重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律の成立に対する会長声明


本日、「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律」が成立した。


本法について、当連合会は、2024年3月13日に「arrow_blue_1.gif重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案についての会長声明」を公表した。同声明では、①漏洩等が処罰の対象となる重要経済安保情報の範囲が、法文上不明確であるため、罪刑法定主義との関係で問題が生じ得ること、②重要経済安保情報については、衆参両院の情報監視審査会による監督、国会への報告制度も適用されないこととされており、監督措置が特定秘密の保護に関する法律(以下「秘密保護法」という。)における特定秘密の場合に比しても脆弱となっており、恣意的な秘密指定が抑止されず、知る権利等に悪影響を及ぼす可能性があること、③適性評価のための調査はほぼ一元的に内閣総理大臣が実施する仕組みとされており、適性評価の対象とされる多くの官民の技術者・研究者について、内閣総理大臣の下に設けられる新たな情報機関が、重要経済基盤毀損活動との関係に関する事項やその他の機微な個人情報について調査を行うこととされているため、前記情報機関に適性評価対象者の膨大な個人情報が蓄積されること、④適性評価については、本人の同意を得て実施するとされているが、同意しなければ、その者は当該研究開発等の最前線から外されたり、企業等の方針に反するものとして人事考課・給与査定等で不利益を受けたりする可能性も否定できないし、適性評価のための調査の行き過ぎを抑止するための仕組みも想定されていないようであり、プライバシー保障の観点から疑問があること等の問題点を指摘した。


国会審議においては、重要経済安保情報の指定及び解除の適正の確保について定める附則第9条等が新設され、また、衆参両院の内閣委員会では、それぞれ22項目の附帯決議がなされ、運用の適正を確保する観点からの課題が多く指摘された。


しかし、それでもなお、本法では、当連合会が前記会長声明で指摘した問題点はほとんど解消されていない。また、国会審議において、イギリス、フランスなどの海外主要国において既に廃止され、あるいはアメリカにおいても情報保全監察局から廃止を勧告された秘密区分であるコンフィデンシャル級の秘密を保護する法律を制定することの必要性等について多くの疑問が提示されたが、それらに十分応える審議がなされたとは言えず、根本的ともいえる問題が残されたままである。


当連合会は、秘密保護法の廃止又は抜本的見直しを求めるものであるが、本法についても、附帯決議等の趣旨も踏まえ、重要経済安保情報が合理的で最小の範囲で指定されるようにする具体的基準や手続の策定、及び適性評価において対象者のプライバシー等を十分に保護し人権侵害を未然に防止する仕組みの構築等、市民の知る権利やプライバシー等が不当に侵害されないための対策を講じるよう、引き続き政府に対し求めていく所存である。




2024年(令和6年)5月10日

日本弁護士連合会
会長 渕上 玲子