技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議の最終報告書に対する会長声明


外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議の下に設置された「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」(以下「有識者会議」という。)は、本年11月30日に最終報告書を取りまとめた。


技能実習制度は、転籍の原則禁止、高額な手数料等の費用の技能実習生からの徴収、残業代の未払いや虐待などの深刻な人権侵害により、人権条約機関や米国国務省人身取引報告などで厳しい批判に晒されてきた。有識者会議による最終報告書とこれを受けて行われるべき法律の制定及び法改正は、人権侵害根絶に向けた日本の断固たる決意を示すものとなるべきであり、当連合会としても、本年10月18日に提示された最終報告書たたき台について一定の評価をしつつも修正すべき点があることを、arrow_blue_1.gif本年10月26日に公表した会長声明(以下「10月26日付け会長声明」という。)において述べたところである。


しかし、最終報告書は、以下のとおり、当連合会の示した修正すべき点とは異なる修正を加えたものとなった。


すなわち、最終報告書の提言部分は、4項の「新たな制度における転籍の在り方」において、就労開始後1年経過すれば本人の意思による転籍を認めることとしたが、10項の「その他(新たな制度に向けて)」では、「当分の間、受入れ対象分野によっては1年を超える期間を設定することを認めるなど、必要な経過措置を設けることを検討する。」としている。「経過措置」にもかかわらず、その終期や条件を示さず「当分の間」と記載するだけでは、1年を超える転籍制限が恒久的かつ無限定に容認され、4項の原則と10項の例外が逆転することとなるおそれがある。


技能実習制度における3年間の転籍制限が、雇用主への依存関係を助長し、労働者の権利行使を間接的に制限するとともに、度重なる人権侵害の構造的原因となってきたことは、有識者会議の議論において既に明らかにされている。複数の委員から「当分の間」との記載に強い懸念や反対の意見があったにもかかわらず、「経過措置」の名の下にこのような取りまとめを行ったことは、「外国人の人権が保護され、労働者としての権利性を高める」という視点に重点を置いて構想されたはずの新たな制度が技能実習制度の看板の付け替えにすぎない結果となるとの批判をも招きかねないものである。


また、10項のうち「提言に至るまでの検討状況」には、「本人の意向による転籍を一定の要件の下で認めることについては、従前認められていなかった転籍が認められることによって人材育成への支障や人材流出が生じないかという懸念があり、地方や中小零細企業等への配慮の観点からも、急激な変化を緩和するための措置を検討する必要がある。」との記載がなされている。しかし、同一の業務区分内でのみ転籍が許容されている中でそのような人材流出が起きる可能性は実証されておらず、また、職場への定着は、単に賃金の問題のみならず、職場の就業環境・育成環境の改善、地域における共生のための諸施策の充実などの取組によって図られるべきものであり、最終報告書はそのための諸施策も提案しているにもかかわらず、さらに、このような理由で憲法で保障された人権である転職の自由を正面から制限することは、およそ正当化できない。


今後策定が予定される法律案においては、「経過措置」の名の下に恒久的かつ無限定に転籍制限を設けることなく、4項の原則に沿った転籍を法律施行と同時に認めるものとするべきである。


また、当連合会がarrow_blue_1.gif10月26日付け会長声明において重要性を指摘した、監理団体の人的・財政的な面での受入れ機関からの独立性の確保の仕組み、海外からの送出しの場面で労働者が多額の手数料を徴収されることを根絶するための方策の立案についても、最終報告書はなお不十分であり、家族帯同が認められない点も変更されていない。


当連合会は、政府に対して、当連合会の意見を踏まえて、真に外国人の人権保障に適った新たな制度を構築する法律案を策定することを強く求める。



2023年(令和5年)12月7日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治