技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議の最終報告書たたき台に対する会長声明


外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議の下に設置された「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」(以下「有識者会議」という。)は、本年5月11日付けで中間報告書を公表していたところ、本年10月18日、最終報告書たたき台(以下「たたき台」という。)を提示した。


技能実習制度は、転籍の原則禁止、高額な手数料等の費用の技能実習生からの徴収、残業代の未払いや虐待などの深刻な人権侵害により、人権条約機関や米国国務省人身取引報告などで厳しい批判に晒されてきた。サプライチェーンの人権保障を含むビジネスと人権の視点は国際的な経済活動においても喫緊の課題であり、有識者会議による最終報告書とこれを受けて行われるべき法制定・法改正は、人権侵害根絶に向けた日本の断固たる決意を示すものとなるべきである。


たたき台の示す新たな制度の骨格と修正されるべき点は以下のとおりである。


第1に、たたき台は、「現行の技能実習制度を発展的に解消し、我が国社会の人手不足分野における人材確保と人材育成を目的とする新たな制度(以下「新たな制度」という。)を創設する」としており、中間報告書の「現行の技能実習制度を廃止し」とする表現からは弱まったものの、技能実習制度が人材育成を通じた国際貢献という名目にもかかわらず、国内の人材確保のために利用されている実態を直視して、技能実習制度を終了させて人材確保の目的を含む新たな制度を創設するとした点は評価できる。


第2に、職場の転籍について、技能実習制度では、人材育成を通じた国際貢献という名目上の目的を根拠に原則として転籍を認めず、このために技能実習生は問題ある職場環境に忍従せざるを得ないという構造的問題を抱えてきたものであり、この点の抜本的な改正が今回の見直しの成否を分ける試金石の一つである。人材育成は様々な就業過程の結果であり、本来、人材育成等を理由に転籍を制限するべきではないが、新たな制度において、就労が1年を超える者について転籍が可能であるとした点は、労働者としての当然の権利を一定程度保障するものとして評価できる。


ただし、本人の意思による転籍について、技能検定基礎級合格及び日本語能力試験N5合格相当以上のレベルを条件とすることについては、これらの受験自体が転籍の意向を推測させるものとなれば、受入れ企業等が受験を妨害したり、技能検定基礎級実施団体が基礎級合格水準をいたずらに引き上げたりすることがあり得る。また、技能や日本語の習得に熱心ではない問題のある企業で就業する労働者ほど転籍が困難になるという結果を招来しかねないから、このような条件を付すべきではない。


また、転籍前の受入れ企業等が負担した初期費用の一部を転籍後の受入れ企業等にも負担させるとしているが、いかに基準を設けたとしても両者が円満かつ迅速に費用負担の合意ができるとは考えられず、手続上の困難も考えると受入れ側が転籍受入れを躊躇し、転籍先を見出すことが困難となることが懸念される。転籍は労働者に認められた当然の権利であることを前提に具体的な仕組みが構想されるべきである。


さらに、転籍支援の在り方について、新たな制度下の監理団体が中心となって行うこととしつつ、ハローワークも外国人技能実習機構に相当する新たな機構と連携するなどして転籍支援を行うこととしたことは、ハローワークと新たな機構の役割を明示したものとして評価できるが、実習実施者によって構成されていることの多い監理団体による支援を中心とするのではなく、ハローワークが中心となって、新たな機構や分野所管省庁と連携しながら支援を担う体制を整備すべきである。


第3に、新たな制度は、監理団体について、受入れ企業の役職員の兼職に係る制限又は外部監視の強化等による許可要件を厳格化し、監理団体の独立性や監督機能を強化しようとしているが、監督機関として監理団体を活用するのであれば、さらに監理団体の財源の独立性が担保される方策も検討されるべきである。


第4に、海外からの送出しに当たって高額な手数料等を支払い、その借金返済のために失踪が増加するという悪循環を絶つために、二国間取決めにより送出機関の取締りを強化すること、各送出機関が徴収する手数料等の情報公開を求めていくこと、受入れ企業等が一定の手数料を負担する仕組みを導入することなどとした点は前進と言える。しかし、引き続き外国人労働者から手数料を徴収すること自体は許容する枠組みとなっているところ、日本も批准したILO181号条約が職業斡旋に関わる手数料を労働者から徴収してはならないとしている趣旨は国際間でも徹底されるべきであり、その実現に向けた二国間取決めの交渉の必要性を指摘すべきである。また、送出機関のみならず受入れ企業の側についても、受入れ条件を公表した上で、監理団体を経ない公的機関による斡旋や外国人側との直接契約が可能な仕組みを構想すべきである。


第5に、たたき台は、家族帯同について新たな制度(期間3年)及び特定技能1号(期間5年)において認めないこととしているが、このような長期間家族の分離を強いるような制度設計は人権擁護の観点から容認できず、より早期の家族帯同が実現されるべきである。


第6に、新たな制度から特定技能1号に移行するに当たっては日本語能力試験N4合格相当の、特定技能2号に移行するに当たっては日本語能力試験N3合格相当の日本語能力を求めることとし、認定日本語教育機関の活用等を挙げているが、体系的な日本語能力の向上は、外国人本人及び受入れ企業のみの負担で実現するものではなく、人材の面から産業を維持育成し、多文化の共生する社会を実現する必要性の観点から、国や自治体が体制整備・支援をすることを明記すべきである。


当連合会は、有識者会議において以上の点などを踏まえた十分な検討がなされ、技能実習制度の廃止後、人権侵害を生む構造的な問題を解消した新制度が創設されることを求めるとともに、新制度の実現に向けて全力を尽くす決意である。



2023年(令和5年)10月26日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治