教員の働き方に関する給特法の見直しについての会長声明


教員の過酷な長時間勤務が社会的に問題とされ、教員採用倍率も年々低下する中で、文部科学省(以下「文科省」という。)は、2019年以降、教員の「在校等時間」の上限を定め、1年単位の変形労働時間制導入を可能とし、また小学校2年生以上につき40人となっていた学級定員を順次35人とすることなどの改革を実施してきた。


しかし、こうした改革にもかかわらず、2023年4月に公表された文科省による教員の勤務実態調査(速報値)においても、長時間勤務の実情に基本的な改善は見られていないことを文科省も確認している。また、教員採用倍率の低下も止まらず、さらには、必要な教員が足りなくなるという欠員状況も一層深刻化している。


こうした中、教員の時間外勤務と手当の在り方について、公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(以下「給特法」という。)が、時間外勤務を原則として禁止するとともに、基本給の4%の教職調整額を支払うこととしている点などについての見直しが、文科省の諮問を受けた中央教育審議会・特別部会において検討されており、2024年春頃を目途に答申が出され制度改革の方向の具体化を目指すとされている。


この点、現状の給特法の制度枠組みを前提としつつ、教職調整額を増額する案、同じく制度枠組みを維持して調整額を一定額増額するとともに、学級担任など特定の役職を果たす教員に手当を支給する案、そして、現行の制度枠組みを廃止して、労働基準法による残業規制を導入した上時間外勤務について残業手当を支給する案が検討対象とされている(文科省「質の高い教師の確保のための教職の魅力向上に向けた環境の在り方等に関する調査研究会」論点整理、2023年4月13日)。


当連合会は、教員の働き方改革が検討される中、2021年10月の時点で、教員の長時間労働等の深刻な現状を踏まえ、教育において求められる教員の専門性に根ざした裁量を保障し、子どもの学習権を実現していくべきとの観点から、「arrow_blue_1.gif学校における働き方改革の在り方に関する意見書」で教員の働き方に関する改革の提案をしたものであるが、上記の案のうち教職調整額の増額を内容とする2つの案については、現在でも深刻な長時間労働の是正につながらない点で妥当ではなく、以下述べるとおり、過酷な長時間労働を実効的に是正するとの観点から罰則付きで残業を規制するとともに時間外勤務への残業手当を支給するとの改革がなされるべきである。


当連合会は、2021年意見書において、まず最重要の策として、学級規模の縮小による教員絶対数の大幅な増加と教員一人当たりの持ち授業時数の削減などを提言した。そして、この間、上限なき時間外労働が放置されてきたことの要因となっている給特法を抜本的に見直し、休憩時間や持ち帰り残業及び休日労働を含む労働時間の適正な把握と上限規制並びに時間外割増賃金の支払などについても提言を行った。


そもそも、当連合会意見書で述べているとおり、労働基準法が労働時間規制を定め、原則として時間外労働を禁じるとともに、一定条件下で許容される時間外労働に対する割増賃金支払を使用者に義務付ける趣旨は、主として、かかる措置を通じて労働者の健康を損なう時間外労働を可及的に抑制しようとする点にある。


しかし現在、検討されている改革案のうち、定額の教職調整給を前提としてこれを増額する案は、時間外の労働時間数と連動しないため、時間外勤務を抑制する機能を果たし得ず長時間勤務の解消につながらないという点において根本的な欠陥がある上、教員によって時間外の勤務の実情が異なる点を無視した一律の支給となる点で公平な制度とも言い難い。また、教職調整給の一定の増額と役職手当を併用する案についても、時間外の労働時間と連動した制度となっていない点で、やはり時間外勤務を抑制する機能を果たし得ないと言わざるを得ない。


これらの改革案に対し、当連合会としては、教員の勤務条件について、憲法第27条第2項に基づく労働基準法の最低基準を遵守し、時間外勤務の罰則付き上限規制と時間外手当支給の枠組みを採用することで、歯止めなき時間外勤務の放置を招いている現状の改革が必要であることを改めて指摘する。


こうした教員の勤務条件の改革により、教員自身の労働問題という人権課題を克服するとともに、学級規模縮小による教員絶対数の大幅な増加と教員1人当たりの持ち授業時間数削減などの措置を講じ、現状の教員の過酷な長時間勤務を実効的に改善してその職務を魅力あるものとし、教員欠員状況の改善を図ることにより、教員の専門性を守り、ひいては子どもの学習権を確保できる教育を実現するよう、求めるものである。



2024年(令和6年)2月1日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治