参議院選挙定数配分に関する最高裁判所大法廷判決についての会長声明


本日10月18日、最高裁判所は、2022年7月10日に施行された第26回参議院議員通常選挙(以下「本件選挙」という。)をめぐる選挙無効訴訟において、公職選挙法の選挙区選出議員の定数配分規定(最大較差3.03倍)が本件選挙当時、憲法に違反するに至っていたということはできないという「合憲」判決(以下「本判決」という。)を言い渡した。最高裁判所が参議院議員通常選挙について合憲判決を下すのは、2016年に実施された第24回参議院議員通常選挙(最大較差3.08倍)に関する2017年判決、2019年に実施された第25回参議院議員通常選挙(最大較差3.00倍)に関する2020年判決に続いて3回連続のこととなった。


本判決は、合憲との判断をするに際し、2020年判決と同様、「具体的な選挙制度の仕組みを決定するに当たり、一定の地域の住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味する観点から、政治的に一つのまとまりを有する単位である都道府県の意義や実体等を一つの要素として考慮すること自体が否定されるべきものであるとはいえ」ないと指摘している。しかし、これは憲法上の要請でない都道府県別の選挙区割りを優先させる結果、投票価値の平等の実現を妨げる判断であり、到底賛同できない。


また、本判決は、「選挙区間の最大較差は3倍程度で推移しており、有意な拡大傾向にあるともいえない」、「参議院の選挙制度の改革に向けた議論を継続する中で、較差の拡大の防止等にも配慮して4県2合区を含む本件定数配分規定を維持したという経緯に鑑みれば(中略)本件選挙当時の選挙区間の最大較差が示す投票価値の不均衡が、憲法の投票価値の平等の要求に反するものであったということはできない」と判断している。しかし、2021年の国勢調査では、東京都や宮城県など一票の較差が3倍を超える3つの選挙区の人口が国民の2割を超える状態になるなど、第25回参議院議員通常選挙よりも較差は拡大していたのである。それにもかかわらず、その不平等を全く是正することなく本件選挙が行われた。宇賀裁判官が反対意見で述べているとおり、「本件選挙当時の1票の価値の不均衡は、明らかに憲法上許容される範囲を超えて」いたのである。本件選挙では、議会制民主主義の根幹をなす投票価値の平等について国会が必要な考慮をしなかったと言わざるを得ない。


当連合会がこれまで繰り返し指摘してきたように(「arrow_blue_1.gif参議院選挙定数配分に関する最高裁判所大法廷判決についての会長声明」(2017年9月28日)、「arrow_blue_1.gif参議院選挙定数配分に関する最高裁判所大法廷判決についての会長声明」(2020年11月19日))、裁判所には、司法権の担い手としてだけでなく、憲法の最後の守り手としての役割が期待されている。違憲審査権を行使して、立憲主義、法の支配を貫徹させていくのは裁判所の使命である。特に本件のように、民意を反映すべき民主主義の過程そのものが歪んでしまっている場合にこれを正すことは、裁判所以外にはなし得ない。参議院議員通常選挙について、連続して3回にわたり、裁判所が果たすべきこの使命を十分に果たさず、国会の怠慢を容認してきたことは、民主主義の過程そのものの歪みを放置する判断であると言わざるを得ない。


当連合会は、これまで、投票価値の平等を実現するよう、国に対して一貫して求めてきた。本判決を受けて、改めて、直ちに公職選挙法を改正し、選挙制度の抜本的な見直しを行うよう求めるものである。



2023年(令和5年)10月18日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治