鹿児島県警察による捜査書類の廃棄を促す文書の作成・配布に関する会長声明
本年6月、鹿児島県警察が、再審や国家賠償請求訴訟で利用されるのを防ぐために捜査書類の廃棄を促す内部向けの文書(以下「本文書」という。)を執務資料として作成し、県警察本部や警察署内で配布していたことが明らかとなった。
本文書は、「捜査資料の管理について」と題して、「最近の再審請求等において、裁判所から警察に対する関係書類の提出命令により、送致していなかった書類等が露呈する事例が発生」しているなどと説明した上で、「再審や国賠請求等において、廃棄せずに保管していた捜査書類やその写しが組織的にプラスになることはありません!!」と強調し、「未送致書類であっても、不要な書類は適宜廃棄」するよう呼び掛ける内容であった。
本文書は、重要な公文書である捜査書類を、捜査機関の一方的かつ恣意的な判断によって廃棄することを推奨するものであり、刑事訴訟法が定める証拠開示制度を実質的に画餅に等しくするものであって、到底容認することができない。また、本文書の内容は、捜査の違法性・不当性が問題となった場合における真相解明を遠ざけるものでもあり、捜査書類の廃棄が現実になされれば、被告人の公平・公正な裁判を受ける権利という憲法上の基本的人権を侵害することにもなりかねない。
さらに、本文書の内容は、えん罪被害からの救済を阻害するという点からも極めて問題である。過去の再審事件では、検察側が当初は存在しないとしていた証拠が後に捜査機関内で見付かり、再審開始決定及び無罪判決へとつながった例が少なくない。しかし、本文書の内容はこのような可能性を閉ざすものである。
当連合会は、これまでも重ねて捜査記録の適正な保管について規定する法律の必要性、あるいは証拠開示制度の整備の必要性を指摘してきたところであり、再審に関しても、2019年5月10日付け「再審における証拠開示の法制化を求める意見書」で、再審における証拠開示に関する法律上の規定が存在しないことにより生じている多くの弊害を指摘して、証拠の適正保管・管理や証拠開示制度の整備を含む再審法制の整備を求めた。さらに、2023年2月17日付け(同年7月13日改訂)「刑事再審に関する刑事訴訟法等改正意見書」では、これらの内容を具体的に条文案とする形で、捜査に関する記録の作成、捜査に関する記録の目録及び証拠目録の作成及び送付、書類及び証拠物の適正保管や、裁判所不提出記録及び証拠品の保管及び保存について、捜査機関の法令上の義務を明記する内容の法改正を提言している。
捜査書類は、真実発見のために不可欠な公共財である。本文書の発覚により、公共財たる捜査書類の送致・保管に関する捜査機関側の意識・意欲の低さが改めて露呈し、証拠の適正保管・管理や証拠開示制度の整備を含む再審法改正の必要性が改めて明確になったともいえる。
よって、当連合会は、法務省、最高検察庁、警察庁及び警察庁を管理する国家公安委員会に対し、捜査書類の送致・管理を適切に行うよう周知徹底することを求める。併せて、当連合会は、改めて、適切に保管管理された捜査書類が再審請求手続においても開示される制度を含む再審法改正が必要であることを強く訴えるものである。
2024年(令和6年)6月19日
日本弁護士連合会
会長 渕上 玲子