最低賃金額の大幅な引上げ及び地域間格差の是正を求める会長声明
厚生労働大臣は、本年6月頃、中央最低賃金審議会に対し、2024年度地域別最低賃金額改定の目安についての諮問を行い、同審議会から、本年7月頃、答申が行われる見込みである。昨年、同審議会は、全国加重平均41円の引上げ(全国加重平均1002円)を答申したところ、これに基づき各地の地方最低賃金審議会において地域別最低賃金額が決定され、最終的には、全国加重平均43円の引上げ(全国加重平均1004円)となった。
しかし、時給1004円という水準は、1日8時間、週40時間働いたとしても、月収約17万4000円、年収約209万円にしかならない。近年の極端な円安やロシアによるウクライナ侵攻の影響等により、消費者物価の大幅な上昇が続いていることに照らすと、労働者が安定した生活を送るには、ほど遠い水準というほかない。
また、昨年度は、最低賃金額の地域間格差を解消することを目的として、全国各都道府県をAからDの4段階に分け、そのランク毎に引上額の目安を呈示していた方法を改め、これをAからCの3段階とした。しかし、結果としては、地域別最低賃金が最も高い東京都の時給1113円と最も低い岩手県の893円の差は220円となっており、地域間格差は全く解消されていない。
むしろ、東北地方、九州地方を中心にCランクに位置付けられた地方最低賃金審議会において、上記目安を4~8円上回る形の答申が相次いだという特徴がある。地方では賃金が高い都市部での就労を求めて若者が地元を離れてしまう傾向が強く、労働力不足が深刻化している。地域経済を維持し、さらに活性化するためには、最低賃金の地域間格差を解消することが急務であることを、地方ほど危機感をもって認識していることの表れである。
さらに、日本の最低賃金が先進各国の最低賃金と比較しても著しく低いことは、従前と変わっておらず、日本の相対的貧困率が15.4%と、先進各国中最悪となっている要因の一つでもある。
ところで、当連合会では、2020年2月20日に「全国一律最低賃金制度の実施を求める意見書」を公表し、地域別最低賃金を廃止するとともに、最低賃金については中央最低賃金審議会において決定する仕組みに改め、また、一定の猶予期間を設け、東京都を含む最低賃金の高い都道府県の最低賃金を引き下げることなく全体の引上げを図るとともに、併せて、充実した中小企業支援策を構築することを求めてきた。
この点、最低賃金の大幅な引上げは、特に地方における中小企業の経営に影響を与える可能性が大きいが、元々中小企業の経営基盤は決して盤石なものではない。したがって、今後、更に最低賃金を引き上げていくに当たっては、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)や下請代金支払遅延等防止法(昭和31年6月1日法律第120号)をこれまで以上に積極的に運用し、中小企業とその取引先企業との間で公正な取引が確保されるようにするとともに、社会保険料の事業主負担分の減免などの中小企業支援策を実現することが不可欠である。
当連合会は、最低賃金を取り巻く以上のような実態に鑑み、引き続き国に対し中小企業への十分な支援策を求めるとともに、今後予定される中央最低賃金審議会における審議において、地域別最低賃金の格差を少しでも縮小しつつ、最低賃金額の引上げを図り、ひいては、労働者の生活の安定と国民経済の健全な発展を実現するような方向での答申がなされるよう求めるものである。
2024年(令和6年)4月26日
日本弁護士連合会
会長 渕上 玲子