参議院選挙定数配分に関する最高裁判所大法廷判決についての会長声明


本年11月18日、最高裁判所は、2019年7月21日に実施された第25回参議院議員通常選挙(以下「本件選挙」という。)をめぐる選挙無効訴訟において、公職選挙法の選挙区選出議員の定数配分規定が本件選挙当時、憲法に違反するに至っていたということはできないという「合憲」判決(以下「本判決」という。)を言い渡した。この訴訟では、各選挙区における議員定数が選挙区人口に比例して配分されておらず、最大で3.00倍の投票価値の較差が生じていたこと等が争われていた。


振り返れば、2017年9月27日、最高裁判所は、最大で3.08倍の投票価値の較差が残っていたものの、2015年に国会が参議院議員選挙の定数を「10増10減」とし、「徳島・高知」「鳥取・島根」を合区とする公職選挙法の改正を行ったこと、同改正法の附則第7条に、「平成31年に行われる参議院議員の通常選挙に向けて、参議院の在り方を踏まえて、選挙区間における議員1人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い、必ず結論を得るものとする」旨の定めがあることを評価して、2016年7月10日に実施された第24回参議院議員通常選挙当時、投票価値の不均衡は憲法に違反するに至っていたということはできないという「合憲」判決を言い渡していた。


ところが、この2017年の最高裁判所大法廷判決(以下「2017年判決」という。)後、2018年に改正された公職選挙法(以下「2018年改正法」という。)において、参議院選挙区については、埼玉県選挙区の定数を2人増員させた以外は以前のまま手を加えることがなかったため、本件選挙当時の最大較差は3.00倍と僅かに縮小するにとどまった。


本判決は、合憲との判断を行うに際し、2017年判決と同様、「具体的な選挙制度の仕組みを決定するに当たり、一定の地域の住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味する観点から、政治的に一つのまとまりを有する単位である都道府県の意義や実体等を一つの要素として考慮すること自体が否定されるべきものであるとはいえ」ないと指摘した。これは憲法上の要請でない都道府県別の選挙区割を優先させる結果、投票価値の平等の実現を妨げる判断であり、到底賛同できない。


さらに、本判決は、2017年判決が「合憲」判決を下すに当たって前提条件としていた選挙制度の抜本的な見直しについて、「取組が大きな進展を見せているとはいえない」と認めつつも、「同改正は(中略)容易に成案を得ることができず」「僅かではあるが較差を是正しており」「平成27年改正法における方向性を維持するよう配慮した」「参議院選挙制度の改革に際しては(中略)その実現は漸進的にならざるを得ない面がある」などという理由から、「立法府の検討過程において較差の是正を指向する姿勢が失われるに至ったと断ずることはできない」と結論付けており、立法府の裁量権の範囲を不当に広く認めたものとの非難を免れない。


当連合会が「参議院選挙定数配分に関する最高裁判所大法廷判決についての会長声明」(2017年9月28日)で指摘したように、裁判所には、司法権の担い手としてだけでなく、憲法の最後の守り手としての役割が期待されている。違憲審査権を適切に行使し、立憲主義、法の支配を貫徹させていくのは裁判所の役目である。特に本件のように、選挙という民意を反映する民主主義の過程そのものが歪められている場合にこれを正すことは、裁判所以外にはなし得ない。本判決は、裁判所が果たすべきこの職責を十分に果たさず、国会の怠慢を容認し、民主主義の過程そのものの歪みを放置する判断と見るほかない。


当連合会は、これまで国会に対し、投票価値の平等を実現するよう一貫して求めてきた。本判決を受けて、改めて、直ちに公職選挙法を改正し、選挙制度の抜本的な見直しを行うことを求めるものである。



 2020年(令和2年)11月19日

日本弁護士連合会
会長 荒   中