最高検察庁監察指導部に対し申立ての取下げをめぐる事実関係の調査及び結果の公表を求める会長談話
現在、法務省の改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会(以下「在り方協議会」という。)において、取調べの録音・録画制度の施行状況の検討と見直しに向けた議論が行われているが、同制度の創設後も、いわゆる参院選大規模買収事件やプレサンス事件に代表されるように、強制捜査や不起訴を示唆する言動、特別公務員暴行陵虐罪にいう「陵虐」に該当するような言動によって、検察官の見立てに沿った供述を強要する取調べが繰り返されていることが明らかになっている。
在り方協議会が設置された後も、いわゆる東京五輪・パラリンピックに関する独占禁止法違反事件について、多数回にわたり録音・録画をしない取調べが繰り返され、捜査段階で「自白」をした広告代理店等の従業者らが、逮捕を示唆されるなどして「自白」を強要された旨を次々と公判廷で陳述する事態に至っている。本年3月18日には、昨年2月、検察官が取調べにおいて被疑者が供述していない内容の供述調書を作成し、訂正にも応じなかったことなどから、弁護人が最高検察庁監察指導部に申立てをしたところ、検察官が広告代理店の代表取締役を取調べに呼び出し、弁護人に対しては被疑者の逮捕を示唆し、その後、弁護人を介することなく申立ての取下げと詫び状の提出を要求し、広告代理店は当該被疑者の逮捕を避けるためにその要求に応じた旨が公判期日で陳述されている。
取調べの録音・録画制度の創設に当たっては、国会審議の中で「逮捕又は勾留されている被疑者以外の者の取調べ」についても、取調べの録音・録画をできる限り行うように努めることを求める附帯決議がなされている。ところが、検察は、このような立法者の意思に反して、在宅被疑者の取調べをほとんど全く録音・録画しておらず、その取調べにおいて、逮捕を示唆するなどして見立てに沿った供述を強要し、あるいは、そのような取調べ状況に関する被疑者の申立ての真偽を客観的に検証することのできない状況を殊更に作り出している。当連合会が「取調べの在り方を抜本的に見直し、全ての事件における全過程の録音・録画を実現するとともに、弁護人を立ち会わせる権利を確立することを求める決議」(2024年6月14日)で求めたように、逮捕又は勾留されている被疑者に限らず、全ての被疑者及び参考人の取調べについて、全過程の録音・録画を義務付けることは必要不可欠である。
さらに、弁護人が最高検察庁監察指導部に対して行った申立てについて、被疑者の逮捕を示唆するなどして取下げを要求するようなことは、正当な弁護活動に対する不当な介入であって、看過できるものではない。違法・不適正な行為に関する情報提供者に対する不利益の示唆は、違法・不適正行為を隠蔽するものであって、情報提供制度の存在意義を否定するものである。最高検察庁監察指導部は、不適正な取調べによって罪を犯していない市民を罪に陥れようとした検察不祥事を受けた検察改革の一環として創設されたものであることも踏まえると、問題は極めて深刻である。申立ての取下げにより、事実上、事実関係の調査や指導が行われないこととなるとすれば、それ自体が不適切であり、監察指導部が検察改革で期待された役割を果たしているのか、重大な疑問がある。
当連合会は、最高検察庁監察指導部に対し、上記の申立ての取下げをめぐる事実関係につき公正な調査を実施し、その結果を公表することを求める。
2024年(令和6年)7月23日
日本弁護士連合会
会長 渕上 玲子