世界子どもの日制定70年を迎え、改めて子どもの権利条約に基づく子どもの権利保障の推進を求める会長声明
国連が世界の子どもたちの相互理解と福祉の向上を目的として、11月20日を世界子どもの日と制定してから、今年で70年を迎えた。また、1989年11月20日に国連総会で子どもの権利条約(以下「条約」という。)が採択されてから35年、1994年4月22日に日本が条約を批准してから30年が経過した。
2020年には児童虐待の防止等に関する法律等の改正により、しつけ名目での体罰が全面禁止され、2022年の民法改正では、親権者の子に対する懲戒権が削除されるとともに親権者に子の人格を尊重することが求められ、同年の児童福祉法改正では、社会的養護下にある子どもの意見表明支援が立法化された。そして、2023年には、条約の一般原則をこども施策の基本理念とするこども基本法が施行されるとともに、こども施策の司令塔であるこども家庭庁が設立され、条約に基づく子どもの権利保障がなされる社会に向けて大きな一歩を踏み出した。この10年間で、子どもを「保護の客体・管理の対象」とする見方から、条約に則した「権利の主体」とする「子ども観」への変容を前提とした法改正が少しずつ進み、子どもの権利が保障される社会となる土台ができつつある。
しかしながら、現在においても、子どもたちを取り巻く状況は非常に厳しく、自死者数、児童相談所の虐待相談対応件数、いじめ重大事態件数、不登校児童生徒数などいずれも過去最多の水準が続いており、家庭でも、学校でも、子どもの権利が保障されているとは到底言える状況にない。
特に学校に関して、国連子どもの権利委員会は、教育は、子どもの固有の尊厳を尊重し、子どもの自由な意見表明や学校生活への参加を可能にするような方法で提供されなければならないと述べている(一般的意見1号)。ところが政府は、平成6年5月20日付け文部事務次官通知(以下「平成6年文部事務次官通知」という。)につき本年の参議院決算委員会においても撤回を拒んでいる。同通知は、条約発効によっても教育関係法令等の改正の必要はないとし、学校での子どもの意見表明権については理念を一般的に定めたものであるとし、必要な合理的範囲内で指導や指示を行い、校則を定めることができるなどとしたものであった。これは、子どもの意見表明への支援や子どもの意見への真摯な応答の重要性を軽視したものであり、かかる通知が今でもなお存在している。条約は、社会的養護の場だけではなく、学校においても子どもの意見表明権の保障を求めているのであるから、同通知は撤回されるべきであり、子どもの権利保障の観点から教育関係法令やその運用等の検討・見直しがなされるべきである。
また、子どもの権利が保障される社会の実現には、条約第42条に基づき、権利を有する子どもとともに子どもの権利を保障する義務をもつ大人が、子どもの権利を学び、理解しなければならない。保護者を含む全ての大人に対して子どもの権利に関する啓発を行い、特に、教職員、社会福祉施設職員、裁判官、弁護士、議員、その他の公務員などの子どものために働く者に対して定期的に研修がなされることで、子どもの権利が保障される社会の構築に向けて歩みを進めていく必要がある。
さらに、条約に基づいて子どもの権利保障を推進するために、当連合会が本年9月20日に発出した「子どもの権利条約を踏まえ、子どもの権利保障のために、地方公共団体の子どもの相談救済機関及び国の子どもの権利に関する政府から独立した人権機関の設置推進を求める意見書」のとおり、パリ原則にのっとった子どもの権利に関する政府から独立した人権機関や地方公共団体の子どもの相談救済機関の設置が必要である。
世界子どもの日である今日、改めて条約に基づいて子どもの権利保障を推進し、子どもの権利が尊重される社会とするため、国に対し、学校でも子どもの意見表明権が保障されるよう平成6年文部事務次官通知を撤回し、教育関連法令やその運用等についても子どもの権利保障の観点から検討・見直しを行うこと、それを契機に、子どもの意見表明権を社会的養護の場だけではなく、学校を含むあらゆる場面で保障していくこと、子どもに関わる職業に就く者に対して子どもの権利に関する具体的な研修を定期的に実施すること、そして国の人権機関や地方公共団体の相談救済機関の設置などあらゆる手段を講じ(条約第4条)、条約に基づく子どもの権利保障を強く推進することを求める。当連合会は、今後も、子どもの権利を基盤とする施策について提言をするとともに、子どもの権利の普及啓発活動、さらに子どもの手続代理人及び付添人活動などの諸活動を通じて、子どもの権利が保障される社会の実現に向けて尽力する所存である。
2024年(令和6年)11月20日
日本弁護士連合会
会長 渕上 玲子