政府関連法人の情報公開制度に関する意見書

2000(平成12)年1月21日
日本弁護士連合会


はじめに

国の行政情報に関する情報公開法は、1999年5月に成立し、2001年には施行されようとしている。同法は、行政機関だけを対象としているが、同法42条は、特殊法人の情報公開について法制上必要な措置を講ずるものとし、また附則2項は、特殊法人の情報公開に関しては、同法公布後2年を目途として42条の法制上の措置を講ずるべきものとしている。


当連合会は、従来から、特殊法人を含む政府関連法人は行政の重要な一翼を担い、かつ税金、公的資金を使っていることから、政府関連法人を情報公開の対象とすることなくして真の情報公開制度は有り得ないと主張してきた。


今般、特殊法人情報公開検討委員会を中心に、政府関連法人の情報公開が検討されるにあたり、当連合会は、政府関連法人の情報公開について次のとおり意見を述べる。


第1 基本的な考え方

早期に政府関連法人情報公開法を制定し、特殊法人、認可法人等を広く情報公開制度の対象にすべきである。


情報公開制度は、国民の知る権利に基づくものであり、またこれにより政府の説明責任が果たされるべきものである。情報公開法においては、「知る権利」は、明記されなかったが、情報公開制度の根底には、「知る権利」があることを否定する者はいないであろう。


政府関連法人の情報公開制度は、国の情報公開制度と一体のものとして整備されるべきである。政府関連法人は、国の出資や補助金等、国民の資金により運営され、また行政の重要な一部を担うことにより国民の生活に大きな影響を与えている。時には、政府の活動の実態を覆い隠すための道具として使われることもあった。これら、政府関連法人が保有する情報に国民のアクセスが認められなければ、国の情報公開制度は充分なものといえなない。


政府関連法人は、特殊法人だけでなく、認可法人、指定法人、公益法人など様々な形態で存在している。これら法人の情報公開制度を検討するに当たっては、形式にとらわれず、当該法人の業務、人事等における政府との関連の度合い、出資金、運営資金の国費への依存度など、業務の公共性や政府の支配の及ぶ程度が考慮されなければならない。


従って、いわゆる特殊法人だけでなく広く政府関連法人の実態を検討し、対象法人を定め、これら法人を通して行政の全般に、国民の眼が届くようにすべきである。立法の際も、特殊法人にとどまらず、広く政府に関係した法人を対象とする趣旨を明確にするために、「政府関連法人」の情報公開制度とすることが望ましい。


立法形式としては、情報公開法の改正として行う方法と、政府関連法人情報公開法として別個の法律にする方法とがありうるが、広く政府関連法人を対象とし、非開示の程度も情報公開法と同様のものであれば、いずれかを問わない。


情報公開制度は、何人に対しても、当該機関が保有している情報へのアクセスを認めるものであって、行政機関や政府関連法人が自発的に国民に対し情報を提供することを推進する情報提供制度や、財務情報など一定の情報の開示を義務づけるディスクロージャー制度とは異なる。政府関連法人は、国民に有用な情報を提供し、また自らの財務情報などを積極的に開示すべきであるが、情報提供、ディスクロージャーを行っているからといって、情報公開制度が不要であるということにはならない。これらの制度はいずれも充実させなければならない。


第2 非公開事由

非公開事由は、情報公開法と同一にすべきである。


非公開事由については、政府関連法人が純粋の行政機関ではなく、私法人の性格を有するものもあり、特に株式が上場されている株式会社や報道機関である日本放送協会などを制度の対象とする場合に、情報公開法と同じ非公開事由の定めでは、対象法人の市場における競争的な地位や報道の自由が保護されないのではないかという懸念が指摘される。


しかし、情報公開法の非公開事由を規定する第5条6号は、「国の機関又は地方公共団体が行う事務又は事業の関する情報であって、公にすることにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」情報(さらに同号ロが「契約、交渉又は争訟に係る事務に関し、国又は地方公共団体の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ」のある情報、同号ホが「国又は地方公共団体が経営する企業に係る事業に関し、その企業経営上の正当な利益を害するおそれ」がある情報)を非公開としており、特殊法人等情報公開制度においては、同様の規定によって実施機関となる特殊法人等の競争上の地位を保護することは十分に可能である。また、「当該法人の事務、事業の適正な遂行」を保護することによって、たとえば日本放送協会について見れば取材源の秘匿等を含む報道の自由などは当然に保護されることとなるので、情報公開法の非公開事由とは別に非公開事由を定める実際上の必要性は乏しいと考えられる(もっとも、報道の自由を含む表現の自由の高度の重要性に鑑み、その保護のための確認的な規定を設けることもありうる)。


第3 対象とすべき法人

下記の法人は、情報公開制度の対象とすべきである。


  1. 独立行政法人、特殊法人、認可法人。左記の法人であっても、国の出資が全くなく、かつ人事に関し国の関与がない法人は、対象としない。ただし、国の出資、人事への関与がなくても、当該法人への国の補助金が経常支出の50パーセント以上を占める法人は対象とする。
  2. 国あるいは1. において情報公開の対象となる法人が50パーセント以上出資している法人。国あるいはこれらの法人が単独で50パーセント以上出資していなくとも、それぞれの出資の合計が50パーセント以上となる場合も対象とする。

政府関連法人の情報公開制度の目的は、実質的に政府と同様の機能を果たし、あるいは国の資金により運営されている法人を情報公開の対象とし、そのような法人を国民の監視のもとに置くことである。


従って、政府に関連する法人の実態に即して情報公開の対象とするべきかどうか、判断されるべきである。政府との関連が設立において明らかな特殊法人、認可法人、独立行政法人及び出資を通じて政府の支配、管理下にあることが明らかな法人は原則として対象とする。


1. 特殊法人、認可法人、独立行政法人

特殊法人はすべて、政府から人事面の支配を受けており、その内の殆どは、国から多額の出資を受けて設立されている。また業務の内容も非常に公共性が強く、情報公開制度の対象とすべきである。認可法人は、民間等の関係者が任意設立し、主務大臣の認可を受けたものとして、政府の特別の設立行為により設立された特殊法人と区別されるが、政府との関連性は特殊法人に劣らず強く、認可法人であるから情報公開の必要性が低いとはいえない。


認可法人の多くは、国の出資を仰ぎ、また理事長等の選任には大臣等の任命が必要で、政府の影響下にあることは明らかである。業務の内容に着目しても、特殊法人に劣らず公共性が高い。その点からも情報公開制度の対象とする必要がある。


ただし、認可法人の中には、国からの出資がなく、また理事長等の任命についても国の関与がないものがある。このような法人は、政府との関連性が低いと考えられるので、必ずしも情報公開制度の対象とする必要がない。特に日本税理士会連合会、日本公認会計士協会は、自治団体としての機能が強いと考えられるから、国の情報公開制度からは除外されるのが相当である。一方、出資がなく理事長等の選任に関し、国の関与がなくとも、補助金が経常支出の50パーセント以上を占める法人は財政的に国から支配されているので、政府の関与が深いものとして対象とすべきである。


株式会社であること、あるいは株式を公開していることは当然には対象から除外する理由とはならない。ディスクロージャーは、基本的に投資家である株主のためになされるものであり、一般国民の知る権利や政府の説明責任から要求される情報公開制度とはその趣旨を異にする。従って、株式公開企業であっても、政府との関係が深く、公共的な性格を有する法人は情報公開制度の対象とすべきである。特殊法人の中で、株式か上場されている法人を見ても、いずれも国ないし特殊法人の出資が相当程度あり、人事については大臣認可であって、政府との関係は極めて強いといえる。また、行っている事業は、独占性の強いものでもある。上場企業の競争上の地位や私企業としての利益は、情報公開法と同様の基準で保護されるのであるから、この点でも情報公開制度の対象とすることに問題はない。日本放送協会も、収入は法律による受信料として広く国民から徴収されたものであるので、受信料徴収に対する説明責任として情報公開制度の対象とする必要性がある。ただし、報道の自由に対する配慮が必要であることは当然であり、場合によっては、その旨の確認的規定を置くなどの措置がとられることに異論はない。


独立行政法人は、元来、行政機関として情報公開法の対象となるものであるから、当然に対象とされるべきである。


2. 国及び政府関連法人の出資がある法人

前述したように、政府関連法人の情報公開は、政府が関与している法人に対し広く行われるべきであり、特殊法人、認可法人でなくても政府の強い支配、管理下にある法人は対象とされなければならない。


政府の支配、管理にあるかどうかという基準として明確なものは、出資である。特殊法人、認可法人でなくとも国の出資を受けている法人は情報公開の対象とすべきである。


また、情報公開の対象となる特殊法人、認可法人が出資している法人も、実質的には特殊法人、認可法人の支配下にあり、その業務を分担している法人として対象とすべきである。


どの程度の出資があれば、対象とするかについてはいくつかの基準が考えられるが、支配の明確性としては50パーセント以上の出資とするのが適当である。


また、国や政府関連法人が単独で50パーセント以上出資していなくとも、これらの出資を合計すれば50パーセント以上になる場合も、国との関連性が強いといえるから、国あるいは情報公開の対象となる特殊法人、認可法人の出資を合計して50パーセント以上になる法人も対象とすべきである。


なお、地方公共団体が国、政府関連法人と共同出資して設立される法人も問題とすべきであるが、地方公共団体の出資法人については、後述するように、条例でそのような法人を情報公開の対象とできるような立法をすることが望まれる。


第4 救済手続

政府関連法人の情報公開制度の救済手続きは、情報公開法の救済手続きと同様なものとする。


政府関連法人の情報公開制度は、情報公開法の趣旨と同一であるのだから、救済手続きも、情報公開法のレベルを下回るものであってはならない。


政府関連法人の情報の開示、非開示の判断が行政処分としての性格を持ち、取消訴訟の対象となることは理論的にも問題がなく、そのような法文を設けることで行政事件訴訟法により審理される。ただ、政府関連法人が行政機関でなく、私法人の性質も有することから、民事訴訟法を適用することは今後の課題として考慮に値する。


第三者機関についても、情報公開法と同様設置すべきであるが、情報公開法の審査会が政府関連法人の情報公開を審査する機能を併せ持つことは、可能である。


裁判管轄についても情報公開法の規定と同様、被告の住所地だけでなく、少なくとも原告の所在地を管轄する高等裁判所のある地方裁判所も管轄裁判所とできる規定を置くべきである。


第5 地方公共団体の関連法人を対象にできる制度

地方公共団体が条例で、地方公共団体の関連法人を情報公開制度の対象とできるような、条項を設けるべきである。


政府関連法人の状況、国民生活への負担、影響そして情報公開の必要性は、地方公共団体における公社、外郭団体、第三セクターなどに等しく当てはまる。


国に比較して財政の脆弱な地方公共団体では、第三セクターなどの破綻が相次ぎ、公社等が莫大な損失、不良資産を抱えて、さらには地方公共団体自身の財政破綻につながる可能性が現実的な問題として危惧されている。 このため、地方公共団体では、住民からの強い公開要求もあり、公社等の健全経営、運営を実現するために、公社等の情報公開の必要性が認識され、出資団体等の情報公開の制度化が検討されてきた。 しかし、公社等が特別法や商法等に基づいて設立されているため、条例で情報公開の対象とすることができず、公社等の情報公開制度は要綱で定められたり、条例では努力規定とされるなどにとどまり、住民に公開請求権を保障する本来の情報公開制度とはなっていない。


そこで、地方公共団体における公社、外郭団体、第三セクター等についても、政府関連法人の情報公開制度と同様の対象法人基準で、条例に定めることによって情報公開の対象機関とすることができるよう、政府関連法人の情報公開法に規定を設けるべきである。


この問題は、政府関連法人の情報公開制度化に関する検討課題と共通し、地方公共団体における公社等の情報公開の実現が早期に求められている状況下で、政府関連法人の情報公開制度において対応し、早期に立法的に解決することが強く求められる。