裁判員制度施行15周年を迎えての会長談話
裁判員制度が施行されて15年を迎えました。この間、12万人を超える市民が裁判員・補充裁判員に選任され、約1万6000人の被告人が裁判員裁判による判決の言渡しを受けました。この15年を通して、制度は安定的に運用され、社会に定着してきたと言えます。裁判員裁判においては、直接主義・口頭主義に基づく公判審理が相当程度実現しており、刑事裁判が活性化されていることは、高く評価すべきものです。
一方で、刑事司法については様々な深刻な課題が残されています。裁判員制度の導入に当たっては、制度の対象事件以外においても、供述調書に偏重した裁判から直接主義・口頭主義に基づく裁判への変革が促され、捜査についても、自白獲得に偏重した取調べの在り方に変容をもたらすことが期待されていました。しかしながら、依然として黙秘権を侵害するような、違法・不当な取調べが後を絶ちません。
また、裁判員制度とともに導入された公判前整理手続については、同手続の実施により集中審理方式による充実した公判審理が迅速に行われることが期待されましたが、その期待とは裏腹に、公判前整理手続ひいては審理期間の長期化という問題が生じています。この課題を解決するためには、現在のような段階的な証拠開示ではなく全面的な証拠開示を実現し、被告人側が速やかに防御準備をできるようにすることが必要不可欠です。さらに、無罪を主張し又は黙秘権を行使している被告人が保釈されず、長期間にわたり身体拘束され続けるという「人質司法」の問題も、公判前整理手続の長期化により深刻なものとなっています。身体拘束により「自白」を強要するような保釈の運用は、直ちに改められるべきです。
裁判員制度が社会に定着してきた一方で、裁判員選任手続における辞退率は年々上昇し、2023年では約67%にも及んでいます。多様な市民の価値観を刑事裁判に反映するためには、対象事件の拡大に加えて、司法制度の重要性や市民参加の意義について国民に理解を求めるとともに、裁判員を務めるための休暇の制度化等の社会環境の整備が不可欠です。また、2022年には、裁判員の対象年齢が18歳以上に引き下げられました。裁判に参加する市民の年齢層が拡大したことには積極的意義がありますが、18歳、19歳という若年層の拡大であることを踏まえて、学校教育の場での情報提供や環境整備の取組が必要です。
さらに、2022年6月17日付け「裁判員が主体的、実質的に参加できる裁判員制度にするための意見書」において、当連合会が提言したとおり、裁判員が主体的、実質的に参加できる裁判員制度にするためには、(1)公判前整理手続の主宰者を受訴裁判所の構成員ではない裁判官とすること、(2)裁判長に対し、「事実の認定」、「法令の適用」及び「刑の量定」に関して裁判官と裁判員が対等であることの説明を義務付けること、(3)裁判長に対し、裁判官による「法令の解釈に係る判断」、「訴訟手続に関する判断」及び「その他裁判員の関与する判断以外の判断」の説示を公開法廷で行うことを義務付けること、(4)被告人に不利な判断をする際の評決の要件について、構成裁判官の過半数かつ裁判員の過半数の意見によるものとすることなど、刑事訴訟法及び裁判員の参加する刑事裁判に関する法律を始めとする法令の改正が検討されるべきです。
裁判員制度が施行されて15周年を迎えた今、この制度の運用状況を的確に把握し、よりよい制度にしていくためには、統計情報だけではなく、その実質的な内容を検証することが必要不可欠です。そのために、裁判員に課される守秘義務を見直し、評議に関する検証を行えるようにすることも、喫緊の課題です。
私たち弁護士は、裁判員制度の更なる発展と充実を目指すとともに、被告人の立場に置かれた市民の権利を擁護するため、これからも不断の努力を続けていく所存です。市民の皆様のより一層の御理解と御協力をお願いいたします。
2024年(令和6年)5月21日
日本弁護士連合会
会長 渕上 玲子