水俣病問題についての各地での判決を受けて、水俣病被害者の早期かつ全面的な救済を求める会長声明


水俣病問題について、近時、各地の裁判所で注目すべき判決が言い渡されている。


2023年9月27日の大阪地裁判決は、原告128名全員を水俣病と認め、国、熊本県及び原因企業の連帯責任を認め損害賠償を命じた(ただし、原告のうち6名については国と熊本県の責任を否定。)。本年3月22日の熊本地裁判決は、請求を棄却したものの、水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法(以下「特措法」という。)の対象地域外の21名を含む25名の原告を水俣病と認めた。本年4月18日の新潟地裁判決は、国の責任を認めなかったものの、26名の原告を水俣病と認め、原因企業に損害賠償を命じた。


これら3つの判決は、水俣病と認められた者の範囲や、国家賠償責任の有無など、判断内容に異なる部分はあるが、公害健康被害の補償等に関する法律(以下「公健法」という。)や特措法等の従前の救済施策によって補償を受けることができていない者について、水俣病の罹患を認めた点で共通する。すなわち、上記の一連の判決は、いまだに何ら補償を受けることができていない水俣病被害者が多数存在していることを示すものである。


ところで、公健法に基づく水俣病の認定については、2013年4月16日最高裁判決によって感覚障害という一症候しかない場合でも認定され得ることが確定したものの、その後も認定患者はほとんど出ておらず、公健法による水俣病被害者の救済が機能していない実情がある。その原因が環境省の2014年3月7日付け「公害健康被害の補償等に関する法律に基づく水俣病の認定における総合的検討について」と題する通知(以下「新通知」という。)の過度に厳格な認定基準にあることは、当連合会が2023年12月14日付けで公表した「arrow_blue_1.gif水俣病認定審査業務に関する環境省の審査基準の改定並びに不知火海沿岸及び阿賀野川流域の住民を対象とした健康調査を求める意見書」において指摘したとおりである。


上記の一連の判決により、新通知の問題点が明らかになったと言うべきであり、現在も裁判所に係属中の原告が多数存在しているところ、それら原告の高齢化が進んでいることを踏まえ、当連合会は、国に対し、改めて、上記意見書のとおり新通知の撤回及び健康調査の実施を求める。あわせて、特措法が設けたような居住地域や出生時期などによる限定のない新たな救済システムを構築する等により、水俣病被害者の早期かつ全面的な救済を実現するよう強く求めるものである。



2024年(令和6年)5月9日

日本弁護士連合会
会長 渕上 玲子