犯罪被害者給付金不支給裁定取消事件最高裁判決に関する会長談話


20年以上もの間生活を共にしてきた同性のパートナーを殺害された上告人が、犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律(以下「犯給法」という。)5条1項1号括弧書きにいう「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者」として遺族給付金の支給を受けることができる遺族に当たると主張して遺族給付金の支給の裁定を申請したところ、愛知県公安委員会から、上告人は同号所定の遺族に該当しないなどとして遺族給付金の支給をしない旨の裁定を受けたことから、その裁定の取消しを求めた訴訟において、最高裁判所第三小法廷は、2024年3月26日、犯罪被害者と同性の者は、犯給法の「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者」に該当し得ると判断した。


その理由は、犯罪被害者等給付金の支給制度は、犯罪行為により不慮の死を遂げた者の遺族等の精神的、経済的打撃を早期に軽減し、もって犯罪被害等を受けた者の権利利益の保護が図られる社会の実現に寄与することを目的とするものであり、そうした打撃を受け、その軽減等を図る必要性が高い場合があることは、犯罪被害者と共同生活を営むなど事実上婚姻関係と同様の事情にあった者が、異性であるか同性であるかによって直ちに異なるものとはいえないというものであった。


当連合会は、2021年2月18日付け「arrow_blue_1.gif同性の者も事実上婚姻関係と同様の事情にある者として法の平等な適用を受けるべきことに関する意見書」により「国及び地方公共団体は、法令等における「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」等の解釈において、法令上の性別が同じ者を除外することなく、法を平等に適用し、その保護を図るべきである」との意見を明らかにしている。


本判決は、犯給法の当該規定の趣旨を検討した上で、精神的、経済的打撃の軽減の必要性は、犯罪被害者と同性の者について異性の者と異ならないとしたものであり、極めて適切な判断である。今後、犯給法の給付金の実務が本判決の示した方向で運用されることを強く希望するとともに、各法令等における「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」に同性の者が含まれるかについて、各法令等の当該規定の趣旨から再検討されることを期待する。


また、そもそもの問題として、日本において未だ同性間の婚姻(同性婚)が認められていないことは、性的指向が同性に向く人々の婚姻の自由を侵害し、法の下の平等に違反する重大な人権侵害であり、当連合会が2019年7月18日付け「arrow_blue_1.gif同性の当事者による婚姻に関する意見書」で明らかにしたとおりである。この問題を根本的に解決するためにも、同性婚を認める法令の改正が速やかになされるべきである。



2024年(令和6年)3月27日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治