人権擁護法案に対する理事会決議

2002年3月15日
日本弁護士連合会


政府が3月8日国会に提出した人権擁護法案に対し、日本弁護士連合会は以下のとおり意見を表明する。


1. 日本弁護士連合会はかねて、政府から独立し、独自の調査権限を有する実効的な国内人権救済機関の設置を求めてきた。しかし、今回政府が提出した人権擁護法案は、新たな人権機関の設置を目的とするものではあるが、人権委員会は独立行政委員会とされるものの、法務省の外局とされ、法務大臣が所轄するうえ、必要十分な数の専任職員を置かず、その事務を地方法務局長に委任する点において、致命的な欠陥を有する。これでは過去に人権侵害を繰り返してきた入国管理局、刑務所及び拘置所、あるいはそれに係わる国賠訴訟の代理を務める訟務部を所管する法務省の強い影響下におかれ、中央にわずかな数の人権委員を置いたとしても、あるべき人権擁護活動が全国で実効的に展開されるとは到底考えられない。


日本政府は、1998年(平成10年)11月、国際人権(自由権)規約委員会から「警察や入管職員による虐待を調査し、救済のため活動できる法務省などから独立した機関を遅滞なく設置する」よう勧告された。今回の法案による人権委員会は、この勧告に明白に違反している。


2. また、労働分野での女性差別や退職強要・いじめ等の人権侵害については、厚生労働省の紛争解決機関に委ねてしまい、特別人権侵害調査などの権限は厚生労働大臣(船員は国土交通大臣)にあるものとされ、この分野における救済機関の独立性は全く考慮されていない。今ある都道府県労働局長による指導・助言や紛争調整委員会によるあっせん・調停は、人権侵害被害者の視点に立っておらず、実効ある役割を果たしていないとの批判があり、労働分野を人権委員会から切り離す理由はない。


3. 独立性の保障されていない人権委員会が、メディアに対し調査を行い、取材行為の停止等を勧告する権限を有することは、民主主義社会において不可欠である市民の知る権利を侵害するおそれが強く、極めて問題である。


法案は、すべての出発点になる独立性が確保されるよう、仕組みを改めた上、出直すべきである。