに対する圧力となっていることが窺える。


4.非人間的で硬直した規則の抜本的見直し


受刑者アンケートにおいては、守るのがつらかった又は改めるべき規則について、「あった」とする者が71.3%にも上る。具体的には、つらかったもの、改めて欲しいもの、ともに【1】軍隊式行進、【2】居室内での姿勢・動作の制限、【3】工場における裸体検身の順で多い。居室内での姿勢や動作の制限は、「所内生活の心得」などに座る場所や日用品の整頓の仕方までこと細かく規定されており、国連規約人権委員会によっても「過酷な所内規則」として懸念を表明されているものである。こうした規則は、受刑者の社会復帰という観点ではなく、管理・統制という観点から異常なまでに細かく規定されており、かつ、規則違反が懲罰、さらには降級や仮釈放に直結しているため、受刑者たちに与える苦痛は深刻である。


しかも、規則違反で取調を受けた者の55.4%が、取調は不公正であったと考えており、また、懲罰を受けた者の58.5%が懲罰は不当だと感じている。その理由としては、行為と処分の不均衡、言い分を聞いてもらえない、相手が悪いのに懲罰を受けた、の順で多く、規則それ自体のみならず、規則違反に対する懲罰手続の運用の恣意性にも、多くの受刑者が不満を抱いていることが分かる。職員の公正さに対する信頼度も低く(職員は「公正」ないし「ほとんど公正」との回答より、「ほとんどの職員は不公正である」が16.0%と上回っている)、矯正の妨げとなっていることが窺える。


受刑者の社会復帰と更生、さらに円滑な刑務所運営という観点からも、管理・統制を第一とした非人間的な規則・処遇理念を抜本から改めることが肝要である。


5.結論


以上のとおり、アンケートの結果から、


  1. 暴力・脅し・いじめや、要件を欠く違法な保護房収容・戒具使用が幅広く行われてきた事実、
  2. こうした暴力等が蔓延する背後には、保安最優先の極端な管理主義と、外部からの監視の目が届かない密行主義・閉鎖性がある事実、
  3. 外部交通が極端に制約され、社会復帰にも障害となっている事実、

が明らかとなった。いわば日本型行刑の処遇原則こそが、刑務所における構造的暴力の温床であり、これらの根本的転換なくして行刑行政の改革はありえない。


かかる認識のもと、行刑改革会議においては、このアンケート結果を充分に尊重し、改革に向けた妥協のない徹底的な議論と、上記申入れの趣旨に沿った提言がなされるよう、申し入れるものである。


以上