特定不法行為等被害者特例法の成立に関する会長談話


本年12月13日、旧統一教会の被害者救済に向けた「特定不法行為等に係る被害者の迅速かつ円滑な救済に資するための日本司法支援センターの業務の特例並びに宗教法人による財産の処分及び管理の特例に関する法律」(特定不法行為等被害者特例法。以下「特例法」という。)が成立した。特例法は、解散命令を請求されるなどした宗教法人のうち、当該宗教法人に係る特定不法行為(特定解散命令請求等の原因となった不法行為、契約申込等の取消しの理由となる行為その他の行為及びこれらと同種の行為であって、対象宗教法人又はその信者その他の関係者によるもの)等に係る被害者が相当多数存在すると見込まれるものにつき、財産の処分及び管理の監視強化を行って、不動産の処分・担保の提供の前に国などに通知をさせるとともに、日本司法支援センター(法テラス)による民事事件手続の支援を拡大し、個別の財産保全手続における経済的負担を軽減することを内容としている。


霊感商法等の悪質商法及び宗教問題による被害の実効的な救済のためには、当該宗教団体の財産散逸を防止する必要があるところ、特例法は、旧統一教会による財産処分を被害者が把握しやすくし、法テラスによる被害者支援を拡大する点で、被害者救済の一助となり得るものと評価できる。


しかしながら、特例法は、当該宗教団体の財産散逸の防止のために、個々の被害者が通常の民事保全手続を申し立てる必要があるため、訴訟の提起を要する構造となっている。法テラスの業務の特例により、資力要件を問わずに相談・代理援助を受けられ、償還免除の範囲も通常より拡大されるなど、弁護士を利用しやすくするものとはいえ、長期間にわたって不安を煽られるなどしてきた被害者には様々な葛藤があり、訴訟を提起することに対する心理的負担から、その決断をするまでに時間を要する被害者もいると思われる。また、このような心理的負担や法律上の要件等のハードルを乗り越えても、保全できる財産が一部にとどまる可能性もある。


特例法の附則では、施行後3年をめどに法改正を含めた検討を行うこととし、検討対象には「財産保全の在り方」も追記された。国は、財産散逸についての懸念を解消するために、3年を待たずに引き続き財産保全の法整備に向けた検討を行い、被害者救済の実効性を損ねる恐れが具体的に生じた場合には、更なる法整備を速やかに行うべきである。


また、法テラスの業務の特例については、既に法テラスを利用して全国統一教会被害対策弁護団等に依頼している方も含めて、多くの方々が公平に償還免除の対象になるように柔軟な運用をすべきである。さらに、特定不法行為等に関する民事事件手続の対象範囲についても、いわゆる献金等による経済的損害の回復に限るのではなく、家族関係の崩壊に伴う家事事件その他関連する民事事件も幅広く対象とするべきである。


当連合会は、人権擁護を使命とする法律家団体として、現存する被害実態等に鑑み、本年11月15日付けで「arrow_blue_1.gifカルト問題に対して継続的に取り組む組織等を創設することを求める提言」を公表した。今後も引き続き、宗教活動を契機とした家族の問題、心の悩み、とりわけ宗教二世を含む子どもが抱える問題等や、信教の自由と団体の責任などについて、あらゆる観点から検討した上で、より実効的な被害の救済及び防止に向けた具体的な提言と活動を行っていく所存である。



2023年(令和5年)12月14日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治